40.禁じられた遊び~危険な遊びはやめろ~
借金の桁が減り、嬉々とする碧。
ロゼッタとのやりとりを終え、書類仕事も一段落付いたところで、鬼ごっこをすると言い出す碧。
ノウェムは何か安心できない様子だが、その通りの内容の鬼ごっこで──
「入金確認しました、これで残存の借金は48億5千万となります」
その言葉に私はガッツポーズを取る。
「よっしゃ! ようやく桁が一つ減った」
「頑張りましたね」
ロゼッタさんは微笑んだ。
「いやぁ、パラシートゥス防衛&迎撃戦で貰えたお金が大きかったです」
「月面政府も火星政府も宇宙開発政府も、大喜びでしたよ」
「──にしても地球政府マジありえないんですが?」
「本当、地球政府の各国は何をやっているのでしょうね」
「本当ですね」
互いにため息を吐き合う。
「今は妊娠四ヶ月……あと一ヶ月ですか安定期までは」
「それまでは仕事は私が全力でサポートします」
「本当にありがとうございます」
ロゼッタさんが帰るのを見送る。
そして、書類を分厚いクリアファイルに入れる。
アナログとデジタル両方で管理している。
どちらかがダメになってもいいように。
「ふー、書類仕事も一段落ついたし、久しぶりにクラレンスたちと遊ぶか」
「遊ぶ?」
ノウェムさんが眉をひそめた。
「ああ、単なる鬼ごっこよ」
「それなら、いいが……」
まぁ、多分ノウェムさんの知ってる鬼ごっことは違うけどね。
私は中庭へ向かい、大きく息を吸った。
「メフィストー、クラレンスー、レイジングー、ガンツー、あーそーびーまーしょー!」
「おお、久しぶりじゃな!」
「腕が鳴るよ」
「手加減はしないぞ」
「ええ、その通り」
「よし、じゃあアスレチックモード起動ー」
運動場の各地にアスレチックが出現する。
ロボットでも利用できるボルダリングや、ロボットが上っても切れない網の壁、木製に見える頑丈な板など。
「最初は私が鬼ね! じゃあ50数えるよー!」
そう言うと皆逃げ出した。
私はゆっくり秒数を数えていく。
「……さーん、にー、いち、ぜーろ!」
走り出す私、真っ先に狙うのは一番遅いガンツだ。
ガンツは力仕事の機体なので、他の皆より少しだけ足が遅い。
その隙に、ガンツが上った棒を駆け上がる。
「ガンツ捕まえたー!」
「全くお嬢は、一番に儂ばっかり狙うのぉ!」
「えへへ、次は──」
メフィストだ、大道芸は得意だがスピードはガンツに次いで遅い。
器用に上のネットを掴んで猿のように移動している。
「そうくるかーじゃあ!」
ネットの上に繋がっている棒をよじ登り上から走る。
そして手をタッチ。
「メフィスト捕まえた!」
「お嬢ちゃんは、頭が回るよねー!」
「さて残りは……」
クラレンスとレイジングがばっと二手に分かれて逃げ出した。
レイジングはボルダリングを駆け上がりそのまま別方向へ逃亡、クラレンスは地上で待機。
「クラレンスー!」
全速力で追いかける。
クラレンスは軽快な動きで距離を取る。
そして手にしたエペを地面へ突き刺し、それを踏み台にして大きく跳んだ。
私も負けじと跳び、足を掴む。
「クラレンスつかまーえた!」
「お嬢様は、本当私の動きに着いてきますね」
最後はレイジングのいるボルダリングへ向かって跳び、ボルダリングのホールドを掴み、一気によじ登る。
レイジングは飛び降りて逃げようとしたが、私も飛び降りて首に抱きつく。
「レイジングつっかまえたー!」
「お嬢さんは相変わらずだな」
鬼ごっこが終わり気分よさげにしていると──
物すっごい圧を感じる。
「碧」
ぎぎぎ、と音のなりそうな動きで後ろを見れば、かなりお怒りのノウェムさん。
なして?
「正座」
「……あい」
ノウェムさんの近くで正座する。
「君の行動が危なっかしい理由がよく分かった。ロボットたちとこんな遊びを続けていれば運動能力は上がるだろう。だが、危険を顧みず突撃する癖がつくのも納得だ。この間のレティシアを庇うように飛び出す癖も、この遊びで身についたのだろう」
淡々と述べているのが怖い。
冷や汗がだらだら出る。
「クラレンス、この遊びいつから始めた?」
「アスレチックのはそうですね、小学生の時から」
「なるほど?」
クラレンスー!
そういう所は誤魔化してよぉ!
「誰も止めなかったのか?」
「いえ、止めようとしたら悪化したので……」
「碧?」
「ひゃい」
「君はこの遊びは禁止だ、危険だからな」
「え゛ー!」
そんなぁ!
「えーじゃない、ちょっと判断をミスると大怪我をする遊びだぞ!」
「スリルがあるから楽しいのに」
「碧⁇」
今のノウェムさん、マジで怖し。
「ナンデモナイデス」
「どうしたの?」
「美奈か」
みっちゃんが出て来た。
顔色が少し悪い。
早退の許可貰いに来たんだなきっと。
「うん、今日は少し体調が悪いから、もう帰ろうかなって」
「そうか、トレースに送らせよう」
「ところで碧のその遊び止めさせるように言ってくださったんですか?」
「ああ」
みっちゃんは納得したような声を上げた。
「良かった、碧のこの遊びだれも止められなかったんですよ、碧のご両親も安全に配慮してクッションとか置いたり色々やったそうです、それでも危なっかしくて」
「ほほぉ」
みっちゃーん!
今回ばかりは一言多いよ!
「宗一」
「なんじゃ?」
「アスレチックモードだったか、起動しないようにしてくれないか」
「お安いご用じゃ」
そう言って宗一お爺ちゃんが色々いじると、元に戻り、今度はボタンを押しても反応しなくなった。
「よし、これでいい」
しょんぼりする私。
「全く無差別に突貫している訳じゃないのは分かったが、こう言うのは危険だから止めなさい」
「はぁい……」
「──そんなに体を動かしたいならば、モナル社の運動施設がこの街にある、レティシアに伝えて会員登録でもさせて貰うか?」
「え、でもお高いんでしょう?」
「月額5千、何回使っても5千円だ」
「じゃあそっちやる!」
そう言うと、ノウェムさんはあきれの顔をして私に軽く拳骨をした。
「いいか、次からはこんなことしないように」
「はぁい」
「君達もだ、碧がまたやりたいと言い出したら遠慮無く私に報告してくれ、説教する」
「説教で終わるのー?」
「……場合によっては尻叩きもありうる」
「この年でお尻叩かれるお仕置きなんてヤダー!」
末代までの恥にも程がある!
「分かったら言い出さないように」
そう言ってからノウェムさんはレティシアさんに通話し、私の話を通しておくと伝えてくれた。
「では行くぞ」
「何処へ?」
ノウェムさんが言った。
「最近デスクワークばかりだったから、あんな無茶をしたんだろう」
はい、その通りです。
「会員登録の前に、一度お試しで利用してみようという話になった。運動施設へ行くぞ。」
「──うん!」
ノウェムさん、こういうところは飴と鞭の使い方が本当に上手い。
何かズルい!
ぐぬぬぬぬ……
その後行った運動施設は楽しかったが、ノウェムさんは体つきこそ男性だが、事情が事情なので女性用も男性用にも入れず、個室のシャワーを利用したらしい。
だから本人は平気そうにしていたけれど、私は少しだけ納得がいかなかった。
ノウェムさんが不利益を受けるのは、やっぱり嫌だったからだ。
私だけが何事もなく利用できることが、少しだけ申し訳なかった。
いつかそんなことを気にせず、一緒に笑える日が来ればいい。
私はそんな未来を、心のどこかで願っていた。
はい、幕間の面影で行っていた遊びとはこれの事です。
いや、見事にノウェムに碧は禁止されましたね。
当然のことです。
誰も止められなかったということは、碧もノウェムに惚れた弱みがあるのでしょう。
それにお仕置きで尻叩きは嫌だそうですので。
その後代価案は出ましたが、ノウェムと一緒じゃないと嫌だという碧の希望でなくなりました。
それ位、碧はノウェムと一緒にいたいんですね。
さて、ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




