【幕間】面影
碧たちが帰り、皆が静かになっているアルジャン社で、桐人はマグネスに声をかける。
こうなった原因を知っているにも関わらず、脳天気に言う桐人だったが、突如意味深な言葉を吐く──
「しけた面してんなお前ら」
「誰のせいだと思っている」
桐人の問いかけにマグネスが睨み付けた。
「また余計なこと言って……」
「余計じゃねぇよ。お前らが前向くために必要な話だ」
おどおどしながらたしなめる咲良に桐人は言った。
「彩花は死んだ、だが別の形で意思を継いでる奴がいるって知ってたらお前らはどうする?」
桐人はニヤリと笑った。
「桐人さん、別の形で意思をって……」
「小鳥遊清花。彩花の実の妹だ。姉が病気で衰弱していく姿を見るのが辛くて、途中から見舞いに来られなくなった」
「清花ちゃん、そうだったんだ……だから葬式で『もっとお見舞いいってれば、逃げなければよかった!』って号泣してたもんね……」
「その清花は今、モナル社でロボットスポーツ部門に所属している。メカニックとして働きながら、不正行為の監査も担当している」
「監査?」
ブランツが問いかける。
「ラフプレーを繰り返すチームの指導や監査、それに選手を不自然に引退させた会社への立ち入り調査なんかだ」
「それって……」
「そう、彩花が目指した、正々堂々としたスポーツマンシップに則った試合だけで人々を魅了できるように、色々と動いているんだよ」
「……会うことはできるか?」
マグネスの声は、わずかに震えていた。
「彩花の意思を継いでいるその人物に、俺達は会いたい……会って話がしたい」
「あーちょっと待て」
そう言って通信機を桐人は取りだし、応答を待った。
『はい、もしもし桐人さん?』
「おー清花、久しぶり」
『……葬式以来ですね』
通信機の向こうの人物は声を暗くした。
「そうだな、でお前さんに話しがある」
『私に』
「今からアルジャン社に来られるか?」
『‼』
桐人の問いかけに向こうは驚き困惑しているようだった。
『……姉が、最後まで気にかけていたチームの会社、ですか』
「その通り、無理にとはいわない」
『いえ、行かせて貰います』
「そうか、悪いな。どれ位で来られる?」
『一時間ほどお待ちください』
「OK。待ってるぜ」
桐人は通信を切った。
「会うってさ」
「嘘では無いな?」
「刀一お前に嘘ついたら俺真っ二つにされんだろ」
帯刀しているロボット──刀一に桐人は言う。
「……」
「そこ冗談で言ったのに目をそらすな、本気だったな? 俺が死なないからって雑に扱うと咲良連れてこねぇぞもう」
「「「「「「「それは困る!」」」」」」」
アルジャン社のみなが一斉にそう言い出す。
「だったら、少しは俺をちょんぱにするとか考えは止めろよ、俺は的でも、ボールでも、なんでもないんだが?」
桐人はあきれた様に言った。
アルジャン社には妙な緊張感が流れていた。
そして一時間後──
「おう、清花。相変わらずべっぴんさんだな」
「桐人さん、そういう話をしに来た──」
「「「「「彩花⁈」」」」」
アルジャンのメンバー達が思わず声を上げた。
「そりゃそうだよなぁ、彩花と清花は瓜二つ、何せ一卵双生児だからな」
「え、双子の妹さんだったの?」
「はい、ただ姉ほどは優秀ではありませんので……メカニックとしても監査役としてもまだまだです……」
リーネの言葉に清花はそう返した。
「姉さんは『メカニックするのに髪の毛邪魔!』とベリーショートにしてましたが。私は髪を褒められていたので……」
「まぁ、ベリーショートにしちまったら親御さん達がダメージ受けるしな」
「ええ……」
「俺親御さんに散々責められたけどあとで謝られた」
「それは責めるよ……」
咲良が困り顔で桐人に言った。
「『どうして娘と、彩花とそんな賭けをしたんです桐人さん!』って滅茶苦茶責められた、でも俺が人類基本嫌いで、身内にだけは甘いのを知ってたし俺も『50回は説得した! 賭けなんかやるな、病気を治してから夢を叶えろってな!』って言ったら、向こうもなんも言えないわな。自分の命を賭けて、自分の夢を叶えちまったんだから、俺の負けだったから彩花の言う通り、モナル社を通して特効薬を世に出したんだよ」
「あの……桐人なんでモナル社?」
咲良の疑問に、桐人は答える。
「グレイシア・キーアっていう、昔モナル社の礎を築いた人に恩があってな」
「桐人……お前もしかして年齢三桁超えて……」
「おっと、その話は機密事項だ」
マグネスの指摘に桐人はおどけて見せた。
「まぁ、当時の俺は色々あってやさぐれてたけど、その人達が寄り添ってくれたから今の俺があるわけ、アルジャン社に来てるのは咲良を助けて貰ったお礼とモナル社の──社長のレティシアからの依頼」
「桐人さん、うちの社長とも仲良かったんですか?」
清花は驚いていた。
「仲いいけどビジネスパートナーでもあるし、こき使われてもいる。そろそろ俺レティシアに過重労働反対って抗議してもいい気がしてきた」
「ま、まぁ、社長さんがそれだけ桐人を信頼してるのよ」
むすっとする桐人を咲良が何とか宥める。
「そういう訳、でお前らは清花になに聞きたいの?」
「私にですか?」
桐人の言葉に清花は首を傾げた。
「君の彩花はどんな人だったんだ、君から見て」
「……そうですね、まさしく天才肌の人でした。特にロボットのメンテナンスにおいては、ロボットの心理についての研究にも目を見張るものだと言われていました」
「子どもの頃は」
「子どもの頃は──」
清花は少し考えてから、困ったような顔をした。
まるで説明したら死んだ姉に叱られる気がしているかのように。
「それは俺が説明した方がいいな、清花は子どもの頃から咲良たちと人形遊びをする仲で、ぶっちゃけると碧と彩花はロボットたちと危険な鬼ごっこしたり、とにかく心臓に悪い遊びばっかするおてんば娘だった」
「危険な鬼ごっこ?」
「いや、俺の家にロボットも使用できるアスレチックがあるんだよ、碧と彩花はそれでロボットたちと鬼ごっこしてたんだよ、網の上に上ったり、安全紐なしでボルダリングをしたり……いや一応クッション置いてたけど、とにかく心臓に悪かった」
「「「……」」」
想像の斜め上の行動をしていたことに無言になるアルジャンのロボットと、リーネとブランツ。
「ただ、それ以外の時は俺と宗一のじじいにひっついてメンテナンスのやりかた教えろ、教えないなら教えるまで此処で駄々こね続けるぞとか言って別の意味でも心臓に悪いし迷惑だった」
桐人はげんなりした様子で言った。
「……道理で桐人の家に集まって皆で遊ぶ日は桐人がやつれてた……」
「そゆこと」
桐人は頷いた。
「あのーもしかして碧ちゃん、まだやってるんじゃ?」
「多分やってる可能性あるけど、あの様子じゃ禁止されてる可能性もあるな」
「碧ちゃん元気なの?」
「元気すぎる」
「それなら良かった……けどどうして禁止されてる可能性があるの?」
清花は首を傾げた。
「あ、言ってなかったな碧、恋人できたんだよ」
「ええー⁈ どうして教えてくれなかったの‼ 恋バナしたい‼」
「碧は多分それが嫌で教えなかったんだと思うぞ」
「そんなぁ」
桐人の言葉に清花はしょげた。
「あともう一つ爆弾発言いいか」
「?」
「順とレティシア、お前んとこの社長が結婚した」
「え、え?」
「碧の恋人もモナル社から出向という形で、パトリ社で働いてるから、パトリ社とモナル社の繋がりが深くなったの」
「じゃあ、遊びにいっても」
「止めとけ、アイツ多額の借金背負ってるからそれ返すの必死だからめったに遊ばねぇ」
「なんで桐人が知ってるの?」
咲良は桐人に尋ねた。
「アイツの裏垢見てるから『今日も書類の山が減らない辛い』『面倒な依頼多いー!』『平穏な時間が欲しい!』『今日もノウェムさんはスイーツどか食いだよ……』とか愚痴呟き満載だぜ」
「「どうやって特定したの?」」
「アイツが使ってるセキュリティソフト、俺製なんだよ。危険なアクセスのログ確認してたら、たまに本人の愚痴まで目に入る」
桐人は笑って続けて言う。
「覗くつもりはなかったんだがなぁ」
「絶対嘘だよそれ……」
咲良はなんとも言えない表情を浮かべて桐人に指摘をする。
「アイツが危ない連中に目を付けられてないか確認しただけだ」
「「……桐人 (さん)の前では人権もへったくれもないね……」」
咲良と清花はため息をついた。
「さて、清花、お前からこいつらに言いたいことは?」
「──どうか姉がいたことを忘れないでください、それだけです」
「分かっている、俺達は彼女を忘れない、そして彼女の功績を世に知らしめる、そして踏ん切りがついたのなら、また一歩踏み出すさ」
マグネスの言葉に、清花は静かに頷いた。
「姉もそれが喜ぶでしょう」
清花は頭を下げた。
「姉と共に戦ってくださり、本当にありがとうございました──」
その言葉に、リーネやブランツ、アルジャンのロボット達は涙を流した──
彩花の妹清花の搭乗です。
彩花の願いを別の形で叶える為にモナル社勤務になっているエリート女子です。
ただし、恋バナはすき。
清花の言葉もあり、より一掃前を向くことがアルジャン社のメンバーにはできるでしょう。
清花も、アルジャン社との出会いで救われたことでしょう。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




