38.思考の違いとグレイズのやらかし
ネブラのロボットが襲来したことに気付く桐人。
ノウェムは放置できないといい、碧も慌てて声をかける──
さめざめと泣いたフリをしていた桐人兄さんが急に真顔になって、口にした。
「ネブラの連中だ、今回は戦闘型ロボットだけを投入してきやがった」
「数は」
咲良ちゃんも真剣な表情になる。
「五千」
「……多いな」
「だが放置はできない」
「なら行こう」
真面目な顔をした二人に、私は慌てて声をかけた。
「あ、私も手伝う」
「君が行くなら私も行こう」
ノウェムさんも即座にそう言った。
「碧、ロボットだからって手を抜くな、向こうの思考回路はDEAD OR ALIVEの二択なんだからな」
「分かってる……」
「なら俺も行こう、戦闘型だ、任せておけ」
レイジングが言い出した。
「では私達はここの護衛に回りましょう」
「お願い、クラレンス」
私とノウェムさんはパワードスーツを装着してアルジャン社を飛び出す。
パワードスーツを装着しながら、母から貰った胸元のペンダントが外れていないことを確認する
10キロほど先には、地平線を埋め尽くすような戦闘型ロボットの群れがいた。
「うわぁ……」
何だかゴキブリの群れを見てしまったような気分になる。
いや、ゴキブリの群れは見たことないけど。
戦闘型ロボットが悪い訳では無い、でも彼らには感情がない。
ただ敵対者を倒すことしか頭にない。
彼らに罪はない。
ただ命令に従っているだけだ。
それでも放置すれば人を殺す。
だから止めなければならない。
終わらせるには、救うには破壊しかない。
バキン! ゴキリ!
ロボット達が鉄の塊になっていく音が響く。
私はこの音を忘れないだろう。
一時間近く。
壊しても壊しても押し寄せてくる戦闘型ロボット。
最後の一体を沈黙させた頃には、辺りは鉄屑の山になっていた。
「ふぅ……五千もいたら疲れるね」
「そうだね」
咲良ちゃんがやつれた笑顔を見せたので私はパワードスーツを解除してむにむにと頬を触る。
「咲良ちゃん、無理してるなら桐人兄さんに言わないとダメよ」
「それは」
「そうなんだよ、碧からも言ってくれ、こういう案件は俺一人で充分だから守られてろって」
「でも……私が狙われてるのに、私だけ隠れてる訳にはいかないよ……」
「だからって無理に戦い続けてると心が壊れちゃうよ」
「……碧ちゃんは、怖くないの、大丈夫なの」
「んー、特にはないかな。ロボット破壊なら『恨みはないけどごめんなさい』だし、テロリストや強盗なら『今すぐくたばれ』だし、ロボット暴走なら『鎮圧しなきゃ!』だし。だからそこまで怖くはないかな」
「……パラシートゥスは」
その言葉に私は桐人兄さんを見るが、桐人兄さんは肩をすくめるだけだった。
私はため息をついて言った。
「怖くないわけじゃないよ。でも私は怖いって立ち止まるより、どうしたら次は被害を減らせるかって考えちゃうの」
そう、この仕事に就いてからずっとそればっかり考えている。
「だから心が強いんじゃなくて、咲良ちゃんとは考え方が違うだけ」
「思考……」
「そうそう。咲良は失敗すると自分を責めるタイプだろ?」
桐人兄さんが横から口を挟む。
咲良ちゃんは不満そうな顔をしたけれど、反論できないようだった。
「でも碧は『じゃあ次はどうする?』って考えるタイプなんだよ」
確かに、そう言われてみると、私はそうかもしれない。
「そういう思考の違いが色んな場面で出てるだけだ。思考が同じ人間なんていねぇんだからよ」
「だから咲良ちゃんも、自分を責めすぎないでね。」
「それはこちらだ碧、君はロボットを弔うつもりで壊してただろう」
「バレた?」
「「分かるに決まってる」」
桐人兄さんとノウェムさんの言葉がハモった。
桐人兄さんは笑っているがノウェムさんは心底嫌そうな顔をしている。
ちょっと不謹慎だが笑ってしまった。
「契約期間お疲れ様でした」
「いえ、こちらこそ勉強になりました」
「碧ちゃん」
咲良ちゃんが駆け寄ってきた。
「これ桐人が作った私とおそろいのネックレス、つけてくれると嬉しい」
青い宝石らしき物体のついたネックレスだった。
「綺麗……」
思わず声が漏れた。
咲良ちゃんとのおそろい。
そう思うだけで胸が少し温かくなる。
「ありがとう。大事にするね」
「うん!」
それを見ていたノウェムさんは、露骨に不満そうな顔をした。
「友達とのおそろいだから許してね?」
「……友達だからだぞ」
「うんうん」
ノウェムさんは諦めたようにため息をついた。
困ったちゃんだけど、こういう所も可愛いんだよね。
「では、失礼しますー」
戦艦に乗り、ワープする。
「あ゛ー書類たまってるだろうなぁ」
会社に着くなり、私は疲れた表情で言った。
「碧!」
「みっちゃん!」
「お帰りなさい!」
みっちゃんは私に抱きついてきた。
二週間ぶりの再開。
「みんな、今日はもうお仕事切り上げよう! 疲れたでしょう」
「そうじゃな」
「ようやく、帰れる……」
「奥さん待ってる順が羨ましい……」
「ならアンタももう少し男磨きなよ、見た目よくても中身残念よ。まぁ、私も人のこと言えないけど」
「碧は残念じゃない!」
「碧は残念ではない!」
みっちゃんとノウェムさんが声を上げて反論する。
私はハハハと乾いた笑いを浮かべる。
その時だった。
会社のチャイムが鳴り響いたのは。
「はーいどちら様ー?」
「……順くんはいるかね」
現れたのはグレイズさん――レティシアさんのお父さんだ。
以前よりも明らかにやつれて見える。
グレイズさんを見て、順兄さんにトレースさんが音声媒体を渡していた。
「どうか、娘との仲を取り持ってくれ」
「そう言われたらこれを流すように言われました」
そう言って再生ボタンをカチッと押した。
『お父様、これを聞いているということは順さんを手懐けようとしていらっしゃいますね? そういう所も私は嫌なんですよ本当! 人の旦那様、しかも婿養子だからという弱い立場の人にアプローチをかける時点で私の怒りはMAXです! と言う訳で私が出産して三ヶ月経過するまで一切お会いいたしません、連絡はロゼッタを通してください、必要な場合! ナンバーズを勝手に増やした件に私はまだ怒っていますからね! 分かったかこの馬鹿親父!』
音声の再生が終わった。
グレイズさんは灰色になって項垂れる。
「……こればかりは、俺もかばえません……すみません、義父さん」
そう言って順兄さんは帰っていった。
グレイズさんが連れて行かれる姿を見送りながら、私はふと思った。
「うーん」
「どうしたんじゃ碧」
「もし私がノウェムさんの子妊娠したら宗一お爺ちゃんああなる?」
「あそこまではならんわい、ただちゃんと責任を持って育てるんじゃ、というくらいじゃ」
「良かったー宗一お爺ちゃん優しくて」
宗一は機嫌よさげに笑ってからふと気付く。
「……お前さん達どうやって妊娠するんじゃ?」
「んーなんかノウェムさんの子妊娠するには特殊な工程がいるけど、其処まで痛くないようにするから気にしないでねとか言われたような?」
レティシアさんに言われたことを思い出す。
「私は女性を普通の方法で妊娠させることができない。だから特殊な方法が必要になる」
「そうなの?」
「ああ」
「そっかー、まぁいいか。まだ恋人だし、結婚は遠いし」
ノウェムさんは不満そうだったけど、結婚はまだ先。
借金だって残っているし、会社ももっと大きくしたい。
それに――
まだ少しだけ、貴方を見ていたい。
だから、ごめんねノウェムさん。
結婚はまだ先かな。
そう思いながら、私は胸元のペンダントをそっと握った。
初出ですが、実は設定上碧はずっと母の形見のペンダントをつけていました。
そのペンダントが何の役に立つのか、はてさて。
そして咲良と碧の違い、咲良は引きずるタイプなんです、碧は次へという思考の持ち主。
あと、ノウェム、感情が豊かになっていますね。
良きことかと。
でも、まだまだ碧はノウェムと恋人でいたいようです。
色々ありますからね。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




