37.彩花の遺言~彼らの思い~
アルジャン社のメンバーから許可を取り生前彩花が使っていた部屋で遺書かなにかが無いか探す碧。
色々探して、彩花の生前の隠し場所であるタンスの布団の下をめくると金庫のような物が発見できたが──
「此処が彩花の部屋だ」
「……探してみてもいいですか」
「ああ」
マグネスさんに許可を取り、部屋を調べ始める。
本棚の裏や机の引き出しを片っ端から探していく。
だが見つからない。
どうしようかと悩んだ時、ふと彩花姉さんの癖を思い出した。
昔から大事な物はタンスの奥の布団の下に隠していた。
そこで私はタンスの布団の下を探ってみる。
「あ、これ?」
タンスの布団の下に包まれた金庫らしきものを発見。
しかし──
「これ、音声入力式じゃん!」
暗号が分からないし、音声入力式となるとどうしたらいいか分からない。
「おーっす戻って来たぞ、ってそれもしかして」
「姉さん、宝物はタンスの奥に隠す癖があったから。もしかしてと思って探したらあったの」
「なるほど、だから俺を頼らなかった訳だ、でなんで開けないんだ」
「暗号が分からないんじゃ開けられないわよ!」
怒鳴ると、ふむと呟いた桐人兄さんが音声入力のためのボタンを押した。
『暗号を音声で』
「Attendre et espérer」
「え」
『暗号一致、解除します』
ぱかりと、金庫が空いた。
「なんて、なんて言ったの? 聞いた事あるけど⁈」
「モンテ・クリスト伯の一文『待て、しかして希望せよ』の原文『Attendre et espérer』って言ったんだよ」
「何でその一文を……」
「だって、それ隠したの俺だし?」
「え?」
「彩花に頼まれてな」
「最初知らないって言ってたのに嘘ついてたの? その上、もう共犯じゃん!」
「まぁ、そうなるか。ただ文章そのものは見てねぇから。読んでみるか」
桐人兄さんは声を出して読み始めた。
アルジャンに集った皆、リーネちゃん、ブランツさん、惣十郎さん、これが貴方達に読まれている頃私はこの世にいないでしょう。
病気だということを知らせず、みんなを騙しててごめんなさい。
だって病人だって分かったら私は雇って貰えなかったでしょう。
薬もアレルギーの薬と嘘をついてごめんなさい。
主治医から少しでも健康に長く働けるために誤魔化す薬として渡されたものなの。
アルジャンのみんなが優勝して。
その後、みんなで話し合って、それぞれの道を歩いていこうという話になりました。
嬉しいはずなのに、少しだけ寂しかったんです。
でも、これを見られているということは、きっと私が死ぬ前に我が儘を言ったんでしょう。
皆が集まった試合が見たいと。
きっとそれは私の目に映ることは無かったのでしょう。
本当にごめんなさい。
だから私の事なんて一日も早く忘れて、それぞれの未来への道へ進んでください。
私は皆が前に進む姿を見たかった。
お願いします。
「──だとよ」
「忘れる……⁈ できる訳がないだろう!」
「そうだとも、彩花のことを忘れるなどできるものか」
「彩花も酷な依頼をしたなぁ」
そう言って桐人兄さんが懐に何かを入れた。
「桐人兄さん何をしまったの?」
「ロボット達の記憶データから特定の記録だけを消去する装置、オフになってたけど30分経ったら自動でオンになるようになってたから、処分してくらぁ」
そう言って桐人兄さんは姿を消した。
30分後、戻って来た。
「記憶消去装置は地中に埋めてコンクリで固めたから使えねぇぜ」
「何という雑な処分法」
思わず本音が出る。
「いやしゃーねーだろ、じゃないと色々問題あるブツだし、まぁ作ったの俺なんだけど」
「お前かー!」
思わず首もとを掴み揺さぶる。
「あ、碧ちゃん落ち着いて!」
「ええい、咲良ちゃん止めるな! 桐人兄さんには一回お灸を据えんと気が済まない!」
「ぐぇえええ」
「もう、落ち着いて!」
「っ!?」
耳の奥を針で刺されたような痛みが走り、思わず桐人兄さんから手を離した。
すると咲良ちゃんはしまったと言わんばかりに口を覆った。
「ご、ごめんなさい。でも桐人兄さんも悪気があって作った訳じゃないの、あの文章を読んだら分かるでしょう?」
「咲良! だからといって俺達から彩花の記憶を奪うのか!」
マグネスさんが怒鳴ると、咲良ちゃんは少しびくっとしながらも、真剣な表情で口を開いた。
「それを正当化するつもりはないよ。でも、そうでもしないと皆ここに残ったままになる。一歩を踏み出せなくなるって相談されたんでしょう?」
「そうだな、病床でそう言われて作ったんだ。文章は事前に彩花が用意した」
「内容知らないとか言ってたのに、がっつり関わってたじゃん!」
「悪いな。だが文章とあの機械を使ってまで、お前達に前を向いてほしかった。それが彩花の本心だ」
「……一歩はまだ進めない」
「やっぱりな」
「俺達はまだ彩花の功績を世に知らしめていない。弔いも終わっていない。それが済むまで、俺達はここを離れん」
マグネスさんの一言に、メインメンバーの人達は頷いた。
私はそれに、何か言うことができなかった。
「随分遅かった……どうした、耳が痛むのか?」
「いや、ちょっとね」
「ご、ごめんなさい。桐人兄さんの首を絞めているのを見たから慌てて止めようとしてすこしだけ音波兵器が作動して……」
「なんだと?」
ノウェムさんが怒った声を出した。
「咲良ちゃんは悪くないの! 怒りにまかせて首絞めた私が悪いんだし!」
「だが」
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい!」
「……咲良ちゃんも、美奈ちゃんと似たような病気なの、だからあんまり責めないで……」
私はノウェムさんへ説明した。
咲良ちゃんは高校時代、酷いいじめに遭っていた。
そのせいで通信制へ移り、そのまま卒業している。
友達らしい友達もほとんどいなかったらしく、再会した時は本当に嬉しそうだった。
それ以来、私たちはずっとメールでやり取りを続けている。
ただ、その後の話を聞いた時は私も驚いた。
咲良ちゃんをいじめていた連中は、一家離散したなんて話まで流れていたのだ。
まぁ、そんな報復やるのは桐人兄さんくらいだろうけど。
咲良ちゃん本人は知らない。
私も知らせるつもりはなかった。
メールで話す内容は、会社のことや恋人のノウェムさんのことが多い。
最初は驚いてたが、素敵だなぁと言われた。
ただ、ノウェムさんがどういう存在かは知らないらしい。
桐人からは「嫉妬深そうな奴だからあんまり関わらねぇほうがいいぞ」と、言われたとか。
「そう言われては……私は責めようがないではないか」
「もしかしてノウェムさん、怒ってるのと同時に私と咲良ちゃんと桐人たちの仲に嫉妬してる?」
「……君は本当に鋭いな、その通りだ。私は嫉妬しているのだろう。胸が焼けるように苦しい」
重く、苦しそうに吐き出すノウェムさんの体を抱きしめて私は言う。
「大丈夫。ノウェムさんは私の恋人なんだから」
背中をさすりながら、私は優しく言う。
「私はちゃんとノウェムさんを選んでるわ」
そして向き合って真面目な声で言った。
「まぁ、自殺行為みたいな無茶をしたら容赦なく縁切りするけど」
「しない!」
即答するノウェムさん。
少なくとも昔よりは成長した……と思いたい。
「どうかなぁ~~? 昔色々やらかしたってきい……ぐぇえええ!」
「やはりこいつは殺す!」
「あわわわわ!」
咲良ちゃんも慌てるし、桐人兄さんはまた首絞められてるし!
「もー桐人兄さんは余計な言葉が多い、ノウェムさんメッ! 桐人兄さんは咲良ちゃんに必要不可欠なんだから!」
「……」
手を掴むと不服そうに話した。
「俺、こいつに殺されかけるの何回目?」
「しらんがな」
「さ、さぁ」
「知るか」
「俺に冷たい!」
さめざめと泣くフリをする桐人をあきれ顔で私達は見つめ、顔を合わせてため息をついた。
こういう馬鹿しなきゃ頼りがいのあるお兄さんなだけなんだけどなぁ……と思いながら。
でもきっと、彩花姉さんが望んでいたのはこういう光景だったのだろう。
泣いて立ち止まるのではなく、馬鹿を言い合いながらでも前を向いていてほしかったのだ。
だから、私も前を向いて歩き続けなきゃ。
ありがとう、彩花姉さん。
貴方のお陰で覚悟が決まったよ──
桐人、知らねーと嘘ついてましたね。
実は内容以外は全部関わってた件。
マグネスたちもそこはいい迷惑でしょう。
彩花の死から立ち直れきれないけど前へ進もうとする彼らなりの言葉でした。
そしてノウェムはノウェムで碧に過保護&嫉妬で苦しいという状態。
桐人は言わずもがな。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




