36.再びアルジャン社へ~賭けの内容と見えない答え~
レティシアが育休をとってロゼッタが社長代行としてパトリ社に訪れた。
そこで桐人からパトリ社に依頼があったと言いだし──
「社長が育休に入られたので、私が社長代理をいたします」
ロゼッタさんがやって来て淡々と述べた。
「あの、副社長は?」
「先代とレティシア様に社長代行の器ではないと判断されました」
副社長さんェ……
まぁ、私としてもあの人とはソリが合わなそうだから嬉しいっちゃ嬉しいんだけど。
「早速依頼です、アルジャン社と桐生桐人の依頼です」
「ってことは……」
私はノウェムさんを見る。
「十中八九ネブラ、それとメンテナンスだな」
「ご理解が早くて助かります」
「ノウェムさん、無理しないでね」
「分かっている」
指輪をちらつかせると、ノウェムさんは若干怯えたように頷いた。
本当、無理したら指輪没収して質屋行きだからね!
恋人関係だって解消したちゃうからね!
「私もお二人には無理をしてほしくありません。ですから、必ず連携して行動してください」
「はい!」
「わかった」
ロゼッタさんの言う通り、連携して動くのが良さそうだ。
私たちは頷いた。
「とりあえず、この案件は桐生氏から20億で、と言われています」
「え?」
桐人兄さん、ネブラの案件なかったら20億だよ?
いいのかな?
「桐生氏曰く『お前達の借金事情はよく分かってるが、あまり金を出すと色々面倒な事になるから譲歩してこの金額だ、悪いな』だそうです」
「そんなことないです! 寧ろこんなに貰って……」
「修理費などがあったら請求してもよいと」
「至れり尽くせりじゃん」
本当、桐人兄さん何だかんだで甘いよね。
「と言う訳で行ってきます」
「みっちゃんは護衛のトレースさんに送り迎えしてもらってね」
「うん……」
あー……あんまり面識ないからトレースさんにビビってる。
私は順兄さんの送り迎えで何度か話しているから、まぁそうでもないんだけど。
「レディ、不安なのは仕方ないでしょう。私と貴方はあまり面識がないのです」
「……はい」
「ですがご安心を、私は今は貴方の護衛です。傷つけるような行為をする輩から守ります」
「……」
みっちゃんがこくりと頷いた。
「よーし、皆戦艦に乗り込めー!」
「「「「了解!」」」」
「儂もか、仕方ないのぉ」
「俺もか。ま、合コンに出る必要無いと考えると良しとするか」
「しばらくレティシアに会えない……」
「はいはい、順兄さんが愛妻家なのは分かったから行くよー」
と、みっちゃん以外が乗り込んだのを確認すると、上昇し、短距離ワープを行う。
「はいはい、またまたやって来ましたー!」
アルジャン社の前に着くと、声をだす。
「碧だったか! 俺達は君から話を聞きたい!」
「そうそう!」
「へ?」
アルジャン社の方々が私に聞きたいこと?
何だろう?
「彩花の夢は何だったんだ」
「そりゃあ『ラフプレー横行のロボットスポーツからラフプレーを無くす』……あ」
そこで私は気付いた。
グラウンドのベンチで欠伸をしている桐人兄さんの元へ駆け寄る!
「桐人兄さん! もしかして賭けの内容って……彩花姉さんが現役でいる間に、ロボットスポーツからラフプレーを無くすことだったの⁉」
「おーようやく分かったか」
桐人兄さんは「ようやくか」と言いたげな顔で、再びベンチに寝転がった。
「……正確にはアルジャン社にいる間に、だがな」
「何がようやく分かったかよ! 何でそんな賭けさせたの‼」
桐人兄さんの肩を揺さぶる。
「仕方ねぇだろ、俺がお前以外の病気を治す気は無いって言ったら、彩花がそう言い出したんだ」
「人嫌いにも程があるわ!」
「自覚はある」
「うぎぃいいい!」
ムカつく!
バチーン!
「いっでぇ‼」
私の右手が迷いなく桐人の頬に飛んだ。
「碧、なんでそんな凶暴になったんだよ!」
「凶暴にもなるわボケ!」
「桐人、今回も桐人が悪いよ……」
「咲良ちゃんは知ってたの?」
「ううん、今知ったからそう言ったの。でも桐人を私は殴れないから……」
「どうして⁇」
「桐人の首と胴体がお別れしちゃう、それで死なないのは分かってるけど気分が悪い」
「桐人兄さん⁈ 何者なの⁈ というか咲良ちゃんのナノマシンとかってそんな物騒なの⁈」
「いや、この間説明したじゃん」
「そうだった」
そうだ、桐人兄さんって人間みたいだけど、人間じゃなかった。
咲良ちゃんも普通じゃない。
今さらそこを突っ込むのは野暮かもしれない。
問題はあの口調だ。
人を苛立たせる才能だけなら宇宙一かもしれない。
昔は頼りになるお兄ちゃんだった。
本当に。
どうしてこうなってしまったんだろう。
「碧ちゃーん、何悩んでるのぉ?」
「アンタの言動!」
私の肩を掴んで言う桐人兄さんをノウェムさんが蹴り飛ばして剥がした。
「ちょっとぉ、碧! お前んとこの護衛兼恋人暴力的すぎない!」
「安心して、それ多分桐人兄さんだけだと思う」
そう言ってちらりと見ればノウェムさんは静かに頷いた。
「おおーい、昨日の試合のメンテナンスがまだ終わらんのじゃ、手伝ってくれーい」
「宗一お爺ちゃん、順兄さん、涼兄さん」
「よし、行くかの」
「わかった」
「仕事をこなしますか、と」
そう言ってから桐人兄さんは、野球型のロボットさんやリーネさんと何やら話した後、それからノウェムさんにも何か伝えると、ノウェムさん達は出て行ってしまった。
「えっと……」
ついて行くべきかと思ったら、リーネさんにずるずる引きずられ応接室に連れて行かれた。
「彩花さんは病気になる前どんな人だったの?」
「それは、宗一お爺ちゃんの手ほどきも受けていましたし、メカニック学校では飛び級でしたよ。どんな型にも対応できる天才だって言われていました」
「それほど努力家だったのか?」
「えっと貴方は……」
「マグネスだ」
野球型のロボットさん──マグネスさんの言葉に私は答える。
「マグネスさんですね、はい、その通りです。彩花姉さんは努力家で良いメカニックになるために、私の家を下宿先にして、そこから学校に通ってましたから」
「卒業はしたのか?」
私はこくりと頷いた。
「はい。卒業した矢先に病気が発覚して、それで……」
「……やはり簡単には吹っ切れんな。彼女は賭けをし、勝った。その結果同じ病気で苦しむ人は救われたが、彼女は死んだ。最後の願いも叶えられなかった」
「そう……ですね」
彩花姉さんが檄を飛ばしてくれればよいのだが、そんなものここに残ってない。
いや、待てよ、あるかもしれない。
私は桐人に連絡した。
「桐人?」
『はいはい、こちら桐人お兄さんです。ただいまメンテナンス中につき、口しか空いてません。要件をどうぞ』
「彩花姉さんの遺言とかそういうの残ってない」
『ははー考えるなぁ、だがなそんなもの俺が持ってたらどうしてると思う?』
「……とっくに出してる」
『そういうこった、ってうわ危ねぇなぁ! じゃ切るな!』
通話が終わる。
私は肩を落とした。
「……彩花姉さん、遺言書も何も残してなかったって。こっちに戻って来てから吐血して急激に悪化したから、そんな余裕なかったのかも」
「咲良にも聞いたが、心当たりはないと言われた」
せっかく、それぞれの道を歩み出したメインメンバー達。
彩花姉さんの言葉は、本人の意図とは裏腹に呪いになってしまった。
ただ見たかったのだろう、もう一度、皆の試合を。
「彩花姉さんも罪作りな人だよ、本当」
そして誰も言葉を続けられなかった。
夢を残して。
想いを残して。
皆を前へ進ませたまま、彼女だけがいなくなった。
悲しみに染まった吐息だけがこぼれる。
彩花姉さんなら、きっと笑って言うのだろう。
『そんな顔しないでよ』
彩花姉さんなら、きっとそう笑う。
だけど本人はもういない。
だから私たちは聞けない。
あの賭けで良かったのか。
あの時、何が正解だったのか。
今でも分からない──
再びアルジャン社へ。
そこで明かされる彩花の賭けの内容。
そして、賭けの内容と彩花のことを聞き立ち止まってしまうアルジャン社のメンバー。
碧も、どうすればいいのか分からない状態です。
さて、ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




