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【幕間】レティシアの怒り~父には理解できない様子~

車の中で、レティシアは静かに実父グレイズに怒りをぶつけていた。

グレイズは何故そこまでレティシアが怒っているのか分からず──



「レティシア! 何故そんなに怒っている!」


 車の中で、レティシアは実父グレイズへ激しい怒りを向けていた。

 普段見せない反抗的な態度に、グレイズは狼狽を隠せない。


「寧ろ何故今まで怒らなかったと思います?」


 レティシアは静かに口を開いた。


「……お父様。他の兄妹達がお父様の実子だったとしても、ノウェムのような子をつけましたか?」

「当然だ。子を守るためなら最善の護衛を付ける」

「なら、お父様は今でも分かっていないのですね」

「何をだ」

「ノウェムが『人』であるということをです!」

「レティシア様、胎教に悪いから少し落ち着きましょう」


 セスが白湯を差し出す。

 レティシアは一口飲んでから、震える声で続けた。


「ノウェムが傷だらけの体で、私を守るためだけに酷使されていたと聞いています。

感情のない目で『お嬢様、御無事ですか……怖かったですか』と慰めてくれた時の、私の気持ちを考えたことはありますか⁉」

「……それは、ないな」


 グレイズは言葉に詰まった。


「私は思ったんです。『このままノウェムを置いておけない』と。だから一度コールドスリープをさせて、何とか治そうとした。でも無理だった……」


 レティシアは悲哀と怒りのこもった声で続けた。


「二度目のコールドスリープの後、萌木夫妻のことを知りました。けれど、それだけでは足りなかった。ノウェムを『人』にするには、あと一歩、何かが必要だった」


 グレイズが低く呟いた。


「……萌木夫妻が亡くなったあの事故か。世間的には事故だが、裏では殺人だな」


 レティシアは悲しげに目を伏せたが、すぐに顔を上げた。


「ええ。そして碧さんと出会って思ったんです。彼女のような人の心を動かせる方なら、きっと……と」


 車内に重い沈黙が落ちた。


「だから私はノウェムのコールドスリープを解除し、名字を与えました。アルモニア——亡き祖母、お父様の母君の旧姓を」


 グレイズは眉間に深いしわを刻んだ。


「だが、それではお前の護衛は——」

「必要ありません。ノウェムは私の護衛である前に、一人の人間です。セス達もいますし、私自身も守れる手段は多数持っています」

「しかしだな……」


 グレイズは何とか説得を試みようとしていた。


「ですから私は育休を取ります。しばらくはロゼッタに任せます」

「ロゼッタなら大丈夫だろうが……ヒースがいい顔をするか」

「お父様、何故あの人を副社長にしたんですか? 私の足を引っ張ってばかりです」


 グレイズはなんとも言えない表情で黙り込んだ。


「しかし、お前はモナル社の社長だ」

「それとこれとは別問題です」

「お前に何かあれば会社が揺らぐ」

「なら尚更休むべきです、私は社長である前に、妊婦なのですから」

「ならば、もっと──」


 グレイズが最後まで言う前にレティシアがきっぱりと告げた。


「私と順さん、セス、それからトレースで、自費で買ったパトリ近辺の一軒家で暮らします」

「ちょっと待ちなさい!」


 その言葉にグレイズは慌てふためく。


「だってこの市内の病院のほとんどが我がモナル社の傘下ですもの。何かあっても碧さん達が駆けつけてくださいますし、お父様も私の動きは把握しやすいでしょう?」

「だ、だがな……」


 グレイズは何とかして思いとどめるように言葉を探す。


「生活はどうする?」

「順さん達がいます」

「美容品や日用品は?」

「ロゼッタに頼みます」


 そこまで言うと、グレイズは盛大なため息をついた。


「分かったお前の好きになさい……ただし、次はもっと安全な場所であること、以上」

「はい、お父様」


 グレイズなりの譲歩を理解してレティシアは笑った。



 帰ってきた順はレティシアの足を優しくマッサージしながらため息をついた。


「随分派手なバトルだったけど、お腹は大丈夫かい?」

「一応念の為病院に行きましたわ、大丈夫ですと」

「本当、怖いからあんなことしないで欲しい……」


 順は心配そうな顔で尋ねた。


「本当に大丈夫かい……?」

「まだお腹も大きくないのに、そんなに気を遣ってくれてありがとう……」

「いいよ、これくらいなら。俺は出産の痛みを代われないからな」


 レティシアが微笑むと、順は少し安心したようだった。

 しばらく沈黙した後、順はふと思い出したように口を開いた。


「……ノウェムって、本当に『道具』として作られたのかい?」


 レティシアは静かに頷いた。


「ええ、私を守るためだけの道具として。他のナンバーズと違って、感情を麻痺させられていたの」


 順は複雑な表情で続けた。


「でも何でノウェムを碧の護衛にしたんだ? 他のナンバーズでも良かったんじゃ……? まぁ、気付いたらノウェムと碧が恋人になってて俺は驚いたんだけど」


 順の答えに、レティシアはにっこり笑った。


「碧さんと出会って思ったんです。この方なら、もしかしたらノウェムを救えるかもしれないと。実際、貴方だって碧さんに引っ張り出されたでしょう?」


 レティシアはふっと笑った。


「……ニートを養う余裕はない、働け、って言われてな」

「あらあら」


 順は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、レティシアは優しく微笑んだ。


「きっと萌木夫妻は貴方が時折やるメンテナンスを通して社会復帰してくれるのを祈っていたのでしょうね」

「……でしょうね。父と母は、俺が引きこもりになった時も何も責めませんでした。ただ、ゆっくり休んでいいと」

「そうなんですね」

「だからその時はノウェムをこちらに預けなかったと」

「ええ、それに護衛が必要な事態になるとは思ってなかったから……」

「護衛……やっぱり親父とお袋は事故じゃなくて、殺されたんですか」

「今はそこまでお話できませんわ」


 レティシアはため息をついた。


「話せる時が来たら聞かせてください」

「ありがとう順さん」


 レティシアは少しだけ表情を和らげた。

 そう言ってレティシアは順の頬に口づけをする。


「お腹が大きくなるから、これからは別のベッドで寝ましょう」

「そうですね」


 そんな会話をしていると、ノック音が聞こえた。

 順は理解してるかのように席を外す。


「入ってセス」

「レティシア様、強盗団、テロリスト、過激思想派の連中などが襲撃してきましたので、全員排除(・・)してまいりました。死体処理はトレースとドゥオに任せています」

「ありがとう、セス。トレースとドゥオにも伝えてね。」

「ところで、ロゼッタの護衛にウヌスをつけた件ですが」

「彼なら何でも対応できるからよ、悪意に敏感だから」

「そうですか、確かにそうですね」


 血まみれのセスを見て微笑んだ。


「まだお風呂が入ってるから、洗濯もしていってちょうだい」

「ありがとうございます、お嬢様」

「いいえ、最新型だからお風呂はまだ温かいし、洗濯機は血汚れも洗い流して洗剤も不要だわ」

「販売はしないのですね」

「販売したら、洗剤業界に文句を言われるから自分で使うようなら問題無いでしょう?」


 レティシアは微笑んでセスを見つめる。


「確かに」


 セスは風呂場へと向かっていった。


 戻って来た順は数秒固まっていた。


「待って。今とんでもない単語が聞こえた気がするんだけど?」

「順さん、いつものことですわ」

「いつものことなの!?」


 順は襲撃が日常扱いされていることに戦慄した。


「貴方も狙われるようになってしまったからそれは謝るわ、ごめんなさい」

「……もう慣れるしかないんだろうな。妹達まで狙われてるみたいだし」


 そう言って居ると、ピンポーンとチャイムがなった。


「こんな深夜にわざわざチャイム」

「玄関にナンバーズを名乗る女性が来ています」

「……何ですって?」



 トレースが玄関に出てしばらくすると、女性の手を掴んで入って来た。


「痛い、痛いわ!」

「どうしたのトレース」

「ナンバーズを名乗るので連れてきました」


 トレースは一呼吸置いて言う。


「しかも自称№10です」

「は?」


 一瞬、レティシアは意味が理解できなかった。


「残念ながら本当です。ナンバーズの私が確認いたしました」

「あの馬鹿親父ぃいい!」


 レティシアの目が、信じられないものを見るように見開かれた。

 長い赤髪に白いメッシュが入り、緑色の瞳を持つ褐色肌の女性を見る。


「初めましてレティシアお嬢様。私はグレイズ様の命令で参りました」

「何ですって?」


 レティシアの周囲の空気がひりつく。


「私はグレイズ様の指示の下、極秘裏に製造された新型人工生体兵器№10、デケムです。なお、私は医療分野特化型です。妊娠した貴方様の医療補助および健康管理、そして護衛を命じられました」

「は?」


 レティシアは数秒固まった。

 そして次の瞬間、その顔が憤怒に染まる。


「ふ……」

「レティシア」

「ふざけんなあの馬鹿親父ぃい‼ また作ったの!? あの子達が何を背負って生きてきたか知っているでしょう!? ノウェム一人で十分重かったのに! ナンバーズを増やすことが、どれだけその子達の人生を奪う行為か分かってないの⁈」


 怒りの絶叫が家中に響き渡った。

 完全にいつものレティシアではなく、言葉遣いもやや崩れていた。

 そしてどこかへ連絡する。


「馬鹿親父! 一ヶ月面会禁止! それとナンバーズ関連の案件は全部ロゼッタ経由! 以上!」


 そう言ってぶつりと通信を切った。


「レティシア様、私に不都合が……」

「貴方は悪くないの。貴方だって命令されただけでしょう? 悪いのは私の父よ」


 そう言ってデケムと名乗った女性を抱きしめた。


「よく分からないが、義父さんは一度反省するという行為を辞書とかで引き直した方がいいと思う、あと世間一般の感覚も身につけた方がいい」

「おっしゃる通りですね」


 順は呆れ、トレースはため息をついた。


 そんな空気など気にした様子もなく、デケムは首を傾げた。


「ところでお嬢様。本日から健康管理を担当しますので食事制限表を作成しました」

「……食事制限?」

「はい」


 デケムの言葉に、レティシアは寝耳に水と言わんばかりの表情をする。


「甘い物は週二回までです」

「え?」

「間食は禁止です」

「え?」

「毎日一時間の運動を推奨します」

「……」

「なお、妊娠期間中の推奨摂取栄養一覧もあります」

「……」

「さらに睡眠管理表と――」

「トレース」

「はい」

「今すぐ外へ」


 トレースはデケムの腕を掴み外に追い出そうとする。


「待ってくださいお嬢様、まだ睡眠管理表と体重管理表が――」

「お願いだから帰ってぇえええ!」


 レティシアの絶叫が家中に響き渡る。


「……あの人、レティシアの天敵だな、厄介すぎる。善意しかないから……」

「おっしゃる通りです」

「待ってくださいお嬢様ぁああ! まだ妊娠期間中の推奨運動一覧が――!」

「もういやぁああああ!」

「あと出産後の体型維持プランも――!」

「トレース! 早く閉めてぇえええ!」


 バタン。


 玄関の向こうからなおも説明を続けるデケムの声が聞こえてきた──






前半シリアス、終盤コミカルな感じになれたでしょうか?

そう読めていただければ嬉しいです。

デケムはレティシアがもし妊娠した時の為に事前に創られていました。

で妊娠が発覚したので派遣され、このような展開に。

善意100%だからタチが悪いという感じです。

実父グレイズはまだ何にも分かってませんが、彼も彼なりの事情があります。

それはいずれどこかで明かされると思います。


ここまで読んでくださりありがとうございました。

誤字脱字報告等ありがとうございます。

次回も読んでくださるとうれしいです。

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― 新着の感想 ―
善意100%だから何も言えねぇ…。(*´・ω・) またしてもお父様がやりやがりましたね…いや、すでにやった後でしたね。レティシアさんを思っての行動だと思うけど、やることやること全てがレティシアさんの逆…
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