35.レティシアの妊娠話と、ノウェムについて
借金返済の目処について碧はノウェムと色々と話し合っていた。
そこでふと、レティシアの妊娠が妊娠発覚して三ヶ月が経過した頃だと思い出し──
「戦艦や戦闘機たちの弾薬や修理費で2億はまず飛ぶ」
「2億も飛ぶの……頭痛い……」
「そしてパラシートゥスに寄生されない液体を塗り直すのに1億。寄生しない鉱物を使うならさらに3億飛ぶ」
「合計6億……残金124億。もう嫌になる!」
でも、この全額を借金返済に回せないのが分かっている。
「税務署が税込みで支払われているのに更に取ることを考えると、60億ほどは何かあった時のために会社に残しておくのがいいだろう」
「税金制度くたばれ! 税込みで抜かれてるのに、更に抜くとか何考えてんだ馬鹿野郎」
本当にこの国の税金制度どうなってるのよ……。
「まぁ、そこのやりとりは私がやろう」
「お願いします」
ノウェムさんに任せれば大丈夫だろう。
お金関係ではノウェムさんに任せるのがいい。
我が国は税金には減税の文字はほとんどない。
過去にデモがあったお陰でだいぶマシになったらしいが。
「ん?」
私はふと気になり、ノウェムさんに聞くことにした。
「……ノウェムさん、戸籍とかどうしてるんですか?」
「まぁ、その辺はレティシアやロゼッタが色々とな」
「アッハイ」
聞かないことにした。
「そういえば」
「何だ」
「もうそろそろじゃない? レティシアさんが兄貴……順兄さんに妊娠の件話すの。初期の後半だし」
「そういえばそうだな」
そんなやりとりをノウェムさんとしていると──
ドンガラガッシャーン!
派手にずっこけるような音を聞いて私は整備室に向かう。
盛大にずっこけて頭をバケツに突っ込んでいる男衆三名がいた。
戸惑っているレティシアさんに、あきれ顔のセスさん。
「レティシアさん、どうしたの?」
「ああ、碧さん。実は丁度良かったからご家族にも聞いて貰いたくてここで妊娠を打ち明けたら……」
「こうなったと」
まぁ、そうなるだろうとは思っていましたけどね。
「じゅ、順! お前さん、まだ嫁と妹の間の借金の返済が終わってないのになにやっとるんじゃ!」
「宗一お爺ちゃんそういう問題じゃない」
「じゃ、じゃがなぁ」
宗一お爺ちゃん、そう渋い顔しないで、おめでたいことなんだから。
「じゅ、順……お前だけ人生イベントの進行速度おかしくないか?」
「おめでたいことだからいいでしょう」
そう言うと、泣くような仕草を涼兄さんはした。
「なぁ、俺外れガチャ引かされまくってるんだけど、泣いていい、泣いていい?」
「合コンで情報集めしようとしたのは涼兄さんの発想だから慰めないよ」
「鬼ー!」
鬼と言われようがなんと言おうがそういう選択したのは涼兄さんである。
自己責任だと自覚してほしい。
「碧は鬼ではないぞ、慈悲深いぞ」
「慈悲深い奴が人の隠してたエロ本を机の上に並べるか!」
ノウェムさんの言葉に全力で否定する涼兄さん。
それは貴方が悪い、やって良い事と悪い事がある。
「それは涼兄さんが悪い! ノウェムさんに余計な言葉吹き込んで!」
順兄さんは真っ青な顔で立ち上がった。
「……おめでとう、って言うべきだよな?」
レティシアさんは順兄さんの手をそっと握り、微笑んだ。
「ありがとう、順さん」
私は思わず笑ってしまった。
順兄さんの人生、色々すっ飛んでる。
そこで私は、ようやくレティシアさんの後ろに立つ男性へ目を向けた。
「レティシアさんの後方で凄い形相の男性がいるんですが?」
「父です、妊娠したのを聞いてからあの様子で」
「俺殺される?」
順兄さん、顔真っ青だぞ。
「順君」
凄い形相のまま、レティシアさんのお父様は近づいて来た。
眼光が鋭く、ただ立っているだけで空気が重い。
「は、はい」
「よくやった」
「はい?」
順兄さん間抜けな声を出した。
「レティシアは実はブライダルチェックで妊娠しづらい傾向があると言われていてな、それを子どもを授かれるとは君は凄いな」
「あーどこかの動画でみたな、似たの。自然妊娠できないって言われてたお嫁さんを妊娠させて種馬扱いされていた旦那さんの動画」
「いつの動画だ」
私の言葉に、順兄さんはげんなりしてた。
じゃあ、レティシアさんのことで起こってたんじゃ無くて、感激してたってこと?
あの怖い顔で、いや、今は怖くないけど。
「ごめんなさいね、お父様は勘違いされやすい方なの」
「はぁ」
「そして君が碧か」
「は、はい」
結婚式で見かけたけど会話を一切していないので私は硬直する。
「娘のために生み出し、娘のために死ぬよう設計したノウェムを、どうやって変えた」
「お父様!」
まるでノウェムさんを人ではなく道具のように語る口調に、胸の奥が熱くなった。
気づけば言葉が口をついて出ていた。
「言い換えさせていただきますが、ノウェムさんにレティシアさんは幸せになってもらいたくて私に託していただいたんだと思います」
私は怒りがこもった口調で続けた。
「つまり何が言いたいかというとですね、変わらない存在なんてないんですよ」
「それと、自分の都合で命を作らないでください」
私は思い切り睨み返した。
後悔は微塵もない。
ノウェムさんは慌ててるが、私にとって大切な人を「物」扱いされるのは腹立たしい。
「……レティシア、この少女は随分生意気な社長だな」
「これはお父様が全面的に悪いから擁護しませんわ」
「私はレティシア、お前を守るために必要だと思ったのだ!」
「そのせいでノウェムがどれほど体を痛めつけられ続けたかご存じで⁈」
レティシアさんは声を荒げてからセスさんに背中をさすられ、順兄さんに手を握られる。
「レティシアお嬢様、胎教に悪いです」
「レティシア、そんな怒鳴り声はよくない、落ち着こう。いったんその件は出産まで保留にしたほうがいい、じゃないと君の体に悪い」
順兄さんも、宥めている。
家族になった過程で何か色々知っているのかな?
まぁ、聞く気はないけど、ノウェムさんの口かレティシアさんからなら聞きたい。
「そうです、お嬢様」
「分かったわ……」
セスさんの言葉に、レティシアさんは深呼吸して呼吸を整えていた。
「レティシア」
「?」
そんなレティシアさんにノウェムさんが声をかける。
「……貴方を守れたことは誇りに思う、そして碧と巡り合わせてくれて感謝する」
「ノウェムそんな言葉を──」
「けれど、あの頃のような生き方はもう無理だ。碧を守るためなら我慢するが苦痛になるのが目に見えている、それほど私は変わってしまった」
レティシアさんは驚いた表情をしてから笑みを浮かべて抱きしめた。
「ノウェム、それは弱くなったからじゃない、貴方が人として普通のあり方に近づいただけ、私はね、それを望んでいるの」
「レティシア……」
「碧さん、これからもノウェムをよろしくね?」
「も、勿論です!」
笑顔のレティシアさんに、驚きながらも私も笑顔で頷いた。
「レティシア、何故そのような勝手な決定を──」
「ノウェムは普通じゃ無くつくられた、全部私のためだけに」
「そうだ、ノウェムはそうして作った」
「ノウェムをそのためだけの道具として作った。セスやドゥオには自由があったのに、ノウェムにはそれがなかった。それどころか感情すら与えようとしなかった。」
レティシアさんが実父を睨み付けている。
ハッキリ言って、怖い。
本気で怒るレティシアさんってこんなに怖いんだ。
「レティシア、もういいんだ。君の願い通りが今の私なら私は充分幸せだ」
「……そうなのね」
「碧に『そんな死ぬような真似をしたら恋人関係を解消して、指輪も質に出します』と言われてな。流石に堪えた」
「あらあら、婚約指輪」
「その手前と思ってください」
婚約指輪はまた別でということで。
「ノウェムと結婚して子どもが欲しくなったら言ってね!」
「ちょ、早すぎ早すぎ!」
レティシアさんはいつもの穏やかで微笑ましい声と表情に戻っていた。
「というわけでお父様、出産時はお父様の立ち入りは禁止します、碧さんとノウェム、セス、順さんの立ち入りを許可します」
「ちょっと待て私は父だぞ⁈」
慌てるレティシアさんのお父さん。
「ノウェムにしたことへの恨みです、立ち会いは不許可にしますが、あとで抱っこはさせるくらいは許してあげます」
「ぐむぅ……」
「レティシア、何故碧と私もだ?」
「まぁ、義理の姉妹になっていますし、それと護衛は多いほうがいいですから」
「……了解した、主治医が変な行動を取ったら即座に動きを止める」
「モナル社内部の産婦人科だから大丈夫だと思うけど、お願いね」
何か私も役に立たなそうなのにカウントされたのは何故?
「じゃあ、お願いね?」
「は、はい!」
と、優しく手を包んでくれたので少し胸がぽかぽか暖かい気持ちになった。
ただどうして私も立ち会いの付添人に選ばれたか聞く前に、レティシアさんは帰ってしまった。
セスさんがお父さんを引きずって行った。
何か言ってたけど、聞かなかった事にする。
「ノウェムさん、無理しないでね」
「分かっている」
ノウェムさんの過去は私の想像以上に重い。
それでも今こうして笑っている。
だからこそ、その笑顔を守りたい。
さて、問題はまだまだ山積みだ。
でも、一つずつ片付けていこう。
レティシアの妊娠を順たち家族が知る話と。
レティシアの父が出るお話です。
レティシアは実父に激おこしてます。
ノウェムに色々やっちゃったからね、仕方ない。
でも碧がノウェムを変えてくれたから、安心して任せていられるというのがレティシアの思いです。
レティシアの実父は其処の所理解していません。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




