29.命の価値~貴方の命にも価値はある~
自分の命を大事にしないノウェムに腹を立てた碧はある行動に出る──
『今日の依頼は工事現場の暴走ロボットの鎮圧よ、お願い』
「かしこまりました!」
ちょうどいいタイミングだ、今日こそこの人に分からせなきゃ。
レティシアさんの通信を受け取ると戦艦に備えている装甲車に載って現場に急行。
場所は近かったからね。
遠かったら戦艦を動かす。
そして大規模な工事現場に到着した、建築用のロボットたちが暴走してる。
「と言う訳で突貫ー!」
「⁈ 待て碧!」
止めようとするノウェムさんの言葉をわざと無視して装甲車から飛び出して突撃する。
襲いかかってきたロボットを蹴り倒し、電磁網で拘束する。
さらに大型ロボットを力任せにひっくり返した。
4足歩行のロボットなので、それでバランスを崩し、倒れる。
コクピットには人は乗っていなかったのを確認してたからやった。
後悔も反省もしてない。
「お嬢! もう少しおてんばぶりは控えてください!」
「お嬢! 無謀行為はやめろ!」
「お嬢! 危ないから一歩さがってて欲しいよ!」
「お嬢、何か考えがあるんじゃな」
「ガンツ正解ー」
私の身を案じる中で、私の行動に違和感を感じたらしいガンツだけが問いかけてきた。
他の皆は「は?」と言わんばかりの顔をしている。
「碧! 何故今のような危険な行為をした!」
怒鳴るノウェムさん、まぁ分かってたのでスルー。
「それは会社に帰ったらゆっくり話します、ところで鎮圧終わった?」
「ああ、終わったとも! 君が危なっかしい行為をしている間にな!」
頭が痛そうだが、こっちも貴方の行動には頭が痛いんですよ!
「じゃあ、帰りましょう!」
「待て、碧! 話は終わってない!」
「会社で聞きますのでー」
そう言ってスルー。
普段の私とは違う対応に明らかに困惑している。
だが、これは自業自得だ思い知れ。
「碧、何故あんな無茶をした⁈」
「無茶じゃないですよー? できるからしたんですよ?」
「下手すれば死んでいたかもしれないんだぞ! パワードスーツも其処まで万能じゃない!」
ガンツが気を利かせてクラレンス達を部屋から追い出してノウェムさんと二人きりにさせてくれた。
休憩室で、紅茶を飲む。
「あー一仕事終わった後の一杯は格別だなぁ」
「碧!」
「……」
カチャンとソーサーの上にティーカップを置く。
「──私が死ぬのは嫌だが、自分は危険な目にあって死んでも構わない?」
「そうだ、私達はそう作られた!」
「ふざけてんのはどっちですかノウェムさん」
目でじろりとノウェムさんを睨み付けるとノウェムさんは動揺する。
「少し前あったネブラの件で、私は安全地帯、ノウェムさんたちだけが危険地帯で戦う──もとい『仕事』をしてましたよね」
「そ、そうだが」
「あの時私がどれだけ不安だったか分かりますか、貴方が無事帰ってきてどれだけ安心したか分かりますか」
じろりと睨み付けたまま、ノウェムさんに私がどれだけ不安だったかを伝える。
「……」
「それだけじゃない、仕事中、いつだって私を庇って行動する。その度に修理したりしてますよね、まぁ修理ですむなら良かったんですが」
そう、修理ですむならいいのだ、修理が終わってないのに出撃を余儀なくされる場合がある。
「治す前に破壊されたりしたとき、私の心臓にどれほど悪かったか分かりますか」
「だが、君は一人しかいない!」
その言葉に、私は待ってましたと言わんばかりに思いの丈をぶつける。
「ノウェムさんだって一人しかいないんですよ!」
「ナンバーズだから? そんなの知りません!」
「レティシアさんを守るための道具だった? そんなの今は関係ありません!」
「私にとっては代わりなんていないんです!」
「……」
ノウェムさんは納得してないようすだった。
なら最終手段だ。
「私の言葉が分からないようであれば、これで終わりにしましょう」
「……何を言っている?」
「恋人が、愛する人が死ぬのは見たくないです」
「碧……?」
「ノウェムさんの護衛を終わるようレティシアさんにお願いします」
そこで初めてノウェムさんの顔が青ざめた。
そう言って冷めた紅茶を飲み干し、その場を後にした。
「待って、待ってくれ!」
ノウェムさんが私の腕を掴む。
「……」
「ノウェムさん、分かって無いんでしょう?」
「分からない、分からないように作られているのだ。自分の命に価値はない、ただ命令のみに従えと……」
なるほど、ノウェムさんは分からないように調整されて生み出されたのか。
つくづく、おそらくノウェムさんを作るように命令したレティシアさんのお父様には怒りを通り越してあきれる。
そこまで娘を守りたいなら、もっと別の方法があったはずだ。
レティシアさんが今もノウェムさんを私のもとに置いているのは、きっと過去に何かあったからなのだろう。
きっとレティシアさんには相当な心の傷になっているんだろうな、と予想する。
だからノウェムさんが、「人らしい」行動を取った発言を私がすると喜ぶのだ。
ノウェムさんにレティシアさんは「人間」になって欲しいのだろう。
「だったら時間をかけてでも教えます」
「貴方の命に価値があることを」
「貴方が思っている以上に、私にとって大切な人なんだってことを」
「……そんな風に考えたことはなかった」
ノウェムさんはぽつりと呟いた。
「レティシア以外に大切だと、言われたこともない。でも今でもその意味が分からない」
ここまで所謂思考調整をされているのか。
「貴方が、自分の命を大事にするなら私も無理は止めます」
「……本当か?」
「まぁ、染みついてるから善処する方向で」
ノウェムさんはため息をついた。
「君も相当の策士だな」
「策士じゃないですよ、私はただ」
策士じゃないけど、ちょっと策は使った。
でも、言いたい言葉は策ではなく本音だから。
「私の恋人が、私のためにいつでもどこでも命を張ろうとするのは止めて欲しいだけです」
「では、誰が君を守る」
「自分の身はなるべく自分で守ります」
「それでは私の意味がない」
仕方ない言い方を変えるか。
「守ってくれるのは嬉しい、けどそれに命をかけないように。私だって死にたくて仕事してる訳じゃ無いんだから」
「……」
「借金返済の為に会社を守って、その後も色々できるようにしたいの分かって」
「色々、とは?」
「まぁ、色々よ」
やりたいことはあるけど、漠然としているのでなんとも言えない。
「……」
「その時、私はノウェムさんに隣にいて欲しいの!」
それが一番の幸せなの!
「それは……」
「嫌?」
私が首を傾げて問いかけると、ノウェムさんは首を横に振った。
「いや、君の隣にいたい。君が借金返済後も、私は君の側にいたい」
「じゃあ、命がけの行動は控えてください、まずこれが第一歩!」
私が確認するように言うとノウェムさんは頷いた。
「じゃあ、約束がてら指輪を買いましょう、おそろいの」
「え?」
「ノウェムさんの行動が改善されないなら指輪は質屋に出します」
ノウェムさんを引っ張って市内のジュエリーショップへ向かう。
レティシアさんから使えるようにしてもらったブラックカードで指輪を購入する。
運良く同じデザインの物があり、私達はそれを選んだ。
ノウェムさんが出すといいだしたが、割り勘で。
私達の左手の薬指に白金の小さなダイヤモンドがついた指輪が光っていた。
帰りの車、クラレンスに運転してもらいながら私は指輪を撫でていたが、ノウェムさんは指輪を撫でてからそっと口づけしていた。
それを見て。
あー!
あのファーストキスやり直したい!
と少し思ったのは内緒にしておく。
碧が言いたいのは「貴方が私を大事に思うように、私も貴方が大事なの」というのが一番分かりやすいかなぁと思います。
だからそれを分かってほしくて初期のような無茶をした、ガンツだけが理解できたのはガンツが人と交流が長いロボットだったから、と言うのもあります。
メフィストも人と接するロボットですが、本音を言うようなロボットではなく楽しませるロボットなので全く別の形の交流なので分からなかったのです。
レイジングは人との交流なんてものはほぼ無し、クラレンスはマネージャー的な存在との交流と幅がせまかったのです。
ちなみに最後に碧の本音は、指輪に愛おしそうにキスをするノウェムを見たことで出ました。
事故チューになったもんね。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




