28.借金返済とノウェムの「仕事」
毎月の借金返済の件で、モナル社傘下の支社を訪れた碧。
ノウェムを応接室の外で見張りをさせ、レティシアと二人きりで色々と会話をすることに──
レティシアさんと結婚した長兄――順兄さんがはっちゃける気配はない。
相変わらずもくもくと仕事をして、終わったら帰るだけだ。
そんな日々の中、今日はモナル社傘下の支社である子会社に来ていた。
そこの応接室でレティシアさんと話をしていた。
「レティシアさん、今月二億入金しました!」
「ありがとう、これで借金は……187億五千万ね」
書類を確認しながら言うレティシアさん。
これで187億5千万円。
あとどれだけ時間がかかるのか、気の遠くなりそうな予感に頭痛を覚える私。
「借金返済の道のりは長い……でもくじけません……あ」
「何?」
レティシアさんが言うので、前々からの違和感を伝える。
「あの、利子は?」
「ないわ、書面でそう残したから」
良かったー!
利子あったら無理ゲーすぎた!
レティシアさんに感謝感謝!
「良かったー! 利子があったら死ねるー!」
「本当によかった、利子つけないで、副社長がつけろと言ったから部屋から追い出したのよ」
「副社長ェ……」
そういや、最初にあった時も秘書さんに締められてたっけ。
「やっぱりクビにしようかしら、有能なんだけど口うるさいし……」
「いやいや、それは止めてあげてください!」
あんな奴首にしたらそれこそ何が起きるか分からない。
「そう? ふふ、可愛い義妹である碧ちゃんがいうならそうするわ」
「はは……」
乾いた笑いしか出ない。
「あ、あのー」
「どうしたの?」
ノウェムさんが部屋の外にいるので、思い切って聞いてみた。
「結婚式に乱入してきたアレ、何なんです?」
「ああ、アレね。若い頃の私の恋人だったロバートっていう名前のダニよ、黒歴史だわ」
「ダニ」
ダニっていったよ、レティシアさん。
黒歴史っていっちゃうかー!
「九人の女子と肉体関係を持ってたらしくて、お父様にソレ聞いて直ぐ別れたわ」
「はは、本命は君だけなんだー、とかいいそうですね」
乾いた笑いを浮かべながら私は視線をさまよわせる。
レティシアさんはにこにこ笑っているが、ちょっと怖い気がする。
「本当、言ってたわ。だったら他の女子九人は何? 愛人許すほどの器量は持ち合わせてませんよ、私は」
「あのーお父様は今独身?」
何だか今の私、好奇心だけで動いてるな。
しめられないかな?
「ええ、独身よ。お母様の件で『結婚はもうこりごりだ』っていってらしたから」
「……孫には甘そう」
そりゃあんな妻との結婚生活があったなら、嫌になるに決まっているだろう。
そんな厳しそうなレティシアのお父さんだが、お孫さんには甘そうだと思い呟いた。
「私もそう思うわ! ブライダルチェックも……問題無かったし」
あれ?
何か少し言いよどんだぞ、まぁいいか。
「それは良かった」
「まぁ、問題あってもうちの会社不妊治療のトップ走ってるから」
「おお……」
どこまで分野が広いんだ。
「お父様『あとは孫だが時間にまかせよう、せかすものでもないし』って言ってるけど言ってる時点で急かしてるわよね?」
「確かに」
子は授かり物と言うからね、仕方ない仕方ない。
「まぁ、お父様も色々あったから……」
「デスヨネー」
そりゃあ、レティシアさん以外の子どもたちはグレイズさんの実子ではなかった上、子どもたちにもそれを聞かせて育てたんなら、お怒りも大きい。
結婚式であった、母方の老夫婦──お祖父様とお祖母様や親戚の人達はかなり人が良いのにどうしてそんな人たちからそんな子どもができたのか不思議でならない。
ちなみにうちの家族は既に両方の祖父母は鬼籍に入っている、つまり亡くなっているのでどうしようもない。
なので、宗一お爺ちゃんがお祖父ちゃんみたいな存在だ。
「では、今日は帰りますね」
「ええ、気をつけて」
そう言って扉を開けるとノウェムさんがいた。
「ノウェムさん」
「戻ろう、パトリに」
「はい!」
手を繋いでモナル社傘下の支社を後にする。
「お嬢」
「クラレンス」
「運転を頼む」
クラレンスに運転を任せ、私達は後部座席に乗る。
「……」
「どうした、碧」
「いや、ちょっと順兄さんが羨ましいなって」
そうちょっとだけ順兄さんが羨ましかったのだ。
「ちょっと?」
「うん、ほんのちょっとだけ。順兄さんがレティシアさんのこと嫌ってないのは分かる、嫌いな人相手ならどれだけ丁寧に扱われても順兄さんは拒否するから」
そう、兄さんは自分を嫌っている人を察知する能力が高い。
だから、そう言う人に丁寧にされるとより距離を取る癖がある。
その癖も「いじめ」って犯罪行為で苦しい目に遭う要因だったんだけども……
「そうなのか……」
「まぁ、順兄さんにレティシアさんが見初めたってのがちょっとどころじゃない驚きなんだけど」
ノウェムさんは順兄さんの素質というか性格を聞いて納得したような顔をしている。
ただ、そんな兄さんの素質を見抜いていたわけではなさそうなので、レティシアさんが順兄さんに惚れた理由が知りたくなった。
「そうですね、順の何処が良かったんですかね?」
「レティシア曰く『側にいてくれたら落ち着ける、安心できる』と思ったそうだ」
クラレンスが尋ねるとノウェムさんは答えてくれた。
順兄さんの優しさは見抜いてたのか、そうなんだ……
ちょっと驚いた。
「まぁ、兄さん優しいから、根っこは」
「そうだな順は優しい、だから中学、高校時代に犯罪行為の被害者になった」
順兄さんの話をするとレイジングが不機嫌そうに話した。
正直私もあまり思い出したくない、兄さんが引きこもる原因だったもの。
「それはこの国では『いじめ』と片付けられる類いのものか」
「……ええ」
ノウェムさんの言葉に私は小さく頷く。
そう、犯罪行為を「いじめ」で片付ける悪習はまだ残っている。
「犯罪者共はどうなった」
「萌木夫妻が鉄槌を下したとも、もみ消そうとした学校と教育委員会もろとも」
実はお母さん達じゃなく桐人の力もあって其処までやれたんだよね。
でも、言わない方がいいよね。
「……そうか」
「民事でも訴えた。二度と働けないかもしれないほどの精神的苦痛を受けたとして、弁護士を立てて多額の慰謝料を勝ち取ったよ」
「その金は全て順兄さんの通帳に入れられた」
「順兄さんはその金で精神科にも通っていたけど、次第にそれすら苦痛になったのか行かなくなって、引きこもりになったの」
入院も考えたが、主治医が入院すると更に悪化する恐れがあると言った。
だから、行かないのを両親は許した。
「最初は私は行った方がいいってお母さん達に言ったんだけど、順が行くのが苦痛なら行かないのも自由だ、幸いお金には困らないだろうって」
「まぁ、それが何がどうなって、大企業モナル社の社長の夫になるという逆玉になったのやら」
私は母が言った言葉をそのまま伝える。
すると、レイジングが補足なのか、そんなことを言い出した。
まぁ、事実だけど。
「人生ってわからないよねぇ」
「ロボット生でも予測はできませんでしたよ」
私とクラレンスは苦笑する。
この結婚が幸せと言い切るにはまだ早いからだ。
「……レティシアは、順のことを萌木夫妻から聞いていた。順は優しいから傷つき引きこもりになったと」
「だよねー。引きこもりの子がいるのは隠しておくと後々大変だろうし、まぁその引きこもりに仕事させてる鬼が私なんだけど」
私は遠い目をする。
「お嬢様は鬼ではありません、あの時は仕方なかったのですよ!」
「そうよね、残り借金187億5千万円……遠い」
まぁその引きこもりに仕事させてる鬼が私なんだけど
それはそれとして、残りの借金の金額にため息が出る。
「着実に返していこう」
「分かってます」
ノウェムさんの言葉にしっかりと頷く私。
焦っちゃダメ、チャンスは幾らでもあるのだから。
「勿論だ……と言いたいが、ノウェム、お前は一体どちらから給料を多く貰っているんだ?」
「モナル社だ、レティシア厳命の碧の身体の安全、それに尽力をつくせということで給料は多いが、今は甘味以外使い道がない」
甘味以外使い道がない?
「使わないんですか?」
「服などは支給品で十分だ」
疑問に思って聞くとそう返事が返ってきた。
「……だからボディスーツの下真っ裸だったんですね、あの時」
「ボディースーツの上から着られる服だけだからな、今私が着用してるのは」
どういう性能の服を着ているんだろう?
「……どういう性能?」
「防弾チョッキ並みの性能がある。ナイフ程度なら刃こぼれさせるぞ。」
ガチで、ガッチガチな奴じゃん。
これでパワードスーツ着たら更に強いじゃん。
「ワァ……」
「本当、本気でお嬢様のことを、身を挺して守る覚悟なんですね」
驚く私。
そんな私を余所にクラレンスが問いかけた。
「当然だ、死ぬかもしれないことが──」
「それはダメ!」
ノウェムさんの言葉を否定する。
「お願い、生きて側にいて、それが私の願いなの」
ノウェムさんは目を見開いた。
まるでそんな願いを向けられるとは思っていなかったかのように。
「……分かった、善処、する……」
ノウェムさんの言葉に何か変化が起きたような気がする。
どうか、ノウェムさんが、私の為に死にませんように、そう祈った。
「ノウェムさん」
「何だ?」
「二度と、命に替えてもとか、死んでもとか、死ぬかもしれないとかお嬢様には絶対言わないでください」
会社に戻った私は物影でノウェムさんとクラレンスたちが話しているのを聞いてしまった。
「お嬢様は、ご両親を亡くしておられる。ですから身内にこれ以上の不幸を望まないのです」
「勿論それには君も含まれてるって分かるよねぇ?」
クラレンスとメフィストが身近な人が亡くなる恐怖と不幸に私が怯えていることを伝えていた。
「理解はしている」
「理解している、だけじゃだめなんだよ、ノウェム。お嬢ちゃんと恋人になったんだろ、だったら死なないように悪あがきを覚えろよ」
メフィストが怒っているかのように言った。
「そうじゃ、お嬢を守るだけじゃなく、自分も守る事も覚えるんじゃ」
「……了解した」
ガンツの言葉にそう返事はしたものの、ノウェムさんの表情はどこか納得していないように見えた。
だから私は決めた。
なら、言おう。
私の言葉でハッキリと。
大好きな貴方が共に生きてくれることを望むように。
レティシアと碧の会話。
ちなみに、ダニもといロバートとは肉体関係はないままです。
そう深い関係になる前にグレイズがレティシアに報告したからです、娘を不幸にしたくないんですよ。
だからこそ、娘が無事なら何も要らない、娘が幸せならそれでいいと順との結婚をゆるしました。
ちなみにロバートを紹介したのはレティシアに嫉妬した社長令嬢です、令嬢は親に縁を切られて消息不明となっています、これは裏でグレイズが動いたためです。
レティシアは知りません。
また、ノウェムもクラレンス達のことばが耳には入るものの理解できてません。
碧の言う通り、だったら碧は何をするでしょう?
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。




