【幕間】萌木順のとある一日~そして帰ってきたらああなった~
順の一日、もとい一日で婚約まで持って行かれた順の話
「順さん、どうぞ宜しくお願いします」
「……宜しくお願いします」
セスに連れられて大規模の工場に来た順はレティシアになんとか挨拶をする。
「あの、なんで、お……私なんでしょうか?」
「気になってしまって」
レティシアの微笑みに、順は何とか言葉を絞り出す。
「気になって」
何を気になったのか順には分からなかった。
「宜しければ、我が社の工場見学をお願いできますか?」
「……はい」
言われるまま、工業用のワープシステムを使って移動させられた。
工場には色んな人種がいた。
「全部我が社の社員です」
「……ん?」
順は動きがぎこちない整備士を一人発見した。
ロボットの修理室のようだった。
「あの人のところに行きたいんですが」
「新入社員の方ですね、分かりました」
順たちはその整備士の元へ行った。
「えっとこれ、どうするんだ⁇」
「ちょっといいですか?」
何かが分からずに悩んで居る整備士にレティシアは声をかけた。
「……社長⁈」
整備士は振り返ると大慌てで姿勢を正した。
「視察お疲れ様です!」
「……ちょっと退いてくれ」
レティシアに礼儀正しく挨拶をする整備士に退くように順は低い声で言った。
「な、何ですかこの人は?」
訝しむように順をみる従業員にレティシアは微笑みながら言う。
「この方は私の大事な客人です」
「し、失礼しました‼ どうぞ‼」
順はスーツを脱ぎ、ワイシャツの袖をめくり、作業用の手袋を装着し、何が起きたときでもメンテナンスできるように、宗一に渡されたメンテナンス補助用の眼鏡をかけた。
「ああ、これコード全部別の場所につながってるこれじゃあ動かない、あとは……」
ブツブツ何かを言いながら順はロボットの整備を続けた。
「マジかよ、あのロボットの整備こなしてやがる」
「社長さんの知り合いってことは、知り合いの整備士の助手かなんかか?」
「いや、助手でもあの腕はねーわ、俺ならあのロボットの整備投げ出すぜ?」
整備士達は淡々と整備をしている順を信じられないものを見るように言った。
順の耳には全く入っていないようで、順は黙々と整備をしていた。
「レティシア様」
セスがレティシアに声をかける。
「従業員全員に旧型のロボットの修理ができるよう指導してもらうべきですね。新型は修理がやりやすい、旧型ほど修理が難しい、ですからね」
「どなたに?」
レティシアの提案にセスは疑問を問いかける。
「順さんは無理そうですから、そこはうちの長老にお願いしましょう」
「ゴルド氏ですね、連絡を入れておきます」
レティシアは順の性格を見抜いているように、いい。
セスは「ゴルド」氏に連絡を入れた。
「ありがとう、セス」
レティシアは微笑んでセスにお礼を言うと、セスは小さく会釈をした。
「よし、終わった……」
蓋をして、起動スイッチを押して起動するかを確認する。
「動ける……か?」
『はい、感謝いたします。自分は汎用型ポリスロボットαシリーズ107です』
型番を聞いて順は淡々といいつつ、軽く修理したポリスロボットを叩く。
「かなり古い型だな、無理はするなよ」
『お心遣い、ありがとうございます』
そう言うと、順は離れて、服装を正して眼鏡もしまって手袋もしまった。
「すみません……」
「いいえ、お陰で『あの子』が助かったわ」
勝手な行動をしたことを謝罪する順に、レティシアはその必要はないことを告げた。
「……ならいいんですが」
少しだけ安心したような様子を見せる。
「おおい‼ 宗一の弟子は何処じゃ‼」
どかどかという足音に、大声、順はびくっとなり、レティシアがそっと支え、セスが口を開いた。
「ゴルドお爺様。声が大きい、宗一さんのお弟子さん、対人恐怖症」
「そうか、それはすまんかった」
レティシアに支えられている順に老人──ゴルドは頭を下げて謝罪した。
「……あの、宗一さんのお知り合い……?」
順が小さな声でかすれるように喋る。
「いやはや、本当に喋るのも苦手なんじゃな! 儂はゴルド・アッバス! モナル社専属のメカニック歴50年じゃ!」
「はあ……」
よくそんなに働けるなと順はゴルドを少し尊敬した。
ただ、喋るのも苦手と指摘されると何か苦い気持ちになった。
「宗一とは違う会社とは言え、メカニックの技術で競い合った仲じゃ……まぁ、儂は家族関係は良好じゃったんじゃが、宗一は嫁以外とは関係が悪くなり、嫁が死んでから引退したと聞いたが……」
「……俺の両親が『うちの家族を見て貰う人よ、だから私達の新しい家族!』って連れてきたんです」
順は小さな声でなんとか視線をさまよわせながら喋る。
「……そう、そういう事情か」
老人──ゴルドは順の言葉にしみじみと聞き入っていた。
「なら友人として宗一を頼んだぞい、彼奴は素直じゃないからのぉ」
「……あ、それは大丈夫です、末っ子の碧にはデレデレなので」
今も書類とかと格闘しているであろう碧のことを思ってなんとか順は伝えた。
「お主兄妹がいるのか?」
「詳しい紹介がまだでしたね、ゴルドさん。この方は萌木順さん、株式会社パトリの整備士担当の方、妹さんの碧さんが会社の社長になって次兄の涼さんと一緒に会社経営のサポートなどをしているんです」
萌木と言う名前を聞いた途端ゴルドは驚愕の表情を浮かべた。
「萌木? ちょっと待て、あの萌木か⁈ あの事故死らしいが怪しいと噂の‼」
「ゴルドさん、声が大きい」
大声で喋る、セスがそれをたしなめる。
「おお、すまん……」
ゴルドはセスに言われてしょぼくれた。
「あの、両親と知り合いなんですか?」
「知り合いも何も、宗一の居場所を教えたのは儂じゃし、会社経営するときの話に儂も同席しておった……しかし、大変じゃのぉ」
同情されたが、順は首を振った。
本当に大変なのは自分ではなく妹だと思っているからだ。
「大変なのは妹です……命がけの行動を取るからいつも心臓に悪いです」
「とんだじゃじゃ馬娘のようじゃの」
順の言葉にゴルドは困ったような顔をした。
「ゴルドさん、じゃじゃ馬じゃなくて、一直線なだけなんですよ」
「それでも大変そうじゃの」
レティシアが訂正するが、ゴルドは困り顔のまま。
「ゴルドさん、整備士たちに一度手を止めて講習を受けさせてくださいな」
「儂もそれをしたいと思っておった」
ゴルドは整備服を身につけ、必要な機材が入った鞄を持った。
「では、お願いしますね」
「任せておけ」
ゴルドはドスドスと力強い足取りで歩いて行った。
「……スーツ汚れたので新しいの用意しますね」
「え?」
レティシアの指摘に順は声を上げる。
確かにスーツとワイシャツは汚れていた。
「では行きましょう!」
「おー」
その後はレティシアがされるがままに、高級ブティックのスーツなどを買ってもらい着用させてもらった。
その上、有名レストランを貸し切りにして食事まで出した。
料理を目にした順はようやく口を開いた。
「あの、俺に、何の用なんですか」
「ここまでアプローチしてるのに気付いてくださらないなんて鈍い人」
順はまるで分からないという風な困惑な顔を浮かべている。
そうすると、レティシアは少し拗ねたようなけれども妖艶な微笑みを浮かべた。
「へ?」
「順さん、私と結婚前提のお付き合いをしてください。というか婚約者になってください」
順は開いた口が塞がらなかった。
「だから、仕事の現場とかをみせたり、買い物で色々買ったり、ここに連れてきたと?」
「はい! だって順さんにアプローチするにはこれ位強引じゃないと! って亡きお母様が言ってらっしゃったので!」
いつの間に自分のことを知っていたのかと呆然する順。
レティシアは満面の笑みを浮かべている。
「……お袋」
余計なことを喋って亡くなった母親を順は恨めしく思った。
「俺にはメリットはありますけど、そちらにはメリットないですよ?」
「ありますよ、パトリとより仲の良い関係を気づける可能性、まぁそれ以上に」
何があるのだろうかと返事をまつ順。
「?」
「好きな人と一緒にいられるっていう幸せに勝るものはないですから、順さんはどうですか」
レティシアといて悪い気分にはならなかった。
怖いとも思わなかった、別にいいかと順は単純に思った。
「俺なんかで、いいんですか」
「いいんですよ、優しすぎて傷ついて引きこもりになったのにロボットのメンテナンスは手伝い続けた頑張り屋さん、それが順さんです、お父様」
お父様という言葉に、順は変な声を出してしまう。
「……へ?」
後ろに気配を感じて振り返ると、白髪交じりの髪に、鋭い青い目、色白の壮年の男性が立っていた。
「あ、あの、止めないんでいいですか?」
「君の行動は全て聞いている、不倫をする気配もなさそうだ」
零細企業のただの整備士と、大企業の女社長。
普通考えれば釣り合わないのは分かってるのに、何故抜けていたのか順は今更気付いた。
そして恐ろしい言葉に、順は震える。
「そんな自殺行為しませんよ、碧に殺される……」
「ほほぉ、私が下す前に身内が下すのか、コレなら問題はないな」
順はこの男性を心の底から怖いと思った。
「私はグレイズ・キーア。モナル社の前社長で現取締役だ。娘をよろしく頼むよ」
「……はい」
まさか一日でここまで外堀とか色々埋められて婚約までこぎ着けられさせられるとは順はおもわなかった。
そして、順は腹をくくるしかないと諦めた。
「じゃあ、婚約指輪を作りに行きましょう!」
と、その足で婚約指輪を作りに行く羽目になった。
そして、帰宅当日、レティシアと順の左手の薬指に晃白金のダイヤモンドが輝く指輪を家族たちにみせた。
「うそだろぉ……」
倒れる碧を見て、順はだよなーと言わんばかりの顔を浮かべた。
でも、借金の方に売られた訳では無いので会社の借金返済は続くし、碧の行動も変わらないが、少しでも、傷つく身内が増えた事を自覚して行動してくれることを順は祈った。
順は工場見学や、食事を通してレティシアにアプローチをされていることに全く気付いていませんでした。
そもそも、婚約したい相手だからこそ自分の持って居るカードをレティシアはさらけ出したわけですし。
ちなみに、婚約して帰って来るまで時間がかかったのは色々な手続きをしていたからです。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。




