【幕間】ノウェムの初恋~それは純粋だからこそ~
幕間:ノウェムの「心」の変化。感情持つことを否定されていたノウェムが感情をもって、そして恋を自覚するまで。
和スイーツ巡り当日の朝。
「ノウェムさん」
「ウキウキとした気持ち」半分、「憂鬱な気持ち」半分のノウェムにクラレンスが近づいて来た。
「何だクラレンス」
「貴方お嬢様と美奈様と和スイーツ巡りですか」
クラレンスの言葉に、ノウェムは頷いた。
そして「疲れた」ようにため息をついた。
「もう二人くるがな」
「それは大変ですね。ですが、護衛頼みますよ、私達は会社で待機しないといけないので」
レティシアとセクスが来ることが読めていたのでノウェムは「憂鬱」だった。
本来守るべき対象だったレティシアが来るのに「憂鬱感」を抱くのが何故か分からなかった。
「護衛は任せろ」
「ええ、お嬢様も美奈様も可愛らしい方ですから、変なナンパ野郎が来たらけん制するか使い物にならなくしてください」
ノウェムが自身の胸に手を当てる。
が、クラレンスの次の言葉に、「嫌な気持ち」と表現しがたい気持ちがわき上がった。
「……使い物にならなくしたらこっちの立場が悪くなる、けん制で終わらせる。目で殺せばよいだろう」
だが、それを誤魔化すようにノウェムはあきれた様に言った。
「貴方の眼光殺気が入ると一般人は呼吸困難になりそうですね」
「なる」
クラレンスの質問にノウェムは即答した。
レティシアの護衛をしていた時、レティシアに不躾に近づいて来たものを睨み付け呼吸困難に陥れた経験があり、レティシアから加減するように言われたことも覚えている。
「実例あったんですか」
「レティシアの護衛をしてた時にな」
実例を思い出しながら答える。
ふと思った、碧が不躾な輩に近づかれたとき自分は加減ができるのだろうか、と。
ノウェムはなんとなくだができない気がしていた。
「なるほど」
クラレンスはノウェムの心境を知らず、納得したように頷いた。
「ノウェムさんそろそろ行きますよー!」
ノウェムはその声を聞いて立ち上がる。
先ほどまで感じていた憂鬱感が少しだけ薄れていた。
「ではな」
「ええ」
そう言ってクラレンスは二人を見送った。
「クラレンスお前から見て二人はどうよ」
レイジングがクラレンスに問う。
「ノウェムはやや自覚あり、お嬢様は全くの自覚なし」
「まぁ、そうか。俺達の過保護と桐人の侮辱行為の所為でお嬢様たちには近づける連中はいなかったからな」
ノウェムの反応から、クラレンス達は二人が両片思いであるのを薄々勘づいていた。
が、過保護故にそれをお嬢様である碧に言う気にもなれず、片思い相手のノウェムにはもっと言う気にはなれなかった。
「願うのはお嬢様が傷つかない事だけです」
クラレンスの一言に、メフィストたち「家族」はそろって頷いた。
「んー! 抹茶とあんこと白玉、相性抜群で美味しいワ!」
レティシアことレティは抹茶パフェを堪能していた。
同じようにノウェムももくもくとパフェを食べていた。
「あ、ノウェムさん、口にあんこついてるよ、右端」
夢中になって食べているノウェムに碧は指摘した。
「ここ?」
「違うって、ここ」
碧はそう言ってあんこの部分を手で拭って食べた。
「パフェは走って逃げたりしないんだからもうちょっとゆっくり食べてね」
「……分かった」
その様子を見て、美奈は目を輝かせ、レティとセスはにこにこと笑っていた。
「碧、セスと何を話していた」
ノウェムは帰って来ると真っ先に碧に尋ねた。
「セスさんね。ノウェムさんをよろしくお願いしますって話」
「私を」
ノウェムには分からなかった。
何故セスが碧に自分のことを頼んだのか。
「何か、今のノウェムさんいい感じらしいから!」
「いい感じ?」
碧は嬉しそうに喋っていた。
だが、ノウェムにはなにが「いい感じ」なのか分からなかった。
「まぁ、そういうお話よ」
「そうか」
しかし、内容を碧が語ることがなかったので、ノウェムはそれ以上考えないことにした。
「後、今回の和スイーツ巡り、ドゥオって人が来たがっていたって」
「来ていたら奴のど頭かち割っていた」
ノウェムは「不快」になってそう言った。
「オウフ」
しばらく碧が考えている様子をノウェムは眺めていたが、突如彼女はため息をついた。
「どうした?」
「ノウェムさんに桐人が首締められ事件」
桐人という名前にノウェムの中に一気に「殺意」と「怒り」が湧き上がる。
「あの男か……‼」
ノウェムは「怒り」と「不快」の感情を露わにする。
「──桐人兄さんは元々あんな性格じゃなかったのよ」
「は?」
ノウェムにはその言葉は信じられなかった。
碧は困ったように笑って続けた。
「真面目だけど、私達が私達が落ち込んだら笑わせてくれる、そんな優しい人、それが桐人兄さんだったの──」
「だが、あの男は私の神経を逆なでした」
碧は同じ表情のままノウェムの言葉に返答した。
「それは多分──」
「ノウェムが大事に思っている人が桐人兄さんの大事に思って居る人だったからじゃないかな」
ノウェムはその言葉に目を見開く。
「……どういうことだ?」
ノウェムには碧が言っている意味が分からなかった。
いや、理解したくなかった。
するなと、過去の自分が囁くのが聞こえた。
「桐人兄さんね、過保護なの。『家族』に近づく相手は徹底的に調べるし、場合によってはわざと挑発して本性を見るの。」
「なん、だと」
──ではアレは──
「ごめんなさいね、きっとレティシアさんのことで怒ったんでしょう? 桐人兄さんにはあとでキツくいっておくから」
スマートフォンを手に取った碧の手をノウェムは掴んだ。
「ちがう」
「え」
ノウェムは首を振った。
「違う、レティシアじゃない」
「じゃあ、誰」
過去の自分がお前にそんな権利はないという、だがノウェムはその声をかき消した。
そして否定の言葉を口にする。
「違う」
「え?」
「違うんだ」
ノウェムさんは首を振った。
「レティシアじゃない」
「じゃあ誰なの?」
自分を信用して、まっすぐ見つめる目からそらせない。
再び過去の自分が今を否定するが、ノウェムは真実を口にする。
「碧」
「え?」
「君なんだ」
ノウェムは絞り出すように言った。
心臓が酷く脈打って、焼けるようだった。
それ位、言うのが怖くて、でも伝えなければと思いノウェムは伝えた。
「え?」
驚く碧の腕を掴んでいるままのノウェムだった。
でもそれ以上の言葉をノウェムは知らなかった、だから言えなかった。
「ノウェム」
「……レティシアか」
碧とのやりとりがぎこちなくなった翌日。
ノウェムが一人会社の屋上で黄昏れているとレティシアがやって来た。
「『ノウェムさんとぎこちなくなった』って、碧ちゃん愚痴ってたわよ」
「……」
その言葉に反論はできなかった。
ぎこちなくなったのは、あの言葉をいったからなのは分かる。
だが、それ以上どうすればいいか分からなかったのだ。
「ねぇ、ノウェム。私がなんで貴方を此処に派遣したか分かる」
「いや……」
レティシアの言葉にノウェムは振り向き分からないという風に首を振った。
「碧ちゃんなら、貴方を変えてくれると思ったからよ」
「碧、なら?」
「私は何年も一緒にいたのに、それができなかった」
その言葉に耳を疑った。
自分を「変える」ために「碧」と会わせたと聞こえたのだ。
「その通り、碧ちゃんは貴方を変えたわ。羨ましい、私は貴方をほとんど変えられなかった」
「変わったとはどういうことだ?」
変わってはならないはずの自分が変わっているのがどこかノウェムには恐ろしい事だった。
だが、それ以上に碧と触れ合う「喜び」があった。
レティシアの護衛をしていたときにはない、感情──
「貴方は碧ちゃんを好いている──彼女に恋をしてるんでしょう」
「⁈⁈」
レティシアの言葉にノウェムは困惑する。
「あの桐人は『恋と書いて下心と読める』とかほざいてたけど、貴方の恋は愛──もっと繊細でピュアなもの。だから貴方は激怒したのよ」
「そ、それは……」
ノウェムは否定できなかった。
初めて持ったこころが訴える、碧の側にいたい。
彼女とずっといたいと。
「おや、ここにいましたか。モナル社の社長様も」
「あら、貴方はクラレンスさん……で合っていたかしら」
そこへクラレンスがやって来た。
ノウェムのことを呆れたような顔でみている。
「ご名答、その通りです」
クラレンスはレティシアに頭を下げてから、ノウェムに近づいて言った。
「はっきり言っておきますよ、ノウェム。自分に自己嫌悪しているような卑屈な輩には、お嬢様とまともにコミュニケーションが取れないような輩にはお嬢様を嫁には出せません」
「わ、私は……!」
クラレンスの言葉に言い返せなかった。
でもノウェムは分かっていた、碧に合ってから彼女に嫌われたくないという感情が芽生えてしまっていたから。
だから、思いを伝えきれず自己嫌悪していたのだ。
「以上です。あそこまでお嬢様が心を許した方はめずらしいんですから、これ以上言わせないでください」
そう言ってクラレンスは立ち去った。
ノウェムはそれを呆然と見送る、自分がこころを許されていたとは思ってもいなかったからだ。
「ノウェム、立場とか全て捨てて答えなさい。貴方は碧さんをどう思ってるの」
レティシアの問いかけに、ノウェムは頭を抱えて、悩んで、そして言葉を絞り出した。
「側にいてほしい……他の誰かの隣に立たないで欲しい……契約終了しても側にいたい、それがレティシア、貴方の命令違反だとしても……」
「なら、命令です。貴方は碧さんと共にいなさい。そして自分の気持ちに正直になりなさい」
血反吐を吐くようにノウェムは思いを吐露した、自分が今まで抱えた思いを。
微笑んでレティシアが言うと、ノウェムは小さく頷いた。
「では、碧さんを呼んでくるから、ここにいなさい。逃げちゃダメよ」
そう言って屋上を去るレティシアをノウェムは見送るしかなかった。
逃げるという選択肢を選べず、ただ見送るだけだった。
ノウェム視点がメインの話です。
ちょこちょこ、周囲の視点が混じってますが。
ノウェムがどう思い、どう感じて、碧に思いを伝えたのか。
そしてレティシアとクラレンスの言葉が響いたノウェムは碧と会った時どうなるのか。
碧への思いを理解し自覚し、認めたノウェムと、ノウェムへの思い自覚した碧。
さて、どうなるのでしょうか。
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