20.宇宙歴三百年を少し振り返る
碧達のいる国についてと地球政府の300年たってもダメな所無能さ語る
「あ゛ー書類の山だー」
アルジャン社への出張から帰って三日目。デスクに積み上がった書類の山を前に、私は頭を抱えていた。
椅子にあぐらかいている社長なんぞやってる場合ではないのは重々承知。
でも書類きらーい!
デスクワークきらーい!
現場がいいー!
「今日もみっちゃん体調不良で休んでるからなぁ」
私が帰って来るまで張り詰めていたのか、帰ってきた途端プツンと糸が切れたらしく一気に具合を悪くし、しばし休養をとってもらうことになった。
「みっちゃん、絶対謝るから、気にしてないことを伝えよう」
そんなことを考えながら書類に向かう。
「しっかし、アルジャン社のメンテナンス代行だけじゃなく、ネブラの件でお金貰って申し訳ないなぁ、私ネブラの件は何にもしてないし」
モナル社から来た支払明細書は三十億。
最初は一億だったのに、臨時というか緊急というかネブラ案件があった為、30倍になった。
「お金、貰えるのは嬉しいけど、なんだかなぁ」
私はため息をつく。
何か色々と頭の中がぐるぐるしてきて気持ち悪くなってきた。
「休もう」
休憩室に向かうことにした。
ソファーに横になり、目をつぶる。
半分眠りかけていた時──
「どら焼きをもらった、碧にも──」
がちゃりと扉が開き、ノウェムさんが入って来たのがわかった。
が、残念ながら起きる気力が無かったので、そのまま眠りに入る態勢を続行。
「碧……?」
ノウェムさんが私の頬に触る。
髪に、唇に。
ふにふにと触られるのが伝わり少しくすぐったい。
「ん……」
そのせいで眠気が若干飛んだので、声がこぼれた。
手が離れた気配がした。
目を開けて、膝をついているノウェムさんを見る。
「ノウェムさん……? どしたの?」
「美奈の母君が近所のどら焼きを差し入れしにきた」
箱を見ると、私の両親が好きだった和菓子屋百合根の箱だった。
「これ、両親が好きな和菓子だったの」
「……」
それを聞いたノウェムさんは少し悲しそうな顔になった。
私に同情してくれたのだろう。
「食べるのはお供えしてからでいい?」
「構わない」
箱を受け取ると、仏壇のある部屋に行き仏壇にお供えする。
まぁ、ウチの家神棚と仏壇あるけど、一応仏教なんだよなぁ。
でも、神社も行くし。
日本の人間ってこんな感じだよね。
日本は宇宙歴三百年になった今でも、神棚と仏壇が同居している。
地球政府の一国家になっても、日本は日本のまま。
天皇制も残っているし、文化も案外変わらない。
……変わったのは、宇宙に出たことくらいだろうか。
もっとも地球政府そのものは三百年経っても相変わらずだ。
桐人が嫌がらせを続ける理由も、少しわかる気がした。
三百年前に宇宙歴が始まるまで、色々あったらしい。
桐人に聞いてみたら「今も変わらねぇからムカつくから嫌がらせしてる」と言っていた。
桐人の嫌がらせ……想像するのも恐ろしい。
桐人曰く「テトラ社にも嫌がらせしてやろうと思ってたけどモナル社の代々社長に言われて我慢してた」って。
言われた内容が「あの会社いずれこちらが潰すからそれまで待て」とのこと。
そういえば、レティシアさんもそんなこと言ってたな。
『あのくそじじ……げふん、ブルックリン社長ね。ええ、以前は敵対してたけど、改心してくれたから今は共同で色々やってるのに』
クソ爺と言いそうになってた。
やはり、まだ仲は良くないのか。
いや、そうか。
だって、モナル社も、テトラ社も宇宙歴になるまえから歴史のある会社。
最初から方針も違っていたのが今の今まで続いていたなら和解したとしても確執は根深いものだろう。
「碧?」
「あ、ううん、ちょっと色々考えてたの」
ノウェムさんに声をかけられて我に返る。
「そうか……ところで」
「はいはい、どら焼きね。緑茶が合うから緑茶と一緒に食べましょう」
そう言って緑茶を入れる準備をする。
「緑茶……」
ノウェムさんは甘い物は甘い物と合わせたいみたいだけど、どら焼きには緑茶か抹茶とか甘くないお茶がいいと思うから、今回は緑茶。
緑茶は苦いっておもってるんだろうね。
今回のお茶はそこまで苦くないよ。
急須に茶葉を入れ、お湯を注ぐ。
少し待ってから湯飲みに注ぐと、一番茶の香りが広がった。
「碧、他の連中に休憩を呼びかけたぞ」
「ありがとう、ノウェムさん」
休憩室にはみんな集まっていた。
クラレンスたちはお菓子用のキューブを食べ、それに合うらしいエネルギードリンクを飲んでいた。
「お茶、用意したから」
「百合根のどら焼きか、数ヶ月ぶりじゃの」
宗一お爺ちゃんが懐かしそうに言う。
「お母さんとお父さん、中々行けなかったし、私は自分のことで手一杯、順兄さんは引きこもり、涼兄さんは大学の論文だったからね。二人が亡くなった後は私たちはバイト、順兄さんは宗一お爺ちゃんにメンテナンスの指導だったからね」
「バイトしてたら確実に俺論文落としてたな……」
涼兄さんがそう呟いたので、私ははぁとあきれのため息をついた。
「落としてたらしばき倒すどころじゃすまなかったからね、借金返すので大変なのに、学費また払うことになるんだから」
「マジ心配かけてすまん……」
涼兄さん、大学論文書くだけでいいのに、内容が中々決まらず苦労してたからバイトなんてしてたらマジ留年ものだった。
これで発表ものだったら確実にヤバかった、ゼミの先生が「卒論は書くだけ、発表はしなくていいよ」って方針の人で良かった!
ただ何の論文を書いたのかは未だ不明。
論文を印刷したものを部屋の中に隠しているらしいが、部屋に入ってガサ入れするほど野暮ではない。
いや、するか。兄さんが馬鹿をやった時に、隠していたエロ本やエロゲーを机の上に並べる罰を与える時は。
「はい、ノウェムさん、緑茶です」
「……そんなに苦くはないな」
そう言ってどら焼きを口にした。
「‼」
もくもくとどら焼きを食べる。
あれーこれ、見覚えあるぞー⁈
どら焼きをごくんと食べ終わると次のどら焼きに手を伸ばし、食べ始めた。
兄さんたちも気付いたらしく、自分のどら焼きを慌てて食べ、緑茶で流し込み、追加のどら焼きを確保し始めた。
宗一お爺ちゃんは分かっててのんびり。
私も分かっててのんびり。
「ノウェムさん、それで五個目ですよ」
そろそろ言うべきかと思って口を開くと口の端にあんこをつけたノウェムさんがいた。
「す、すまない」
「いえいえーそれにしてもノウェムさんは粒あん派なんですか?」
粒あんのどら焼きを食べていたので、好きなのかと思って聞いてみる。
「? いや、たまたま手に取ったのがそれで……」
「あはははーなるほど」
某お菓子の対立や、某丸い焼き菓子の名称の如く、粒あんこしあん戦争も根深い。
私はお菓子によって違う。
どら焼きは粒あんもこしあんも好きだけど、某丸い焼き菓子がカスタードクリームの方が好きだし。
鯛焼きもあんこよりカスタードクリーム派だから邪道派閥かな?
「今度鯛焼きとかも食べようか?」
「たい、やき? 鯛を焼くのか?」
予想通りの返答に思わず笑ってしまう。
「あはは! 違う違う、小さな鯛の形をした型に生地を流し込んで焼く焼き菓子よ! あんことか色々あるけど、私はカスタードが好きかなぁ」
「そうか、美奈が元気になったら行こう」
ノウェムさんみっちゃんのこともちゃんと考えてくれてる、嬉しいな。
「うん、みっちゃんが元気になったら三人で巡ろうね!」
私は笑顔で頷いた。
――そう思っていたのだが。
みっちゃんが翌日に復帰し、その週の日曜日に鯛焼きや和スイーツ巡りをすることになったが──
「ウフフ、美味しいネ」
「……そうだな、レティシア」
ノウェムさんが変装したレティシアさんにそう言って、苦り切った表情を浮かべている。
「そう、ですね。レティさん」
「此処の和スイーツ、全部美味しいんですよ」
私も挙動不審になりかけるが我慢する。
みっちゃんはほのぼのと何も知らずおすすめしている。
「うん、美味しいね、レティお姉ちゃん!」
「そうネ! セス!」
にっこりと一件ほのぼのとした姉妹を演じる護衛の少女とレティシアさん。
まさかレティシアさんと護衛の女の子も参加するとは思いもしなかった──
碧がいる国は宇宙歴300年の日本でした!
まぁ、名前で日本人なのは分かってたかなと思いますが、宇宙歴300年の日本だとは思わなかったと思います。
あと、碧のデスクワークが嫌いっぷりが分かったと思います、書類の山の最終確認は碧なのですから。
ノウェムが補助してますが、多分補助してないと脳みそがキャパオーバー起こしてるレベルです。
地球政府は国家間のトラブルを自身で解決できないのでモナル社に頼みそこからパトリ社に依頼がきたりしてます。
パラシートゥス案件地球内では対処を依頼します、地球内ではね。
あと、和菓子になっても代わらぬノウェムの甘党っぷり。
緑茶も苦くなくてどら焼きと相性抜群で食べてしまったのでしょう。
次回は女子(?)会スイーツ巡りになると思います。
ノウェムを女子にカウントできないので?にしました。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。
2026/06/01加筆修正しました。




