19.キメラ強襲~怒るノウェム~
アルジャンチームメンバーたちと一緒にいった社員たちを見送り碧は戦艦に戻る。
すると、ノウェムと桐人の間の空気がひりついていて──
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
試合当日、リーネさんたちとアルジャンチームメンバーを見送り、私達は戦艦に乗り込んで待つ。
何か異常があればアラームが鳴る仕様になっている。
だから安心して待っていられる……はずなんだけど。
「き、桐人さん一体この方に何したの⁇」
困惑している咲良ちゃん。
「べっつにー、ちょっと碧が喋らなそうなこと教えただけだけどー?」
桐人兄さんとノウェムさんの間の空気がひりついている。
いや、ノウェムさんが一方的に桐人兄さんを敵視してる!
「ノウェムさん、落ち着いて。桐人さんは性格悪いし、人をからかうの大好きだし、愉快犯だし、小馬鹿にもするけど……私たちには優しいお兄ちゃんだったのよ?」
「碧、それフォローになってないなってない」
ちょっとしょんぼりした声で桐人兄さんが言う。
だって事実なんだもん仕方ないじゃない!
ノウェムさんは私の手をぎゅっと握って離さない。
「ウチの桐人がごめんなさい」
咲良ちゃんが謝罪する。
「咲良ちゃんのせいじゃないから気にしないで」
「貴方のせいではない、気にする必要は無い」
そこの分別はちゃんとついてくれた。
これで、一緒にきた咲良ちゃんのせいだとか言ったら私がノウェムさんを叱るところだった。
「さて、何もないといいんだ──」
ビー! ビー!
アラームが鳴り響く、私は戦艦の操舵室へと向かう。
モニターには無数の黒い点。
拡大すると、黒い獣のような存在がいた。
「ネブラの野郎、最新の合成獣寄越してきやがった!」
桐人が吐き捨てるように言う
「咲良、行くぞ! ノウェムと碧はどうする」
「私は出る、碧、君は待機──」
「嫌よ、私も出るわ!」
そう言う私の手を咲良ちゃんが握った。
そして首を横に振る。
「碧ちゃん、お願い。貴方は出ないで」
「咲良ちゃん?」
必死な顔で言われた、やはり見られるのが怖いのだろうか?
それなら私は──
「……お願い」
咲良ちゃんの声は震えていた。
「分かった……」
頷くしかなかった。
私は三人が出るのを見送り、扉を閉めて一人操舵室でモニターを見つめていた。
黒い点がどんどん減っていくのが分かった。
ああ、三人がやってるんだ、とぼんやり眺める。
拡大していたモニターはノウェムさんが消していったので、まだ使いこなせない私には拡大して見ることができない。
ただ、黒い点が消えるのを眺めるだけ。
黒い点は次々と消えていき、二十分もしないうちに全て消えた。
モニターが目の前に表示された。
『おう、碧。掃除はおわったから開けてくれ』
『うん、もう大丈夫だよ』
私は念の為パワードスーツを装着して入り口を開ける。
面食らった表情の二人が立っていた。
「あれ、ノウェムさんは?」
「ノウェムならキメラの調査だ、何か気になることがあったらしい。あとパワードスーツ外していいぞ」
ノウェムさんは何が気になるんだろう?
「?」
桐人の言葉に私は首を傾げつつ、パワードスーツを着脱した。
三十分後ノウェムは戻って来た。
「調査、終わった?」
「ああ、レティシアに連絡済みだ」
レティシアさんに報告するってことは何かあったってことだよね……
「レティシアさんに? 何か思うところあったの?」
「ああ、だがまだよく分からないことが多いからこれ以上は言えない」
ノウェムさんがそう言うなら仕方ないか。
いつかちゃんと分かったときに教えて貰おう。
「じゃあ、一息つく?」
「甘いもんでも食うか? 俺がなんか作るぞ」
私の提案に桐人兄さんがそう言った。
そしたらノウェムさんすごい嫌そうな顔になった。
「貴様の作った物は食わん」
もー!
ノウェムさん、なんでそんなに桐人のこと敵視してるの⁈
「じゃあ私がホットケーキを作る」
「……碧、君が?」
ちょっと驚いてるノウェムさん。
まぁ、仕方ないか、社長業になってからは料理はノウェムさん作ってたし、お菓子はみっちゃんのお母さんがくれるのと市販のだし。
「ならいいでしょう?」
「碧ちゃん、こう見えて料理上手なのよ」
咲良ちゃんホットケーキはよほどの料理下手じゃない限り失敗しないと思う。
まぁ、料理結構してたけど。
「両親がまだ生きてた頃は仕事でいないことが多かったから私と兄で飯作りをしていたし、お菓子づくりもやってたからね」
「……わかった」
私の提案にノウェムさんは納得したように頷いた。
私は戦艦の調理室へと向かう。
ホットケーキの素の粉と卵と牛乳と砂糖に蜂蜜を入れて混ぜるのが私のスタイル。
焼くときはふんわり焼けるように余計なことはしない。
ふんわりホットケーキにメープルシロップをかけたらできあがり。
「はーい、できた……ってノウェムさん桐人さんに何してんの⁈」
操舵室にホットケーキを持って戻ってくると、ノウェムさんが首を絞めていた、桐人兄さんの。
テーブルに置いてノウェムさんの手をさわり、言う。
「ノウェムさん、落ち着いて」
「私は落ち着いている」
顔は今まで見たこともないほど怒りに染まっていた。
声も怒りに染まっていた。
「落ち着いてないわ、鏡をみて、凄い怒ってる」
そう言って手鏡を見せると目を見開き、何も言えずそのまま開放した。
あんな怒った表情をするって何をいったの?
「咲良ちゃん、桐人はノウェムさんになんて言ったの」
「言えない! 言ったら私も怒られるし嫌われちゃう!」
どうやら相当ノウェムさんを怒らせるような言葉を言ったらしい。
「桐人さんの分のホットケーキは無し!」
「マジかよ!」
怒らせるようなことを言った桐人兄さんが悪い!
何かは知らないけども!
「はい、ノウェムさん、桐人さんの分も食べちゃって!」
ノウェムさんはこくりと頷き、ホットケーキをナイフとフォークで器用に食べ始める。
私と咲良ちゃんも、ホットケーキを食べる。
うん、美味いな、ホットケーキはいつでも。
そしてふと思い出す……お母さん、私が食べないからって昔刻んだパセリ入れたな、と。
嫌いな食べ物を無くすために色々やってくれやがったけど、お母さんのその行動で、私の一部の食べ物嫌いは深刻化したよ。
特にトマトとか、ブロッコリーとか、一部の卵料理とか、もう色々!
まぁ、トマトはトマトケチャップとミネストローネだと食べられるけど。
あの形状のまんまは無理だ。
もう食べられないけどね、と心の中で一人黄昏れる。
そんなことを考えながらホットケーキを食べ終わると、私は後片付けをノウェムさんと咲良ちゃんとした。
さっき聞いた事は聞かない。
咲良ちゃんも言おうとしない。
しかし、あんなに怒るなんて想像もつかなかった、桐人なにしたの、マジで。
惣十郎さんの怪我はモナル社のお抱えの病院で一週間で良くなり、ようやく帰ることになった私達。
「お世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ勉強になりました」
リーネさんと頭を下げ合う。
「良かったらまたウチに来てくれ、ウチの連中も彩花さんの事をもっと知りたがってるから」
「はい!」
ブランツさんの言葉に頭を下げて、戦艦はアルジャン社を離れ、上昇してワープ航行に入った。
「ただいま、みっちゃん!」
「お帰りなさい! 碧!」
会社につくと、みっちゃんが出迎えてくれた。
隣には見知らぬ少女。
「……セクスか? 何故ここに?」
みっちゃんが入り口でハグしてくれた。
その後ろには黒髪に青いメッシュ、青い目の少女が立っていた。
「やっほー、ノウェム。お嬢様から護衛を頼まれたの、この子の。終わったから帰るね」
「分かった」
その少女はそう言って帰って行った。
「ノウェムさんの同期?」
「……彼女の方が早い」
何が早いかは分からなかった。
「そうなんだ」
でも何か聞きづらいので聞かないことにした、ノウェムさんのことは桐人兄さんから聞いてるし。
『アイツが「人間」になれるかどうかはお前にかかっているってわけだ』
……
ノウェムさんは人間、立派な。
そう反論できなかった自分に若干嫌気がさした──
さて、ノウェムが激怒する回でしたね。
碧お手製のホットケーキで幾分か機嫌はなおってますが、多分他の人のだったらなおってなかったと思います。
何を言ったのかは次回以降に幕間で明らかになると思います。
ノウェムからは絶対いわない内容なので。
桐人は自分からヘイター買ってます、死なないのもあるので。
人に嫌われてもいい、ただ相手に真実は伝えるそういう感じです。
その結果が色々アレなんですけどね。
そして新しくてできたセクスという少女、ラテン語の数字では6を意味します、ノウェムは9。
以前の話では2を意味するドゥオが出ていますね。
つまり、他にも同じくラテン語数字の存在がいることになりますね。
彼、彼女出番があるかはどうでしょうね?
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。
2026/06/01加筆修正しました。




