18.過去の傷と分からないこと
ノウェムが戻ってくるとノウェムの様子が少しおかしく、気にする碧。
ノウェムのことがまだ分からない碧は把握しようと前向きになりつつも、咲良が何故アルジャン社と交流を持っているのか疑問を抱く──
「あ、ノウェムさん、お帰りなさい」
「……」
応接室から帰ってきたノウェムさんはどこか不安げな顔をしていた。
私が声をかけるが返事はなかった。
「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
そう言って私の手をぎゅっと握った。
まるで、眠るのが怖い子どもが握るように。
私はノウェムさんを抱きしめて、背中をとんとんと叩く。
「大丈夫ですよ、ノウェムさん。大丈夫」
「……」
ノウェムさんはこくりと頷いた。
「おお、碧でっかい子どもができたみたいだな」
「勝手に言ってよ」
桐人兄さんの冷やかしに文句をつけると、ノウェムさんは離れた。
「ノウェムさん……」
「……君は母じゃない、母になってほしくない……」
どういう意味だろう、確か人工的に作られたけど、母親的な存在は?
それよりも母になってほしくないってどゆこと。
と首をひねっていると、桐人が「何でわかんねぇんだこのにぶちん」って顔してる。
鈍くて結構!
時間をかけて把握するのみ!
「ところで、アルジャン社の方々は咲良ちゃんの事情知ってたの?」
「貰い事故でちょっとな」
ブランツさんが苦笑いをして言う。
「ネブラの飛行部隊に運悪く撃墜されたところキャッチされて……」
「飛行部隊は全部俺が破壊したぞ、無人機だったから容赦なく」
咲良ちゃん空飛べるんだ……なるほど……
其処を撃墜されたんだ……そしてその飛行部隊壊せる桐人兄さん一体何者?
それよりも……
「ああ……」
なんとも言えない同情の声が出た。
咲良ちゃん、貴方の人生にも幸あれ。
お互い前途多難だね……
そう思わずにはいられなかった。
「咲良ちゃん、お互い頑張ろう」
「──うん!」
私がそういって咲良ちゃんの手を握ると、咲良ちゃんも手を握り返して元気に頷いてくれた。
よしよし、あとは伝えたいことを伝えるだけだぞ、咲良ちゃん!
「何か俺が居ない間に昔みたいに打ち解け合ってるな」
「まぁ、話したいこともあったしね」
そういって咲良ちゃんを見ると、咲良ちゃんは頷いた。
「だろうな」
「あのね、桐人」
咲良ちゃん桐人兄さんに声をかけた。
「ん、どうした咲良」
「私、こういう服じゃなくてアミュレスみたいな服、着たい……」
その言葉に桐人兄さんは驚いて目を丸くしている。
寝耳に水、という感じだ。
「え⁈ お前甘ロリ系等の服可愛いって言ってたよな⁈」
どうやらこれは、桐人の趣味では無く、咲良ちゃんが見た雑誌の一言が原因だった。
「甘ロリも、ロリータも、ゴシックロリータも、可愛いと思ってるよ?」
咲良ちゃんは困ったように笑って言う。
「でも、私が着たいのはアミュレスみたいな落ち着いた色合い服とかレースとか刺繍とフリルとかが入った服なの」
「そっかー、そうだったのか。うん、分かった家帰ったら制作に取りかかるから時間くれ!」
咲良ちゃんの言葉に桐人兄さんは頭を下げた。
そして手を合わせて、咲良ちゃんを見る。
「あと、スカートよりもズボン多めがいい……」
自己主張控えめな咲良ちゃんがちゃんと自己主張してる!
私より少しだけ年上だったけど、なんか感慨深いわ!
「よし、分かった。でも、なんで言ってくれなかったんだ」
「わざわざ作ったんでしょう? だったら言えないわよ、咲良ちゃんなら、善意で作った物なら、悪意で作ったならともかく」
首を傾げる桐人に、私は私はあきれた様に言った。
桐人は私達には善意で行動する、私達が望むと思ってなら尚更だ。
「ああ、そっかー……ごめんよー。似合うと思って作ってたから」
ああ、だろうね。
咲良ちゃんを特に桐人は可愛がってたから、可愛い服が似合うと信じて疑わなかったんだろうね。
「しかし、これら服はどうするかなぁ」
「あ、じゃあ碧ちゃんに上げたらどう? 防弾仕様だし、破れても修復し、汚れも洗濯機で落ちるし」
悩む桐人に咲良ちゃんは提案した。
「ええ⁈」
突然の提案に私は驚愕の声を上げる。
いや、私ズボン派だぞ!
フリフリヒラヒラのお洋服なんて無理だぞ!
「美奈に渡すのもありだろう、流れ弾で怪我をした、なんてことにならないだろうし」
するとノウェムさんが助け船を出してくれた。
「でも、サイズが……」
「ああ、この服、サイズが着る人によって変わる仕様だから」
みっちゃんと咲良ちゃんじゃサイズが違うと思ったらまさかの自動サイズ変更機能付きの服だった。
かなり高い奴じゃん買ったら。
「どんだけ凄いの」
「貴様……本当に信用していいのか?」
ノウェムさん、また神経質になってる!
しかも桐人兄さんを貴様呼び!
初めて聞くけど、かなり警戒してる。
ん?
もしや……
「あのーノウェムさん?」
「何だ?」
ピリピリしているノウェムさんに私は推測をぶつける。
「もしかして、桐人さんが作った服を、私には着てほしくない?」
そう言うとノウェムさんはばつ悪そうな顔をした。
「分かった、私は着ない、美奈ちゃんに着せる」
みっちゃん、すまんな。
「じゃあどうするんだ、大事な社長さんが怪我しねぇ保証はねぇぞ」
「レティシアに頼む、アミュレスの株式もモナルは保有している」
「どんだけ保有してるんだあの社長さん」
桐人兄さんとノウェムさんの会話、桐人の言う通りだと思う。
全く、どれだけの会社に影響力があるか分からなくて恐ろしい。
「取りあえず、メンテナンス今日の分は終了」
「明日試合だから試合の後のメンテナンスだな」
リーネさんの言葉で無事終わったことにほっとする。
そうしているとブランツさんが明日の予定を教えてくれた。
「俺達、見に行きたいんだけど」
「俺も……」
「儂もじゃな」
「じゃあ三人を連れてってくれます?」
私は試合を見たがっている兄たちと宗一お爺ちゃんを連れて行ってくれるようリーネさんに頼んだ。
「碧さんはいかないのですか?」
「はは、お恥ずかしながら。彩花姉さんが死んだときの試合があまりにも焼き付いて見るのが辛いんですよ。姉さんが見たかった景色を、姉さん抜きで見るのが辛いんです」
リーネさんの言葉に、私は素直に返した、嘘をついても意味はない。
寧ろ嘘をついても直ぐバレるだろうし、なら正直に言う方がいい。
「「「「「「「「「……」」」」」」」」」
アルジャンのメンバーたちが黙り込んでしまう。
「すみません、ぶしつけなことを言って」
「いえ、そんな辛いのに見ないかと言った自分が恥ずかしいです……」
リーネさんが申し訳なさそうに謝ってる、いや貴方は悪くないんです、まだ立ち直れない私が悪いんです。
「はは、いいんですよ。私は戦艦で待機してるんで、宗一お爺ちゃん帰って来たら連絡してね」
「勿論じゃ」
宗一お爺ちゃんはにっこりと笑って頷いた。
「ノウェムさんは?」
「残る、私は君の護衛だ」
ノウェムさん、こういう時はいつも迷いなく答えるのに、最近はどこか様子が違う。
「じゃあ私も待機しますね」
「え⁈ 咲良試合見てきてくれないノ⁈」
咲良ちゃんの言葉に、バスケット用のスポーツロボットが困惑したように声を出す。
「咲良はまた万が一アルジャン社に連中が来て、そこのお嬢さんに被害が出ないようにするために残るんだ」
リーダーらしい野球用のスポーツロボットがたしなめる。
「うーん、じゃ。俺も残るわ、何かあったら連絡よろ」
桐人兄さんもそう言い出した。
「分かった」
私達は戦艦の居住スペースで休むことになった。
向こうにはそういうスペースはロボットとブランツさんとリーネさんと、行方不明──だったけど見つかってまた世界中を巡っているお父さんのための部屋しかないので。
「ここでも相部屋かー」
「……いや、だったか?」
ノウェムさんはどこか不安そうな声でたずねてきた。
「いや、相部屋なんて小学生以来だからね、少し嬉しいのよ」
「嬉しい?」
私の言葉に首を傾げるノウェムさんに私は真面目に言った。
「一人で寝るとしーんとして、物音が怖かったから」
「君も怖い物があったのだな」
ノウェムさんが笑っている。
「うわー失礼だなぁ! 私だって怖い物ありますよ! ホラー映画とか、ゴア映画とか、ホラーゲームとか、心霊現象とか! 一杯!」
「……もし人類に敵対的な宇宙人がいたらどうする?」
そんなのいたらゴメンだよ!
パラシートゥスだけで手一杯なのに!
「排除排除排除! 怖いから徹底的に消したい! 友好的な宇宙人ならいいけど、どこぞのホラー映画の宇宙人とかはごめんよ!」
心からの叫び。
昔、順兄さんに無理やりホラー映画を見せられて以来苦手だ。
で、それ以来ホラーからは逃亡している。
ゴアとかグロとかもだめ、痛そうなのも無理!
現実の私はその領域に足を踏み入れているんだよね。
あ゛ーもー!
テロリスト滅びろ!
パラシートゥスも滅びろ!
怖いのは嫌!
色々と思い出して毛布を被って目をつぶる。
「碧……碧? 寝たのか?」
寝てませーん、ふて寝しようとしてる最中です!
そう思っていると、手の甲に唇をそっと口づけする感触が伝わった。
「お休み……」
と、言われましても、モヤモヤし始めて何か寝付けないー!
寝付けたのは一時間経ってからだった、ノウェムさん、私は貴方がまだ分からないよ。
ノウェムの行動と言葉の意味に全く気付いてない碧。
なので最期の行動で悶々として寝付けなかったのです、あれはどういう意味?
そんな感じで。
桐人は何か全部把握してるから呆れてます色々とノウェムにも碧にも。
ただ桐人も、咲良が可愛いといっただけで可愛い服にしちゃうんですから。
親馬鹿っぽいですね。実際は妹のように思っていますが。
それと、碧がまだ彩花の死から立ち直れていないのもここでは試合が見れないことで表現しています。
彩花がみたかったものを見るのが辛い、そういう気持ちです。
碧は実際彩花が亡くなった後の試合を見たのですが、それを彩花が見られなかったという事実があるので、今はもう試合は見られず、試合がテレビとかに放映されたりするとすぐに違うチャンネルにしています。
兄達やメフィストたちロボット、宗一たちは理解しています。
桐人も勿論、ノウェムは初めて知ったという感じです。
あと、最期にノウェムが聞いたのは碧をもっと知りたかったからです。
だから普段と違う感じの彼女を見て新鮮で嬉しくおもっているのです。
手の甲へのキスの意味はともかくそういうことをノウェムがするということは好意をもってるということかもしれませんね。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。
2026/06/01加筆修正。




