15.賭け~碧はノウェムを知る~
賭けの内容などを碧は問われるが、知らないと答えた彼女に達の前に、賭けの相手は自分だと答えた人物があらわれ──
「聞きたいんだが、誰と賭けをしたか分かるか?」
アルジャン社の応接室で野球用のスポーツロボットの人が私に問いかけてきた。
「分かりません……最期まで教えてくれませんでしたから」
私は首を振った、これは最後まで彩花姉さんも教えてくれなかったから。
「その賭けなら俺だ」
静かな声が応接室に響いた。
聞き慣れた声に振り向くと、扉の向こうに黒服の男性と、可愛い服を着た女性──いや、私はこの二人を知っている。
「……咲良ちゃんに、桐人……さん⁈」
「よぉ、碧。社長就任遅くなったけどおめでとう」
そう言って桐人さんが花束を渡そうとするのを、ノウェムが遮った。
「おやまぁ、レティシアの所の奴が護衛か」
「‼」
ノウェムさんの警戒の度合いが上がる。
「だ、大丈夫よ。ノウェムさん! この人たち、私の知り合いだから‼」
「しかし……‼」
ノウェムさんは明らかに警戒している。
桐人兄さんにそんな心配する必要はないもの。
でも、賭けの相手が桐人兄さんってどういうこと⁈
「あ、ありがとう、桐人さん」
私は戸惑いながら花束を受け取る。
「優秀すぎる番犬がいるのも大変だな」
桐人兄さんの失礼な言葉に私は、むすっとして言い返す。
「ノウェムさんは優秀な護衛兼私の社員です」
「そうか、それは失礼な言い方だったな」
私がそう発言すると桐人兄さんは謝罪じみた言葉を言っているが反省してない。
長年の付き合いだからよく分かってる。
「碧、此奴は」
「桐生桐人……さん。私達と咲良ちゃんの知り合いでその……」
兄さんって呼ぶと混乱するだろうからさん付けで呼んでるけど慣れないなぁ。
なんとなくだけどノウェムさんが今桐人兄さんのこと桐人兄さんって呼んだら嫌がりそうだし。
「彩花の主治医だよ」
そう、彩花姉さんの主治医だった、でも彩花姉さんがいなくなってから何かをしていた。
何をしていたのだろう?
そう思っていると、黒いアイスホッケー用のスポーツロボットの方が桐人につかみかかる。
「言え! どんな賭けをした‼」
「部外者には教えられないなぁ」
桐人さんは飄々とした態度で、動じてない。
次の瞬間だった。
桐人は相手の腕を掴むと、
軽く体を捻った。
それだけで数百キロあるスポーツロボットが宙を舞った。
「うぇええ⁈」
投げ飛ばすなんて不可能だぞ、普通!
何アレ⁈
何アレ⁈⁈
「咲良、何か聞いてないか」
「ごめん、私も聞いていないの。今知ったから……」
サッカー型のスポーツロボットの方が咲良ちゃんに尋ねるが咲良ちゃんは首を振った。
そりゃそうだろう、もし賭けについて知ってたら全員が止めているから。
「桐人……なんで今まで俺等に黙っていた、いや全員に黙っていた! だましていたのか⁈」
「バーカ、だます気はねーよ。彩花ちゃんと俺との賭けは俺の負けだったとだけ言える、その結果俺はここにいる」
私は思考する。
彩花姉さんの主治医になったのは元々私のお母さんたちと桐人が知り合いだった流れ。
桐人さんはどんな病気も手術もしてくれた、それで助かった親戚も多い。
そんな桐人さんと彩花姉さんがする賭け……
「……内容は分からないけど賭けの勝ち負けならちょっと想像できる……『自分が勝ったら世界中の同じ病気の人を治す特効薬を出して、自分がいなくなった後のことを頼む。自分が負けたら、大人しく桐人さんの病院で一人だけ助かる卑怯者になる』……合ってる?」
「おおーいい線いってる、大分近いねぇ! さすが彩花が目をかけていただけある!」
この時ばかりはムカついたので、私は──
「何が大分近いだこの馬鹿ー!」
「ぐぇ⁈」
ラリアットで思いっきり吹っ飛ばしてしまった、桐人兄さんを。
「彩花姉さんがどんな思いでそんな賭けを──」
「だって俺人間もロボットもほとんどの存在嫌いだから」
直ぐさま起き上がった桐人兄さんの発言に私は、私たちは目を丸くする。
「最初はアルジャンにどうやって関わろうかなーと思ったら、咲良が追いかけられてアルジャンの連中に助けて貰ったからそこから付き合うことに成功、問題はパトリだ。俺は公にでるのが大嫌いだ」
「でしょうね!」
SNSで自分の写真撮った女子のアカウント即効で見つけてハッキングしてアカウント消去しただけはあるわ!
「萌木夫妻と、碧ちゃんたちこどもたち。それから咲良と彩花は好ましいから面倒を見ていた。レティシアも同様だ」
「え⁈」
まさかレティシアさんの名前が桐人から出るとは思わなかった。
「お前は何者だ、レティシアとどういう関係だ」
「んービジネスパートナー?」
警戒するノウェムの言葉に、桐人さんはそう返す。
ノウェムさんの警戒度はMAXだ。
これだと不味い。
私はノウェムさんを抱きしめた。
「……碧?」
「大丈夫、大丈夫なのノウェムさん。桐人さんは昔から敵を作るような発言ばかりして、好いた相手にだけは優しいの、本当よ。それにビジネスパートナーと言ってるけどレティシアさんがただのビジネスパートナーなだけないわ」
桐人兄さんは敵は滅ぼすが、味方は徹底的に守る、大切だと思った相手には優しい。
だからビジネスパートナーと行ってるだけなのはわかる、私はそう思いながらノウェムさんの手を握った。
「……」
ノウェムさんはようやく落ち着いてくれた。
「分かった……」
そして一言呟いた。
自分に言い聞かせるように。
「レティシアの父親も罪深いねぇ、あんなのを作るとは」
その様子を見た桐人兄さんがぼそりと呟いた声が私の耳には届いた。
いや、私に届くように言ったんだろう。
桐人兄さんは笑っている。
「ちょっとアルジャン社さんの別の応接室貸してください、桐人さんと話したいんです」
「ああ、構わないよ」
応接室二個あってくれて良かったー。
じゃなきゃみんな追い出してたからね。
「碧、私も──」
「ノウェムは此処でメンテナンスを。桐人さん、こう見えて強いし、私も直ぐ着用できるようにパワードスーツのコアつけてるから」
そう言って無骨な白く光るブローチを見せた、瞬時にパワードスーツに装着できるブローチを。
それでノウェムさんは渋々下がっていった。
応接室で二人きりになる。
桐人兄さんは愉快そうに私を見ている。
「ねぇ、桐人兄さん。作ったってどういうこと?」
「そうか知らないのか。未だに何処の会社も人工の兵器を作ってるぜ、モナル社はレティシアの代で止めてるが」
人工の兵器?
桐人兄さんの話がよく分からない。
「ノウェムさんは一体……」
「『正式名称:新型人工生体兵器№9』それがアイツの正式名称だ。9番目だからノウェム」
桐人兄さんは淡々と述べた、私はそれを受け止めきれずにいる。
「新型人工生命体……?」
言葉の意味がうまく理解できなかった。
ノウェムさんは人だ。
そう思っていたから。
頭が真っ白になる。
「つっても人と姿はかわらねぇよ、まぁ生殖機能はアレだが」
だから以前、自分は男でも女でもないと言っていたのか。
「なら、なんなの?」
「ノウェムはモナル社とレティシアを守るために作られた兵器で、かなりの数のロボットや人間を『殺害』してるって話」
ニヤニヤと笑って言う桐人兄さん。
ああもう、こう言う時は本当に性格が悪い!
「だから……」
私は拳を握った。
「だから、どうしたの⁈」
「だから、アイツは人間としての感情が欠落してる──いや、欠落してたって話。少なくとも俺が知ってる頃のアイツはな」
イラ立って尋ねると、桐人兄さんはそう答えた。
「え」
驚きのあまり短い声がこぼれた。
頭が真っ白になった。
今まで見てきたノウェムさんの姿が脳裏をよぎる。
スイーツを頬張っていた顔。
サウナでのんびりしていた姿。
私を守ろうとしてくれた背中。
「任務をこなすための道具、それがアイツの役割だった──けど」
桐人兄さんが私を指さす。
「碧。お前はアイツを変化させている、アイツが『人間』、『人』になれるかどうかはお前にかかっているってわけだ」
またムカついた。
「ノウェムさんは出自がなんであろうと、立派な『人』です! 侮辱もいい加減にしてよ! 桐人兄さん!」
「おお、怖い。さすが萌木夫妻の娘さんだ、怒らせると怖いのはどっちも変わらねぇなぁ」
その言葉に我慢の限界だった。
バチーン‼
ムカついたので黄金の右手でビンタしてやったら、めっちゃ痛がってた。
ざまぁみろ!
少しは人の痛みを思い知れ!
この愉快犯め!
そう思いながら応接室を出て行った。
彩花の賭けの内容に関する一部が分かりましたね。
またノウェムのことを聞いた碧。
桐人は知っていた理由は薄々分かるかな、と思いました。
愉快犯的な桐人に怒り心頭でビンタをかましましたね、あれはかなり痛いんです。
俗に言う黄金の右、という奴ですかね。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。
2026/05/31加筆修正しました。




