13.ノウェムの変化と次の仕事~ロボットスポーツについて~
ノウェムの件が公から消されて安堵する梢。
そんな梢にレティシアが尋ねてきて──
「あー本当だ、SNSにのせられた奴とか、記事になった奴、全部消えてる」
社長室で休憩中に、ネットの情報を調査して「ノウェムさんの甘味大食い事件」が何処を探しても見つからないのが分かった。
「んー……」
でも、アンダーグラウンドなネットの所から消えているかと聞かれたら調べ方が分からない私にはどうしようもない。
ネットをいったん終了し、書類とにらめっこを開始する。
内容を見て、サインをする。
ただ難しすぎる内容はノウェムさんに翻訳してもらってやっている。
私は地頭が良くはない。
デスクワークはみっちゃんがしっかりとやってくれてるから安心。
兄さんたちは……順兄さんはともかく涼兄さんはありゃまだ使い物になるには時間がかかりそうだ、メカニックは幾らいてもいいからね。
宗一お爺ちゃん、任せたよ。
分からない書類以外なんとかできた私が一息つくと、ノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
そう、返事をすると扉が開いた。
「碧さん、お邪魔します」
「レティシアさん!」
レティシアさんとロゼッタさんがやって来た。
いつもながらピシッとしたレディースのスーツ……多分ブランド物だろうけど決まってて格好いいなぁ。
スタイル抜群だし二人とも。
私は二人と違ってスーツ姿も様にならない。
スカートも苦手だし、スタイルだって自信はない。
「ごめんなさいね、ノウェムが」
「いやぁ、あそこまで甘味をドカ食いするとは思いませんでした……まぁ本人もあのドカ食いで満足したらしく『一、二ヶ月はスイーツ巡りしなくても良さそうだ』とか言ってましたよ、そういう問題じゃないんだけどなぁ」
本当そういう問題じゃない。
糖尿病にならないから食うとかそういう問題でもない。
行動が人目につくのが問題なの!
「ふふ、ノウェムはそういうものに弱いのよ、禁欲的な生活をしてきたから」
「ああーその反動」
そういえば不味い固形食が主食だったってレティシアさんから聞いたな。
そりゃ美味しいものを食べたくもなるか。
……でも、甘味限定なのは何故?
「何で甘味限定?」
「甘い物の毒味を失敗したから甘い物だけは食べさせてあげられなかったの」
なるほど、そういうことか。
「それに護衛という任務で常に気を張っていたのもあるかしら」
「なるほど……」
ノウェムさんらしいなぁ。
「ところで、ノウェムさんのあの件、ネットのアングラ界隈でも流れませんでした?」
「そちらも対策済みよ、まぁ、面倒くさい馬鹿に見られて大変だったわ……」
何なんだ、一体?
「面倒くさい馬鹿?」
思わず聞き返してしまう。
「お嬢さんが、パトリの社長さん?」
「わ、あ、はい‼」
レティシアさんの後ろから黒髪の短髪に銀のメッシュを入れて、金色の目に、褐色肌の男性が立っていた。
ホストみたいな格好だ。
偏見かもしれないけれど、ちょっと苦手。
ホストの人には悪いけど!
レティシアさん、頭痛そうな表情浮かべてる。
さっき言った面倒くさい馬鹿ってこの人の事?
「いやぁ、あのノウェムが甘味中毒とは恐れ入ったぜ、ハハハハ!」
馬鹿にする笑い方。
あんまり好きじゃない。
どうたしなめてやろうかと考えると──
「甘味中毒で結構、それに私はお前と違って自制してる」
「SNSに載るほど食っててな~~に言ってんだぁお前!」
ノウェムさん、凄い嫌そうな顔してる、苦手というか犬猿の仲というか嫌いなのかな?
まぁ、男性の言うことは一理あるけど、男性も何か抱えてそう。
「聞いたぞ、セクスから。またお前女がらみでトラブルを起こして刺されたんだって、三桁はとっくにこえてるぞ。碧、その馬鹿から離れろ、女を見たら口説かずには入れん馬鹿だ」
そう言ってノウェムさんは少し不機嫌そうに私を後ろに隠した。
あ、なるほどそういうタイプね把握した自分からは近寄らないようにしよう。
「セクスの奴! ノウェムに一々オレの失敗談報告しやがって」
「ドゥオ、貴方は此処で待機を、私は碧さんとノウェムとお話をするので」
男性──ドゥオと呼ばれた人はレティシアさんの言葉に慌てふためいた。
「ちょ、待ってくださいよ社長! オレ護衛ですよ⁈」
「話の腰をおりそうだから、周囲の警戒に当たって頂戴以上」
レティシアさんが静かに言う。
「……了解」
声がすっと冷たくなったのように聞こえた。
先ほどまで明るかったのに、それが嘘のよう。
最初に会った時のノウェムさんよりももっと冷たい──
「二億の入金確かに確認しましたわ」
「これで後、189億五千万円……うーわー! 先が思いやられるー‼」
まだ189億以上残ってる!!
先が思いやられて頭が痛いよ本当……とほほ。
「大丈夫ですよ、パラシートゥスに対して貴方達は冷静に判断できることが分かりました。なので今後、あまり嬉しくないでしょうがパラシートゥスの案件も手伝っていただきます」
「パラシートゥスってつまり、高額案件」
私は身を乗り出して尋ねてしまった。
失礼だったかな、どうしよう?
「貴方達がより私の案件に無事帰って来られたら、高額案件を持ってくるわ」
「はいはい! 分かりました!」
無事に帰ればいいんですね!
よし、それなら速攻撃破鎮圧して無事帰還すればいいだけじゃない!
「分かって無いだろう」
「あうち」
パコンと丸められたノートで後頭部をノウェムさんに叩かれる。
「ノウェムったら、いつの間にそんな仕草覚えたの?」
レティシアさんがクスクス笑っている。
なんだろう、おかしくて笑っているんじゃなくて嬉しくて笑っているように見える。
「これはその、碧がよく、自分の兄たちを叩く時にやっているから……つい、その」
ノウェムさんは少し肩を震わせた。
叱られると思ったのだろうか。
自分の変化を指摘される事への恐れが。
「ノウェム、私は怒っているんじゃないの。貴方の変化が嬉しいの」
「しかし、ご当主様は……」
まるで変化を指摘され、それを認可されないことを恐れているような言い方だ。
ご当主ってことはもしかしてレティシアさんのお父さん?
なんで、その人が怒るの?
「今の当主は私よ、お父様は半分隠居済み。貴方が変化したことに文句を言うものなら娘の私が許さないわ」
「レティシア……お嬢、様」
ここで初めてレティシアさんのことをお嬢様と呼ぶノウェムさんを見た。
何か胸がざわざわする。
「レティシアでいいの。だって今貴方が守るべきなのは私じゃなくて碧さんなんですもの」
レティシアさんはそういっているけれど、今の空間が二人の世界みたいな感じで、何か若干居心地が悪い。
「さて、私とノウェムの件は今は置いておくわ。碧さんは借金返済を心がけているのよね?」
「は、はい」
借金返済の話を聞いて私は頷く。
「人材派遣でもお金を稼ぐ方法はあるわ、宗一さんに聞いたけど、順さんは一応一人前のメカニックには成長したそうね、涼さんはもう少しらしいけど」
「でもよくもまぁ、二ヶ月でたたき込んだなと思いましたよ……」
涼兄さん、全然メカニックの手伝いロクにしてこなかったからな。
部活とかで。
「でも、順さんは元々整備の手伝いをしていたという事実があるからできたのだと思うわ。涼さんももう少し頑張れば一人前でしょう?」
「はぁ」
なんとも言えず、生返事で返してしまう。
「今回の依頼はアルジャン社のロボット達の整備。ただ一人の整備士さんが体を壊してしまってね、休養が必要だから、その間アルジャン社と行動を共にしてほしいの」
「了解です」
私は頷く、どれ位お金入るかな?
「支払いは、税込みで一億」
「それだけで一億⁈」
私は驚いたが、続けて言う言葉に納得してしまった。
「忘れてない、アルジャン社は──」
「ロボットスポーツの会社だって」
ロボットスポーツ、かつてはラフプレーが横行し、ロボットが次々と破壊されていった。
破壊されないロボットも、負け続けると突如姿を消す、公には引退をさせられる。
そんなロボットスポーツの中で、正々堂々のスポーツマンシップにのっとって活動していたのがアルジャン社だ。
まぁ、数年前までは最下位だったが、今ではトップ3に確実に入る常勝チームになっている。
今もラフプレーをしようとする会社はあるが、ロボットスポーツの本山とも言えるテトラ社が「ロボットスポーツのラフプレーを原則禁止する」との声明を出したのだ。
ちなみに、このテトラ社、モナル社と仲が悪いことでめっちゃ有名だった。
テトラ社のスポーツ部門の子会社ノワール社のロボットたちも今はスポーツマンシップにのっとってやっている。
何がきっかけでテトラ社の社長の思考に変化があったのか、内容を覚えている。
『あんなスポーツマンシップの「精神」で競い合うロボットスポーツが素晴らしいなんて思いもしなかった! 儂は馬鹿だった、正々堂々と戦う試合ほど素晴らしいものはない‼』
だった気がする。
ノワール社は、武器製造も行っていたが、そちらの規模を縮小して正々堂々とやるロボットスポーツの普及にアルジャン社と共に務めていると聞いた。
「ん? ノワール社と一緒に活動しているはずならノワール社からメカニックをを呼べばいいのでば? 派遣をお願いしますって」
「あら、忘れちゃったかしら、アルジャンの現在のメインメンバーは」
「全員別のスポーツ分野のロボットだってこと」
あの日最初で最後に見たロボットスポーツの試合をテレビで見た光景が鮮明に思い出される。
野球、サッカー、アメフトetc……色々な選手がメインメンバーにいたのを。
「でもメインメンバーは解散して別々のチームとかに……あ」
「そう、とある悲しい事が起きた結果、あの子達はアルジャンに再び集うことにしたの」
「もういない、とある女性を弔うために──」
レティシアさんの言っている女性が誰かはこの時は分からなかった。
けど、後に知ることになる。
それがもうこの世にはいない、私の大切な人だったことを──
色んなロボットがいるという証拠です。
ちなみにクラレンスはスポーツロボットのフェンシング用ロボットでした。
なので今の武器はフェンシング風に見える電撃付きエペです。
フルーレではありません(こちらはスポーツ用、エペは実戦用らしいです)
今度は誰かの死の匂いがする終わり方になりましたね。
メインのメンバーがそれぞれ別の道を歩みだしたのに、どうして戻ったのか、ある女性とは。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。
2026/05/30加筆修正しました。




