12.甘党ノウェムとレティシアの過去
碧はノウェムとスイーツ巡りをすることをレティシアに言うと、レティシアからは軽い調子で重い内容の言葉が返ってきた──
シュークリームをノウェムさんが大半食べ尽くした後。
私は社長室で仕事をしながら、向かいに座るノウェムさんを見た。
「それにしてもノウェムさんがあんなに甘い物とかに目がなかったなんてびっくりしました~~」
ニコニコ笑ってノウェムさんに言うと、ノウェムさんはばつが悪そうな顔でこちらを見た。
「そ、それは……」
「ノウェムさん、レティシアさんの護衛なんでしょう? 美味しいものは口にしてきた?」
意地悪に言うと意外な答えが返ってきた。
「手料理を口にしたのは一度だけなんだ」
「え⁇」
一度だけ?
護衛なら毒味もしていたはずなのに。
毒味役としての仕事ができなかったの?
それとも、何かあったんだろうか
「先代にレティシアの相手の料理の毒味を頼まれた時デザートだけ食べ尽くしてもう一度作り直す羽目になったから……」
「あはは、レティシアさんはそれを知ってるの?」
笑い事ではないが、笑ってしまった。
この時から甘味好きが出ていたのは驚いた、でもそれ以降はどうしてたんだろう。
レティシアさんは知ってたのかな?
「ああ、毒味役が変わったからな。それからは固形食だけだったから……」
「そっか、それじゃあ」
固形食、きっと美味しくないアレなんだろうな……
そう思った私は、書類仕事を終えてにっこりと笑ってノウェムさんを見る。
「明日、スイーツ巡りをしましょう?」
「すいーつ、めぐり」
ノウェムさんの喉がごくりとなった。
『あらあら、ノウェムったら。ごめんなさいね』
夜、ベッドに寝そべりながらレティシアさんと会話をしていた。
「それよりも、それ以降料理を与えないのはちょっと酷くないですか? 固形食って不味いアレでしょう? 多分」
『そう、あの不味いやつよ』
「酷いですよー」
レティシアさんとノウェムさんへの対応の悪さを愚痴り合う。
『ええ、お父様にも直訴したんだけど「お前の命を守ることが最優先だ、お前だけが跡継ぎなのだから」とね』
「へ?」
何かとんでもないことを聞いたような。
『嫡出否認って知ってる? 今は子どもが成人しても出せるようになった奴』
「ま、まさか」
他のご兄妹とかは皆浮気相手の子ども⁈
『お父様と元お母様の子どもは私だけ、他の兄姉はみんな他の男の子ども。当然お父様は成人してから離婚とその事実を突きつけ、慰謝料と兄姉たちにかかった養育費の返還を母だった人に求めたわ』
うわー泥沼ですやん。
「つ、つまり、お父様は着々とこの時のための準備をしていたと?」
『ええ……我ながら末恐ろしいお父様でしたわ、出生時に全員のDNA検査をしたのを隠し、私たちが成人したときに「丁度いい時期だ、全員のDNA検査をさせて貰った」と言った瞬間母の顔が真っ青になり、兄姉たちは明らかに動揺していましたわ。まるで、何かを知られては困るように。』
母親はともかく、なんでご兄姉は焦ったんだろう?
「あ、あのーそれでもしかして」
『私以外の兄姉には遺産は一切継がせないと宣言したのです、自分の血が入ってないからと』
うわぁ、これ流れ弾でレティシアさんもヤバい目に遭うよ。
『そして続けて父は「血を引かぬ者たちよ、お前たちには一ヶ月の猶予をやる、その間にお前達の持ち物全て持って家から出て行け、私はお前たちを目にするのは苦痛になるほど、屈辱を味わった」と言われたから、全員母をなじるだけなじって急いで家を出て行ったわ、まぁ私からすればあの人たちも母を侮辱する権利はなかったと思うけど』
どういう意味だろ、と思いつつどうなったか気になったので問いかける。
「……で、元お母様は?」
『知らないの、多分死ぬよりも悍ましいことになったと思うわ、だって慰謝料と養育費込みで億で4桁を軽くこしちゃったんだもの、まともなところは貸してくれないわ』
私の借金よりも多い、でもそっちは自業自得か。
私のは親が死ななきゃ違ってたけどなぁ……多分。
「うわぁ……」
『「軽い男遊びまでなら許した、だが別の男の子を私の子として育てさせようとするお前の態度は苦痛は耐えがたいものだった、それも今日でおわりだ」とお父様が呟いてたのを聞いて「情はあるのね」と思ったの』
「……」
情があるから猶予を与えてたんじゃないかなぁ。
すみません、浮気をして子ども達のほとんどが違う人の子です!
……とか言っていたらまだここまでなってなかった……かな?
『私はお父様はどうしてたら許してたと言ったら「自分の罪を告白し、お前以外の子どもが別の男たちの子だという事を自白していたら私は許した、慰謝料も、いらぬ。家へ二度と帰るなとだけ。そして子等にも多少の財産を与えるつもりだったが、最後まで懺悔の言葉は無かったから私は罰することにした」と』
ん?
なんかちょっとだけ引っかかるぞ。
「あの、ちょっと聞きたいんですけど、もしかしてご兄姉さんたち、知ってた?」
『……ええ、母から聞かされていたのよ、お父様を馬鹿にするような言葉とともに「貴方たちの父親はもっと美形、あの男は金づるよ」ってね』
えぐい。
えぐいよこれ、ドロドロしすぎて昼ドラにしたらヤバいレベルだ。
「あの、レティシアさんとお母様の関係は?」
『予想できると思うけど、母は私に無関心だったわ、だって金目当てで結婚した父との子ですもの、だからお父様は私を影で甘やかしてくれたわ、ヒラヒラのドレスも、大きなティディベアに、どれも今も私の宝物だわ』
よし、父親との関係は良好、これは良い。
「そのーお父様は今何を?」
『まだ私が心配だから取締役をやっているわ、最近「お前が目をかけているパトリとやらに同行させてはもらえんか」とか言ってるのを拒否するの大変なのよ』
お父様、今も現役ですか、そうですか。
なら勘弁して欲しいください。
「ははは……頑張ってください、マジで、いや本当に!」
そんな人に来られたら私達が卒倒する!
みっちゃんと順兄さんが倒れる!
阻止せねば……!
『ふふ、私の昔語りに付き合わせてごめんなさいね』
「あの、ご兄姉は?」
『……半年後に全員消息不明、その後全員遺体で見つかる』
「ひぇ……」
思わず背筋が冷えた。
『これはお父様のしたことではないわ、モナル社もとい、キーア家に恨みがあるものたちがやったとお父様は言ったわ、実際犯人はみんな捕まったって、護衛がいなくなったからキーア家のせいで裏でやってたことがバレて路頭に迷った連中の犯行だった』
「うわぁ……そんななのに、レティシアさん。ノウェムさんお借りしていいんですか?」
そうだよ、そんな危険な立場にいるのにノウェムさん借りていいんですか⁈
護衛やってたんでしょう⁈
『大丈夫よ、他にも護衛はいるし、ロゼッタもいるわ』
「アッハイ」
通話越しに聞こえる有無を言わさぬ圧に、私はそう返事しかできなかった。
やっぱりレティシアさん、いい人なんだけど怖いところもある社長さんだ……
『ふふ、じゃあノウェムをお願いね。あの子さっきから私にメールで「すいーつめぐりにマナーはあるのか」とか必死に聞きにきてるから』
「あはは、ノウェムさんらしい」
マナーっていったら食べ残さない位だもの、それさえ守ってくれれば大丈夫なのに。
真面目だなぁ、ノウェムさんは。
『じゃあ、お休みなさい』
「はい、お休みなさい」
そう言って通信を切ると、私はベッド横にあるサイドテーブルに置いた。
「もう、寝るのか?」
自室にノウェムさんが戻って来た、私とレティシアさんの会話を聞かないように自室の外に待機していた様子だ。
「うん、お休みなさいー」
「……お休み」
ノウェムさんが戻って来たので私は安心してベッドで丸くなった。
「よぉし、天気よし、温度よし、絶好のスイーツ巡り!」
「久々だね」
「……よくやっているのか?」
ノウェムさんが首を傾げる。
「学生時代たまにねー」
私は笑顔でノウェムさんに教える。
「「それじゃあしゅっぱーつ!」」
「……しゅっぱーつ」
ワクワクしているのか、ノウェムさんが呟いた。
それが楽しかった。
「あら、いらっしゃい! 美奈ちゃんに、碧ちゃん……とそちらの方は?」
「ああ、ウチの社員のノウェムさんです、スイーツ好きなのが発覚したのでスイーツ巡りに来たんです」
洋菓子店ミモザに来た私達はどれにしようかケーキを見定める。
おぜぜはたくさんあるが、腹は一つ、よく選ばねば。
ミモザはイートインスペースもあるからパフェも美味しいし。
「よし、私はプレミアム苺パフェと、プレミアムショートケーキと紅茶、セットで!」
「お母さん、私は抹茶パフェと抹茶プリンで」
私とみっちゃんは決めたので注文する。
「ええ、分かったわ。プレミアム苺パフェと抹茶パフェ一個ずつ! 紅茶は二つ!」
みっちゃんのお母さんは注文を伝えて、
ノウェムさんはじっとまだ見つめている。
こんな色とりどりなケーキとは無縁な生活をしていたのかと思うと少し悲しくなった。
「店員」
「はい」
お、決まったかな?
「ここにある甘味を全部一個ずつ、それと特大季節限定のフルーツパフェを一つ、紅茶を」
はい?
ケースの洋菓子全部に特大のフルーツパフェ?
ノウェムさん貴方正気?
「え、えっと、ケーキが先ですか? パフェが……」
「パフェを先に」
美奈ちゃんのお母さんの笑顔が引きつっている、大丈夫か?
食い切れるのか。
──そう思ってた時期が私にもありました──
「美味かった、だがまだ食べたい」
「「……」」
山のようにそびえる特大の季節限定のフルーツパフェを食べ。
沢山あったケーキやシュークリームやエクレアなんか食べたのに。
まだ食べ足りないと⁈
私とみっちゃんは顔を見合わせる。
「……碧これ」
「みっちゃん、間違いなく」
頷きあってお互いの所持金と、行く予定のお店のリストを再確認し。
「「ハードスケジュールになる!」」
短期間でこんなに甘い物を摂取しているのに平気そうに紅茶まで飲んでいる。
甘い紅茶を。
「ノウェムさん、短時間でそんなに甘い物食べ過ぎてると糖尿病なっちゃうよ!」
「私はそう言った病にはならないように調整されてるし、毒にも高い耐性をもってるし感知する能力もある、気にしなくて大丈夫だ」
糖尿病ならない⁈
どういう体してるんですか、ノウェムさん!
「さて、次に行こう」
心なしかうきうきしながら会計をブラックカードで済ませたノウェムさんに私は戦々恐々した。
この人、多分他の店でも同じ事やる、そんな予感がした──
ノウェムが「うきうき」しながら寝るまでの周囲の異変調査をしている間に、レティシアと碧は会話しています。
ノウェムが「うきうき」しているのを共有したらまさかの重い家庭事情がレティシアから帰って来るとは碧も想像してませんでした。
金持ち故のドロドロな中身を聞いてグロッキーになりかけましたが、それをノウェムに見せてはならないと割と明るく振る舞ってます。
普通のノウェムなら異変に気付きますが、スイーツ巡りで頭がいっぱいのノウェムはそこまで気がつきませんでした。
何せ初めてのご褒美というべきものを与えられるのですから。
そして実際、ノウェムの食べっぷりを見た碧と美奈はとんでもない事態になると予測しています。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。
2026/05/30加筆修正しました。




