【幕間】桐人、投げ出す~たまには休もう?~
桐人は地下室で発狂寸前だった。
レティシアからの仕事の量にうんざりしていたのだった。
そんな桐人をみて咲良は言う「じゃあ、今日は休んじゃおう」と──
「だぁー! やってられっか!」
桐人は地下室で騒いでいた。
「碧の様子を見に行って、薬を調合するだけならまだいい! それ以外は仕事、仕事、仕事……やってられっか!」
「き、桐人落ち着いて! 碧ちゃんのお父さんたちのデータは」
咲良が何とか宥める。
「それにあのデータ、かなり複雑に暗号化してるから、一般人なら匙を投げるところだ。俺の端末で解析させてるから、それを待てばいい。問題はあの副社長だ。自死されたらたまらん」
「そう言い切れるの?」
「今までの連中はみんな自死してきた。副社長がそうならないとも限らないし、副社長を見張ってる奴が殺しに来るかもしれねぇからな」
桐人はそこまで言ってまた騒ぎ出す。
「それにしてもレティシアは俺に仕事回しすぎなんだよ! なんだこの量は‼」
桐人はノートパソコンにぎっちり詰まったデータを見る。
「新企画の見直しに、新しい企画の立ち上げの件に……俺は何でも屋じゃねーぞ!」
髪をかきむしる桐人を見て、咲良は何かを思いついたように彼の腕を掴んだ。
「じゃあ、今日は休んじゃおう?」
「休むって言って、俺にお前の好きなぬいぐるみを取らせたいだけかよ」
「いいじゃない」
咲良は桐人の手を引いて、商業施設RINRINに入る。
「欲しいなら碧に頼めばいいだろ?」
「たまには桐人も違うことをしたらいいでしょ?」
咲良が言うと、桐人は呆れた顔をした。
「クレーンゲームなんか、もう数え切れないくらいやったぜ」
「どっちの意味で?」
「両方。お、いぬが残ってるぞ!」
「取って!」
咲良は笑顔で言った。
桐人は息を吐き、笑みを浮かべると、小銭を取り出して指先で弾き上げた。
くるりと回った小銭を、同じ手で受け止める。
「いっちょ、やってやろうか」
「むふー」
満足げにのんびりいぬを抱っこする咲良。
「少し上のファミレスで休憩すっか」
「うん!」
咲良は満面の笑みで頷き、桐人は彼女の手を引いてエレベーターに乗り込んだ。
ファミレスに入ると、見覚えのある顔が集まっていた。
「おう、碧にノウェム、それに涼。元気そうだな」
「……」
「あ、桐人兄さん」
「ちっす、桐人さん」
桐人が声をかけると、ノウェムは完全に無視。
碧と涼はいつもどおりの反応だった。
事情を聞かれたので、咲良がのんびりいぬを欲しがったため、二人で取りに来たと伝えた。
「……欲しくて」
咲良はぎゅっとぬいぐるみを抱きしめていた。
「参ったなぁ。言ってくれれば送ったのに」
咲良は、今回は桐人自身に取ってほしかったのだ。
ただぬいぐるみが欲しかっただけではない。
桐人と一緒に出かけ、自分のためにぬいぐるみを取ってもらいたかったのだろう。
「俺はいいのかと、思ったがな」
「いいじゃない、気分転換なるでしょう?」
「まぁ、確かにな。ここ最近のレティシアの無茶振りに応えるのが大変なんだよ」
「む、無茶振り……」
碧が顔を引きつらせた。
そういえば、レティシアが俺に無茶振りしていることは知っていても、その内容までは知らないんだったか。
桐人は少し考えた。
「ねぇ、碧ちゃん、よかったらでいいんだけど……今日は桐人に息抜きさせたいの、だから今日一緒に遊んでいい?」
「え?」
桐人は、ノウェムが内心で激しく葛藤している様子を見て、思わず口元が緩みそうになった。
「うん、良いよ。どこ行く」
「この市にものんびりっこのお店リニューアルオープンしたらしいよ」
「嘘! 知らなかった!」
「リニューアルオープンしたのは昨日だな」
ノウェムが調べていたが桐人は知っていた、かなり前から。
「平日だから親子づれ多そうだな……」
「で、でも広いから大丈夫だって!」
嫌そうな顔をする涼を宥める。
俺は普通にしていたつもりだったが、どうやら自慢げな顔をしていたらしい。
「桐人兄さん、なんでそんなに自慢そうな顔なの」
「だって今回のリニューアルオープンに俺関わってるぜ?」
「「「え?」」」
ちょっと待て、もしかして、いや、当たらないでと、言わんばかりの顔を碧たちはしている。
「桐人兄さん、のんびりっこの企画に携わってた……」
「あー……一応」
咲良たちの表情が一瞬固まったが、すぐさま──
「ねぇ、どんな案を出したの? 教えて!」
「のんびりうさぎとねこが人気だけど、のんびりいぬのお話はどうなってるの⁈」
「のんびりっこたちが生まれた経緯って何ですか⁈」
「企業秘密だ」
質問に答えたくないときに使える「企業秘密」という便利な言葉で、桐人は質問をはぐらかした。
むくれる咲良たち。
「仕方ねぇだろ。のんびりっこもモナル社傘下の企業がやってるんだから」
「「「あ」」」
ようやく気づいたか、と言わんばかりの桐人。
「もしかして、ゼリー飲料のNOVAって……」
「俺が開発したんだよ。まぁ、日本じゃ思ったとおりの使われ方になったがな」
「私はもうNOVAは飲まん」
「もう、ノウェムさん!」
桐人は笑いそうになったが、何とか堪えた。
次に来る言葉も分かっていたからだ。
「代わりに新作の固形食を──」
「そっちも俺開発」
「……」
咲良は桐人を見つめた。
どれだけ無茶振りされてきたのかと、驚きを隠せなかった。
そうこうしているうちに、のんびりっこストアの前に着いた。
桐人の予想どおり、親子連れが多かった。
だが、店員は商品がなくなった棚にすぐ補充しているし、レジの会計も滞りなく進んでいる。
買い物はスムーズにできそうだ。
「あ、オーナー!」
「「「オーナー⁈」」」
店員の一人が桐人に声をかけて来た。
桐人は無表情で手をヒラヒラさせた。
「桐人兄さん、このお店のオーナーだったの?」
「ん、まぁなー」
驚く碧たちに桐人は笑った。
「オーナーってそんな風に笑うんですね、いつも無表情でしたから初めて見ました」
「おう」
桐人は店員さんに適当に返事をして──
「俺は付き添いだ。咲良、碧、美奈行ってこい」
「うん!」
「は、はい!」
「桐人兄さん、もう少し店員さん大事にしなよ?」
「へいへい」
碧の言葉に桐人は適当な返事で返した。
咲良たちはぬいぐるみや雑貨などをいろいろ購入し、入り口の端に移動した。
「これからどうする?」
「上の階でキャラクターモチーフの料理が食えるがどうする?」
桐人の言葉に咲良たちはそろって言った。
「「「食べる (食べます)‼」」」
そうして桐人たちは上の喫茶店に向かう。
「うわぁ、メニューが豊富……でも、ちょっとお高い」
「お子様向けのメニューは安いだろ?」
「本当だ。何でだろう?」
「お子様向けは安くして、大人向けは高めに設定して採算を取るようにしてるんだよ。コックが腕のいい奴でな。客席から厨房が見えない造りだから、雇えた奴でもある」
「ど、どんな人なの?」
「見た目は、入れ墨のないヤクザだ」
「「「ワァ……」」」
思わず、同じ言葉が出る。
なるほど、だから厨房が見えないように壁が高くなっているんだ。壁はガラス張りで、のんびりっこの絵が描かれている。かなり高い位置まで続いていた。
「『顔のせいでどこにも雇ってもらえないんです。桐人さん、どうにかなりませんか!』って泣きつかれてな。知り合いだし、まぁいいかということで、俺が上層部を説得して、リニューアル後は客から顔が見えないようにしたんだよ」
そう言ってたら料理が運ばれてきた。
「こちらのんびりうさぎの午後のデザートとなります」
「こちらのんびりねこの手作り猫型クッキーです」
「こちらのんびりいぬのフローズンアイスとなります」
「「「すごい……!」」」
涼は美奈から午後のデザートの一部を「あーん」してもらっていた。
桐人は咲良のフローズンアイスを少しだけもらった。
ノウェムがじーっと碧を見つめている。
碧はふぅと息を吐き、クッキーを口元に運んだ。
「あーん」
ノウェムはぱくりと食べ、ゆっくり味わっていた。
「うむ、悪くない」
「土産コーナーもあるから買っていけばいいぜ」
「そうしよっか」
「ああ」
気がつけば日が暮れていた。
「あ゛ー! 今日は仕事のこと忘れられて最高だった!」
「明日から仕事なんだな」
「やめてくれよぉ、ノウェムちゃん」
「ちゃんづけはやめろ」
「はいはい、お仕事頑張ってね。咲良ちゃんまたね!」
「またね!」
桐人と咲良が碧たちと別れ、地下室に戻ると、桐人は再び大きな声を上げた。
「また仕事だー! レティシアの奴、俺を何だと思ってやがんだー!」
「き、桐人。が、頑張って。珈琲持ってくるから」
「ブラックで頼む」
「うん」
桐人はブツブツ文句を言いながら、パソコンに向かってガタガタと作業し始めた。
その様子を見て、咲良はふふっと笑う。カップに珈琲を淹れ、桐人の机に置いた。
桐人はちびちびと珈琲を飲みながらも、作業の手を止めなかった──
桐人、咲良視点の幕間です。
桐人がややメインですが。
咲良が桐人に対して抱いている感情とか分かって貰えたら嬉しいです。
あと、本日から、この作品毎日更新目指します。
もう物語がクライマックスに近いのでなるべく毎日、更新しちまおうかと。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
感想もありがとうございます!
次回も読んでくださるとうれしいです!




