109.2週間連勤後~お給料騒動~
碧はぐったりしていた。
二週間休日も潰されてパラシートゥス案件で呼び出しを喰らっていたのだ。
緊急依頼と称して何度もだ。
そのことに怒鳴る気力もなにも残ってない碧の通信機が鳴るが、動けず、ノウェムがスピーカーモードにした。
レティシアの心配する声がくるが、碧は返事をする余裕もない。
なのでノウェムが苦言を呈し──
「もう……お仕事やりたくない……」
仕事から帰ってきた私は、ベッドに横になりながらそうぼやいた。
「碧、しばらくは休暇を取ろう。会社全体で」
ノウェムさんも少し疲れている様子だ。
というか、会社全体が疲弊している。
この2週間、パラシートゥス案件で休日まで潰されていた。
緊急依頼と称して、何度も呼び出されたのだ。
「もう、いや……」
怒鳴る気力すらない。
通信機が鳴る。
私は動く気力がない。
ノウェムさんがスピーカーモードにした。
『碧さん、大丈夫……?』
レティシアさんの声だ。
でも、返事をする気力もない。
「大丈夫じゃない。何なんだ、ここ最近のパラシートゥス案件は。特に研究所のものが酷い。1日に5件も対応する日が続いた上に、パラシートゥス迎撃任務への参加要請まで出して……」
ノウェムさんが苦言を呈する。
もう、色々と酷かった。
研究所ではパラシートゥスが爆発的に増殖し、ロボットや生物兵器に寄生していた。
怪獣サイズにまで巨大化した個体が何体も出現したのだ。
あの人間っぽい生物兵器も現れたし、気分が悪いどころではなかった。
それに、ネブラの合成獣のような奴まで出てきて、私たちはそれらを連続して鎮圧した。
ウヌスさんがメインコンピューターを破壊した回数は、数えるのをやめた。
両手じゃ足りない。
パラシートゥス迎撃任務も、最初は数が少ないと思ったら、ワープで第二、第三のパラシートゥス群体が現れるんだから、たまったもんじゃない。
逆に、最初から数が多すぎて「いい加減にしろ」と言いたくなる案件もあった。
木星の防衛線を突破されて、緊急呼び出しを受けた回数も両手では数えられない。
このままでは我が社はブラック企業と化す。
私が望んでいなくとも。
「このままじゃブラック企業になる……」
ぼそりと呟いた。
『ごめんなさいね! なんとかこちらも一つ目処が立ったから、一週間休んで頂戴!』
「んあ?」
目処が立ったって、何だ?
『桐人用の戦艦よ。桐人の乗る戦闘機と、咲良ちゃんが操舵する戦艦』
「はぁ⁉」
耳を疑った。
『貴方たちがいない間はそれで持ちこたえるけど、それ以外はちょっと……』
「ちょっと何ですか⁈」
『……私とクソ……げふんお父様が任せた大量の仕事に桐人が発狂してて』
「ああ……」
そういや、そんなこと言ってたような……
「何でそんなに桐人兄さんに仕事が?」
『……有能すぎるから、どうしてもここぞという時には任せたくなるのよ……』
哀れ、桐人兄さん。
そして、巻き込まれる咲良ちゃんも哀れ。
「ところで、桐人の戦艦は大丈夫なんですか? 咲良ちゃん1人で操艦できるんですか? うちの戦艦だって、クラレンスたち4人がかりでやっと動かせるんですが」
『そこはそのー……桐人曰くナノマシンイヴの同調能力が補完するって』
「ああ……」
何か咲良ちゃん、ナノマシンイヴの除去を諦めていそう。
桐人兄さんは諦めていないっぽいけど。
桐人兄さんは何でもできそうだけど、ナノマシンイヴの除去だけはどうしてもできないらしい。
この2週間、疲労困憊した状態で一方的に愚痴をこぼしていた。
『なんでだ! 理論的にはできるのに、除去を始めると一斉に増殖を開始して、除去のスピードが追いつかなくなる! 適合してるって、こういうことなのかよ!』
ナノマシンが増殖するって、どういう原理なのだろう。
当時はそう思ったが、桐人兄さんの疑問ももっともだし、もう一つ不自然なところがある。
何故、桐人兄さんは自分のナノマシンアダムを除去しないのか。
理論上可能ということは、桐人兄さんは自分のナノマシンアダムを使って、除去の実験をしたはずだ。
それが成功したからこそ、ナノマシンイヴの除去にも取り組んだのに、失敗しているということになる。
うーん、難しすぎるし、今の疲労困憊した頭じゃ、これ以上考えたくもない……。
「これで仕事入ったら流石に私も怒りますよ」
『ええ、分かっているわ。私の所為で貴方の会社をブラック企業にしたくはないもの』
「分かってくだされば幸いです……」
『じゃあ、明日から一週間ゆっくり休んでね。今日はもう仕事は入れないわ』
「はい……」
「そうじゃなかったら、私が本社に乗り込むからな」
「ノウェムさん、止めて」
何か今のノウェムさんなら、本社で暴れそうな気がしてならない。
主に私が理由で。
『本社で貴方に暴れられたら、私が困るだけじゃなく、パトリにも迷惑がかかるから止めて頂戴』
「……チッ」
『本社に来るなら私に抗議する程度で終わらせてね?』
「分かった、レティシア。では通信を切るぞ。入浴する気力すらない碧を風呂に入れる仕事があるんだ」
『ふふ、分かったわ、じゃあね』
通信が切れる。
ノウェムさんは私の服を脱がせて、お風呂に入れてくれた。
自分で洗えるところは自分で洗い、どうしても手が届かないところはノウェムさんに手伝ってもらった。
風呂から上がると、ノウェムさんがタオルで身体を拭いてくれ、パジャマに着替えさせてくれた。
ノウェムさんはいつものボディースーツ姿だ。
「お休み、碧」
「お休みなさい、ノウェムさん……」
そう言って、私たちは抱き合うように眠った。
「今日から1週間はお休み! 何もしなくていいです! 何かあっても全部モナル社がやってくれますので、飲め、食え、遊んでこーい!」
早朝、私たちは社員たちに給料明細と給料を手渡した。
「うわぁ……分厚い。これで新作ゲーム何本買えるか……いや、でもソシャゲのガチャが今期間限定だしな……」
涼兄さん、ソシャゲやってるもんね。
個人的にガチャは悪いものだと思う。天井がないと。
「……よ、ようやく俺の給料が2倍になった……」
40万円の給料明細を見て、ドゥオが泣いている。
今まで20万円だったもんね。
最近は真面目に働いているから40万円にしてあげたけど、今までのやらかしが残っているから、まだあまり上げていない。
「碧様」
「なぁに?」
ウヌスさんが尋ねてきた。
「私の給料は800万円なんですが、ノウェムはいくらで?」
「700万円だ」
本当はもっと上げたかったけど、ノウェムさんが「社長の給料額が余計に増えるぞ」と脅してきたので、この金額になった。
許してください。もっと上げたかったんです。
「何でお前らだけそんなに貰ってるんだよー!」
「危険業務手当とかも入っているからだ。実働部隊を舐めるな」
「それくらい分かるでしょう。僕はデスクワーク、ドゥオとドゥムとトレースはメカニック、ウヌスさんとノウェムは実働部隊。危険度の高さを考えれば妥当な金額ですよ」
ドゥオがセムさんを見る。
「……セム、お前は?」
「100万円」
「やっぱおかしいー! トレース、お前は⁈」
「200万円ですね」
「私もです」
ドゥオは私にすがりついてきた。
「何で俺だけこんなに低いわけー⁈」
「今までのやらかしが片付いていないからです。今後も真面目に働いてくれたら、給料はちゃんと上げていきます」
「うわー! 過去の俺の馬鹿ー!」
今更嘆いても遅いわ。
信頼を取り戻すのは大変なんだと、思い知れ。
クラレンスたちも、ほくほく顔で明細と給料の入った封筒を確認している。
「新しいお菓子キューブ買おっかなー!」
「私は本を買いましょうか」
「俺は武器の整備費に充てる」
「儂は酒エネルギードリンクじゃな!」
それぞれ、思い思いの使い道を口にしている。
さて、この1週間何をしよう!
碧、二週間ぶっつけ労働で疲労困憊でした。
そこでノウェムがレティシアから一週間の休暇をもぎ取ることに成功。
巻き込まれることになった咲良と桐人はもう、大変でしょうね。
そしてお給料、みんなボーナス状態ですが、ドゥオは過去のやらかしが未だに清算されていないのでボーナスの額がめちゃ低いです、ただし、今のボーナスが基本給料になる見込みはあるので、ドゥオには頑張ってもらいたいですね。
反省してるようですし。
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