108.ダブルデートからトリプルデート?~裏話~
RINRINでばったりと会った碧に咲良は桐人と一緒に遊んでいいかと聞く。
碧は周囲の顔色をうかがいつつ、どうしようかと思っていると咲良から「『のんびりっこ』のお店がリニューアルした」という話を聞き、そこから碧、美奈、咲良にとって驚きの事実が明かされる──
「ねぇ、碧ちゃん。よかったらでいいんだけど……今日は桐人に息抜きさせたいの。だから、一緒に遊んでもいい?」
「え?」
私はノウェムさんを見る。
苦虫を噛み潰したような表情を、気づかれないように隠している。
桐人兄さんには恩があるが、好きにはなれない。
咲良ちゃんには好感を持っているので、断るのが辛い。
そんな表情だった。
一方みっちゃんは、私の友人だから良いのかなと言う顔をしている。
そして涼兄さんは、もうどうにでもなれと言わんばかりの顔だ。
「この市にものんびりっこのお店がリニューアルオープンしたらしいよ」
「嘘! 知らなかった!」
「リニューアルオープンしたのは昨日だな」
ノウェムさんは即座にスマホで調べていた。
「平日だから親子連れが多そうだな……」
「で、でも広いから大丈夫だって!」
嫌そうな顔をする涼兄さんを宥める。
桐人兄さんはいつもどおりの無表情……いや、なんだかどこか自慢げだった。
「桐人兄さん、なんでそんなに自慢そうな顔なの?」
「だって、今回のリニューアルオープンに俺も関わってるぜ?」
「「「え?」」」
ちょっと待て。もしかして……いや、当たらないでくれ。
「桐人兄さん、のんびりっこの企画に携わってた……?」
「あー……一応な」
私とみっちゃん、咲良ちゃんの間に緊張が走る。
だが、次の瞬間──
「ねぇ、どんな案を出したの? 教えて!」
「のんびりうさぎとねこが人気だけど、のんびりいぬのお話はどうなってるの⁈」
「のんびりっこたちは、どうやって生まれたんですか⁈」
「企業秘密だ」
むくれる私たち。
「仕方ねぇだろ。のんびりっこもモナル社傘下の企業がやってるんだから」
「「「あ」」」
つまり、モナル社傘下の企業のヒット商品には、高確率で桐人兄さんが関わっている。
そんな可能性に思い至った。
「もしかして、ゼリー飲料のNOVAって……」
「俺が開発したんだよ。まぁ、日本じゃ思ったとおりの使われ方になったがな」
「私はもうNOVAは飲まん」
「もう、ノウェムさん!」
開発者が誰なのか分かった途端に手のひらを返すのはやめなさい。大人げないんだから、もう。
こういう子どもっぽいところが可愛いんだけども……。
「代わりに新作の固形食を──」
「そっちも俺開発」
「……」
ノウェムさん無言になる。
桐人兄さん、そりゃ無茶振りだと悲鳴も上げたくなるし、ノウェムさんも無言で脳内で頭抱えてそうだな。
そうこうしているうちに、のんびりっこストアの前に着いた。
やはり親子連れが多い。
だけど、店員さんが空いた棚にすぐ商品を補充しているし、レジの会計も滞りなく進んでいるので、買い物はスムーズにできそうだ。
「あ、オーナー!」
「「「オーナー⁈」」」
店員さんの一人が桐人兄さんに声をかけてきた。
桐人兄さんは無表情のまま、手をひらひらさせている。
まだ店員さんたちと打ち解けていない証拠だが、多少は気を許している証でもある。
「桐人兄さん、このお店のオーナーだったの?」
「ん、まぁな」
桐人兄さんは私たちに向かって笑った。
「オーナーってそんな風に笑うんですね、いつも無表情でしたから初めて見ました」
「おう」
桐人兄さんは店員さんに適当に返事をして──
「俺は付き添いだ。咲良、碧、美奈行ってこい」
「うん!」
「は、はい!」
「桐人兄さん、もう少し店員さん大事にしなよ?」
「へいへい」
適当な返事の桐人兄さん。このときは何を言っても無駄だな。
私たちは、のんびりっこストアを散策することにした。
「お、新作ばっかりじゃん。お金に余裕もあるし、買おう」
「持てるのか?」
「確か宅配サービスがあったよね……」
「やめておけ。私が持つ。宅配サービスで何が送られてくるかわからんし、毎回爆発物や盗聴器が入っていないか確認するのも面倒だ」
「そんなことやってたの……?」
ノウェムさんが言うには、うちに届いた荷物はモナル社からのものであっても、毎回調べてから開封しているらしい。
稀に爆発物や盗聴器が入っていることもあり、見つけ次第処分していたようだ。
知らない間に物騒な目に遭っていたなんて、心臓に悪い。
「みっちゃんは……うわ」
みっちゃんの荷物を、涼兄さんが全部抱えている。
大丈夫か?
ノウェムさんがみっちゃんのところへ行き、私にしたのと同じように説明すると、みっちゃんはしょんぼりして、いくつか商品を戻そうとした。
けれど、涼兄さんが『俺が持つ』の一言で解決した。
咲良ちゃんは、自分で持てる分だけ買っていた。
ぬいぐるみや雑貨などをいろいろ購入した私たちは、入り口脇に移動した。
「これからどうする?」
「上の階でキャラクターモチーフの料理が食えるがどうする?」
桐人兄さんの言葉に私たちは私たちはそろって言った
「「「食べる (食べます)‼」」」
そうして私たちは上の喫茶店に向かう。
「高いのには訳がある。お子様向けのメニューは安いだろ?」
「本当だ。何でだろう?」
「お子様向けは安くして、大人向けは高めに設定することで採算を取っているんだよ。コックが腕のいい奴でな。客席から厨房が見えない造りだから、雇えた奴でもある」
「ど、どんな人なの?」
「見た目は、入れ墨のないヤクザだ」
「「「ワァ……」」」
思わず、同じ言葉が出る。
なるほど、だから厨房が見えないように壁が高くなっているんだ。
その壁はガラス張りで、のんびりっこの絵が描かれている。かなり高い位置まで続いていた。
「『桐人さん、顔のせいでどこにも雇ってもらえないんです』って泣きつかれてな。知り合いだし、まぁいいかということで、俺が上層部を説得して、リニューアル後は客から顔が見えないようにしたんだよ」
そう話しているうちに、料理が運ばれてきた。
「こちら、のんびりうさぎの午後のデザートとなります」
「こちら、のんびりねこの手作り猫型クッキーです」
「こちら、のんびりいぬのフローズンアイスとなります」
「「「すごい……!」」」
ノウェムさんとセムさん、先ほどの食事で満足したのか、それとも桐人兄さんがいるからか、紅茶とコーヒーだけを頼んでいた。
ドゥオはコーヒーだけだった、ミルクも砂糖も無しの。
涼兄さんは、みっちゃんから午後のデザートの一部を「あーん」してもらっていた。
桐人兄さんは、咲良ちゃんのフローズンアイスを少しだけもらっていた。
じーっとこちらを見つめるノウェムさんの視線。
ふぅ、と息を吐き、私はクッキーを口元に運んだ。
「あーん」
ノウェムさんはぱくりと食べて、ゆっくり味わっていた。
「うむ、悪くない」
「土産コーナーもあるから買っていけばいいぜ」
「そうしよっか」
「ああ」
そして気がつけばあっという間に日が暮れていた。
「あ゛ー! 今日は仕事のこと忘れられて最高だった!」
「明日から仕事なんだな」
「やめてくれよぉ、ノウェムちゃん」
「ちゃんづけはやめろ」
「はいはい、お仕事頑張ってね。咲良ちゃんまたね!」
「またね!」
そう言って咲良ちゃんと桐人兄さんは帰っていった
「あー楽しかった!」
「私も!」
みっちゃんはにこりと笑う。
「あー、仕事疲れたー。家に帰ったら甘いコーヒーでも飲もう」
「先ほども飲んでいたではないか」
ノウェムさんが、ドゥオに呆れたように言う。
「あの人の視線が怖くて、砂糖もミルクも入れられなかったんだよ」
ああ、そういえばドゥオは桐人兄さんのことが怖いんだもんね。
「馬鹿なことをしなければ、あの方は何も言わん」
「ドゥオは馬鹿なことをしていたから、こうなったんでしょう」
「うわ、ひでぇ!」
泣きそうな顔をするドゥオだが、同情するのは……みっちゃんくらいだろう。
しかし、それも涼兄さんが止めた。
「美奈さん、こいつのやらかしで俺とトレースは散々な目にあったので、同情の余地はないです。無視、無視」
「みっちゃん、事実だから無視していいよ」
頼みの綱とばかりにみっちゃんを見ていたドゥオだったが、結局、彼女にも無視されてしょんぼりしていた。
だったら最初から真面目に働いていれば、私の信頼を失うこともなかったんだからね!
私は二つのマグカップをテーブルに置いた。
のんびりねこのマグカップと、一回り大きいのんびりねこのおかあさんのマグカップだ。
「あ、あのさ。よかったら、この部屋にいるときだけでも使ってくれる? み、みんなの前だと私が恥ずかしいから……みんなの前でノウェムさんに使ってもらうのは」
「──分かった。君とここで飲み物を飲むときに使わせてもらおう」
ノウェムさんは微笑み、私の額にキスをした。
あーあ、やっぱり甘えちゃうなぁ……。
桐人が色々と裏で企画やらなにやら関わっているというお話でしたね。
モナル社関係の。
ノウェムはかなり苦虫噛み潰している感じです。
最後はノウェムと碧の穏やかで甘い一時で締めくくりました。
次回は咲良が桐人を連れ出した経緯の幕間です。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
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次回も読んでくださるとうれしいです!




