107.ダブルデート~ぬいぐるみとドゥオの意外な一面~
皆の希望でRINRINにダブルデートすることに。
そこで、碧はノウェムとデートという単語を使ってデートをしたことが無いことに気付く──
みっちゃんの希望で、RINRINでダブルデートをすることになった私たち。
のんびりっこのぬいぐるみが景品になっているクレーンゲームを見ると、みっちゃんは駆け寄った。
「よかった、みんなある!」
「よっしゃ、任せておいて」
私は小銭を取り出す。
「涼」
「何だノウェム」
少し離れた場所でノウェムさんと涼兄さんが話していた。
「お前がやるとは言わないのか」
「……残念だが、俺はクレーンゲームが苦手中の苦手だ。金がなくなってデート代が減る、なんてこともある!」
「……そうなのか」
「代わりに、美奈と俺の分の食事代は払う」
「……そうか」
「あれ、ノウェムはデートとかしないのか?」
「デートはこれがある意味初めてかもしれん。だから、よくわからん」
「何だと? 女子はデートの化粧や服に金をかけている。だから、奢ったほうが好感度が高い。もちろん、割り勘のほうがいいという女子もいるが」
「では、私は碧と自分の分を払うか」
「……それがいいと思う」
……まぁ、らしい会話っちゃらしい会話だね。
デートらしいデートもしてこなかったし、基本的にはお家デートだもん。
そもそも「お家デート」なんて言葉も使ったことがなかったから、こうして「デート」という言葉を意識するのは初めてかも。
「よっしゃ、全部取れた! おーい、涼兄さん、荷物持ちー!」
「俺だけか? 俺だけなのか⁈」
「彼女のぬいぐるみぐらい持ってやれよ!」
「あ、そういう……わ、分かった」
店員さんに袋詰めして貰ったのんびりうさぎを持つ涼兄さん。
「さて、次は──」
「う゛ー! くまたん、くまたん!」
「ん?」
「まなみ、次に来たときにしましょう?」
「やだ、なくなっちゃう!」
私とみっちゃんは顔を見合わせ、クレーンゲームの場所に戻った。
「あのー」
「あのときの!」
「くまたん、くまたん!」
女の子は私の袋の一つを指差した。
私は「しょうがないなぁ」と笑った。
「はい、どうぞ。お嬢さん」
「そ、そんな……また二度ならず三度までも! だ、代金をお支払いします!」
そう言って、女の子の母親は一万円札を差し出した。
「そんな大金、受け取れません!」
「いえ、この子たち、もうプレミアがついて、そのくらいの価格になっているんです!」
「転売ヤーめ……」
思わず悪態をついてしまう。
「ですから、今回は偶然『お母さんが取れた』ということにしてください。そうすれば、お代はいりません」
「でも……」
「では、五百円で。クレーンゲーム五回分の金額です。それで手を打ってください」
「で、では……」
私は五百円を受け取り、のんびりくまのぬいぐるみを渡した。
「誰にも言っちゃいけないからね」
「しーっ、だね」
「本当に、本当に、ありがとうございます!」
女の子の母親は何度も頭を下げて出口に向かっていった。
そのとき、若い女が女の子から熊のぬいぐるみを奪おうとした。
「やめて、やめて! だいじなくまたん!」
「ノウェムさん、女を捕まえて! セムさんは女の子の保護を!」
「了解しました!」
「わかった」
二人は瞬時に動いた。ノウェムさんは警備員が駆けつける前に女を捕縛し、セムさんは女の子とぬいぐるみの安全を確保した。
ドゥオは……あれ? こいつ、スマホで何をやってるんだ?
しかも、女に近づいてスマホを取り上げ、中身を確認している。
「はっ、碧様。この女、窃盗や万引きの常習犯だぜ? それに、転売もな」
「はい?」
「な、何を勝手に私のスマホを見て、言いがかりを……」
「じゃあ、これなーんだ?」
ドゥオは、女のスマホのロックを解除していた。
そして、女のアカウント情報と自分で調べたデータをもとに、余罪が大量にあることを警備員や警察に告げた。
「そこの女だって、ぬいぐるみを売ろうとしてたじゃない⁈」
「碧様は、この子のためにぬいぐるみを取って差し上げたんだ。お前みたいに、子どもや家族連れから盗んでいる常習犯とは違うんだよ」
「あと、働いている店でも、こっそり万引きしているみたいだしな。それを転売しているんだから、悪質だぜ」
ドゥオは仕事ではまだ少し不安なところがあるけど、こういう場面では役に立つんだ。
初めて知ったよ。
女は余罪が大量にあるということで警察に連れて行かれた。
ドゥオは女が逆恨みしてこないように手を打ってくると言って一端席を外した。
入れ替わるようにウヌスさんがやって来た。
「碧様、美奈嬢、涼様、ドゥオから護衛を引き継ぎました。何か要件があればすぐ言ってください」
「あー取りあえず、目立つから上のファミレスでお茶しよ」
「うん!」
そうしてファミレスへ向かった。
私は苺パフェを頼み、ノウェムさんは特大苺パフェと特大フルーツパフェを、セム君は特大フルーツパフェを頼んだ。ウヌスさんはコーヒー、みっちゃんは苺のケーキと紅茶、涼兄さんはコーヒーとチョコケーキを注文した。
注文を済ませた私たちは、店の奥の席で待つことにした。
平日に久々の休みを取ったからか、店内は空いていた。
平日を休日にしてくれと涼兄さんが言った理由がよくわかる。
この集団、目立ちすぎる。
中性的な美貌のノウェムさん。
爽やかな好青年のセムさん。
凜々しい顔つきだが、どこか圧のあるウヌスさん。
そして、一般人の私たち三人。
どんな関係だ⁈
周囲からちらちらと視線を向けられていた。
「圧をかけますか?」
「やらなくていい、やらなくていい! フリじゃないからね? フリじゃないからね?」
「……わかりました」
ウヌスさん、ちょっとお茶目というか、桐人兄さんの要素を持っているから不安なんだよなぁ。
「おう、碧にノウェム、それに涼。元気そうだな」
「……」
「あ、桐人兄さん」
「ちっす、桐人さん」
桐人兄さんがここにいるなんて珍しい。
そう思っていると、咲良ちゃんが腕の中にのんびりいぬのぬいぐるみを抱いていた。
「……欲しくて」
「参ったなぁ。言ってくれれば送ったのに」
実は、私もすでに確保していたのだが、残念だ。
どうやら咲良ちゃんは、RINRINのクレーンゲームに今回の妖精シリーズが入荷したと知り、桐人兄さんにお願いしたらしい。
いつも私に送ってもらうのは悪いから、桐人兄さんに取ってほしいと頼んだそうだ。
「俺はいいのかと思ったがな」
「いいじゃない。気分転換になるでしょう?」
「まぁ、確かにな。ここ最近、レティシアの無茶振りに応えるのが大変なんだよ」
「む、無茶振り……」
それは大変そうだな、と苦笑するしかなかった。
のんびりいぬを抱っこしている咲良ちゃんは、幼い子どものようで可愛かった。
みっちゃんも。
その後、私たちは出てきた甘味を堪能した。
ノウェムさんとセムさんは、すべて平らげて満足そうだった。
RINRINを出ると、ドゥオが戻ってきていた。
女には大量の余罪が見つかり、厳しく処罰されることになったらしい。ドゥオは、モナル社の権限や人脈を使って、事件の証拠を集めてきたそうだ。
私たちがお茶をしている間に、事件の審理も始まっていたらしい。
ドゥオは女の過去の犯行や、今回の事件に関する証拠を提出した。
女は楽をして生活したいがために犯行を繰り返し、真面目に働いている人たちへの誹謗中傷までしていたという。
詳しい刑期までは教えてくれなかったが、女には相応の刑罰が下されることになった。
それにしても、事件の証拠集めから裁判の手続きまで動かせるモナル社の権限……
恐ろしい……
敵じゃなくてよかった……
はい商業施設?RINRINでのダブルデート回です。
ドゥオが予想外の活躍を見せたと思いますが、アレが奴の本職です。
モナル社恐るべしというラストと、桐人と咲良との合流、さて次回は?
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