103.三時のおやつの出来事~懲りぬドゥオと、予期せぬ暴露~
牛乳寒天争奪戦があった休日の翌日、その日も穏やかに過ごしていた。
ドゥオは復活し、菓子を食えなかったことを残念がっていた。
そんな中、ウヌスがまた和菓子屋の鈴蘭に買い物にいっていたらしく──
「俺が寝込んでいる間、そんなことしてたの、ずりぃいい!」
翌日の午後三時、ドゥオが休憩室にやって来てそう声を上げた。
仕方ないでしょ。
アンタ、スプラッターの刑から再生したばかりで、グロッキーになって部屋に籠もってたんだから。
「俺の分は?」
「集まっていたナンバーズのみんなが『奴に与えるのは食物への冒涜だ』と言って、食べちゃったからないよ」
「そんなぁ」
しょぼくれるドゥオ。
だったらもっと少しは反省してよね。
「……ちなみに、何食べてたんだよみんな」
私は何とか思い出そうとするが、脳裏に牛乳寒天争奪戦がよぎり、思い出せない。
すると隣にいたノウェムさんが答えた。
「セスはミルフィーユとミルクレープを独占しようとし、トレムとセムはフルーツケーキ、フルーツロールケーキ、ブルーベリーケーキを片っ端から食べていた。レティシア様は抹茶スイーツを制覇し、ウヌスは煎餅類を食べていた。トレースは一個ずつ味わっていた。私も同様に、すべてのケーキを制覇した」
「他に何かなかったのかー?」
ドゥオは面白そうに聞いてきた。
「……最後に、全員で牛乳寒天の争奪戦が起こった」
「牛乳寒天か。あの優しい甘みと蜜柑の甘酸っぱさは良いものだ。食感も独特だった」
「いいなぁ、俺も食いたかった」
がっくりと項垂れるドゥオ。
可哀想だが日頃の行いの結果と受け止めてほしい。
「今日も休みだし、ゆっくりしてよー」
「というか、ここ最近は仕事が多すぎたんだ。自覚しろ」
「そうだねー。このままじゃブラック企業まっしぐらになりそうだから、なんとかしないと──」
そう言っていると、休憩室のドアが開いた。
ウヌスさんだ。
手には鈴蘭の菓子袋を持っている。
大きな袋を四つも持っているので、かなりの量だ。
「何を買ってきたんですか?」
「どら焼き、煎餅、おはぎ、団子、牛乳寒天だ」
「俺の分はあるよな?」
「あるわけなかろう」
「えぇー⁈」
ドゥオがそう言うと、ウヌスさんが後ろを指差した。
そこには、宗一お爺ちゃんが仁王立ちしていた。
かなり怒っている。
「ドゥオ、お前、どれだけやらかせば気が済むんじゃー!」
「ひぃー! ごめんなさい、ごめんなさい!」
宗一お爺ちゃんは、どこにそんな力があるのかと聞きたくなるほどの力で、ドゥオを引きずっていった。
「お前は儂が一から何度でもたたき込んでやる! メカニックを侮るでない!」
「もういやだー! 細かい作業はー!」
ドゥオの悲鳴が聞こえたが、誰も擁護しなかった。
むしろ、宗一お爺ちゃんに同情した。
「……宗一殿には、後でおはぎを持っていこう。あんこときなこがお好きだとおっしゃっていたし」
「うん、そうだね。分けておこう」
三時になり、みんなが集まってきた。
みっちゃんは涼兄さんをちらちらと見ている。
「どうしてかなぁ」
「分からないなら、そのままそっとしておけ」
「うん」
ノウェムさんは何か分かっているようだったけど、私には分からない。
だから、そのままにしておくことにした。
「あれ、ドゥオさんと宗一さんは?」
みっちゃんが、二人が部屋にいないことに気づいて尋ねた。
「ドゥオがまた馬鹿をやったらしくて、宗一お爺ちゃんに怒られ中」
「そうなんですね……。お菓子、残しておいた方がいいですか?」
「「「大丈夫です、必要ありません」」」
トレースさんに、セムさんに、ドゥムさんがそろっていった。
同じ仕事をしているトレースさんとドゥムさんはともかくセムさんまでそう言うとは。
「ドゥオは、もう少し仕事に真摯に向き合うべきです」
「ええ。ドゥオは、もう少し学ぶ姿勢を身につけるべきです」
「ウヌスさんに叱られても、あの調子なんですもの。痛い目を見るのは、もうしばらく必要です」
セムさんの言葉に、みっちゃんはきょとんとしている。
そうだよね。みっちゃんは、ウヌスさんのスプラッターの刑を知らないもんね。
他のみんなにも、みっちゃんにはスプラッターの刑について話さないよう、箝口令を敷いてあるからね。
「ま、そんなことはいいから、お菓子を食べよ」
「じゃあ、緑茶を淹れますね」
「ありがとう、みっちゃん」
みっちゃんはお茶を淹れるのが上手だ。
茶葉の良さを最大限に引き出してくれる。
「ああ、美味しい」
緑茶の渋みの中にも、ほのかな甘みが感じられる。
それを感じながら優しい甘みと綺麗な焼き目のついた生地のどら焼きを頬張る。
次はみたらし団子。甘じょっぱいタレが美味しいの!
お団子ももちもち!
「あー、やっぱりお菓子っていいわぁ。あ、ウヌスさん。今日のはみんなの分として買ってきたんでしょう? だったら、菓子代は経費に──」
「いや、個人的に好きで買ったものだからいい」
「あらら」
まぁ、ウヌスさん、好きで買ったのはお煎餅と牛乳寒天だろうなぁ。
予想どおり、ここにいるナンバーズの間で、牛乳寒天の争奪戦が勃発した。
ノウェムさんも参加し、何とか自分の分と私の分を確保した。
「全く、ウヌスの奴、甘い物は好かんと言っておきながら……」
「甘ったるいものが苦手ってことだよ。きっと、甘さ控えめなお菓子なら好きになってくれるよ」
そう言うと、ノウェムさんはむっとした。
「どうしたの?」
「私の取り分がなくなる」
ずるっと滑りそうになった。
ソファから。
ああ、もう困ったちゃんだなぁ!
そういう所が可愛いんだけども!
「お菓子も堪能して、糖分も補給したから、少しでも社長業を自分でこなせるように頑張らなきゃ」
「碧、君は十分頑張っている。ネット小説の短編も読めるくらいには回復してきているんだ。焦らずに」
「そ、そうだよ、碧。あんまり無理しちゃ、また壊れちゃうよ……」
みっちゃんは不安そうに言った。
みっちゃんは、私が壊れたときの姿をあまり見ていない。
けれど、どういう状況だったのかは聞いている。
今も病気と闘いながら仕事をしているみっちゃんにとって、私がまた無理をするのは不安で仕方ないのだろう。
「うん、無理はしないよ」
「なら、良かった」
そうしてのんびりしていると、セムさんがみっちゃんのお父さんとお母さんを連れてきた。
お父さんは凄い勢いで歩いており、お母さんはそれを必死に止めようとしていた。
「涼君だったな。君が合コンで知り合った女性を行方不明にしたという噂が回っていたが、真実を知りたい!」
涼兄さんはしばらく考え、どの件のことなのか思い出そうとしていたが、言葉が見つからないようだった。
すると、ノウェムさんが口を開いた。
「私がお話しします」
そう言って、ノウェムさんは説明を始めた。
まず、その女性は合コンで知り合った相手に薬を使われ、既成事実を作られそうになったところを、ドゥオという社員に助けられた。
しかし後日、その女性は別の男性の子どもを妊娠していたにもかかわらず、涼兄さんの子どもだと言いがかりをつけてきた。
そこで、ドゥオが妊娠の経緯を調べ、涼兄さんの子どもだという主張が嘘だと見抜いた。
その後、女性は、ちょうどモナル社から来ていたデケムに保護されたらしい。
今はモナル社のシェルターのような場所で暮らしている。
過去の自分と決別するためにスマートフォンも新しいものに替え、現在はシングルマザーとして、モナル社の敷地内にあるスーパーで働いているそうだ。
そうか、もう子どもが生まれたんだ。
大変なこともたくさんあっただろうに、一人で頑張っているんだな。
「だから言ったじゃないの! デマだって! みんなもそう言ってたじゃない!」
「し、しかしだな……」
「しかしもへちまもないの!」
「み、美奈が好いている男が、そんな噂を持つこと自体が──」
「あなた‼」
みっちゃんのお母さんが怒鳴った。
「へ?」
思わず、私は間の抜けた声を出した。
ノウェムさんたちは、みっちゃんのお父さんを見て「やっちまったな」と言いたげな顔をしている。
つまり、そういうことだったの?
「だ……」
みっちゃんがぷるぷると震えている。
「黙っててって言ったのに! お父さんの馬鹿ー! 大嫌い!」
みっちゃんは顔を真っ赤にして、半泣きになりながら社宅へ向かっていった。
「お、俺、どうすればいい?」
顔を赤くしている涼兄さんに、私は答えた。
「こっちが知りたいよ!」
もう、みっちゃんのそんな気持ちに気づかなかった自分に嫌気が差す。
でも、みっちゃんにとっては、これでよかったのだろうか。
いや、お父さんが暴露しちゃったからなぁ……。
「悪かった! 悪かったから靴で殴るな!」
「あなたの馬鹿、馬鹿‼」
みっちゃんのお母さんが、片方の靴を脱いで、お父さんをガンガン叩いている。
うん、武器はあると便利だよね──って、そういう問題じゃなくて!
このカオスになりつつある状況、どうやって収束させよう……。
ドゥオはまだアレな感じですな。
宗一の胃が心配です。
そしてやらかす美奈の父。
娘の好きな人、周囲に人がいるかつ、本人がいる所で暴露するとはやっちまいましたな。
娘には大嫌いと言われ、妻からは靴で殴られ、美奈の父の明日はどっちだ!
てな感じで、次回は美奈が何故涼を好きになったかが分かる話が入ります。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
感想有り難うございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。




