102.休日の甘味~デケムの問題と順の笑顔~
次の休み、碧は、ノウェムたちと、家族と社員たちで食べる為の菓子類を買いに回った。
そして、いざ食べようとすると来客を知らせるチャイムがなり──
次の日の休み、私はノウェムさん、ウヌスさん、みっちゃんと4人で、和菓子屋の鈴蘭と洋菓子店のミモザ、それからロボット用の菓子キューブを販売しているお店を回った。
鈴蘭では店主のお祖母ちゃんがにっこりと笑っていつものように出迎えてくれた。
どら焼きとお煎餅を買ったが、珍しくウヌスさんが甘いもの──牛乳寒天に興味を抱いた。
ここの牛乳寒天はみかん入りで、甘さ控えめで美味しいと私が説明すると、ウヌスさんは10個ほど注文した。
何となくだが、これを巡って争奪戦が起きそうだったので、さらに10個追加で注文しておいた。
そして、いつものように、お土産代わりのお煎餅と餅入りのどら焼きをくれた。
ありがたや。
次にミモザに行くと、ノウェムさんは会社の人数分に加えて、自分が余分に食べる分も1個ずつ追加して注文した。
しかも、全商品について。
新人さんは硬直していたけど、みっちゃんのお母さんは慣れた手つきで箱詰めしていった。
ちなみに、ホールケーキも、売っているものを全部1個ずつ頼んでいた。
どんだけ食うんだろう、ノウェムさん。
まぁ、食べきれなかったら明日に回せばいい。
今の冷蔵庫、保存能力がすごいからね。
「あの……こんなに買ってきたんですか? なんで?」
セムさんがテーブルに並べられた甘味類を見て呆然としている。
「ノウェムさん、甘味大好きっ子だから」
「ああ、そういえば」
セムさんはそう言って苦笑した。
そこへ、来客を知らせるチャイムが鳴った。
アポなしだし、休日だし、誰だろうと思っていたら──
「順兄さん! それにレティシアさんに、セスさんたちも……! あとテオくんとミネルヴァちゃんも?」
「デケムは指導が終わらないみたいで、まだ帰ってきていないのよ」
「それほど、彼女はまだ視野が狭いのでしょう」
トレムさんが双子ちゃんをベビーカーに乗せながらやって来た。
テオくんとミネルヴァちゃんはすやすや眠っている。
「あら、甘い香り……ケーキ?」
「良かったら食べていきませんか? 多分うちじゃ消費しきるの時間かかるので」
「……どんだけ買ったんだ」
「それは甘味大好きなノウェムさんに言って頂戴」
順兄さんの言葉に、既にショートケーキを食べて居るノウェムさんが顔をそらした。
全く、この困ったちゃんは。
「そう言えば、鈴蘭のお婆さんに『うちの兄貴、去年赤ちゃんを授かったんですよー』って話したら、赤ちゃん用のお菓子をくれたよ。二人が起きたら食べさせてあげてみて。アレルギーはないよね?」
「今のところ、アレルギーは確認されていません」
「ええ、検査したから二人ともないわ」
「良かった。一応、アレルギーの原因になる食材を使っていないお菓子らしいんで、どうぞ」
「ありがとう、碧さん」
「今度、お婆さんにお礼言っておきますね」
そう言ってトレムが受け取り、何かを調べている。
「毒の要因なし。食べても問題なさそうです」
「え? 開けただけで調べられるの⁈」
私は驚愕の声を上げた。
「制作者様が、毒味をしなくても毒を感知できるよう、私の感知能力を高めてくださいました」
「さすが桐人と言うしかないわ。あ、抹茶モンブランをくださる?」
「こちらも問題ありません」
「ありがとう」
トレムさんから抹茶モンブランを受け取り、椅子に座って一口食べるレティシアさん。
その目から、つぅーっと涙が流れた。
「れ、レティシアさん⁈」
「ああ、美味しいわ。デケムの強制甘味制限にどれだけ苦しめられたことか……でももう気にしなくていいのよ私は! 社長仕事を始めて、ジムにも通って、トレムから好きな物を食べていいと言われたわ! もう最高!」
「……レティシアさんェ……」
デケムさん相当禁欲というか食事とか制限させてたんだな、レティシアさんがこうハイテンションになる位。
「デケムはいつ頃帰りそうなのですか」
セスさんがトレムに尋ねる。
「あまりにも酷すぎるから、帰ってくるのは当分先になりそうとのことです。制作者様のお言葉では、場合によっては調整も視野に入れると」
「デケムについては、今回は許すわ。あそこまでストレスを母体である私に与えたんだもの。でも、他の子──碧ちゃんが妊娠したときに護衛としてつけた場合、同じことをやらかしたら、私は絶対に許さない」
レティシアさんご立腹だなー。
「そもそも、桐人に相談もしないで、デケムをああいうふうに創らせたお父様が悪いのよ! 私がどれだけ苦労したことか!」
そう怒鳴っていると、テオくんとミネルヴァちゃんが目を覚ました。
「まぁまー」
「まぁま」
「はい、ママですよー」
「おかち」
「おかち」
二人ともお菓子は食べれるんだな。
トレムさんは先ほどのお菓子を二人にあげた。
「「!」」
二人はもっとちょうだいと言わんばかりに手を伸ばす。
トレムさんが次々とお菓子を口に運んでやると、あっという間になくなってしまった。
「「もっと!」」
「今のお菓子は、もうないないなの」
「「う゛ー!」」
むくれる双子ちゃん。
二卵双生児だが、そっくりだな、こういう所。
「あ、まだありますよ」
「!」
ちょうだいと言わんばかりに手を伸ばす二人に、苦笑するレティシアさん。
トレムさんは微笑んでいる。
順兄さんも、穏やかに笑っている。
順兄さんがこんなに穏やかに笑っているのは、いつぶりだろう。
小学校以来じゃないだろうか。
中学、高校でいじめにあい、それでも無理をして大学に進んだのに、そこでもいじめにあって、結局辞めてしまった。
あんなに昔から、順兄さんは心から笑えなくなっていた。
それなのに、私は何もできなかった。
いじめが起きるたびに桐人兄さんが制裁を下していたけど、それでもいじめは何度も起きた。
家族の前でも死んだ魚の目をしていて、ぼそぼそとしか喋らなかった。
レティシアさんは、順兄さんをここまで立ち直らせてくれたんだろう。
正直、会社のことでも順兄さんのことでも、頭が上がらない。
「今日はチートデイよ、食べなきゃ! さ、順さんも食べましょう」
「え、いいのか、碧?」
「うん、いいよ。というか、食べられる分だけ食べていいよ」
そう言うと、順兄さんは嬉しそうに笑い、ショートケーキとコーヒーを味わった。
「ちょっとウヌスさん、煎餅、僕にもくださいよ!」
「……少しだけだぞ」
セム君まで煎餅に興味を持った。
今度からは、彼もお菓子争奪戦に加わりそうだ。
「あ、このミルフィーユ美味しい」
セスさんがそう言ってミルフィーユを食べていた。
こちらも、いつもより表情が穏やかだ。
こんな穏やかな時間がいつまでも続けばいいのに──そう思っていたのだが。
ドゥオを除くナンバーズ全員が鈴蘭の牛乳寒天をすっかり気に入り、争奪戦を始めてしまった。
レティシアさんは呆れ顔をしつつも、楽しそうだった。
私は10個追加で買っておいてよかったと思った。
ちなみにドゥオは、昨日のやらかしでスプラッターの刑に処されたため、部屋に籠もっている。
慈悲として、奴の分のお菓子と牛乳寒天も残しておこうと言ったら、ノウェムさんを含むナンバーズのみんながそろって「奴にはもったいないです」と却下した。
哀れ、ドゥオ。
甘味関係でナンバーズがある意味(真面目さが)ぶっこわれる話と、順の過去話とレティシアの苦労話でしたね。
ロボットたちは話には出てませんが、ちゃんと菓子キューブ食ってます。
ドゥオに現状慈悲はないです、哀れかもしれないですが。
碧は哀れと思ってますが。
多分日頃のやらかしが原因だなー愚かだ哀れだ、的なノリで。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
感想有り難うございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。




