101.碧体調不良~幼い頃の夢と今も許さないこと~
パラシートゥス戦後の翌日、碧は寝込んでいた。
ノウェムが体温を測ると高熱だった。
パラシートゥス戦がかなりの重荷だったことを言われるが、大丈夫と返す碧。
ノウェムは解熱剤や水などをもってきて碧に飲ませ、休ませる──
翌日、朝目覚めると体を動かすのがひどく億劫だった。
鉛のように重く感じる。
頭もうまく働かず、ぼーっとしていた。
体も熱っぽい。
「碧……やっぱりか」
ノウェムさんが非接触式の体温計で私の体温を測り、表示を見せてくれた。
熱は39度、ぴったり。
「やはり、昨日のパラシートゥス戦は君にとってかなりの重荷だったのだ」
「だい、じょうぶ……」
「今、NOVAと解熱剤と水を持ってくる」
そう言ってノウェムさんは、飲料ゼリーNOVAと解熱剤、それに水を持ってきた。
ゼリーを少しだけ飲み、その後、解熱剤を水で飲み下した。
「うふふ……」
何か笑ってしまった。
「何がおかしい?」
「前も、こんなふうに、体調を崩した、よね、私」
呼吸を乱しながら言う。
息苦しい。熱い。
「そうだな、そうだったな。だから今日は休め」
「うん……」
そう言って眠りに落ちる。
夢を見た。
『ねぇ、桐人お兄ちゃん』
『どうしたんだ、碧』
子どもの頃の私が桐人兄さんに尋ねている。
『桐人お兄ちゃんは結婚しないの?』
『俺と結婚しても、相手が不幸になるだけだしなぁ』
『咲良ちゃんは、結婚できなくてもいいからそばにいたいって言ってたよ』
『参ったな……』
桐人兄さんは本気で困った顔をしていた。
『まぁ、俺のお眼鏡にかなう相手探して結婚してもらうか!』
『へー……』
『碧は結婚願望ないのか?』
『あるよー』
『どんな人だ?』
『桐人お兄ちゃんみたく格好いい人!』
『それは難関だぞーもう少し下げとかないとなー』
『そんなことないもん!』
目を覚ます。
解熱剤が効いたのか、だいぶ体が楽になっていた。
「ふふふ……」
思い出して笑ってしまった。
「碧、何を笑っている?」
乾いたタオルを持ってきたノウェムさんが困惑しながら聞いてきた。
ノウェムさんは私のパジャマとシャツを脱がせ、背中をタオルで拭いてくれた。
まだ乾いているタオルを受け取り、私は胸元などを拭いてからノウェムさんに渡した。
それからシャツを着て、パジャマを羽織った。
「小さい頃の夢を見てたの」
「ほぉ」
「桐人兄さんが出て来たの」
ノウェムさんは露骨に嫌そうな顔をした。
もう、困ったちゃんなんだから。
「結婚願望の話になってね、当時の私は桐人兄さんみたいに格好いい人がいいって答えたの」
「……」
ノウェムさん、そんなに嫌そうな顔しないでよ。
「桐人兄さんとは違う格好良さと可愛さ、その両方を持ったノウェムさんと恋人になれてよかったなぁって思ったの」
「アイツの何処が格好良いんだ……」
ブツブツと文句を言った。
「子ども心には格好良く見えたのよ、桐人兄さんが」
「そうなのか……」
「だって、何でもできたわ。赤ちゃんのお世話も、子どものお世話も、ロボットのメンテナンスも、機械の整備も。色んなことができて、格好良く見えたの」
「……」
もう、そんなにふてくされないで。
「桐人兄さんには感謝してるわ。桐人兄さんがいなかったら、私はノウェムさんと出会えなかった。もちろん、レティシアさんにもよ」
「……そうだな」
ようやくノウェムさんは納得したような顔をした。
「まぁ、グレイズさんを許す気はねーんですがね」
「碧……」
ノウェムさんが最初あんなふうだったのは、ドゥオとグレイズさんが原因だ。
だから、二人とも許さん、絶対だ!
「レティシアと同じ事を言うなぁ……」
「レティシアさんと?」
ノウェムさんは頷いた。
「君が眠っている間にレティシアに君が今日動けないことを報告してたのだが……」
「だが?」
「……グレイズ様がやって来たらしく、レティシアが『お父様、お帰りはあちらです。さっさとお帰りくださいな』と言っていたのが聞こえて……」
まだ、レティシアさん、まだ実父お子さんとロクに会わせてないんだ……
まぁ、無理もない。
「そしたら、グレイズ様が『レティシア、私はお前のためを思って……』と言った途端、レティシアが『だったら、桐人ときっちり相談して、ノウェムをあんなふうにしなければよかったのですよ! 体のことだって、碧さんにどれだけ寂しい思いをさせているか、分かりませんもの!』と言い返したのだ」
レティシアさん、そういう話はやめてくれ。
そんなこと聞きたくなかったし、たぶん、ノウェムさん今それを思い出しても微妙な顔になっているんだろう。
ノウェムさんもその台詞を聞いたとき、非常に微妙な顔をしていたんだろう。
「グレイズ様が『はしたないからやめなさい!』と怒鳴り、レティシアが『ああ、もういいですわ。オーク、お父様を連れて帰って!』と命令を下したらしい。すると、『はい、お嬢様!』と、オークがグレイズ様を無理やり連れて帰ったそうだ」
「わぁ……」
ある意味修羅場だこれは。
「その後、レティシアが『やはりドゥオが原因だったとしても、実行したクソ親……お父様を許すことはできませんわ』と言っていたからな」
本当、ドゥオは何をしてくれたんだよ、まったく。
グレイズさんも、だからって何をしてくれやがったんだ、畜生。
桐人兄さんが機転を利かせてくれていなかったら、ノウェムさんは今も感情のない人形のようなままだったかもしれないんだぞ。
「……だから、『お父様の言い分を聞いたふりをして、ノウェムが感情を取り戻せるように仕込んでいた桐人には感謝するわ。私では、あそこまで複雑な仕組みを解けなかったのだけど』と言っていたな」
ノウェムさんは私と一緒にいるようになって、少しずつ感情を取り戻していった。
そして、大好きな甘いものにも出会い、ますます表情豊かになっていった。
「ノウェムさん」
「何だ、碧」
「今度のお休み、スイーツ巡りする?」
「……それよりも、スイーツを買ってきて家で食べよう。そちらの方が皆で楽しめる」
ノウェムさんははにかんで言った。
ああ、本当変わったなぁ、いい意味で。
「ノウェムさん……一緒に寝て」
「構わない」
私はノウェムさんに抱きしめられながら、目を閉じた。
優しく手を握られる感触を確かめながら、私は眠りについた──
碧、寝込むの回。
まだ体が本調子じゃないのに、かなりハードだったからですね。
そして、夢の話をします、ノウェムは不服そうですが、碧にとって桐人とは別ベクトルのノウェムと出会えたのが嬉しいのでしょう。
ただし、グレイズとドゥオは許されない、仕方なし。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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