【幕間】順が聞かされたこと~碧の状態~
順は何故碧が逃げるように休憩室を出て行ったのか分からず呆然とする。
家族は気まずそうに視線をそらし、ドゥムは考え事、トレースは難しい表情をしている。
そこで、ノウェムが碧の現状とこれまであったことを説明し始めた──
休憩室から逃げるようにいなくなった碧を見て、順は呆然としていた。
涼や宗一たちも何か気まずそうに視線をそらしている。
ドゥムは考え事をしている。
トレースは難しい表情をしている。
「私から話そう」
ノウェムが口を開いた。
「ノウェムさん、碧に、何があったんですか?」
きっかけは母が目指した慈善事業としての仕事だった。
そこで憐憫と同情の目を向けられた碧は、自分が哀れまれる存在として見られている事実に耐えられなくなっていった。
そんな中、両親とノウェムが殺される夢を見て、完全に精神を病んでしまった。
桐人が薬を処方したが、あまりよくはならなかった。
気休め程度にはなったらしいが。
一ヶ月経って、少し様子がよくなったので、軽い仕事から始めることになった。
そこで何も起きなければ問題はなかった。
だが、問題が起きてしまった。
碧が襲われ、ノウェムがそれを庇ったことで、また一気に精神を病んだ。
それでも本人は仕事をしたがるので苦手なデスクワークを補助しながら行っていたが──
いつしか、長い文章が読めなくなっていた。
これでは、仕事もろくにさせられないと、再び休暇を出した。
しばらく闘病生活を続けたある日。
ウヌスたちが居ない時にパトリが襲撃された。
そこでノウェムを守る行動を取ったことが荒療治になり、今に至ると。
「……じゃあ、部屋に戻ったのは」
「長文を読むための訓練だ、普段なら。今回は、これらのことをお前に説明するのが碧には苦痛だったのだろう」
「……俺、自分の家庭で手一杯だったのに、碧は……碧は……」
「順、そう自分を責めるな」
「そうじゃ、確かに儂等は家族じゃが、お前さんはお前さんの家庭ができた。そちらを優先しなきゃならん」
「でも……」
宗一は順にきっぱりと言った。
「まともに家庭を守れんかった儂が言うのもなんじゃが、お前さんには守るべき家庭──新たな家族がいる。生まれ育った家族を大切にする気持ちは十分わかるが、お前さんが守るのは新しい家族の方じゃ。だから碧のことは儂等に任せるといい」
「……でも、少しだけ碧と話したい」
「分かった、あまり無理はさせないでくれ」
「お付き合いします」
ノウェムが碧のいるであろう部屋へ順を案内し、順の護衛と、碧に何かあった時のためにトレースも付き添った。
ノウェムが鍵を開ける。
ベッドに座って虚空を見ている碧に順は声をかける。
「……碧」
順が言いづらそうに口を開いた。
「ごめん、俺家族なのに全然知らなかった……」
「それは仕方ないことだ、私たちの判断で、順、お前には伝えないようレティシアに頼んでいた」
「でも、俺を気にしてくれた家族のことを、気にしてないなんて最低だよな……」
順が謝罪すると、ノウェムが先ほど言ってなかったことを補足した。
碧が苦く笑って順を見ている。
「順兄さん、順兄さんには順兄さんの家庭がある。だからこっちのことでも気を病んでほしくなかっただけよ」
「でも、まだ本調子じゃないんだろう?」
「まぁ……うん」
碧はなんとも言えない表情を浮かべた。
「順様、あまり碧様にそのようなお言葉をかけない方がよいです。今の碧様は少しのことで罪悪感を強く感じてしまいます」
「……そうか、ごめん」
「ううん、いいの」
順には碧が無理して笑っているように見えた。
「……無理するなよ、ゆっくり元気になれよ」
順はそう言って、トレースと共に碧とノウェムの部屋を後にした。
「……なぁ、トレース」
「何でしょう、順様」
「俺、どうしたらいいんだろう」
「……宗一様のおっしゃる通りにするのがよいかと。貴方様は新たな家庭をお持ちになった身です。そして子どもの父親です」
「……あんまり役に立たない父親だけどな」
「ですがレティシア様は『順さんがいてくれて助かった』と、よく連絡を下さいましたよ」
「レティシアが?」
「はい、ノウェムには既に碧様がいらっしゃいますから負担になりますし、ドゥオは何かやらかすから連絡は行きませんが、それ以外のナンバーズには不定期ですが連絡を下さっています」
「そう……なんだ」
順はふぅとため息をついた。
「……レティシア、色々と気を遣ってるんだな」
「気を遣っているというよりも、状況把握が社長の仕事ですから」
「そうか……」
「ロゼッタ様の護衛がきちんとできているか、グレイズ様の護衛とこちらに来るのを抑えられているかなど、そういう話もしていると聞きました」
義父の名前を聞いて、順は同情のため息をつく。
「……レティシア、まだ義父さんのこと許してないんだな」
「ですね」
トレースは苦笑した。
そしてメンテナンス室に戻ると、クラレンスたちが戻っていたので全員のメンテナンスを行った。
「うむ、全員のメンテナンスは無事終了じゃ! ドゥムは即戦力でありがたいし、順も一年以上ブランクがあるとは思えん腕前じゃった!」
「……どうもありがとう、宗一爺さん……」
「宗一様、ありがとうございます」
「それにしてもドゥオは全く成長せん!」
順は今朝のことを思い出す。
「肉塊……殺したの、か? ドゥオを?」
「順様、ドゥオを殺すのではありません、ただ躾けるだけです」
トレースは肩をすくめて言った。
「慣れてください、これが今のパトリの現状です」
今朝の断末魔のような叫び声を思い出し、順は震えて涼に聞く。
「りょ、涼、怖くないのか?」
「最初は怖かったけど、もう慣れた」
「な、慣れるのか……?」
「兄貴も慣れるよ、四日に一度は起きるからさ」
涼のその言葉に順はなんとも言えない表情を浮かべた。
「ドゥオが肉塊にされてる? ああウヌスから聞いてるわよ。甚大な被害を出しかねない馬鹿やってるからって」
家に帰ってレティシアに聞くと、彼女が平然と答えるので驚いた。
「だ、大丈夫なのかい?」
「仕事中にそうなるのは私も嫌よ、でもお仕置きでそうなるなら仕方ないわねとしか言えないわ。ドゥオは問題児だから」
「……俺、仕事復帰して上手くやれるかな……?」
不安げに言う順をレティシアは抱きしめそっと頬にキスをした。
「大丈夫よ、貴方。きっと上手くやれるわ」
「レティシアが言うなら、頑張ってみる……レティシアは仕事は大丈夫?」
「ええ、ロゼッタとセスもいるから早く片付けられるのよ、それに今までロゼッタが頑張ってくれたしね」
「そっか……」
子どもが泣く声がした。
順は真っ先に動き、双子を抱える。
そしてオムツを交換した。
交換が終わると、不快感がなくなってすっきりしたらしい双子は順に甘える。
順は双子を抱えてレティシアの元へ行く。
「本当、私にはもったいないくらい素敵な旦那様だわ、順さんは」
「そ、そうでもないよ……」
順は少し照れながら言って、二人は子どもをあやしながら、頬に口づけをし合った──
順が碧の現状を知る話です。
ですが、家族なのに何もできずそれを悔やんでいます。
でも仕方ないのです、碧にとって順は新しい家庭を持った人でもあるのですから。
家族であると同時に、そんな相手に迷惑はかけられません。
レティシアはそんな順を受け入れ、愛します。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。




