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98.パトリの一日~順復帰と碧の容態~

順が会社に復帰すると同時に、ドゥムが会社にやって来た。

レティシアから配属されたことを碧は伝えられる。

そして仕事開始早々、ドゥオがやらかし──



「お帰り! 順兄さん! ってあれ? ドゥムさん?」

「はい、今日私も配属となりましたので本日出勤時の護衛は私が務めさせていただきました。ですが今後はトレースにお任せしたいと思います」

「了解しました。順様、お帰りなさいませ」


 いつの間にか来ていたトレースさんが順を案内する。

 ドゥムさんも付いていく。


 その直後──


「くぉらー! その配線はするなと何回言えば覚えるんじゃお前は‼」


 宗一お爺ちゃんの怒鳴り声。

 そして──


「ギャー‼ しにたくなーい! 肉塊はヤダー‼」

「うるさい黙れ」


 引きずられていくドゥオと、引きずっていくウヌスさん。

 私は可哀想だとは思わないが、一応手を合わせておいた。



 すると、げんなりした顔の順兄さんが戻ってきた。


「やっぱり……帰っていい?」

「そこは頑張って!」


 なんとか励ます私。


「レティシアさんも先週からお仕事頑張り始めてるんでしょう! 夫の順兄さんが逃げてどうするの!」

「……! そ、そうだよな……うん、頑張って、みる」


 そう言って戻っていった。


 問題起きないといいなぁ、そう思いながら今日も仕事に出掛けることに。



「大型パラシートゥス20体とか馬鹿げてんの……?」


  パラシートゥス迎撃任務を依頼され、行ったら巨大なパラシートゥスが20体も居て、他のパラシートゥスも集まって巨大な紫の帯を作っていた。


 木星付近で全て迎撃できたけど、1時間半も戦闘ぶっ続けでやっていたから疲労困憊。


「碧様、今日は貴方とノウェムはお休みください、あとの仕事は私たちがやりますので」

「うん、分かった」


 会社に戻ると、私はノウェムさんと自室に戻り、文字を読む練習を始める。



 文字を読むのが辛くなってきた頃、ノウェムさんが言った。


「休憩しよう」

「うん」


 そう言って、休憩室に向かう。

 整備室組が集まっていた。

 宗一お爺ちゃんがしなびているようにも見える。


「そ、宗一お爺ちゃん! どうしたの?」

「おお、碧か……どうしたものかと悩んでおるんじゃよ……」

「え、何かあった?」

「ドゥムは教えたことは忘れない、応用の仕方も覚える、そしてその発展型もすぐさま行えるんじゃ、順は一年以上のブランクを心配しておったが、それもないようじゃった……」

「だったら……」

「だからなんでドゥオの馬鹿は教えたことを直ぐ忘れるんじゃとなる! 彼奴の頭は鶏頭か、それともカボチャか⁈」

「あ、あはは……」


「ところで碧……何でここにいるんだ? クラレンスたちは出払ってるのに……」


 順兄さんの言葉にうっと言葉に詰まる。


「ちょ、ちょっと色々あってね」

「?」

「ごめん、私の口から説明するのは辛いから!」


 そう言って私は自室に逃げ出した。



 言う勇気が無かった。

 悪夢にうなされて、それが現実になりそうなのを見て精神的にやられて、まともに仕事ができなくなって。

 ようやく働けるようになったら同じ事態になって、また精神が駄目になって。

 その代わり社長業の一つであるデスクワークをしてたら、そっちも駄目になってしまった。

 長い文字が未だに読むことができないから、ノウェムさんとウヌスさんが今は要約して判子とかサインとかしている。


 両方いない時はデスクワークはしないことにしている、見落としがあるといけないらしい。

 ないと思うんだけど。


 ノウェムさんもいない部屋はがらんとしてて寂しい。


 すると、鍵が開いた。

 ノウェムさんと順兄さんとトレースさんがいた。


「……碧」


 順兄さんが言いづらそうに口を開いた。


「ごめん、俺家族なのに全然知らなかった……」

「それは仕方ないことだ、私たちの判断で順、お前に伝えないことをレティシアに要望していた」

「でも、俺を気にしてくれた家族のことを、気にしてないなんて最低だよな……」

「順兄さん、順兄さんには順兄さんの家庭がある。だからこっちのことでも気を病んでほしくなかっただけよ」

「でも、まだ本調子じゃないんだろう?」

「まぁ……うん」


 痛いところを突かれる。


「順様、あまり碧様にそのようなお言葉をかけない方がよいです。今の碧様は少しのことで罪悪感を強く感じてしまいます」

「……そうか、ごめん」

「ううん、いいの」


「……無理するなよ、ゆっくり元気になれよ」


 順兄さんはそう言うとトレースさんと部屋を出ていった。



 私は盛大に息を吐いた。


 緊張していたのだ、久しぶりの兄との会話に。

 順兄さんは変わったけど変わっていなかった。

 大きく変わった、いや変わったのは、壊れた私。



 順兄さんのせいではない。

 誰かのせいでもない。

 抱え込んでいた不安に、押しつぶされただけだ。

 私の心が弱いだけだ。


「碧」


 ノウェムさんに呼ばれて、どきっとする。


「な、何?」

「自分の心が弱いだけとか、考えてたな」


 な、なんで分かるの⁈


「顔に全部書いてある」


 うそ、そんなに分かりやすくなった⁈


「君は心の弱さを自分のせいにしがちだ、他人の場合は違うのに」

「それは、その」


 反論が思いつかない。


「君の正義はもっともな点が多い、君が成そうとする正しい行為も正しい点ばかりだ、自己犠牲が強すぎることを除けば」

「い、今はしないよ」


 ノウェムさんはふぅと息を吐き出した。


「そうだな、今はできない、怖くてだ。自分が死ぬから怖いんじゃない、私が犠牲になるのが怖いからしない」


 当を得た発言に私は怖くなる。

 ノウェムさんってこんなに怖かったっけ?


「碧、私は非常に怒っている、何故だと思う?」

「わ、分かんない」


 どうしよう、どうしよう、見捨てられちゃう。


「君が本当に自分を大切にしようとしないからだ。日々無理をして私たちがストップをかけなければ続けようとする。それに非常に怒っている」


 触れて貰えなくなる、居なくなる?

 いや、いや、いや!


「碧!」


 気がついたらまた耳をガリガリと引っ掻いていた。


「すまない、そこまで追い詰める気は無かった」

「え、あ、私……」

「いきなり耳をガリガリ引っ掻きだしてうつむいて『ごめんなさい』を繰り返していたから、思わず声を出してしまった……」


 そう言ってノウェムさんは、しみない消毒液で私の耳を消毒し、1時間ほどで軽い傷が治る塗り薬を塗った。


「君にはどう対応すればよいのか悩んでしまう」

「ごめんなさい……」

「碧、君が謝る必要はない。私が対応の仕方が分からないだけだ」


 申し訳なくなって、もう恋人をやめた方がいいんじゃないかと思ってしまう。

 ノウェムさんをこんなに困らせてしまうのは私は嫌だ。


「ノウェムさん、あのね──」


 押し倒されて、口づけで唇を塞がれた。


 何か……いつの間にか鍵をかけてたけど、どういうこと⁈


「碧、私は君の恋人を止める気はさらさらないぞ」

「!」

「言っただろう、顔に全部書いてあると」


 ノウェムさんはにたりと笑った。


「今日は私の好きにさせてもらおう、どれだけ君を愛しているか、きっちり分かってもらいたいのでな」

「ギャー!」



 そこから先はとても口には出せない恥ずかしいことをされた。

 普通の触れ合い以上のことをされた、病んでる時よりももっと恥ずかしい内容だから言えない。



 自分からノウェムさんに、恋人をやめたいなんて言ってしまった。

 自分に非がある場合は絶対言ってはいけないと学んだ。


 ノウェムさん、こういうとき怖い、私分かった。






順が復帰後のパトリに何とか馴染もうとする話と、碧が自己嫌悪に陥ってノウェムが怒るお話でした。

順は多分時間が経てばなれるでしょう、レティシアという伴侶がいるのですから。

碧はまだ状態が良くない様子、頑張ってるけど自己嫌悪してしまう。

で、ノウェムを怒らせてまぁ、お口チャックな展開になりましたと。

次回は幕間です、順が碧の事を知る話です。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

感想ありがとうございます。

次回も読んでくださるとうれしいです。

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