95.桐人の過重労働~レティシア来訪と爆弾発言~
ブローチ型のパワードスーツ装着装置が手元に戻って来たが、戦艦の整備の方がまだ終わっていなかった。
碧はどうしたらいいんだろうと不安になる。
そんな中、連絡もなくモナル社の車が来て下りて来たのは──
漸く晴れ間の天気が続き、桐人は咲良ちゃんを助手に戦艦の整備を行っていた。
内側の方は雨が降っている間に色々やれたのだそうだが、外側のほうが晴れてくれないとできないし、また雨の間にパワードスーツの修理なども行っていたので、実質休みがほぼなかったと咲良ちゃんは苦笑いしていた。
多分桐人兄さん発狂寸前まで色々やってたんだろうなぁ、と想像できて私も苦笑い。
「労働はクソ!」
とブツブツ言いながら整備をしている。
宗一お爺ちゃんたちは手伝わないのかと聞いたら──
「儂らには手に負えん」
と、言われた。
相当ヤバい戦艦なんだな、あとパワードスーツも。
「咲良ちゃん、パワードスーツとかの修理時、桐人兄さん発狂してなかった?」
念のため聞いてみる。
「発狂というか、自棄っぱちになってたよ。なんでこんなもん作った自分! って」
「そ、そうなんだ……」
自分でも面倒なもの作った自覚あるんだ……
逆にそれくらい作らないと、悪い現状にあるってことでもあるよね?
楽観視はできない。
ブローチ型のパワードスーツ装着装置は今朝手元に戻って来たけど、まだ戦艦の方は整備が終わっていない。
何かとんでもないことが起きたら私たちはどうしたらいいんだろう?
そう不安になる。
そんなことを考えていると、モナル社の車が来た。
でもレティシアさんの来訪も、ロゼッタさんの来訪も聞いて無い。
誰だろう。
車から降りてきたのは──副社長。
心が憎悪でざわめく。
どうしよう、どうしよう。
「ヒース副社長、何故来た。現在、貴方は社長と社長代理の両方からパトリ訪問を禁止されているはずだ」
ノウェムさんがやって来て肩を抱く。
「いや、その……謝罪が、したくて」
「──結構です、お帰りを」
何とかその言葉だけを絞り出した。
「パトリの社長もこう言っている、お帰り頂こう」
しかし帰ってくれる気配はない。
やはり一発殴って──
そう思って居たら、レティシアさんの車が止まった。
セスさんとレティシアさんが下りてくる。
「副社長、私の言うことが聞けないのですか?」
「しゃ、社長! で、ですが!」
「言い訳は結構。今すぐ戻りなさい。貴方たち、降格と減給処分を受けたいならそのままいなさい」
その言葉に副社長は唇を噛んで護衛と共にパトリ社から去っていった。
「なんで、今更来たんでしょうあの人達」
「……さぁ、まだ分からないわ、おそらく。謝罪と称して何かを探していたのでしょうね」
「何か?」
「分かっているでしょう?」
レティシアさんが微笑む。
「あ」
私は胸元のペンダントを掴む。
この中にデータが入っていた。
データは現在レティシアさんと桐人兄さんが持っている。
だから探しても、無駄に終わるはずだ。
何故今来た?
罪悪感?
いや、そんなものある訳がない。
だってアイツは、お父さんたちを殺した連中の仲間なんだから──
「ところで、レティシアさんはなんでウチに?」
「……デケムの産後の体型を戻すレッスンに嫌気がさして逃げて来たのよ」
「デケムさんェ……」
思わず遠い目をしてしまう。
「『レティシアさま、あと5セットです。頑張りましょう』『次は全身運動です、こちらも10セットです』──いい加減にしてほしいわ!」
情景が目に浮かぶようだ。
「デケム、加減が分からないところがちょっとあります。レティシア様が『体格が崩れてる』と言っただけでハードな運動をさせるようになったりしてます」
「でも、妊婦さんが関わらなかったわけでは無いんでしょう」
私の言葉にセスさんがため息をついた。
「人格担当の方が超人的な妊婦さんで、何でも食べられて、体格もハードだったので、根性で治した人らしく……」
「……それが反映されちゃったわけね」
私は苦く笑った。
応接室でレティシアさんとお茶を飲みながら話していると、レティシアさんはデケムさんの愚痴ばかりを言い、セスさんが宥めている。
「今日も逃げるとき、『レティシア様、今日の分の運動が──』と叫んでいるのを順様が止めて、『レティシア、いいから今日はリラックスしてきてくれ!』とお止めしてくださいました」
「順兄さん……」
ちゃんと旦那やってたんだね。
「順兄さんはどんな感じ」
「私共にお世話を先にされて凹むことは多々ありますが、それでも積極的にテオ様とミネルヴァ様のお世話をなさっております」
「そっか、なら良かった」
私は安堵の息を吐く。
「ええ、順さんのお陰で最近は逃げられる日が増えたのよ」
「それは……うん、大変ですね……」
そう言うことしかできなかった。
「調整はしたくないから、デケムには私の育休が明けたら、すぐに指導してもらうことにするわ」
「調整、指導?」
「あー俺が説明するわ」
桐人兄さんがげっそりとした表情でやってきた。
「桐人兄さん、大丈夫⁈」
「大丈夫じゃないぜ! 誰だ、あんな滅茶苦茶な代物作ったのは、俺だったわ!」
スパナを地面に投げつけたが、どんな原理なのか跳ね返り、桐人兄さんの顔面に当たった。
「き、桐人兄さん⁈ 大丈夫……じゃないよね」
「労働はクソ!」
「桐人、説明するって言ったのだから、説明はしてあげて」
レティシアさんが苦笑しながら言うと、桐人兄さんは「そうだった」と言ってスパナをくるくる回し始めた。
「調整は文字通り、思考や性格なんかを調整することだ。悪い言い方すると洗脳みたいなもんだな」
「だから調整は嫌なのよ」
「で、指導ってのはいろんな情報を元に自分の中の情報を整理してもらって、次回何かあったとき、より『正しく』もしくは『ふさわしい』行動を取れるように自分自身で考えてもらうことだ」
「私は妊婦さんや経産婦の方々にすでにアポを取っているので、そこにデケムを放り込んで色々と学んでいただきます。一つの情報のみが正しいものではないと!」
レティシアさん、切実に語っている。
確実に、デケムさんのあれこれで精神的に追い詰められたんだろうなぁと実感する。
「ところで、いつ職場復帰を?」
「明日からです、一年以上経ちましたからね」
そうだ、でもそうすると赤ちゃんのお世話は誰がするんだろう?
順兄さんに任せる?
でも、護衛……
「デケムは家政婦として、順さんはちゃんと育児と出産を支えた夫として指導に参加していただきます。つまり、デケムは三人の護衛で、私はセスが護衛になります。また、クイーンもデケムの護衛補助に回ります」
「はぁ……」
兄さんたちも大変だ。
すると、桐人兄さんが言い出した。
「あ、そうそう、忘れてた」
「何、桐人? 嫌な予感がするんだけど……」
「グレイズの依頼でナンバーズ三人増やした」
「は?」
レティシアさんの表情が怖い。
「あのクソ親父ー!」
怒声が響き渡る。
桐人兄さんも、何で創っちゃったの⁈
ヒースが来たのは碧の読み通りです。
ですが、データは全て桐人が保持しているので無駄な行為でもあります。
また、レティシアが来たため、それを中断させられました。
何故ここまでするのか、それはいずれ。
色々と大変なレティシア、そして最後には激怒する。
碧も何で創っちゃったのと思わずツッコみが。
それは次回をお楽しみに!
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次回も読んでくださるとうれしいです。




