【幕間】一歩踏み出そうとする君へ~だから無理はさせられない~
幕間です。
碧の病状の良くなった後とそれと仕事での状態をかいています。
パラシートゥスとの戦い、寄生された生物兵器と対峙した後の状態など──
碧が滞在中に会社を強襲されたが、碧の動きで何とか無事に終わった。
そして、眠るように気を失った碧を抱きしめて、ノウェムは桐人に連絡した。
「荒療治だな、これは」
「どういうことだ?」
桐人がやって来て碧を見るなりそう言った。
「悪夢でお前が殺されるのを見たのが原因で、碧はメンタルやられ始めたんだ。その瞬間を自分がぶち壊したことで、そこそこの改善が見られる」
「そこそこ」
「も、文字はまだあんまり読めないけど……」
碧はおっかなびっくりに言う。
「じゃあ、現場で少しずつ慣らしていくだけだな」
「休めとは言わないのか」
「無理そうなら休ませろ、仕事は一日二件まで。ノウェム、お前は碧の側にいろ、以上」
「ノウェムさん、あし、ひっぱったら、ごめんね?」
「気にするな、しかし桐人も酷なことをさせる」
「いいんだよ、桐人兄さんなんだから」
「しかしだな……」
そんな会話をしているとウヌスがやって来た。
「パラシートゥスの大群が木星付近に接近中だとのことだ、協力願えるか」
「はい!」
「碧、いきなりそんなハードな……」
「大丈夫! 戦艦も桐人のお陰で新しくなったし、戦闘機も新しくなってるんだから心配しないで! それにパワードスーツの補助もあるし!」
「……わかった」
「では、戦艦に搭乗してくれ、時間が惜しい」
「はい!」
「分かった」
ノウェムは碧の言葉に納得していないようだった。
「見るだけなら綺麗なんだけどね……」
輝く紫色の結晶体の帯を見て碧はそう呟いた。
積極的に人類へ危害を加える存在だからこそ、その群体は危険以外の何ものでもない。
「よし、指定場所に到着した、行きましょう碧様。ノウェム、碧様を頼むぞ」
「言われなくとも」
減圧室でパワードスーツを装着し、そして戦闘機に乗り込む。
碧の手が少しだけ震えたが、深呼吸して落ち着かせようとしていた。
「ノウェムさん、出ましょう」
「了解した」
戦闘機が出撃する。
「右、20、下、30です!」
「分かった!」
追撃ミサイルが発射され、パラシートゥスたちが消滅していく。
「っ……上、60! 下、20!」
「了解!」
上下からの攻撃を回避し、パラシートゥス同士がぶつかり合って消滅しているところに、ノウェムは弾丸を撃ち込む。
パラシートゥスは少しずつ消えていった。
30分くらいが経過した頃──
『お嬢! 主砲発射準備整いました、離脱を!』
「ノウェムさん‼」
「分かった」
その宙域を離脱すると、戦艦ポラリスから主砲が放たれ、パラシートゥスたちを一掃した。
『大型は0,中型は2,小型は100です!』
「さっさと片付けましょう!」
「ああ、分かっている!」
『全艦感謝を、これで防衛できた!』
碧が力を抜いたのが分かった。
「良かった~~……」
「お疲れ様、碧。さぁ戻ろう」
戦艦へ帰還し、先に加圧室で疑似重力に慣らしていたウヌスが声をかけて来た。
「碧様、無理はしてないですか」
「は、はい!ちょっとだけ怖かったけど、大丈夫でした」
碧はそう言うとノウェムを見る。
「ノウェム、お前から見て碧様はどうだった」
「……怯えてはいたが、奮い立たせようとしているのが分かった」
「……まぁ、復帰直後ということもあります、慣らしていきましょう。ただし今日の仕事は碧様とノウェムはここまで、二人は戦艦で待機していてください」
「え、まだ私やれるよ?」
「そんな顔色でよく言えますね」
碧はバイザーを下げていたので、顔を見ることができた。
血の気が引いていて、唇も青くなっていた。
「これ、私の顔?」
鏡を見た碧は声を震わせて言った。
「そうです、だから無理をせず、一つずつ参りましょう」
「……うん」
ウヌスに言われて碧はしょんぼりとした様子でそう返事をした。
先にウヌスがいなくなると、ノウェムが碧を抱きしめて額にキスをした。
「大丈夫だ、碧。君は上手くやれている」
「ありがとう、ノウェムさん……」
今日の仕事は、パラシートゥスの研究所でパラシートゥスに寄生されたロボットと生物が暴走し、メインコンピューターも乗っ取られたというもの。
ノウェムは人の遺伝子を改造した兵器が自分に怯え、一匹逃げ出すのを見た。
他の人型兵器のせいで追いつけず、ノウェムは碧に通信を送った。
「碧! そちらにパラシートゥスに寄生された生物が向かっている、逃げたほうがいい!」
『大丈夫撃退できるから!』
「碧!」
ノウェムが到着した時、碧は兵器を片付けていた。
「逃亡しても良かったんだ、私が対処しようと思っていたから……」
「ううん、いいの。やらなきゃいけない事をやっただけだから」
「……無理は、しないでくれ」
「してないよ」
そう言って碧が笑うと、ノウェムは首を横に振った。
「無理をしている、今にも吐きたくて仕方ないんだろう」
「……」
『こちらウヌス、メインコンピューターを破壊、パラシートゥスの反応を確認したがこの周囲には見当たらない』
「了解、こちらノウェム。碧が本調子ではない、故に私たちはこの仕事で上がらせて貰う」
『了解した』
そう言ってノウェムは碧を抱きかかえて戦艦に戻り──
「おぇえええ‼」
碧はトイレで思いっきり吐いた。
ノウェムが背中をさすっている。
一度会社に戻って再びトイレにこもって吐いた。
あの不気味な生物が受け付けないのだろう。
それにロボットたちを殺す感触、あれは辛いのだろう。
家族を殺すような感触がして。
ようやく碧が吐き終わると、ノウェムは白湯を持ってきた。
碧は水で口をゆすぎ、吐き出し、残りの白湯は飲んだ。
「ごめんね、手間をかけさせて」
「手間ではない、君が無理をしているのに耐えられないんだ」
「……」
「吐くほどの無理はしないでくれ……頼む」
「うん、無理だったら逃げるかノウェムさんに応援を求めるよ」
「それでいい。君はまだ病み上がりだ、無理だけは避けたい」
「……うん」
ノウェムは碧を抱きしめた。
碧の心臓の音が落ち着いていくのを感じる。
「さて、少しでも文字が読めるよう、本でも読むか、漫画か、絵本か」
「今日は漫画かな」
そう言って自室に戻る。
碧は最近流行りの乙女向け漫画を取り出し、読み始める。
ノウェムは碧としか恋をしたことがないので、ファンタジーの世界ではこういう恋や愛の描かれ方もあるのかと思いながら、碧と共に読む。
その際、ノウェムは碧を大切そうに抱きしめていた。
思いが報われた恋の話のページで碧の手が止まる
口づけを交わす恋人たち。
「ノウェムさん、キス、してほしいな」
「──ああ、いいとも」
そう言って碧とノウェムはキスをする。
ほんの数秒の間だったが、それでノウェムは幸福感が得られた。
それがより欲しくてノウェムは碧の頬や首筋にキスをし始めた。
「ノウェムさん」
「君が可愛すぎるから、つい」
そんなことを言い合っていると──
「チーッス! 碧ちゃん、ノウェム今日も元気にいちゃついてるぅ!」
ドゥオがやって来た。
碧は怒りと困惑の表情を見せる、それもそのはず。
マスターキーは碧とノウェムとウヌスの3人しか持っていないからだ。
ノウェムはドゥオを睨み付けつつ、いつでも動けるよう僅かに身構える。
「おい、ドゥオ。そのマスターキー。いつ複製した?」
「え⁈」
「いやぁ、ウヌスの奴、いつも金庫にしまって毎回番号変えてるけど、この間、番号を一発で当てたから、複製して戻しておいたんだよな!」
「ノウェムさん、あのマスターキーの複製版取り上げて、あとドゥオ、アンタは後でウヌスさんのスプラッター刑だ覚悟しておけ」
碧は地を這うような声で言い、ドゥオを睨んだ。
ドゥオはしまったと言わんばかりの顔をしたが、遅かった。
ノウェムはドゥオを追いかけて行った。
「貴様、複製して何をしようとしてた?」
「いやーその」
「何があった?」
ドゥオをとっ捕まえたノウェムの所にウヌスが来ると、ドゥオから取り上げた複製版のマスターキーを見せた。
「お前の金庫から盗んで複製したらしい」
「番号を変えているのにか?」
「運良く当たったそうだ」
ウヌスは頭を抱えた。
ノウェムは複製版のマスターキーを破壊するとドゥオをウヌスに渡した。
「スプラッターの刑に処すのは任せる」
「心得た」
「ちょ、マジでごめん! だからスプラッターの刑は──」
「言い訳は聞かん!」
ウヌスは倉庫へと引きずって行った。
そしてノウェムは碧の元へ帰る。
「複製版は取り上げて破壊した。ちょうどウヌスが帰還したから、碧がスプラッターの刑に処せと言っていたと伝えたら、了承してドゥオを倉庫へ連行した」
しばらくしてウヌスがノックをして入って来た。
「申し訳ない、金庫の番号を毎回変えていたにもかかわらずこの始末……」
「いいよ、ウヌスさんは悪くないから」
「そうだ、たまたま運悪くドゥオの馬鹿に番号を当てられてしまっただけだ」
「そう言っていただけるとありがたい」
ウヌスは碧とノウェムに感謝と謝罪をした。
「ところで、次の仕事は何だったの?」
「テロリストの鎮圧でした。火星のホテルを占拠したので結構難しかったですが、何とかなりました」
「ごめんね、本当は私も行ってれば良かったんだけど」
「碧様、あなたのせいではありません。悪いのはテロリストたちですから」
「なら、いいんだけど」
碧は相変わらず焦っていた。
「碧、焦るな。一歩ずつ、着実に」
「うん、ノウェムさん」
ノウェムは優しく碧を諭す。
「碧様、どうぞお心を穏やかに、無理をせず」
ウヌスも気づかった言葉をかける。
「お嬢~、元気か~!」
「ばっか、元気じゃねぇから休んでるんだろうが」
「無理しないでね!」
「お嬢様、どうか無理なさらず」
わらわらとやって来たガンツたちも、みんな優しくいう。
碧は落ち着いた表情をとろり戻した。
「ふぅ、今日は2件も依頼受けられた」
夕飯を食べ、自室に戻り碧は息を吐き出す。
一件はハッキングによるロボットたちの暴走の鎮圧。
碧とノウェムとウヌスでハッカー軍団を見つけ出して鎮圧。
ハッキングされているのをウヌスが元の状態に戻し、無事解決。
2件目はパラシートゥス迎撃戦。
火星にかなり接近されていたからとにかく碧の消耗が激しかった。
大型個体は20体もいたし、中型個体は100体いた。
小型と超高速型は数え切れないほどいた。
迎撃戦後、役に立ったか分からないと碧がしょげていたから、ノウェムは「君の補助のお陰だ」と加圧室で抱きしめた。
「私は、君の護衛で恋人だからな」
と言って、碧から離れることもない。
触れ合いも以前のような穏やかなものに戻った。
口づけて、触れ合って、その熱に浮かされ、笑い合う。
それが何より心地良い。
その熱を抱いて、二人で抱き合って眠るのが落ち着く。
朝、着替えてブローチをつけると、既に着替えていたノウェムが碧を背後から抱きしめて首筋にキスをした。
「今日も無理はしないでくれ」
「うん」
碧は少しずつよくなっていた。
桐人が突如やって来て──
「え、今日はメンテするから大人しくしてろって」
「そうだよ、今の戦艦もパワードスーツも俺しかメンテできないから、普段使ってるブローチ型のも貸せ、時計型でなんとかしのげ、何かあったら」
ちょうど時計型もつけていたので、それでしのぐことになった。
つまり強制的な──
「休暇ってこと」
「そういうことだよ、碧ちゃん、偉いですねー」
「言い方なんかムカつく」
「酷い、可愛い碧が反抗期だ!」
めそめそと泣くフリをする桐人に碧は盛大にため息をついた。
「分かったら、早めに対応よろしくねー」
「……へーい」
ノウェムはそんな桐人を見て笑っていた。
何かあったら困るからと、碧はレティシアに連絡して桐人の修理が終わるまで会社は臨時休業となった。
雨が降り始める。
雨音は聞こえない、防音の効果で。
碧は窓の外を眺めていた。
ノウェムは、雨音が聞きたいのではないかと思った。
ノウェムは部屋の中の装置をいじった。
ザァアアア……
心地良い雨音がきこえる。
「ノウェムさん、なにしたの?」
「外の音は聞こえるが、内部の音は聞こえない状態にした。これで雨音くらいなら聞けるだろう。少しは気が紛れるとよいのだが……」
「うん、心地良いから嬉しいよ」
「そうか……」
そう言って、碧はベッドに横になる。
ノウェムは腰をかけて碧の頬を撫でてくれる。
「ねぇ、ノウェムさん」
「何だ、碧」
「しよう? 駄目?」
仕事で疲れてしまっているのか、最近は触れ合っていない。
ノウェムは、何かの機具で部屋中を調べた。
二つほど、モナル社製の盗聴器が見つかった。
「仕込んだ犯人は大体想像がついている」
ノウェムはそう言って盗聴器を破壊して、捨てに行った。
「ドゥオー! 貴様、以前入った時に盗聴器を仕掛けたなー⁈」
「げぇ、バレた!」
「よし、スプラッターの刑だな。私に任せろ」
「いいのか、いつも任せているが」
ウヌスは微笑んだ。
「これから恋人同士の時間を大切にするのだから、邪魔をさせるわけにはいかん」
ノウェムは少しだけ赤くなり「そうか」と言ってその場を後にした。
断末魔のような叫び声が聞こえたが、いつものことだったので気にしないことにした。
ノウェムは鍵を開けて入り閉めた。
「犯人は?」
「ドゥオ以外に誰がいる?」
「ははは、だよねー……」
「アイツをスプラッターの刑に処すのはウヌスに任せた」
「というかウヌスさんばっかりにさせて申し訳ない……」
碧がそう言うとノウェムは苦く笑った。
「これから恋人同士の時間を大切にするのだから、邪魔をさせるわけにはいかん、とウヌスに言われた」
「見透かされてるー!」
碧は思わず顔が赤くなった。
「碧、あまり無理をするな」
「うん……」
「社員は全員心配するし、家族も心配するだろう。何より私が心配する」
そう言って、ノウェムは碧に覆い被さった。
ボディスーツのチャックが下ろされる。
柔らかな肌の感触。
口づけする度に、柔らかく温かな体温を感じる。
うなじや胸元に口づけ、くすぐったさに碧が笑えば、より鮮やかな赤が咲く。
雨音と共に、深く、深く愛し合う感触に溺れる──
「今日も雨だね……」
「桐人が『雨だと戦艦整備できねーわ!』って嘆いていたぞ」
「戦艦が入るくらいの場所ないもんね……」
「あの戦艦を持ってモナル社の整備工場に行けば何か起きるかもしれないと、桐人は拒否しているし、レティシアも同じ意見だ」
「どういうこと?」
碧がノウェムに尋ねると、ノウェムはふぅと息を吐いた。
「ヒース副社長が裏切り者だと分かっているだろう。そいつが戦艦の情報を横流しする恐れがある」
「‼」
碧は手を握りしめ唇を噛んでいた。
「碧、落ち着いてくれ」
「あ……」
爪が食い込んで痕が残るくらい、手を握りしめていた。
碧の目から涙がこぼれてきた。
その涙をノウェムは拭い、碧を抱きしめてくれた。
「大声で泣いて良いんだ、聞いてるのは私だけだから」
碧は大声で泣いた。
心の底から泣きじゃくっているのがわかった──
前書きに書いてたとおり幕間です。
碧がいないところをちょこちょこかいていたりします。
まだ本調子ではない碧ですが、やがて来る事態に備えて回復しなければなりません?
それは何かはお楽しみに!
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




