93.パラシートゥス研究所にて~不気味な存在との対峙と周囲の温かさ~
碧の今回の仕事はパラシートゥス研究所で、暴走したロボットと生物の駆除だった。
碧は冷静にロボットの駆除を行うが、それに心を痛める。
その時通信が入り──
今日の仕事は、パラシートゥスの研究所で暴走した、パラシートゥスに寄生されたロボットと生物の駆除だ。
メインコンピューターも乗っ取られているという。
私は冷静にロボットの駆除を行う。
パラシートゥスを打ち抜き、消滅させる。
パラシートゥスに寄生されていたロボットは、頭脳と呼べる場所まで寄生されているので、そこを破壊されれば同時に機能を失ってしまう。
だから、何も言わない鉄の塊になる。
それが悲しい。
『碧! そちらにパラシートゥスに寄生された生物が向かっている、逃げたほうがいい』
「大丈夫、撃退できるから!」
私の目に映ったのは──
以前、別の研究所で見た人間がバケモノになったような姿の生き物だった。
吐き気を堪える。
そして、その生物に寄生しているパラシートゥスを破壊する。
だが、生物はこちらに向かってくるので、急所である頭部に照準を定め、弾丸を発射する。
頭がはじけ飛び、崩れ落ちる。
それでも込み上げてくる吐き気を必死に抑える。
まだ、やれる、と言い聞かせながら。
「碧!」
ノウェムさんがやって来た。
「逃亡しても良かったんだ、私が対処しようと思っていたから……」
「ううん、いいの。やらなきゃいけないことをやっただけだから」
「……無理は、しないでくれ」
「してないよ」
そう言って笑うと、ノウェムさんは首を横に振った。
「無理をしている、今にも吐きたくて仕方ないんだろう」
「……」
見透かされている。
だから何も言えない。
『こちらウヌス、メインコンピューターを破壊、パラシートゥスの反応を確認したがこの周囲には見当たらない』
「了解、こちらノウェム。碧が本調子ではない、故に私たちはこの仕事で上がらせてもらう」
『了解した』
そうして、ノウェムさんに抱きかかえられ、戦艦に戻り──
「おぇえええ‼」
トイレで思いっきり吐いた。
ノウェムさんがさすってくれている。
一度会社に戻った後、またトイレにこもって吐いた。
あの気持ち悪い生物は受け付けない。
それにロボットたちを殺す感触、あれは辛い。
家族を殺すような感触がする。
慣れちゃいけないけど、受け入れなければいけないそんな感触だった。
ようやく吐き終わると、ノウェムさんは白湯を持ってきてくれた。
口をゆすいで水を吐き出し、残りの白湯は飲む。
胃の中がじんわり温かくなる。
「ごめんね、手間をかけさせて」
「手間ではない、君が無理をしているのに耐えられないんだ」
「……」
「吐くほどの無理はしないでくれ……頼む」
困ったなぁ、これからもっとそういう場面がありそうなのに。
「うん、無理だったら逃げるかノウェムさんに応援を求めるよ」
「それでいい。君はまだ病み上がりだ、無理だけは避けたい」
「……うん」
ノウェムさんに抱きしめられる。
心が落ち着く、安心する。
「さて、少しでも文字が読めるよう本でも読むか、漫画か、絵本か」
「今日は漫画かな」
そう言って自室に戻る。
最近はやりの乙女向けの漫画を取り出し、読み始める。
恋というのはノウェムさんとしかしたことがないが、ファンタジーの世界ではこういう恋の描かれ方もあるのかと思いながら読み進める。
ノウェムさんは私を抱きしめながら、ページをめくるのを眺めている。
思いが報われた恋の話のページで私の手が止まる。
口づけを交わす恋人たち。
キス、したいな。
ノウェムさんと。
「ノウェムさん、キス、してほしいな」
「──ああ、いいとも」
そう言って私たちはキスをする。
ほんの数秒の間だったけど、それだけで幸せな気持ちになれた。
するとノウェムさんは、私の頬や首筋にキスをし始めた。
「ノウェムさん」
「君が可愛すぎるから、つい」
そんなことを言っていると──
「チーッス! 碧ちゃん、ノウェム今日も元気にいちゃついてるぅ!」
ドゥオの野郎がやって来た。
こいつ、良い雰囲気だったのを台無しにして……!
そもそもなんで……あれ、なんでアイツがマスターキー持ってるの?
私とノウェムさん、ウヌスさんしか持ってないのに⁈
「おい、ドゥオ。そのマスターキー。いつ複製した?」
「え⁈」
「いやぁ、ウヌスの奴、いつも金庫にしまって毎回番号変えてるけど、この間、番号を一発で当てたから、複製して戻しておいたんだよな!」
「ノウェムさん、あのマスターキーの複製版を取り上げて。あとドゥオ、アンタは後でウヌスさんのスプラッター刑だ。覚悟しておけ」
私は地を這うような声で言い、ドゥオを睨んだ。
ドゥオはしまったと言わんばかりの顔をしたが、もう遅い。
ノウェムさんはドゥオを追いかけて行った。
私は扉を閉め、鍵をかけて待つ。
少し寂しいが一人で読み進めることに。
しばらくして鍵が開き、ノウェムさんが入って来た。
「複製版は取り上げて破壊した。ちょうどウヌスが帰還したから、スプラッターの刑に処せと碧が言っていたと告げると、了承して倉庫の方へドゥオを連行した」
前にも断末魔のような叫び声が聞こえたが、いつものことだったので気にしないことにした。
これに関しては平気なのがちょっと驚いている。
しばらくしてウヌスさんがノックをして入って来た。
「申し訳ない、金庫の番号を毎回変えていたにもかかわらずこの始末……」
「いいよ、ウヌスさんは悪くないから」
「そうだ、たまたま運悪くドゥオの馬鹿に当てられてしまっただけだ」
「そう言っていただけるとありがたい」
本当、ウヌスさんはちゃんと管理してたんだもの。
パスワードも毎回変える徹底ぶりだし、ドゥオが相手ならしゃーないもの。
「ところで、もう一つの仕事は何だったの?」
「テロリストの鎮圧でした。火星のホテルを占拠したので結構難しかったですが、何とかなりました」
「ごめんね、本当は私も行ってれば良かったんだけど」
「碧様、貴方のせいではありません。悪いのはテロリストたちですから」
「なら、いいんだけど」
順番が逆だったら、両方こなせたのになぁ。
そう思ってしまう自分がいた。
「碧、焦るな。一歩ずつ、着実に」
「うん、ノウェムさん」
ノウェムさんは優しい。
「碧様、どうか心穏やかに。無理をなさらず」
ウヌスさんも優しい。
「お嬢~、元気か~⁈」
「ばっか、元気じゃねぇから休んでるんだろうが」
「無理しないでね!」
「お嬢様、どうか無理なさらず」
わらわらとやって来たガンツたちも、みんな優しい。
うん、まだ一歩踏み出せた。
それで良い。
一歩ずつ、進んでいこう。
碧がまだ本調子じゃないけれども、仕事に向き合おうとしているのが分かる回かなと。
そして周囲が理解してくれるからこそ、碧は安心して色々と出来るのだと言うのが分かります。
またロボットの駆除は家族であるクラレンスたちを手にかけるような感触がしてどうしてもやりたくない嫌な気分になっているのです。
そして再び出てきた不気味な生物に吐いてしまう程、彼女にとってはその生物は不気味だったのでしょう。
だからこそ、ノウェムが謝罪するのです。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




