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91.求められる~そして悪夢に立ち向かう~

文字すらまともに読めなくなり、自分を完全な足手まとい、お荷物と感じ泣きわめく碧。

それを宥めるノウェム。

その声に反応して、クラレンスたちがやって来て──



 私は休憩室でうなだれていた。

 隣にはノウェムさんが座って私の背中をさすってくれている。


「碧、無理するな。新聞なんて、文章が長々と書かれているんだぞ?」

「だから悔しい! 大きくて短い文字だけしか読めないのが!」


 泣きながら言うと、何事かとクラレンスたちが入って来た。


「ノウェムさん、貴方まさかお嬢様を……⁈」

「違うの私──」


 つかみかからん勢いのクラレンスとレイジングを止めるため、恥を忍んで暴露することにした。


「文字のほとんどが読めなくなっちゃったの!」


「「「「え⁈」」」」


 四人から驚きの声が上がった。


「文字が読めないのであれば契約書も読めないだろう。だからデスクワークもできなくなった。ほぼ完全休養だ。瓦礫の撤去作業などの簡易的なものだったら出ても大丈夫かもしれないが、大事を取って私も碧も大人しくしろと桐人に言われた」


 ノウェムさんが説明を補足してくれた。


「それは、辛いよぉ……」


 メフィストが項垂れるように言った。


「お嬢さん、だからって自分を責めすぎるなよ」

「でもでも……」

「今まで無理しすぎてたんですよ。だからゆっくり休むように言ってるのですよ。きっと神様が──」


 レイジングとクラレンスが宥めようとするが、吐き出したくてたまらない。


「ノウェム、部屋に連れて行ってやれ。ここじゃお嬢さんが辛い」

「分かった」


 レイジングがそう言うと、ノウェムさんは私を抱きかかえて、自室へと戻り、鍵をかけた。


「思う存分言っていい」

「──神様がいるんなら、なんでお父さんたちは殺されたの⁈ なんで今もパラシートゥスで馬鹿やるやつが一杯いるの⁈ 何より──」


「どうして私は役立たずになっちゃったの⁈」


 涙がボロボロとこぼれて止まらない。

 悔しい、辛い、悲しい、いろんな感情がごちゃ混ぜになる。



 どうして私は駄目なんだろう。

 迷惑しかかけられないんだろう。

 最初の頃も、今だって。



 もう、頑張れないのかな。


「碧、君の兄──順がいじめで心を病んで引きこもり生活になったと話したことがあったな?」

「うん……今は立派なパパみたいだけど……」


 昔の、生気も覇気もなにもない、死人のような順兄さんからは考えられないような働きっぷりだ。

 パトリで仕事をし始めた時も、少し生き生きしていたが、レティシアさんに押せ押せされて結婚した結果、こうなるとは予想もしなかった。


 そんな順兄さんが今は羨ましい。


 自分は今、何もできない人間になっているから。

 みんなの足手まといだ。


 それが苦しい。

 それが悲しい。


 どうしよう。

 どうにかして、元に戻らないと。



 痛みに慣れなくちゃ。

 痛いのに。


 ノウェムさんが居ない自室でカッターナイフを手に取る。

 震える手で自分の腕を切り裂く。


 痛い、痛い。

 でも、耐えなくちゃ。

 これくらい耐えられないとお仕事に戻れない。



 カッターナイフを握っていた手を掴まれる。


「碧、何をしているんだ?」


 ノウェムさんが困惑の眼差しを私に向けている。


「だって、痛いのに……強くならないと、お仕事ができない。お仕事に戻れない」


 私は泣きながら答える。


「そこまで君は自分を追い詰めているのか……私では駄目なのか?」

「だって、ノウェムさんに迷惑をかけちゃってる……」

「私は迷惑だと思ったことなど一度も無い」


「でも……」

「とにかく傷の手当だ」


 そう言って、一時間ほどで傷が塞がる塗り薬を塗り、包帯で手を覆う。

 手当が終わると、私をベッドに寝かせ、その上から覆い被さるようにして言った。


「なら私がどれだけ君を欲して我慢しているか分からせよう」


 着ていた服も、着用していたボディースーツも脱がされた。



「今までは多少加減していたが、今日からは無しだ」



 そう言って、深く口づけをされた。




 触れられる箇所が全て熱い。

 体の全てを暴かれて、今まで触れなかった箇所もより深く触れられて快楽が体を支配する。

 指で、舌で、口で全身を愛でられる。

 恥ずかしさなんてどこかへ行ってしまった。

 脳みそなんてどろどろに溶けたように、快楽に屈服している。

 口から出る言葉はねだる言葉ばかり。


 ああ──


 余計なことを考えなくていいなんて、なんて気持ちがいい。



 その日から、私とノウェムさんの不健全な日々は始まった。



 朝食後、歯磨きを終えると、本を読む暇もなくベッドへ連行。

 意識を失うまで触れ合う──いやもう、抱かれ続けているといったほうが近いと思う。


 目を覚まして、本を読もうとすると、監視しているかのように現れて昼食を食べさせてくれた後、歯磨きをしてまたベッドへ。


 夜も同じ──だけど、夜はお風呂の中でも触ってくるようになって、疲弊したところにさらに激しい触れ方をされるので、意識が飛ぶ。


 そして朝起きるの繰り返し。



 これでいいのだろうかと、思ってしまう。


 そしてある日、珍しくノウェムさんが来ないなと思って部屋を出ると、銃撃音が響いた。

 私は心臓の鼓動が速くなるのを感じながらも、パワードスーツを装着する。


「ウヌスたちが居ない間に来やがって!」

「この数はかなり危険──」

「⁈ 碧、何をしている⁈ 部屋に戻れ‼」


 後ろからノウェムさんに襲いかかろうとする連中を見た。

 どくん、と心臓が大きく脈打った。


 私は──


「ノウェムさんに触るなああああ!」


 跳び蹴りを喰らわせ、そのまま回転蹴りで周囲を一掃する。

 空気が崩れる。

 私たちにとっては、良い方向に。


「よっしゃ行くぞ」

「ええ」

「はい!」


 ドゥオの声に、トレースさんとセムさんが応じて私はその場にへたり込む。

 ノウェムさんがパワードスーツを着用したまま私を抱きかかえた。


「全く、君はなんて無茶をするんだ!」

「だって……ノウェムさんの無事が大事だから……」


 そこで私の緊張の糸が切れ、意識は暗転した──






碧の病気が悪化し、ノウェムに依存している話です。

しかし、碧がノウェムを守るために動きましたね。

それが彼女の病気を治す切っ掛けになれば良いのですが。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

誤字脱字報告等ありがとうございます。

次回も読んでくださるとうれしいです。

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