【幕間】碧療養中のパトリ社~過保護なクラレンスと指摘する者、そして碧の状態~
碧が顔を出すようになってから少しずつガンツとメフィストは調子を取り戻した。
ただ、それでも出てこないときがあり、何をしてるかの話になり──
「お嬢、少しずつじゃが顔を出すようになってきたのぉ」
「でも、出てこない日のほうが多いよね」
少しずつ碧が顔を出すようになってから、ガンツとメフィストの表情は明るくなっていた。
「でも出てないときは何してるんだろう、食事以外」
「そりゃセック○もど──」
「だから、言わないでください!」
「この潔癖症め」
聴覚回路をシャットダウンしようとしてまで聞かないようにするクラレンスに、レイジングは悪態をついた。
「ヤることヤってスッキリするなら別にいいだろうが」
「これだから元からの戦闘型は……!」
レイジングの言葉にクラレンスは怒りで返す。
「へーへー、スポーツ型には分からねーだろうけどな」
「でも、噂で聞いたけど、人間のスポーツ選手もストレスが凄いから、性行為で発散させてるとか」
「あーあー! 止めてください聞きたくないです!」
そこへメフィストが追い打ちをかけるような話をすると、クラレンスは耳らしき箇所を塞いで叫ぶ。
「お前さん本当潔癖症じゃな。それとも何じゃ? お嬢がそういうことしてたら、お前さんはお嬢と距離を取るんか?」
「そんなわけないでしょう!」
ガンツに指摘されてクラレンスは怒鳴った。
「じゃあ、いいじゃねぇか」
「それとこれとは話が別なんですよ……!」
「お前さんにとって、お嬢さんはいくつになっても可愛いお姫様で、お嬢様だもんなぁ。」
「そうですよ! だから……あー! 止めてくださいノウェムさん! お嬢様に無体なことをするのは止めてください!」
「このむっつりスケベぇが」
「誰がむっつりスケベですか!」
苦悩しつつ悶絶しているクラレンスに、レイジングは冷たく言い放った。
クラレンスはその言葉に激怒した。
「お前だよ」
レイジングはクラレンスに冷たい視線を向けた。
「何ですか、貴方達は⁈ 慣れたんですか⁈ 慣れたんですか⁈」
「いや、だって前桐人がドアぶち壊した時にそういうことした後の奴みたからもういいかなって」
メフィストが言うとガンツがうんうんと頷いた。
「もう、そこまで言っちまったならやることやっても儂は驚かんわ」
「僕もー」
「俺もだ、やる前ならともかく、やっちまったならそっから進んでもおかしくないだろう?」
「私には理解できない……!」
「本当過保護というか潔癖というか、難儀な性格だなお前」
頭を抱えるクラレンスにレイジングは呆れたように言った。
「もうちょっとお嬢様を心配してくださいよ!」
「心配してるからノウェムに任せてるんだろう」
「そうじゃそうじゃ」
「そうだよ、最初はお嬢ちゃんが自室にこもった時は不安だったけど、今はノウェムに任せた方がいいって分かったし」
「ほら、メフィストだってそう言ってるじゃねぇか」
メフィストの言葉に頷くガンツを見ながら、レイジングは親指でメフィストを指差した。
「それともなんだ、まだノウェムのことは信用できねぇのか?」
「信用できないんじゃなくてその、えーと……」
「嫉妬しとるとハッキリ言わんか」
レイジングの指摘に答えられずにいるクラレンスに代わり、ガンツが答えた。
「ガンツ!」
「全く、お前さんは、お嬢に関しては本当に過保護じゃの?」
「うぐ……」
休憩室のドアがノックされる音がした。
「入っていいですよ」
クラレンスが誤魔化すように言うと、美奈とウヌスが入ってきた。
「お母さんがお土産にお菓子キューブを持ってきてくれたから、皆で食べてください。赤いのが苺ケーキ味で、茶色のがチョコレートで、茶色と白のしましまがティラミス味だそうです。新作らしいです」
「美奈の母君に感謝せねばな」
「そうじゃの、今いるのか?」
「今ノウェムさんにクッキー作り教えてるからいるよ」
「じゃあ行くか」
「そうじゃの」
ウヌスと美奈からキューブがたくさん入った箱を受け取り、休憩室の隅に置くと全員で台所に向かった。
台所では、ノウェムと美奈の母親がクッキー作りをしており、美奈も戻るなり参加し始めた。
そして、碧がいた。
虚ろな表情で椅子に座り、誰が見てもノウェムだけを見ているのが分かった。
「お嬢……むぐ⁈」
「しーっ、静かにしろ。今のお嬢さんには話しかけるな」
クラレンスが話しかけようとしたのをレイジングが阻止し、小声で忠告した。
「今のお嬢さんは、ノウェムしか見てない。分かるだろ?」
「わ、分かりますが……」
「俺達の足音にも何の反応も示してない。だから、向こうから気がつくまで待て」
レイジングの言葉にしぶしぶクラレンスは頷き、ガンツとメフィストは口を閉じていた。
「碧、クッキーが上手くできたが、何処で食べる」
「お部屋で……ん? クラレンスにメフィスト、レイジング、ガンツ……みんないたんだ。気付かなくてゴメン……」
ようやくクラレンスたちに気付いた碧はぼんやりとした表情で謝罪した。
「気にするな」
「どうしたの、みんな……」
「いや、美奈の母から新作の菓子キューブを貰ったから礼を言おうと思ってきたんだ」
「みっちゃんのお母さん、ありがとうございます……」
「いいのよ、どうぞ召し上がってくださいね。では私は失礼します」
「セム、護衛を」
「はい!」
セムがやって来て美奈の母親の護衛についた。
「碧ちゃん、無理しないでね」
「はい……」
碧は美奈の母親を見送った。
そして、ノウェムと一緒に部屋へ戻っていった。
「じゃあ、私はここでセムさんを待ちますね」
「くれぐれも鍵はしっかり閉めておきたまえ」
「はい」
ウヌスの忠告を守り、美奈はクラレンスたちとウヌスが外へ出ると鍵をかけた。
「随分気にしてるなウヌス」
「美奈様に何かあって、碧様が自分を責めることがあったら困るからな」
「ああ……」
以前、美奈は桐人を狙った犯罪者に捕まり、致死性のウイルスを投与されたことがあった。
その時の碧にはまだ心の芯があったため、桐人の500億の借金を背負うことと引き換えに、美奈の命を救った。
だが、今の碧にまた同じことがあれば、自分を責めて、責めて、最悪の場合には自死しかねない状態だ。
ノウェムがいる限り、その可能性は低い。
だが、それでも心にさらに傷を負えば、復帰するどころか、美奈を退職させて自分との関わりを断ち切ろうとすることは目に見えている。
「碧様にこれ以上負担をかけたくはない」
「貴方の主人からの指示ですか?」
「それもあるが、私個人の意見でもある。幾多の苦労を乗り越えたのに、再起不能の結末では報われない」
「ハッピーエンドがお望みか?」
「そうだな、現実はままならない結末ばかりだ。だからこそ、私が関わったのなら、良い結末で終わってくれることだけを祈る」
「アンタが見た結末は普通か? ビターエンドか? メリーバッドエンドか? それともバッドエンドか?」
「全て見た、幸福な結末が少なすぎる」
ウヌスは肩をすくめて言った。
「よぉ」
「「「「桐人⁈」」」」
突然やって来た桐人に、四人は驚きを隠せなかった。
「あれ、咲良ちゃんは?」
「今スリープ中、だから俺だけで来た」
「何の用だ」
「先日、俺が薬を処方したろ? お前らから見て、様子はどうだ?」
「……少しはマシ、かと」
桐人の言葉にクラレンスは答える。
「ならいい。あと、新作の菓子キューブ貰ったろお前ら」
「貰ったけど、それが?」
メフィストが首を傾げる。
「アレ、俺が作ったんだよ。一応、モナル社のロボットからも意見を聞いてある。食ったら連絡してくれ。頼む。今後、洋菓子と和菓子のシリーズを出したいって、レティシアから相談されてな」
「まだ食べてないですが、作ったの、貴方だったんですか⁈」
「そうだぜ、当分苺ケーキとチョコケーキとティラミスは食いたくねーや」
桐人はげんなりしたように言った。
「食べて、成分を研究して、味を再現したってこと?」
「そゆこと、お前らの『味覚』でそれを感じ取れるかが心配だったがな」
「では、食べたら忌憚のない意見を述べさせてもらおうか」
「頼んだぜ、ところで──」
「「「「?」」」」
「碧とノウェム、何か前に診察したのを見たけど、やることやってねぇか?」
ドンガラガッシャーン!
四人は見事に重なり合うように倒れた。
「お、お前が言うか……それを!」
「いや、ちょっとここに碧のフェロモン的な残り香があるから、そうかなって」
「ちょっと待て、お前の嗅覚どうなってる⁈」
「ご想像にお任せしまーす」
レイジングの言葉を茶化すように桐人ははぐらかした。
「桐人様、あまりこういうところでする話ではないでしょう? 誰かが聞いているかもしれませんし……」
「お前らしか聞いてないから尋ねたんだよ。美奈だっけか? 社内にこもり中だから、聞いてないだろうし」
「尚更タチが悪いです」
ウヌスは眉間を押さえながら言った。
「まぁ、いいや。どんな形であれ、碧の調子が良くなるのを俺は願ってるぜ」
桐人はそう言っていなくなった。
そして、一ヶ月後──
碧は一ヶ月の療養を経て復帰し、軽い仕事をしていた。
表情は以前のように明るくなっていたが、どこか不安が顔に張り付いていた。
そんなある日、襲撃を受け、碧は完全復帰の見通しがまた立たなくなった。
碧が無事だったことに安堵したクラレンスたちは、デスクワークだけは完全復帰ということに嫌そうな顔をする碧を見て、苦笑いを浮かべた。
そして、四人は決意した。
まだ本調子ではない碧を守るため、自分たちがもっと頑張らなければならないと──
再び幕間。
碧がいない間のクラレンスたち。
相変わらずクラレンスは過保護です。
他の三人はもう受け入れちゃってますが。
ウヌスもウヌスで思う所がある様子。
桐人は桐人で色々やっている様子。
本調子ではない碧を守るため、決意する四人の心は一つですね。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




