【幕間】碧のいない現場と会社~碧の存在の大切さ~
碧が休養に入った後、会社内でメフィストが落ち込んでいた。
彼女がそこまで追い詰められていることを知らなかったと嘆くメフィストにレイジングは──
「……」
メフィストはしょんぼりとした顔で座り込んでいた。
「おう、どうしたメフィスト」
「僕、お嬢があんなに苦しんでるの全然知らなかった」
レイジングが声をかけると、メフィストは自分を責めるように言った。
「……それは俺らもだよ。クラレンスもガンツも全員自分を責めてやがる」
「レイジングはどうなのさ」
「心配が現実になっちまったことを責めているさ、お嬢さんは気丈だ。でも純粋すぎる、悪意にさらされ続けたり、危険な仕事をこなし続けるといつしかダメになっちまう」
「レイジングは助言しなかったの? お嬢がこうなるって予想してたのに⁈」
メフィストは責めるようにレイジングに言った。
「そこは俺にも非はある、言い出しにくい内容だったんでな」
「……お嬢、よくなる?」
「今はノウェムに頼るしかねぇな。今のお嬢さんは、ノウェムに依存しちまっている」
「……悔しいなぁ、僕たちの方がお嬢と長くいたのに」
「やっぱガキだなメフィストは」
レイジングはそう言ってメフィストにデコピンをした。
「いっで!」
「あのな、俺らはお嬢さんの『家族』だが、ノウェムは『恋人』であり、『家族』でもある。その上、お嬢さんが俺らには見せられない場所にだって入っていけるのがノウェムだ。俺らは家族だからこそ踏み込めないが、ノウェムは『恋人』だからこそ踏み込める理由がある」
レイジングはそう説明するとメフィストは涙目になりながら問いかける。
「ノウェムも『家族』扱いなら……」
「その前に『恋人』が来る。だから俺らが立ち入れない場所に入っていけるんだ。俺らの前では無理して笑うようになってるだろう、ノウェムの前だと素になってると俺は予測した」
「素になるって……?」
「そりゃ、死んだような顔してるんだろ」
メフィストは顔色を青くした。
「そ、そんなに悪くなるまで気付かなかったなんて僕ら、なんて酷い『家族』じゃないか……!」
「お嬢は隠すのが上手いからな。セスというナンバーズからトレースの奴が聞いた話だと、『両親とノウェムが殺されて、黒い影が自分を嗤っていた』って内容の夢を見たのが、具合が悪くなったきっかけだ」
「あ、悪夢って奴?」
「俺たちロボットは『夢』をスリープモードでも見ないが、人間は眠ると、稀に夢を見ることがある。お嬢さんは心が弱っている時に悪夢を見て、精神を病んだんだ」
「悪夢って、怖い」
「そうだな」
レイジングは持っていたエネルギードリンクを飲んでから呟いた。
「大切な者を失うのは誰だって怖いからな」
「おい、メフィスト! そっちに寄生した奴いったぞ!」
「ちょちょ、ちょっと待って、僕支援型なんだってばー!」
パラシートゥスに寄生された生物に追われ、メフィストは煙幕を張って逃げ出した。
「麻痺させる奴にしろよ!」
レイジングは悪態をつきながら、煙幕の隙間から見える生物に照準を合わせて狙撃し、パラシートゥスを消滅させ、寄生された生物も仕留めた。
「ガンツ、そのまま抑えててください!」
「おう!」
牛を元に改造したような生物もパラシートゥスに寄生されていた。
ガンツはその生き物のツノを掴んで押さえ込む。
クラレンスは腕に装着された銃でパラシートゥスを破壊後、生物の首をエペで切り落とした。
「気分が悪いですね……」
「お嬢が病むのも仕方ないの、これでは」
『ウヌスだ、続けてパラシートゥスが木星に近づいている、戦艦に乗れ後始末は別部隊に任せる』
ウヌスからの通信に、クラレンスとガンツはため息をついた。
「お嬢がいないというだけでしんどいのぉ……」
「お嬢様はムードメーカーでもありましたから……その上今のメフィストはムードメーカーの役割を果たしてませんし……」
そう愚痴を漏らしつつ戦艦へと急いだ。
「では、私は行ってくる。援護と主砲の方は任せたぞ」
「かしこまりました」
ウヌスが操舵室からいなくなると、クラレンスたちは一斉に息を吐いた。
「やはり、息が詰まる……!」
クラレンスは疲れたように言った。
「お嬢がいないのやっぱりやだよー!」
「おいコラ、メフィスト。言ったろうが、今のお嬢は休まないとダメだと」
レイジングがわざわざ移動してメフィストを殴ってから所定の位置に戻り、追撃ミサイルの発射や主砲の充填操作を開始する。
「でもでもー!」
「メフィスト、儂等はお嬢に頼りすぎじゃったんじゃ、それ位わかるじゃろう」
「うー……」
ガンツもモニターを見ながらメフィストをたしなめる。
「30分、充填完了!」
「主砲発射可能です」
『了解、一時離脱する』
ガンツがモニターで友軍と、ウヌスが領域から離脱したのを確認する。
「離脱確認!」
「主砲発射!」
主砲が放たれ一瞬で大多数のパラシートゥスが消滅する。
「次の発射はあと30分だ!」
「了解!」
『迎撃戦は無事完了した、が。ロボット暴走の案件が入った、行くぞ』
「ヤダー!」
メフィストがついに音を上げた。
いつもなら、音を上げる役は碧なのだが。
そしてノウェムやみんなで宥めて仕事に向かうのが今までだった。
『君たちの大事なお嬢様の会社を守るためだ。働いてくれ』
ウヌスは淡々と言い、操舵室に戻ってきた。
「ポイントは送ったな、ワープだ」
「了解しました」
クラレンスはワープを開始した。
ロボットたちは、工事の邪魔をしていたデモ隊によってハッキングされていたことが分かり、ウヌスはデモ隊を鎮圧し、警察に全員引き渡した。
その間、クラレンスたちは、ロボットを警棒状の武器などで強制停止させ、ガンツはロボットをぶん投げて緊急停止に追い込み、メフィストは煙幕と麻痺させる道具を使って動けなくさせていた。
「今日の任務はこれで終わりにしておこう。君たちも本調子じゃないようだ」
戦艦に戻ると、ウヌスは淡々と言った。
「やった! 帰れる!」
「メフィスト、帰れるっていっても、お嬢さんに会えるわけじゃないんだぜ?」
喜ぶメフィストにレイジングが現実を突きつけた。
「そうだったー!」
メフィストは頭を抱える。
「取りあえず、ワープして帰りましょう」
クラレンスも疲れたように言った。
「……お前さんら重症じゃな、色んな意味で。まぁわからんでもない」
メンテナンス室にやって来たクラレンス達に、宗一はそう言うと、早速メンテナンスを開始した。
「メフィストは消耗が激しいから儂がやる。トレース、涼、クラレンス、レイジング、ガンツは、お前さんたちでやってくれ」
「分かったよ爺ちゃん」
「分かりました宗一様」
涼とトレースは、宗一から黄色のカードを渡されたレイジングとクラレンスのメンテナンスを分担して行い、青色のカードを渡されたガンツは一番最後にメンテナンスを受けた。
「お前さんらには安心して任せられるの」
宗一は微笑んで涼とトレースを見る。
「あれ? ねぇ宗一の爺ちゃん、ドゥオは? どうしたの?」
「奴ならとんでもない馬鹿しよったからそれを報告したらウヌスに連れて行かれたぞ」
「「ウヘァ……」」
メフィストと涼の言葉が重なる。
「どんな馬鹿やったんですか?」
「通常のロボットのAIを書き換えるというシミュレーションを、裏でハッキングしたどこぞのロボットを使ってやろうとしてたんじゃ。何を考えとるんじゃ、彼奴は!」
「メンテナンスの練習してねぇと思ってたら滅茶苦茶犯罪行為じゃん……」
涼が呆れつつも、青い顔をして言った。
「バレる前に拳骨で止めたがの、全く怒りで腹わたが煮えくり返りそうじゃ!」
「これは……フォローできませんね」
激怒している宗一を見て、トレースはため息をついた。
「全くあの馬鹿は……」
「宗一殿、締めておきましたが、今日はもう使い物にならないので、説教は明日でお願いします。私も一緒に説教しますので」
「おお、すまんの」
ウヌスがやって来て、宗一に報告すると宗一は感謝するように頭を下げた。
「私の後継であるドゥオが申し訳ない……何故トレースのようにできないのか」
「それは、本当に私も不思議です」
ウヌスの言葉にトレースも同意した。
メンテナンス後、ロボットたち専用の休憩スペースで全員がため息をついた。
「お嬢、大丈夫かの?」
「大丈夫じゃねぇから休んでるんだろう」
「……ノウェムの奴、何かしてないよね」
「いや、してるだろ?」
「何々⁈」
エネルギードリンクを飲んでいたレイジングにメフィストが詰め寄る。
「俺はやったことねぇが、人間の野郎たちは、用意されてたセクサロイドとがっつりしけ込んでたぜ」
「ぶっふ!」
クラレンスがその言葉を聞いてエネルギードリンクを吹き出した。
「うっわ汚ぇ!」
「貴方の言い方が汚いんですよ!」
「じゃあセックスしてたって言ったほうが良かったか?」
「生々しい!」
クラレンスがレイジングに噛みつくように言った。
「でも、ノウェムにはそういう機能は付いてないし、道具とか持ち込んでる形跡もないよ」
「桐人の奴が言ってた触れ合いをちょっと激しくした感じの奴でもやってんだろ」
「い・い・か・た!」
レイジングの言葉に、クラレンスは殴りかかりそうな勢いで、つかみかかった。
「俺が想像したことを言っただけだろ」
「うわー! 止めてください! ノウェムさん! お嬢様にはまだ早いです!」
「過保護じゃの、クラレンスは」
ガンツがエネルギーキューブを囓った。
「なんとも思わないんですか⁈」
「んー……不服だけど、お嬢ちゃんがそれで救われるなら、僕は何も言わないよ」
「儂もじゃ」
「つーわけだ、だからお嬢さんが復帰するまで俺らで気張るぞ」
「「おお!」」
「ええ!」
クラレンス達は手を合わせた。
今、自室にこもりきりの大切なお嬢様が、いつか安心して帰ってこられる場所を守ると再度誓ったのだ──
碧のいない会社内の活動です。
メフィストが碧のかわりに悲鳴を上げてます。
それ位重労働を碧はやっていたのです。
精神が知らないうちに摩耗してもおかしくないですし、悪夢にうなされる可能性も高いでしょう。
だからこそ、帰る場所である家であり、会社でもある、碧が大切な場所に安心して帰ってこられるよう努力することを誓ったのです。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




