84.火星の遊園地~碧の不安~
碧たちはのんびりっこテーマパークを楽しんでいた。
ノウェムは菓子類に満足し、土産に一つずつ買い、セムに戦艦まで運ばせていた。
そんな中ふと碧にある不安がよぎる──
「美味かったが、ミモザのガトーショコラには届かないな」
「アレ、朝5時に並ばないと売り切れるレベルの奴だから一緒にしちゃダメ」
ガトーショコラを食べきって満足げだが、正直に感想を言うノウェムさんにダメだしをする私。
「テーマパークなんだから、モチーフが重要なのよ、味も大事だろうけど」
「そこは言っていたなレティシアも、モチーフは重要、でも味も大事にして、とな」
「レティシアさん、マジ有能」
「お待たせしました、三時のお茶会セットでございます」
「わぁ!」
「かわいい! 撮っていいかな?」
「撮ってもいいけど上げるなよ」
「分かってるよ」
「はい、分かってます」
そう桐人が忠告したくもなる。
だって、それ位可愛いお茶会セットだったからだ。
ティースタンドの下には、可愛らしいキャラクターモチーフのケーキや、クッキー、マカロンなどのお菓子が並べられ、乗っかっていた。
「可愛いなぁ」
「……?」
ノウェムさんは味の想像しかしてないようだ。
だから味の想像ができなくて首を傾げているみたい。
「取りあえず食べてみましょう、私はうさぎの!」
「私はくろうさぎ!」
「私はこげちゃうさぎ」
「では私はこのベリーのを……」
ノウェムさんはエディルフラワーとラズベリーとブルーベリーに、苺のソースがかかった小さな白いカップケーキを選んだ。
種類としては「おはなうさぎ」のカップケーキだ。
ノウェムさんは一口で食べてしまうが。
口に入れた途端、目を輝かせた。
そして噛みしめるように咀嚼している。
私達はそんな様子を微笑ましく見つめながらカップケーキを少しずつ食べる。
「じゃあ、次はクッキーとスコーン行こうか」
「ジャムを塗りましょうスコーンには」
「スコーンはジャムを塗って良いのか?」
「ええ」
私はテーブルに用意されているジャムを指差す。
苺、ブルーベリー、マーマレード……
ノウェムさんはスコーンを手に取り、苺のジャムを塗って食べた。
「スコーンはこんなにしっとりした食べ物なのか⁈」
「日本風に食べやすいようにしっとりとした奴ね」
「? つまり本来は」
「パサパサ」
「……初めて食べたスコーンがこれで良かった」
しみじみとノウェムさんは言った。
あーパサパサしてると口の水分持ってかれるもんね。
苦手な人は苦手か。
「最後はマカロンね」
「うん!」
私は茶色のウサギ型のマカロンを食べる。
チョコレートの甘さがほどよく、マカロンの生地の部分はさくさくしっとりで私好みの食感だった。
「悪くない菓子だ、まかろん、と言ったか。いいな」
「それは良かった」
「あ、この喫茶店、お菓子のお土産コーナーもある」
「全部一つずつ買っていこう」
「いや、ノウェムさん……」
「待っていたら無くなるかもしれない」
本当甘味には糸目をつけないんだから。
そういうところが可愛いんですけどね!
「さて、一休みしたし次行くか」
「まだ、甘味全部食べてないぞ」
「お前なぁ」
桐人兄さん呆れてる。
許してやってよ兄さん、でもノウェムさんが甘味中毒になったシュークリームドカ食い事件を作った私とみっちゃんは何も言えず苦笑いするだけ。
更にそれを悪化させたスイーツ巡りを実行したのも私たちだし。
咲良ちゃんは「燃費悪いのかな」的な顔して首傾げてるけど違うんです。
ノウェムさんは甘味が大好物なだけなんです、諸事情で。
「ノウェム、それは後にしましょう。貴方の甘味に付き合っていたら碧様がこのパークを楽しめません」
「……わかった」
セムさんの言葉にしぶしぶ諦めた様子。
でも、出る前にちゃっかりお土産お菓子を全部一つずつ買っていた。
それで出歩くのもアレだという事で、いったんセムさんがお菓子を戦艦まで持って行った。
その間に喫茶店の感想を書く、値段がお手頃でありがたかったこととか料理も美味しくてコスパがいいとかも。
そして30分ほどで戻って来たのでまた歩き始める。
「どれも可愛いね」
「そうだね」
「ええ」
色んなアトラクションに目を輝かせる。
咲良ちゃんとみっちゃん。
「碧は何か乗りたいアトラクションとか無いわけ?」
桐人兄さんが聞いてきた。
「んーなんかね、間隔が麻痺しちゃってる気がするのよ。楽しもうと思ってるのに、なんでか楽しめない」
「……両親が、いないからか」
その言葉に、目を見開く。
「……うん、多分ね。もしお母さんたちが生きてたら一緒に此処で遊んでくれてただろうって思うの」
「それは……俺もどうにもできねぇな」
桐人兄さんは、手で目を覆ってそう言った。
笑い飛ばすことも、励ます言葉も中々見つからなかったのだろう。
「碧、私ではだめなのか?」
「ノウェムさん……」
「君の両親の代わりにはなれない、だが私は君の恋人だ。だから君が楽しいと思うことを共有したい」
「……ありがとう、でもこればかりはちょっとね。もしかして働きすぎかもね、刺激的すぎる仕事ばっかりだから平穏なお仕事が感覚麻痺してなんかおかしくなってるのかも」
ゴン!
「っ~~!」
「桐人貴様何をする!」
桐人が持っていたタブレットで私の頭を殴った。
角が当たったから地味に痛い!
何すんのさ!
「それを自覚できてるなら、ちゃんと今回の仕事を楽しもうと努力しろ、さっきのぬいぐるみの奴は昔から得意なのは知ってたが精度が上がってやがる。確実に仕留めに行くように思考が変化してるから、変えろって話だ」
「いや、だって仕事……」
「パラシートゥスの仕事がなくなっても、お前らの仕事は無くならないだろう、紛争がおそらく勃発するだろうし」
「桐人兄さんそういう怖いこというの止めてよ」
「怖いと言えるならまだ戻れる、怖いと思えなくなったらお前は色んなものを失うことになるぞ」
「……それ桐人兄さんの実体験」
「そうとも言う」
失いたくない。
みっちゃんも、咲良ちゃんも、順兄さんに、涼兄さんに、宗一お爺ちゃんも。
クラレンスに、メフィストに、レイジングにガンツも。
何より──
ノウェムさんを失いたくない。
「ねぇ、碧。あのうさぎとくまたちのおうちトロッコ乗ろうよ!」
「碧ちゃん、乗ろう!」
「──うん、乗ろう!」
「では私は同行しよう」
「俺等は此処でまってるぜ──」
「ああ」
私とノウェムさんとみっちゃんと咲良ちゃんがトロッコのアトラクションに乗ることに。
ゆっくりとしたトロッコは穴の中を通っていく。
穴の中にはのんびりっこたちのなかまたちがたくさんいる。
「のんびりウサギみつからないなぁ……」
「美奈、それなら上にいるぞ」
「え? あ、本当です! かわいいー!」
「あ、のんびりいぬもいる、ふふ、あなほりしてて可愛い!」
「のんびりねこはーあ、いたいた、休憩所みたいなところで丸くなってる」
そんなことを言い合いながら、トロッコが終点──始まりの場所まで戻ってくる。
「あー可愛かった!」
「宝探しみたいで楽しかったね!」
「そう言われればそうだね、うん。楽しかったね」
素直に喜べた、それを見たノウェムさんは少しほっとした様子だった。
「ノウェムさん?」
「桐人と君が話しているとき、君が君でなくなってしまったらどうしようと思ってしまったんだ、それが怖かった」
「ごめんね、ノウェムさん。そうだね、最近必死すぎたから、慈善事業系等のお仕事がないかレティシアさんに相談してみるね」
「ああ、それが良い」
パラシートゥス関係やテロリスト関係でかなり緊迫したやりとりが多かったせいで、多分自分が傷つかないように感情がすこしだけ麻痺していたのだろう。
「家に帰ったらのんびりっこの映画上映会二人でやろう?」
「私はそういうのがわからないが……君が楽しいと思えるなら付き合おう」
また疑問が沸いた。
「レティシアさんと娯楽施設とかは行かなかったの?」
「映画は誘われたが、見たのがよく分からなかった、随分と古い映画らしいが……」
「そ、そっか」
「娯楽か……レティシアがカジノに招待されたのだが、いかさま満載のカジノだったので営業する前に停止させてやったこと位しか」
「レティシアさん……」
ダメだこりゃ。
「で、ノウェムさん的にはさっきのアトラクションどうだった?」
「よく分からないがいろんな動物が各所に隠れているのがいてそれを見つけるのが大変ではないのかと伝えた」
「あー……」
こういうアトラクションには隠れ系のキャラがいるのがつきものだ。
なので、ノウェムさんは全部見つけられたが、私たちはそれでいることを知れたので配置を考えるように伝えたのだと分かった。
その後色んなアトラクションを回ってのんびりっこパークもとい、エリアを満喫した私達は涼兄さんの連絡を貰い集合することに。
「涼兄さん、なんか疲れてない?」
「メフィストに合わせて絶叫マシーン乗りまくったら疲れた……」
「メフィスト、あんまり兄さんを疲れさせないで!」
「お嬢! ごめんよ!」
「全く……」
「トレース、お前も止めなかったのか?」
「止める間もなく、メフィストが涼様を連れて行ってしまうので……流石に此処で本気で移動する訳にもいきませんし」
「まぁ、確かに」
「……私、ノウェムの購入した土産のお菓子に戦艦を持って行く為だけにかなりの速度で移動したんですが」
「セム⁈」
トレースさんが信じられない言葉を聞いた様な顔をした。
「そういやそうだったわ」
じゃなきゃ30分で帰ってこれるはずがない。
「……ノウェム、貴方の甘味中毒なんとかなりませんか?」
「中毒か? 月一か、二ヶ月に一度スイーツ巡りするだけだぞ」
「その時の食べてる量を自覚してますかって話なんですよ!」
トレースさん頭痛そう。
「その件で、レティシア様が爆笑されているのは良いことですが、同じナンバーズとしてはちょっとどうかと思うのです」
「……」
「それは私も思ったよ、ノウェム」
セムさんとトレースさんはあきれ顔。
「ノウェムの甘味中毒など可愛いものではないか、ドゥオの女好きとサボり魔に比べれば」
「……それは、そうですね」
「比較対象がドゥオなのが気に食わん」
ウヌスさんが宗一お爺ちゃんを連れてやって来た。
ウヌスさんの言ったことは確かにそうだけど、ドゥオとは同一扱いは止めてほしい。
「うーん、しかし、これじゃあ周り切れないね」
「残りの項目は俺と咲良とアルジャン社の連中でやるから、お前らは帰るなり、火星の観光名所巡るなり好きにしたらいいぞ」
「え、帰る時どうするの」
「レティシアに頼んでワープ装置使わせて貰う、元々俺が作ったもんだしな」
「ああ、そう……」
「どうする、みっちゃん」
「私は疲れちゃったかな……」
「俺も疲れた……」
「俺等は平気だが、お前達が疲れたら意味ないだろう」
「そうだね、じゃ帰ろうか……ところでウヌスさん、そのお土産は」
「ノウェムが甘味好きじゃろ? 喫茶店に抹茶の菓子が並んどってのぉ。一個ずつ買ったんじゃ」
「ありがとうございます」
「ほっほっほ、皆でいただこうじゃないか」
「ええ」
宗一お爺ちゃん機嫌良さそう。
「何かあったの?」
「なんもないよ、碧の表情が柔らかくなって嬉しいだけじゃ」
ああ、お爺ちゃんも私の異変に気付いていたんだ。
しばらくはお金がそこまで入らなくていいから、慈善事業系のお仕事を頼もう。
人やロボットが死んだり、殺されても何も思わない人間にはなりたくない。
私は私のままでいたい。
タブレットを返し、事情を説明するとロゼッタさんは了承してくれ、私達は会社に帰還した。
「あれだけ遊んだだけで300万⁈ 税込みで⁈」
帰ってきて入金された金額を見て私は驚いてしまった。
だってほとんど遊んでないよ⁈
「桐人たちがやった分も入っているようだ、桐人たちは自分たちを誘ってくれただけで十分だから金額はパトリにとな」
「なるほど……」
「だが、ワープの往復費用で50万かかるから実質250万だな」
「なるほど……それでも貰いすぎだよ、こんど咲良ちゃんにのんびりいぬのグッズなにか送ろう」
「それがいいだろう……ん? 桐人たちならクレーンゲームで取れるのではないのか?」
「桐人に頼むと何でもできちゃうから頼るのはあんまりしないんだって咲良ちゃん。それに……あの件も」
「そう、なのか……そうかあの件が」
ノウェムさんはすこしだけばつ悪そうな顔をした。
桐人兄さんなら簡単に取れるだろう、でも桐人兄さんはそれが分かってるから私が取れるようになるまでは取ってくれていたけど今はやらないし、咲良ちゃんは取れなかったのがナノマシンと強化改造されたせいで取れるようになったことを直視するのが辛いんだろう。
だから、私が取ってあげるのだ。
そう言えばこの間RINRINに行った時に取ったのんびりいぬのぬいぐるみあるな。
プレゼントしよう。
「送るのか?」
「うん」
「私が持って行きましょう」
ウヌスさんが申し出た。
「え、遠いですよ」
「全力で走れば往復1時間くらいですから」
「いや、箱が壊れちゃう……」
「この箱にどうぞ」
そう言って頑丈そうな箱を持ってきた。
私はそれにクッションを入れてぬいぐるみを入れた。
「では桐人の邸宅と高橋咲良嬢の家、どちらに持って行けばよろしいでしょうか?」
「取りあえず、帰ってきたの確認してから持って行って、桐人の家に」
「かしこまりました」
そう言ってウヌスさんは箱を仕舞いに行った。
その後夕食を済ませて──
「じゃあ、ノウェムさん映画鑑賞しよう」
「ああ」
そう言っておかしとお茶を持って自室へ向かう。
のんびりっこシリーズの映画を早朝まで鑑賞した。
私は久しぶりに見たが、泣いた。
のんびりっこしりーずは、お話で泣かせてくるのだ。
絆や、友情、親子愛など色んな形で映画は彩りを見せてくれた。
そしてスッキリした。
笑いもあって、泣けて、感情を揺さぶられたから。
ノウェムさんはどの映画も理解ができていないようだったので、二回目上映で解説しながら言うと納得した様子を見せた。
なので眠くてそのまま朝寝することに。
そんなこんなでノウェムさんが「碧は睡眠不足だから寝ている、だから仕事は無しだ」と言ったらドゥオが何か余計なこと言った所為でまたドゥオはスプラッターの刑に処されたらしい。
ノウェムさんはノウェムさんでトレースさんに「映画鑑賞で寝不足と伝えればよかったんですよ」とお叱りを受けたそうだ。
ノウェムさん、たまに言葉足らずな所あるんだよなぁ。
そこも可愛いのですが。
実は咲良も取れるんです、取れないように言いましたがナノマシン起動してしまえば取れちゃうんです。
だから自分から取らず桐人に頼んで居るようです、あと碧に。
さて碧はしばらく慈善事業をしようと言う話になりましたが、どうなるんでしょう?
上手くいくんでしょうか?
理解されるのでしょうか?
それとも……
ここまで読んでくださりありがとうございました。
誤字報告ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




