表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/31

第25話 覚醒

 一斉射撃により、うるさいほどに巻き上がる砂煙。


 砲撃が終わる。

 視界は完全に覆われ、奥を窺い知ることはできない。


「………………ミリ……チャン」


 アナウスは、前に構えていた腕をダラリと下げた。


『コレガ、選択ノ結末――悪魔ニ魂ヲ売ッタ者タチノ、末路カ』


 ディルーターは無機質に言い放つ。

 己の守りたい物、取り戻したい物の為に魂を売った2人の ”悪魔憑き” が、辿り着いた果てだった。


『チカラナキ魂ハ、己ノ身スラ守レズ……片ヤ悲シキ肉体ノ持チ主ハ、取リ戻シタ物ヲ自ラノ手デ破壊シタ』


 アナウスは深く俯くが、機械の身体から涙は流れない。

 だが、前を向くこともできなかった。この煙が晴れた時、無惨な姿に変わり果てたミリの姿を見ることになってしまうからだ。


 アナウスは片手に剣を顕現し、自らの胸に突き立てようとする。


『無駄ダ』


 しかし、その動きはディルーターの操作権限によって止められてしまう。


『契約ノ履行ハマダ完了シテイナイ……ソレマデ死ヌコトハ、吾輩ガ許サヌ』

「殺シテッ! 私ヲ殺シテヨッ!」


 権限を取り戻そうと必死に力を込めるアナウス。しかし、正当な理由がなくなった彼女にそれが戻ってくることはなかった。


『人間トハ愚カナモノダ……少シバカリ期待シテイタガ、ドウヤラ過大評――ッ!?』


 突然、ディルーターの声が止まった。アナウスはガクリと前へよろける。


「ナニ? 急ニドウシ――ッ!?」


 理由が分からないアナウス。

 しかしその疑問は、徐々に晴れていく砂煙の奥を見て吹き飛ばされる。


「ドウ、シテ……ッ!?」


 煙の中に、影が1つ。

 それは、両足を地につけて――立っていた。


「確実ニ当テタハズナノニ……」

『馬鹿ナ……アレホドノ砲撃ヲ受ケテ、生キテイラレルハズガナイ』

 

「――今まで、私は勘違いをしてた」

 

 煙の中から現れた少女、ミリはそこにいた。

 その瞳は、かつての美しい碧色へと戻っている。


「私の魔法は2つ――『受容と融合』そして『拒絶と分断』……私は今までこの2つを極めて、そして自らの力にしようとしてきた」


 自分がこれまで使っていた歪んだ魔法。それを正しい形へと戻していったのが、これまでのミリによる奮闘の記録だった。


「でも、そもそもこれが間違いだったんだ。だってそれは――私の魔法じゃないから」

 ミリはかつて言われた様々な言葉を思い出していく。

 

『世間で ”悪魔憑き” と呼ばれる存在は、過去に実在した魔族の力、その一部を宿している。ある人は類稀なる才能だったり、ある人は武器だったり――世界を変えるほどの魔法だったりする』『私が例外だから、あなたはそれを調べたい……ってことですか?』『何か勘違いをしているようだな――これは我の力であって、貴様のものではない』『ゆめ忘れるな――答えは身近に転がっている』『魔法は個々の生物に必ず宿っているものであり――』『魔法が目覚める時期って人によって全然違うらしいから……』『”悪魔憑き”を極端にタブー視する風潮は、人間の魔法に対する理解を数十年遅らせ――結果、世界を支配するのは魔法ではなく魔導となった』

 

「私が本当に磨くべきだったのは……私自身に宿る魔法だったんだよ」


 ミリは自身の両腕を前に交差する。

 魔力が、共鳴を始めた。


『モードチェンジ――射撃モードへ移行!』


 ディルーターは即座に命令を下す。

 兵装アナウスの腕に再びマシンガンが形成され、それらを一斉に掃射した。

 

「あなたの攻撃は――私に当たらない」

 ミリが右手を握る。

 

 マシンガンからの弾幕の嵐――その全ての弾丸は、まるでミリを避けるかのように逸れていく。


『ナゼ、当タラナイ!?』


 ディルーターの声に動揺の色が混じる。

 ミリはゆっくりと、しかし確実に前進し、2人の距離が縮まっていく。


(ダガ、身体強化ガナイノデアレバ、距離ヲ離セバイイダケノコト)


 射撃を断念したディルーターは武器を格納し、距離を取ろうとジェットを作動させる。

 

「アナウスは――私から離れられない」

 ミリが左手を握る。

 

 空を飛ぶ兵装アナウス。

 だが、なぜかその体は、磁石に吸い寄せられているかのように離れない。


『マサカ……マサカ貴殿ノ魔法ハ――』


 ディルーターはようやく気付く。

 これが、ミリ自身の魔法によるものだと。

 

「『再定義』――これが、私自身に宿る真の魔法」

 

 アナウスが本をまとめた時に教えてくれたこと。


『つまりですね……『魔法は使う人そのものを表す』ってこと!』


 魔法は先天的な要素だけでなく、その人の人生経験や哲学観も大きく影響する。


「私はこれまで色々なことを間違えて、そして気付いてきた……私は独り善がりで、たくさん人を傷つけて、そして自分の本当の想いを殻の中に閉じ込めてた」


 ミリは遂に、アナウスの元へとたどり着く。


「ミリ……チャン……」

「でも、ようやく私はその答えにたどり着いた。自分が本当に求めていた物の答えを、最後に――定義し直す」


 ミリは手を伸ばし、アナウスの脚に触れる。

 そして顔を上げ、お互いの瞳を合わせた。いつしか彼女が「美しい」と言ってくれた、その碧い瞳で。

 

「私はアナウスのことを――愛してる」

 

「ア……アアアァ……ッ!」


 アナウスの声が震え、その両足が地につく。その手から武器が手放される。

 彼女の視点が、ミリと同じ高さまで降りてくる。

 そして2人は、お互いを抱きしめ合った。


「だからアナウス。戻っておいで」


 ミリは耳元で、優しく囁いた。

 それを聞いたアナウスは、震える声を振り絞る。


「オ願イ。ミリチャン……私ヲ……連レ戻シテ」


 ミリは頷く。

 そして2つの魔法を解除し、最後に両手を握った。

 

「アナウスは――その殻を破ることができる」

 

 パキリ。

 顔の装甲に、ヒビが入った。


「私は……ミリちゃんが側にいるだけで……幸せ」


 それは瞬く間に全身へと広がる。

 そして最後には卵から雛が孵化するように、中から元のアナウスが姿を現した。


「おっと!」


 ミリは落ちてくるその体を全身で受け止めた。


「ミリ……ちゃん」「……アナウス」


 腕の中で瞳を開くアナウス。しかしそこに光はない。両腕も、失われたままだった。

 それでもアナウスは、幸せそうに微笑んだ。


「……ただいま。ミリちゃん」

「……おかえり。アナウス」


 2人は立ち上がり、再びお互いを抱き合った。


『愛ハ、全テヲ超越スル――カ』


 抱き合う彼女たちを、ディルーターは感慨深く観察した。

 かつて己を討ち倒した2人の英雄。その内の1人――自らと一騎打ちをした男の言葉を思い出していた。


「それで、あなたはどうしたいの? ディルーター」


 ひとしきり抱き合った2人は抱擁から離れ、ミリが問いかける。

 その両腕は、前で交差されていた。


 ミリの魔法が『再定義』なら、彼女はいつでも、その機械で創られた心臓を止めることができる――ディルーターはそれを理解していた。


『貴殿ラノ好キニスルトイイ。第四魔王ハ、再ビ愛ニヨッテ――』

 

「愛か。くだらない」

 

「――――伏せてッ!」


 ミリがアナウスの体を抑えて地面に伏せる。

 そして取り残された髪の毛の先と、その水平線上にある全てが――斬り裂かれた。


 壁へ乱雑に積み見上げられた金属片。配管。岩壁……すべてが上下に分かたれる。


「死に損ないが」


 二撃目。

 それは空洞の天井に吊るされている、巨大な容器の根本を斬り裂いた。そのまま機械の心臓が地面に激突し、容器の割れる大きな破砕音が弾ける。


 配管から切断された心臓は、間もなく機能を停止した。


「…………な、何が起きたのでしょうか?」

「――あいつだ」


 視力がなく、事態が全く掴めていないアナウス。

 しかしミリは気付いてた。


「お前たちの結末――この目で見届けさせて貰った」

「…………ようやく、お出ましってとこ?」


 全身を黒に包んだ、究極の剣士。

 彼は階段の出口に立ち、その黒く輝く剣を抜き放っていた。


「この剣が ”悪魔憑き” の首を刎ねるのは――今、この時だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ