第四十七話 『オペレーション・ハピネス』開始!
「こちら『作戦本部』。『幸福評議会』の様子はどう?」
「こちら『ビアンコ1』。ダメです。ヤツらは投降勧告に応じるつもりはないようです」
「そう、分かったわ。今はそのまま待機しておいてちょうだい」
「了解」
マーチお姉様は部下の方と、治安維持省専用の魔術通信具で連絡を取り合っています。
ここは、現場から少し離れた場所に設置された作戦本部です。
ここにはマーチお姉様と彼女の副官、そしてわたくしとリオン様がいます。
現在、わたくし達『女神様の友 (魔王軍)』は、マーチお姉様率いる『治安維持省』の皆さんと共に、街の外にあるスヴィーニツお兄様のお屋敷に来ているのです。
お屋敷の中にいる『幸福評議会』の皆さんを逮捕するためですわ。
ですが、『幸福評議会』の皆さんはお屋敷に立てこもって出てこようとはなさいません。
『治安維持省』の職員の方が『幸福評議会』の罪状を読み上げ、投降を促したにもかかわらず、です。
「屋敷に籠城するつもりね……。厄介だわ」
マーチお姉様が呟きました。
スヴィーニツお兄様のお屋敷は、分厚い壁と、頑丈そうな鉄の扉で構成されていて、さながら強固な砦のようです。
『治安維持省』の職員の皆さんはチームごとに展開し、お屋敷を取り囲んでいるのですが、中に入る場所がなく攻めあぐねているのですわ。
そんな状況を見かねたのか、彼らと同じように展開していた『魔術クラブ』部隊からわたくしに通信が入りました。
「こちらヤヨイ。サツキ、マーチ姉に伝えな。『突入するつもりなら壁の突破は私らに任せろ』ってな」
わたくしがそれをマーチお姉様に伝えると、彼女は少しの間考えた後、
「そうね……このままじゃ埒があかないし、お願いできるかしら?」
と、おっしゃいました。
わたくしはヤヨイお姉様に連絡します。
「こちらサツキです。ヤヨイお姉様、壁の突破をお願いします」
「了解!」
ヤヨイお姉様がそう返事してからしばらくすると、わたくしから見て右手側の屋敷の壁が、カッと光りました。
ヤヨイお姉様が火属性魔術の早天払暁を放ったのです!
彼女が放った早天払暁によって、屋敷の壁は一瞬で蒸発し、大きな穴があきました。
屋敷の反対側ではフレア先輩が流星の接吻を撃っているのが見えました。
隕石が直撃し、ドオンと音がして、壁の破片が飛び散ります!
『魔術クラブ』の魔術の前では屋敷の壁など紙細工も同然ですわ。
壁が破壊されたのを確認して、マーチお姉様が通信を行います。
「全部隊に告ぐ。直ちに屋敷内に攻め込み『幸福評議会』の連中を捕らえなさい!」
すると破壊された壁から『治安維持省』の方々が次々に入っていきます。
わたくしの部隊にも突入していただきましょう。
「『魔王軍』も突入してください!」
わたくしが号令を出すと、すぐに『魔王軍』のメンバー達も突入していきました。
しばらくすると、マーチお姉様の魔術通信具に報告が入ってきます。
「こちら『ヴァイス1』! 二階北区画で敵部隊と遭遇しました! 交戦します!」
「『レウコン1』です! 一階入り口付近で敵と遭遇! 交戦します!」
屋敷内では戦闘が始まったようです。
さらに別の部隊から通信が入ります。
「こちら『ホワイト1』! 青い服を着た伏兵と交戦中! 押されています! 屋敷一階の西区画です!」
それを聞いたマーチお姉様は苦い顔でおっしゃいます。
「『碧眼の狼』ね……! なんとか持ちこたえなさい! いま増援を送るわ!」
「了解!」
「サツキ、『魔王軍』に援護をお願いできるかしら?」
マーチお姉様はわたくしの方を向いておっしゃいました。
わたくしは頷き、すぐさまヨイチお兄様とトウカお兄様に連絡します。
「『バーサーカーズ』! 屋敷一階の西区画へ援護に向かってください!」
「了解! 任せとけ!」
わたくしが連絡している間に、またマーチお姉様に通信が入りました。
「こちら『アルブム1』! 三階へ向かう階段で敵魔術師達の猛攻にあっています!」
わたくしはそれを聞いてマーチお姉様に「おまかせください」と言い、今度は『魔術クラブ』のメンバーに連絡します。
「『魔術クラブ』の皆さんは三階への階段へ向かい『アルブム隊』を援護してください!」
「了解した! すぐに向かう!」
『治安維持省』と『魔王軍』の連合軍は、着実に『幸福評議会』を追い詰めていきます。
そして――
「『ビアンコ1』! 二階制圧完了!」
「『レウコン1』です! 一階制圧完了!」
「こちら『アルブム1』! 三階制圧完了!」
屋敷内は完全にカタが付いたようですわ。
本部から屋敷の屋上を見ると、そこには金ピカの服の方々が集っているのが分かりました。
わたくし達の連合軍の猛攻に耐えきれず、逃れてきた『幸福評議会』の方々ですわ。
マーチお姉様が彼らを見ておっしゃいます。
「後は屋上の制圧だけ。どうやら、勝負あったようね」
「はい。一度は勝った相手ですもの、攻城戦とはいえ負けるわけにはいきませんわ」
わたくしがマーチお姉様に返事をすると、リオン様がおっしゃいます。
「いや、まだだ。アレを見ろ」
リオン様が遠くの空を指差しました。
その方向に目を向けると、蒼い竜がこちらに向かって飛んで来るのが見えました。
竜は物凄いスピードで屋敷へ飛んでいきます。
そして屋敷にぶつかる直前で翼を大きく広げて一気に減速すると、ふわりと屋上に降り立ちました。
竜の背中には小柄な女の子が一人、手綱を握りながら立っていますわ。
彼女は、『碧眼の狼』の方々と同じ青い服を着ています。
「タランテラ! やれ!」
その女の子が命令すると、タランテラと呼ばれた蒼い竜は長い首を上に伸ばし、周りの空間から魔力を集め始めました。
竜の口の中は集められた魔力によって光り輝いています。
やがて、十分な魔力を集めた竜は、足元に向かってそれを吐き出しました!
魔力の塊が炸裂し、屋敷の屋上が吹き飛びます!
ついでに屋上にいた金ピカの服の方々も。
『幸福評議会』の方々は悲鳴を上げながら吹き飛んでいきますが、竜の上にいる女の子は気にした様子もありません。
「タランテラ! 地下まで降りるよ!」
彼女が叫ぶと、竜はまた魔力を集め出しました!
「まさかお屋敷を破壊して地下へと進むつもりなの!? やることがメチャクチャですわ!」
わたくしが驚いて言うとリオン様が、
「いや、キミも人のことは言えないはずだ。『ブラック商会』の本部でやったことを忘れたのか?」
と、ツッコミをお入れになりました。
「こんな時に何をおっしゃっているのですか! 屋敷の中にいる皆さんがピンチですわ! マーチお姉様、皆さんを退避させてください!」
わたくしが言うと、マーチお姉様はすぐに魔術通信具に向かって「全部隊! 屋敷から退避しなさい! 屋敷が崩壊するわ!」と叫びました。
屋敷内の全員が外へと出た後も、竜は魔力を集め続けていました。
すでに、一撃目のときよりも多くの魔力が集まっています。
そして竜は、その膨大な魔力の塊を屋敷に向かって吐き出しました。
ドオンと音がして、土煙が上がりました。
それは凄まじい衝撃で、作戦本部にまで激しい揺れが伝わってきました。
わたくしは倒れてしまわないようにリオン様に掴まります。
揺れが収まってお屋敷の方を見ると、外壁は残っているようでした。
ですが、あの威力なら、中の部屋は全て吹き飛んでいてもおかしくありませんわ。
竜は屋敷の中へ入ると、何やらガタガタやり始めました。
壁が残っているせいで中の様子は見えませんが、一体何をしているのでしょうか?
わたくしが不思議に思っていると、竜は屋敷の中から飛び上がります。
竜の背中には女の子の他に、金ピカの服を着た金髪の男の方が乗っていました。
マーチお姉様がその方を見て叫びます。
「あれは、スヴィーニツよ!」
なんですって!
あの悪趣味な金色の方がスヴィーニツお兄様なの?
スヴィーニツお兄様は『幸福評議会』の方ですら居場所がつかめなかったはず――




