第四十六話 『女神様の友』
わたくし達が『鉛の心臓』の原石を手に入れてから数日経ちました。
本部、支部の建物が完成し、わたくし達の組織は本日より本格的に動き始めます。
メンバーの皆さんはわたくしの家の隣にできた本部に集まり、『幸福評議会』を打倒するための会議をしているところです。
まずは『幸福評議会』の皆さんが行っている悪事を白日の下に晒し、さらに、彼らを逮捕してもらうために『治安維持省』の協力を得る、ということが会議で決定しました。
「そう言えば、ウヅキお姉様。組織発足の届け出はしていただけましたか?」
わたくしは、イスに座って足をプラプラなさっているウヅキお姉様にお尋ねします。
実は先日、マーチお姉様に「新しく組織を発足させるのなら『治安維持省』に届け出をしておいてちょうだい」と、言われていたのです。
わたくしは少々忙しかったので、暇を持て余していたウヅキお姉様にお使いを頼んだのですわ。
「ちゃんと出してきたわ!」
ウヅキお姉様は自慢げにおっしゃいました。
初めてのおつかいは上手にできたようですわ。
……ちょっと心配だったのでミナヅキに後をつけさせたのは彼女には内緒です。
「サツキ、組織の名前は『女神様の友』で良かったのよね?」
「ええ、それでよかったですわ」
するとわたくし達の会話を聞いていたリオン様が、呆れたようにおっしゃいます。
「本当にその名前にしたのか……『女神様の友』など、教会に異端審問にかけられそうな名前だと思うのだが」
「いいじゃないの。きっと大丈夫よ……。あ、そうそう。マーチお姉様に下部組織の名前も聞かれたから、私が考えて名付けておいてあげたわよ」
と、おっしゃるウヅキお姉様にわたくしは首を傾げました。
「『女神様の友』の下部組織……と言うと、ホワイトさんが率いる200人の部隊と、ウヅキお姉様が率いる200人の部隊のことですか? 名前が必要だったのですか?」
「そうよ! 私が頑張って考えたのよ! ありがたく思いなさい! まず、『ブラック商会』あらため、『ホワイト商会』! どう? いい名前でしょう?」
ウヅキお姉様はそう言って胸をお張りになります。
ホワイトさんが率いるから『ホワイト商会』ですか……。
ちょっと安直ですが、せっかくウヅキお姉様が考えてくださったのですから、ありがたく使わせていただきましょう。
「いいと思いますわ。ホワイトさんもそれでよろしいですよね?」
「アッシの名前が商会の名前になるのは恥ずかしいですが、皆さんのお役に立てるように誠心誠意頑張りやすぜ」
ホワイトさんが意気込みを表明なさったのを満足そうに見て、ウヅキお姉様がお続けになります。
「じゃあ次ね! 私が率いる、王位継承権下位の人たちの争いを収める組織、これは『女神様の尖兵』という名前にしたわ! 格好いいでしょう!?」
「何だか、狂信者達の集まりみたいだが……」
と、今度は苦いお顔でコメントなさるリオン様。
「いいじゃない! サツキは女神様の狂信者なんだから! ぴったりだと思うわ!」
ウヅキお姉様が『尖兵』だなんて難しいお言葉を知っていたことに、わたくしは驚いておりましたわ。
お子様というのは、時々こうやって大人を驚かせるような賢さをみせるので侮れません。
わたくしがウヅキお姉様の賢さに感心していると、彼女は更にお続けになります。
「そして、最後はここにいるメンバーで構成される、戦闘専門の最強部隊の名前よ!」
「え? ここにいらっしゃるメンバーは上位組織の『女神様の友』に属するのですよ? わざわざそのような組織は作る必要はないと思うのですが……」
「いいじゃない! 下部組織がたくさんあったほうが強そうじゃない! それに、もう届け出しちゃったし変更できないわ」
「そうなのですか? まあ、別に下部組織が増えたところで問題はないかもしれませんが……」
「そうでしょう! で、その組織の名前、これは傑作よ! よく聞きなさい! 魔術師を志す、王女サツキの、軍団。略して『魔王軍』よ! どう? 最高の名前でしょう! この名前なら、誰も逆らわないわ!」
「なんですって!?」
『魔王軍』!? ウヅキお姉様は何をおっしゃっているのかしら!?
「本当は『魔王サツキ軍』と悩んだんだけどね。こっちはマーチお姉様に止められてしまったわ。『サツキがかわいそうだから止めてあげなさい』ってね。何がかわいそうなのか分からないケド」
そんなもの当然止めて然るべきですわ!
というかマーチお姉様! どうせならば『魔王軍』も止めてください!
わたくしは憤慨してウヅキお姉様に言います。
「ウヅキお姉様! 今すぐ『治安維持省』に行って名前を変更してきてくださいませ! 『魔王軍』だなんて絶対に嫌ですわ!」
「なんでよ!」
「そのような恐ろしげな名前は嫌なのです!」
「ちょっと恐いほうが格好いいじゃない! それにもう変更はできないって言ったでしょ! ワガママ言わないの!」
「ワ、ワガママですって!? 言うに事欠いて、このお子様は……!」
「だっ、誰がお子様よ! 姉に向かって失礼な事を言ったらダメじゃない! ワガママを言うサツキの方がお子様じゃないの!」
「どこからどう見てもウヅキお姉様の方がお子様です! ウヅキお姉様の幼児体型!」
「幼児……!? ナッ、ナマイキよ! 私より2.6秒も遅く生まれたくせに!」
「そんなもの誤差ですわ!」
「ご、誤差ぁ!? 短い時間とは言え、私が姉である事の揺るがぬ証拠なのよ。その2.6秒は! フン! サツキったら反抗期なのかしら? 姉を怒らせて気を引きたいのでしょう? 全くお子様なんだから!」
「気を引きたい!? 反抗期!? そう言うウヅキお姉様は反抗期すらまだではないですか! つまりお子様以下です! 乳児です!」
「乳児!? いくらなんでも失礼すぎるわよ! 謝りなさい! このお子様が!」
「嫌ですわ! この乳児!」
「ムキーッ! もう怒ったわ! サツキィ! あなたとは決着を付けないといけないみたいね! あっちで一対一の話し合いをするわよ!」
「望むところですわ!」
わたくしとウヅキお姉様は、バチバチと火花を散らせながら立ち上がります。
そして呆れるメンバーの皆さんをよそに、別の部屋へ移動し、激しく言い争いを始めるのでした。
***
組織名で少しゴタゴタしましたが、実務には問題はありませんでした。
『女神様の友』の皆さんは街中で宣伝を行ってくださいます。
「『ホワイト商会』では、皆様のお困りのことを何でも解決いたします! お困りのことがありましたら『女神様の友』本部一階の『ホワイト商会』窓口までどうぞ!」
「現在、『女神様の会』発足記念キャンペーンを行っていまーす! 本部二階にあります『魔術具博物館』を開放しておりまーす! 珍しい魔石の原石などもございます! 見学は無料ですのでご家族、お友達とお誘い合わせの上、是非起こしくださいませー!」
「初めまして! 私たちは『女神様の友』と言います! 最近、こんなことはございませんでしたか? 『幸運を呼び込むという怪しい壺を売りつけられた』、『詐欺の被害にあった』、『幸福評議会という方々に騙された』。そのような方がいらっしゃいましたら『女神様の友』が力になれるかもしれません! どうぞ、お気軽にご相談ください!」
こうしてわたくし達は『女神様の友』の宣伝をしながら、『幸福評議会』の情報を集めました。
宣伝効果は抜群で、早速近所の皆さんから相談事が殺到しました。
寄せられた相談や依頼は、すぐさま『ホワイト商会』の構成員の方々が解決なさいます。
『魔術具博物館』の人気も高かったようです。
珍しい魔術具をひと目見ようと、身分や年齢、性別に関わらず、大勢の方々がいらしてくださいました。
特に『鉛の心臓』の原石の人気は凄まじく、それを展示したテーブルの周りには人だかりができておりました。
皆さんを飽きさせないように、『魔術具博物館』では数日に一回は展示している魔術具を変更していくつもりです。
リリアンヌお姉様からは、全て展示しきれないほどの魔術具を寄贈していただきましたので、こういったことも可能ですわ。
そして『幸福評議会』の情報収集。
わたくし達が思っていたよりもかなり多くの方々が『幸福評議会』の被害に遭われていたようで、『女神様の友』には多くの情報が寄せられました。
メンバーの皆さんにまとめていただいた情報を、わたくしは『治安維持省』のマーチお姉様のところへ持って行きました。
その時に『魔王軍』などという、恐ろしい組織名の変更をお願いしたのですが、マーチお姉様には、
「ごめんなさい、名前の変更は受け付けていないのよ」
と言われてしまいました。
当然わたくしは食い下がろうとしたのですが、マーチお姉様はとてもお忙しいご様子だったので、わたくしのワガママに長々と付き合わせてはいけないと思い、結局断念したのです。
……自分で『ワガママ』などと言ってしまいましたが、組織名の変更を諦めたわけではありませんからね。
次の日『女神様の友』本部にマーチお姉様が来て、こうおっしゃいます。
「あなた達の情報のおかげで幸福評議会の実態を知ることができたわ。明日、『治安維持省』は幸福評議会の本部があるスヴィーニツの屋敷に乗り込んで、奴らを捕まえるつもりなの。よかったらあなた達にも協力してもらえないかしら?」
「もちろんですわ! お手伝いいたします!」
是非もありませんわ!
『治安維持省』と協力してスヴィーニツお兄様の組織『幸福評議会』を壊滅させてやります!
わたくしや『女神様の友』のメンバーは明日の準備に取り掛かりました。
『魔術クラブ』のメンバーの皆さんには、各々にあった魔術具をお渡ししてあります。
皆さん魔術具のチェックに余念がありませんわ。
このメンバーに、『治安維持省』の方々まで加わるのです。
『幸福評議会』は明日、確実にお潰れになることでしょう!




