第四十四話 碧眼の狼
わたくし達が『鉛の心臓』の原石を持っている事を、『碧眼の狼』の皆さんに知られてしまいました。
そのために、彼らとの戦闘は避けられそうにありません。
わたくし達は馬車の外に出て、『碧眼の狼』の皆さんと向かい合いました。
『碧眼の狼』の隊長さんがお叫びになります。
「俺らから横取りしやがった『鉛の心臓』の原石を返しやがれ!」
「横取りだなんておっしゃらないでくださいな。お宝の所有権は早い者勝ちなのですよ? すでにお宝を手に入れた人からそれを奪おうとなさるなんて……。それではまるで強盗さんではないですか」
わたくしはそう言って隊長さんを諭したのですが、彼は諦める気はないようです。
「うるせえ! 『鉛の心臓』は俺らのもんだ! 痛い目に遭いたくなかったら、その原石をよこしやがれ!」
と、わたくし達を恐喝なさいます。
「これが欲しければ力ずくで奪い取ってみろ」
リオン様はそう言って『鉛の心臓』の原石をわたくしに渡すと、刀を抜き放って彼の前に立ちました。
隊長さんも「上等だ!」と言って背中の大剣を構えます。
その場から微動だにしないリオン様に対して、大剣を構えながらジリジリと間合いをはかっている隊長さん。
豪快そうな外見とは裏腹に、慎重な性格のようです。
隊長さんはジワジワと距離を詰めていきました。
そしてある所で足を止めると、彼は地面に向かって剣を叩きつけました!
その衝撃で、砂埃や土塊、小岩などがリオン様に向かって飛んでいきます!
リオン様は土煙によって包まれてしまいました!
「出た〜っ! 卑怯な隊長の、大剣技の一つ『地面の逆襲』だ!」
「相手の目に土を飛ばして視界を奪う! しかも、イシツブテでちょっとしたダメージも与えられるという、隊長らしい姑息な技だ!」
「流石隊長だ! 汚え! 勝負あったぜ!」
『碧眼の狼』の団員さん達が早口に解説してくださいました。
隊長さんはニヤリとして、土煙の中にいるリオン様に斬りかかっていきます。
そして叩きつけられる大剣。
ドウン、と大きな音がしてわたくし達の立っている地面が揺れます。
リオン様はどうなってしまったのでしょう?
わたくしが彼を心配していると、土煙の中からスッと人影が飛び出してきます。
リオン様です!
彼は無事だったのですね!
リオン様は素早く隊長さんの背後に回ると、首筋に刀を叩きつけました。
隊長さんは気を失って、その場にお倒れになりましたわ!
「何だと! 隊長が一撃でやられただと!?」
「あの体が丈夫なことだけが取り柄の隊長が……」
「他の部隊長に、飛んでいる飛竜の上から突き落とされてもピンピンしていた隊長がやられた……!」
団員さんたちは、お倒れになった隊長さんを驚愕の表情で見ています。
わたくしはリオン様に駆け寄って、彼を褒め称えます。
「『碧眼の狼』の部隊長さんを簡単にお倒しになるなんて、リオン様は凄いのですね! これなら、山の中で戦闘になっても全然大丈夫でしたね!」
するとリオン様は、
「相手の実力が分からなかったから、できるだけ戦闘は避けたかった。奴が私より強い可能性もあったしな。わざわざ危険に身を晒すこともないだろう」
と、おっしゃいました。
「でもでも、部隊長さんを簡単に倒してしまったリオン様なら、もしかして『碧眼の狼』の団長さんも倒してしまえるのではないですか?」
「どうだろうな? 他の部隊長はもっと強いかもしれんし、それに団長は人外の強さだからな」
わたくし達が話していると、リオン様がお倒しになったはずの隊長さんがムクリと起き上がりました。
「てめぇ……! よくもやってくれやがったな!」
なんと、彼はこんなに短期間のうちに復活なさいました!
彼は首の後ろを押さえながらリオン様を睨みつけます。
そして大剣を拾い、またリオン様に向かって構えるのです。
リオン様はおっしゃいます。
「タフなやつだな。だがもう止めておけ。お前の実力は分かった。何度かかってこようともムダだ」
「へっ、てめぇの言うとおり俺はタフなんだよ。てめぇがへばるまで何度だって起き上がってやるぜ!」
隊長さんはリオン様に宣言なさいました。
ですが、もうすぐ馬車の出発時刻になってしまいますわ。
『ユニコーン交通』は、異常なほど時間に正確なことで有名なのです。
わたくし達にどのような事情があろうとも、時間になったら出発してしまうに違いありません!
この馬車を逃したら、また明日のこの時刻まで待たなければいけません。
隊長さんに付き合っている暇はありませんわ。
わたくしは、リオン様に飛びかかろうとなさっている隊長さんに言います。
「隊長さん、わたくし達は忙しいのです。あなただけに時間を取られているわけにはいきませんの」
「てめぇらの事情なんて知ったことかよ! 『鉛の心臓』の原石を奪うまでは諦めねえからな!」
困りましたわね……。
彼がこの調子では馬車に乗れそうにありません。
やはり、いつも通り核撃爆破に頼るしかなさそうですわ。
わたくしは意を決して、隊長さんに話しかけます。
「隊長さんは戦闘狂だそうですね?」
「それがどうした!」
「でしたらわたくしが、戦いを楽しめるところへご案内したします。そこで心ゆくまで戦いを堪能してくださいませ」
わたくしは隊長さんに手のひらを向けて詠唱します。
「核撃爆破!」
わたくしは隊長さんの足元に向けて核撃爆破を放ちました。
その爆発によって隊長さんのお体は宙に舞うはずだったのですが、彼は地面に大剣を突き刺し、吹き飛ばされるのを防ぎました。
隊長さんはわたくしを睨んで叫びます。
「てめぇ、何のつもりだ!」
「あら? せっかく『死の山』まで吹き飛ばして差し上げようと思いましたのに」
「そんなことを考えていやがったのか! そんなマヌケな方法で俺から逃れられると思うな!」
「オマヌケですって……!? いいでしょう、ではもう少し威力を上げますね!」
「ムダだ! 俺がこの剣を離さない限り――」
「核撃爆破!」
今度の核撃爆破は一味違いますわ!
隊長さんが剣を突き刺している地面を爆発させたのです!
彼がいくら剣を強く握っていても、その剣が刺さっている地面ごと吹き飛んだのですから踏ん張りがききません。
隊長さんは土と一緒に空中に舞い上がりました!
「うおっ!?」
空中に放り出された彼は、もはや、まな板の上の鯉。
あとは、わたくしの好きなように調理できますわ!
「オホホホホホ! オマヌケな方法で吹き飛ばされるオマヌケな隊長さん! また会いましょうね! ごきげんよう!」
「てめぇ、待ちやが――」
「核撃爆破! 核撃爆破! 核撃爆破! 核撃爆破!」
わたくしの核撃爆破を受けるたびに加速しながら『死の山』へ向かって吹き飛ぶ隊長さん。
彼はクルクルと回転しながら頂上あたりへ飛んでいかれます。
そして『死の山』を覆っている瘴気を突き破り、ドオンと音を立てて激突なさいましたわ。
「さて、お邪魔虫さんはいらっしゃらなくなりました。これで、ようやく街に帰れますね!」
わたくしが笑顔で言うと、メンバーの皆さんも微笑んで頷き返してくださいます。
ですが『碧眼の狼』の団員さん達は顔をひきつらせ、怯えたような目でわたくしを見ておっしゃいました。
「あんな遠くまで吹き飛んだぞ……」
「よ、容赦ねぇ……」
「悪魔だ……」
***
その後、マーチお姉様は『碧眼の狼』の団員さん達を縛り上げて馬車に乗せました。
彼らを『治安維持省』で取調べることにしたようです。
出発時刻までもう少し。
馬車の中で座って待っていると、マーチお姉様がおっしゃいます。
「私のせいで手間をかけさせたわね。ごめんなさい……。私はうまく嘘をつけないのよ。嘘をつこうとすると心拍数が上がってしまうの。何故かパニックになってしまうのよね」
と、彼女はお謝りになられました。
「仕方ないですよ。完璧な人間なんていませんもの」
「そういってもらえるとありがたいけれど……本当にごめんなさいね」
「いえ、それより隊長さんも捕まえたほうが良かったですか? わたくし、彼を吹き飛ばしてしまいましたけど……」
「それは大丈夫よ。今回は逮捕じゃなくて『碧眼の狼』の情報を話してもらうだけの取り調べだから。団員が三人いれば十分よ」
「それなら良かったですわ」
わたくし達が話していると、やがて、馬車は街に向かって走り出しました。
ここへ来たときと同じように物凄いスピードで。
恐ろしい『死の山』は遠ざかっていき、景色の一部になりました。
馬車は美しい草原を通り過ぎます。
わたくし達が住む街が見えはじめる頃には、太陽は空のてっぺんにいて、心地よい光を降らせています。
この景色はわたくしの気分を表しているかのようです。
とってもいい気分です。
だって今回の遠征は大成功でしたからね。
無事、『鉛の心臓』の原石を手に入れることができました。
それに、マーチお姉様の目的であった『碧眼の狼』の情報も、団員さんを捕まえたことによって手に入れることができそうです。
街で待機している他のメンバーや、ツバメお姉様も喜んでくださることでしょう!
***
わたくし達が帰ると、わたくしの家の隣に、大きな建物が建設中でした。
まだ骨組みだけですが、わたくしの家の数倍はありそうな立派な建物です。
わたくしが驚いてその建物を見上げていると、ウヅキお姉様がセバスチャンさんを従えてやって来ます。
「サツキ、ようやく帰ってきたのね!」
と嬉しそうにおっしゃるウヅキお姉様に、わたくしは報告いたします。
「ただいま戻りました。無事『鉛の心臓』の原石は手に入りましたわ」
「そう、よくやったわね! さすが私の妹ね!」
「お褒めいただきありがとうございます。それで、ウヅキお姉様、この大きな建物はいったい……?」
わたくしが建設中の建物を見上げて尋ねると、彼女は得意満面の笑みでおっしゃいます。
「フフン、聞いて驚きなさい! この建物はあなたの……いえ、私達の組織のための建物よ! この私が! 建設費を出してあげたのよ! 感謝しなさい! 私に!」
「え!? 組織の?」
「そうよ! ここを本部とするわ! そして、ブラック商会があった北区の土地にも、支部を建設中なの! まあ、そっちは『魔術クラブ』のメンバーが建設費を出しているけど……。所詮は支部! 本部の建設費を出した私のほうが偉いわ!」
「え? 支部? 本部ですか?」
「アハハッ、サツキったら、突然家の隣に建物ができたから混乱しちゃってるのね! そうよ! 私達『魔術クラブ』のメンバーを頂点とし、400人の部下を構成員とする組織の、本部と支部を作っているの! この建物が完成したら、ここには『魔術クラブ』のメンバーや構成員達が常に待機することになるわ! そして地域の治安を良くしたり、あなたの家を守ったりするのよ!」
なんですって!? 素晴らしいわ!
わたくし達が遠征していた間に、組織の再編成や、本部や支部の建設が大きく進んでいたのですわ!
流石『魔術クラブ』のエリート達です!
わたくしが心のなかで彼らのことを賞賛していると、ウヅキお姉様がおっしゃいます。
「サツキ! この素晴らしい組織再編成計画を考えだした私を、褒め称えなさい!」
えっ!? 信じられません!
お子様のウヅキお姉様が、このような計画を考えたですって!?




