第四十三話 お宝のゆくえ
わたくし達は『死の山』で『鉛の心臓』の原石を手に入れました。
今は街に戻るための馬車に乗って、出発時刻になるのを待っているところです。
向かい側の座席には、傭兵団『碧眼の狼』の隊長さんと、三人の団員さんがお座りになっています。
彼らも『鉛の心臓』の原石を手に入れるために『死の山』に入っていたのですが、手に入れることができずに下山なさったようです。
ちなみに、わたくし達が『鉛の心臓』の原石を持っている事には、彼らはお気づきでないようです。
もしその事に気づかれたら、彼らとの戦いは避けられませんね。
馬車の中は静かですわ。
皆さん無言なのでちょっと気まずいですね。
わたくしは気まずさから逃れるために、窓の外を見ていました。
すると、わたくしの対面にお座りになっている『碧眼の狼』の隊長さんが、こちらを見て口を開きました。
「おい、てめぇら」
隊長さんに声をかけられて、わたくしは彼に微笑み返しました。
「はい? 何でしょう?」
隊長さんはギロリとわたくしを見て、
「てめぇら、『死の山』になんの用があって来やがったんだ?」
と、おっしゃいました。
「当然、観光ですけど?」
「こんな閑散期にか」
「ええ、そうですわ。あなた方こそ何をしにいらっしゃったのですか?」
わたくしが聞き返すと、彼は嫌そうなお顔でおっしゃいます。
「俺らのことはいいんだよ! てめぇら、本当に観光でやってきたのか?」
そして、彼は何かを探るような目をわたくしに向けるのです。
何でしょうか?
もしかして隊長さんは、わたくし達が『鉛の心臓』の原石を持っていると疑っているのでしょうか?
少なくとも、『馬車の中の皆さんが無言なので、それに耐えきれなくなって話しかけた』という感じではありませんわ。
隊長さんはわたくし達を、一人ずつ指差しながらおっしゃいます。
「ナマイキそうなクソガキに、『治安維持省』の制服の女、ボロい服を着た浮浪者に、とてもカタギには見えん剣士。てんでバラバラのメンツじゃねえか」
「そう言うあなた方は、青色のステキなペアルックでいらっしゃいますわ。あ、四人ですのでペアではないですね。四人だと何ルックと言うのでしょうね?」
わたくしは頬に手を当てて首を傾げました。隊長さんは声を荒げます。
「知らねぇよ! だから、俺らのことはいいって言ってんだろ! てめぇら、どういう関係だ?」
わたくしは荒ぶる隊長さんに、こちらのメンバーを紹介していきます。
「こちらはわたくしの姉、そちらは学園の先輩、あちらはわたくしの家庭教師ですわ」
「あん!? 姉妹? 嘘つくんじゃねぇよ。全然似てないぞ」
「はあ、そうかも知れませんね。異母姉妹ですので」
すると隊長さんは舌打ちをしておっしゃいます。
「チッ、よく舌が回るガキだぜ。てめぇじゃ埒が明かねぇ。おい姉ちゃん。今度は姉ちゃんに聞くぜ。てめぇらは何の目的でこの『死の山』にやって来やがった?」
隊長さんは情報を得る相手を、わたくしからマーチお姉様に変えたようです。
ですが、マーチお姉様は『治安維持省』の部長ですわ。
幾度も悪党どもの嘘を暴いてきた彼女は、嘘のエキスパートです。
『鉛の心臓』の原石を横取りされるようなオマヌケな傭兵さんに見破られるような嘘はつかないはずです!
わたくしは、マーチお姉様がどのような対応をするのかと思って見ていました。
ですが、彼女は隊長さんの質問に反応することはなく、黙ったままでした。
なるほど!
隊長さんのことを無視することで『わたくし、あなたとは話したくありませんわ』的なアピールをなさるおつもりね!
流石マーチお姉様! 勉強になるわ!
マーチお姉様の対応力に、わたくしが感心していると、
「聞こえてねぇのか? じゃあ次の質問だ。『鉛の心臓』って魔石を知っているか?』
と、隊長さんが尋ねました。
すると、プルプルと震え出すマーチお姉様。
どうしたのでしょう?
もしかして体調が悪いのでしょうか?
『死の山』の洞窟の中は寒かったので、風邪をおひきになってしまわれたのかもしれません。
わたくしがマーチお姉様を心配していると、彼女は口を開きます。
「しっしししし知らないわ! 『鉛の心臓』なんていう魔石は知らないわ!」
マーチお姉様がそう言った瞬間、彼女のお顔から、汗が滝のように流れ出します!
あ、怪しすぎます!
完全に挙動不審ですわ!
それでは嘘をついているとバレバレではないですか!
眉をひそめて睨んでいらっしゃる隊長さんに、マーチお姉様は弁解するようにおっしゃいます。
「ほっ、本当に知らないのよ? だって、『鉛の心臓』なんていう魔石は知らないんだから。だから知らないのよ!」
「なんだか様子が変だぜ? 本当に知らないのかよ?」
「知らないわ! 『鉛の心臓』なんて見たことも聞いたこともないし! だから、その原石が『死の山』にあるなんてことも――」
わたくしは慌ててマーチお姉様の口を押さえて、彼女の言葉を遮りました!
「ストップ! ストップですわ! マーチお姉様は、コワモテな殿方に迫られて怯えていらっしゃるのね! もうこの方とはお話しにならないほうがよろしいですわ!」
マーチお姉様が口を開けば開くほど、状況が悪化していきます!
彼女がこれほど嘘をつくのが苦手だとは、思ってもいませんでしたわ!
わたくしはマーチお姉様を黙らせて、隊長さんに愛想笑顔を見せます。
ですが、隊長さんはわたくし達の態度を不審がって、眉をひそめました。
「コワモテな男に怯えるようなヤツに『治安維持省』の職員が務まるわけねえだろが。何をそんなに焦ってやがる? そんなに焦るのは何かやましいことがある証拠だぜ。てめぇら、『死の山』に入ったんだろ? それで俺達から『鉛の心臓』を掠め取ったんじゃねぇのか?」
隊長さんは、彼から目を背けているマーチお姉様を尋問いたします。
なんてことなのでしょう!
本来なら、マーチお姉様が隊長さんを尋問する立場だというのに……。
これではあべこべではないですか。
隊長さんはマーチお姉様の尋問をお続けになります。
マーチお姉様はお顔から汗を流しながらもボロを出さないようにと、黙秘権を発動させています。
彼女が口を開かなくなったので、隊長さんは諦めて、またわたくしの方を向きました。
「おい。さっきから、てめぇが大事そうに抱えているその袋の中身、『鉛の心臓』の原石なんじゃねえのか? 見せてみろよ」
隊長さんはそう言って、わたくしの膝の上に置いてあった袋を掴もうとなさいました。
確かに彼の言う通り、この袋の中には『鉛の心臓』の原石が入っていますので、中身を見られるワケには行きません。
わたくしは彼の手をパシリと叩いて言いました。
「これはわたくしの着替えが入っているのですわ。淑女の着替えた服を見ようだなんて、まったく非常識な方ですわ」
すると隊長さんの部下の方々がおっしゃいます。
「隊長、変態行為は止めてくださいよ」
「そうですぜ。いくら隊長がモテないとはいえ女の子の着替えた服を見たいだなんて……」
「さすがの俺らもドン引きですぜ」
部下の方々がお諌めすると、隊長さんはお顔を真っ赤にして、
「何が着替えだ! 袋の外からでも中身がゴツゴツしているってのが分かるぜ! その中身は『鉛の心臓』の原石なんだろうが!?」
と、お叫びになります。
「これはゴツゴツした服なのです。今、王国では、ゴツゴツした服を着ることが最新のトレンドなのですよ? 知りませんでしたか?」
と、わたくしが言うと、また隊長さんの部下の方々がおっしゃいます。
「隊長、いくら流行に疎いとはいえ言いがかりは止めてあげてくださいよ」
「そうですぜ。そんなに女の子の着替えた服を見たいんですか……?」
「さすがの俺らもドン引きですぜ」
「うるせえ! 黙ってやがれ! 大体ゴツゴツした服ってどんな服だ、そりゃあ!」
隊長さんは叫んで立ち上がり、わたくしの持つ袋を掴むと強引に奪おうとなさいます!
「キャー! 痴漢! この人痴漢です!」
わたくしが叫ぶと、すぐに馬車の外にいた御者さんがやって来て、
「車内での〜迷惑行為はおやめください〜」
と、隊長さんに注意してくださいました。
部下の方々も、
「隊長! 止めてください! 『治安維持省』の職員が目の前にいるんですぜ!」
「『碧眼の狼』の部隊長が痴漢で逮捕! だなんて事になったら団長に何を言われるか……!」
「そうですよ! それにまた、他の部隊長に笑われますよ!」
と言って隊長さんを止めようとなさいます。
ですが彼はお構いなしにわたくしの袋を引っ張るのです。
「離してください!」
わたくしは叫びながら、袋を取られないように引っ張ります!
すると袋が破け、そこから『鉛の心臓』の原石がゴロリと落ちてしまいました。
その原石は馬車の床をゴロゴロと転がっていき、リオン様の足に当たって止まりました。
原石の行方を目で追って、黙り込む皆さん。
馬車の中には静寂が訪れます。
その静寂を破ったのは隊長さんでした。
「やっぱりてめぇらが『鉛の心臓』の原石を持ってたんじゃねえか! 俺らの獲物を横取りしやがって! てめぇら、表に出やがれ!」




