第四十二話 お宝ゲットですわ!
わたくし達は『鉛の心臓』の原石があるという洞窟内に入りました。
わざわざ『碧眼の狼』の団員さんが見つけてくださったのですから、ありがたく横取りいたしましょう。
ただ、団員さんの情報によれば、洞窟内にはB級の魔物『幻想孔雀』がたくさんいるらしいのです。
リオン様やマーチお姉様、シン先輩には、もう一合戦やらかしていただかなければいけません。
洞窟の中では爆発系の魔術を使えないので、わたくしは役立たずですわ。
せめてサポートくらいはしたいとわたくしは考えて、皆さんに補助魔術をかけることを提案しました。
ですが、リオン様には、
「キミの補助魔術は副作用として爆発が起こる。戦闘前に痛い思いはしたくない」
と言われてしまいました。
「ちょっとくらい爆発するからといって何だというのです! 古い言葉に『良薬口に苦し』とあるように、後々ありがたい効果があるのです! 痛いのはちょっとだけ! しかも最初だけですわ!」
わたくしはそう説明して、マーチお姉様とシン先輩にも補助魔術を勧めたのですが……。
「いや、補助魔術が爆発するのはおかしい」
「そうね、サツキのことは信じたいけど、その補助魔術はちょっと怖いわ」
と、お二人にもお断りされてしまいましたわ。
そんなふうに言われてしまったら仕方がありません。
わたくしは補助魔術でサポートすることを一旦あきらめることにしました。
さて、わたくし達が洞窟を慎重に進んでいくと、やがて最奥の部屋が見えてきます。
通路からその部屋をそうっと覗くと、中心には祭壇があり、さらにその祭壇の中心に大きな魔石が置いてあります。
それは、ツバメお姉様の『鉛の心臓』と同じように鈍い光を放っていました。
あれが『鉛の心臓』の原石なのですね!
はやくあの原石を手に入れて洞窟を出たいところです。
ですが祭壇の周りには、団員さんの情報通り『幻想孔雀』がたくさんいて『鉛の心臓』の原石を守るように取り囲んでいるのでした。
「あらあら、やはり『幻想孔雀』がいましたね。あれだけたくさんの『幻想孔雀』がいるなら苦戦すること間違いなしですわ!」
わたくしが笑顔でリオン様に言うと、
「そうかもしれんな。だが、何故そんな嬉しそうに言う?」
「えっ? 嬉しそうになんてしていませんわ? そんなことより、『幻想孔雀』がたくさんいるのですから苦戦間違い無し! さあ、わたくしの補助魔術天空の加護を掛けて差し上げますわ!」
するとリオン様は首を横に振っておっしゃいます。
「必要ない。ここでおとなしくしてなさい」
リオン様には、またもや断られてしまいました!
ですがわたくしは諦めません!
わたくしは、シン先輩へと振り返り、
「シン先輩! いかがで――」
「いらん」
いらん、ですって!?
いえっ、まだ諦めません!
まだマーチお姉様がいます!
わたくしはマーチお姉様へと振り返り、
「ではっ、マーチお姉様――」
「やめて」
皆さん、にべもなくお断りになられました!
全員に遠慮され、わたくしが驚愕の表情で固まっていると、リオン様がおっしゃいます。
「サツキ、キミは余計なことをせず、おとなしくしていなさい。さて、作戦会議を始めるぞ。まずシンは、女神の聖域を撃って奴らにダメージを与えてくれ。その後私が突撃して乱戦に持ち込む。マーチはここから私を援護してくれ。サツキ、もう一度言うが、キミはここでおとなしくしていなさい」
リオン様は、わたくしを蚊帳の外において作戦をおたてになりました。
しかも、わたくしに向かって、二度も「おとなしくしていなさい」と釘を刺すのです。
わたくしだって活躍したいのですよ!
リオン様はその気持ちを汲んでくださらないのですわ!
リオン様ったらいつもそう!
彼はわたくしの家庭教師なのに、わたくしのことを蔑ろにし過ぎではないでしょうか!?
わたくしが憤っているうちに、シン先輩が魔術陣を描き、『幻想孔雀』達に向かって女神の聖域をお放ちになりました。
そしてリオン様が突撃し、『幻想孔雀』を蹴散らしていきます。
マーチお姉様はこちらに向かってくる『幻想孔雀』を魔導自動銃で吹き飛ばしていらっしゃいます。
戦闘はリオン様の作戦通りに進み、わたくし達は、『幻想孔雀』達に勝利いたしました。
……いえ、わたくしが活躍する機会は全くありませんでしたので『リオン様とマーチお姉様とシン先輩は、幻想孔雀達に勝利いたしました』が正しいですわ。
わたくしは『幻想孔雀』のいなくなった部屋を歩いていき、祭壇の中心にあった『鉛の心臓』の原石を手に取ります。
ミッションコンプリート。ですわね。
わたくしはため息をついて、メンバーの皆さんに振り返って言います。
「わたくしは活躍していないので何だか釈然としない、というのが正直な気持ちですが、無事目的の原石も手に入りました。山を降りましょう」
***
幸い『碧眼の狼』の方々はまだ戦闘を楽しんでいらっしゃるようで、わたくし達が下山中に遭遇することはありませんでした。
また、登る際に遭遇した『冥界小猿』のような魔物にも襲われることはなかったです。
ですが、麓に近づくにつれて、眠気と疲れが襲ってきます。
ずっと歩き続けていたのですから当然かもしれません。
流石に『死の山』を攻略するのは疲れましたわ。
『死の山』の麓まで下りてくると、眩しい朝日がわたくし達を迎えてくれました。
山の上は瘴気が濃くて太陽や月の光が届かないので、時刻が分かりませんでした。
わたくし達が昨日のお昼前に『死の山』に着いたことを考えると、ほとんど丸一日『死の山』の中にいたのですね。
道理で頭がボンヤリするはずです。
ああ、はやく家に帰ってお風呂に入り、暖かい布団で眠りたいわ。
***
わたくし達がユニコーン交通の馬車に乗って出発時刻になるのを待っていると、『死の山』の方から、青い服を着た団体さんがこちらに向かってやって来ました。
あれは『碧眼の狼』の方々ですわ。
『鉛の心臓』の原石を見つけられなかったので山を下りてきたのでしょうか?
体の大きな団員さんが、隣の団員さんに向かって何やら大声で喚いていらっしゃいます。
喚いていらっしゃる方は、体格がよく、背中にとても大きな剣を背負っていらっしゃって、なんだかとっても強そうですわ。
彼が『碧眼の狼』の部隊長さんなのでしょうか。
部隊長さんらしき方と隣の方の会話が聞こえてきます。
「てめぇが見つけたとかいう魔石の原石はどこに行きやがったんだぁ!?」
「分からないです。俺は確かにこの目で見たんですが」
「どこにもなかったじゃあねえか! 本当に見たのかよ!?」
「見ましたよ! 隊長だって、あのいかにもお宝が飾ってありそうな祭壇を見たでしょう? あの上にでっけえ魔石が置いてあったんですぜ」
「くそったれ! どうなってやがる!? 他の洞窟にも魔石の原石はなかったし、依頼人から聞いた情報が間違っていたのか?」
『碧眼の狼』の隊長さんは悪態をつきながら立ち止まりました。
そして、彼にならって立ち止まった団員の方々に向かって指示を出します。
「てめぇらは本隊に合流して団長の指揮下に入れ」
「隊長達はどうするんですか?」
「依頼人に報告しなきゃイカンだろうが。依頼失敗の報告なんぞしたくはないが仕方ねえ」
指示を受けた『碧眼の狼』の団員さんたちは、別の街に向かう馬車に乗り込んで『死の山』からお去りになりました。
隊長さんは、残った数名の部下の方々を引き連れてこちらに向かって歩いてきます。
「あら? もしかして、あの方々はこの馬車にお乗りになるのかしら?」
わたくしが呟くと、リオン様がおっしゃいます。
「そのようだな。どうする? 奴らがいきなり襲い掛かってくることはないだろうが……。私たちが『鉛の心臓』の原石を持っているということに気づかれたら、戦闘になるのは間違いないぞ」
「あの方々が来たからといって、今から馬車を出たら怪しまれるかもしれませんし、知らんぷりしておきましょう。万が一あの隊長さんと戦うことになっても、リオン様なら勝てますよね?」
わたくしが尋ねると、リオン様は馬車の窓から隊長さんを見つめながらおっしゃいます。
「ふむ、パッと見た感じでは、ヤツの実力も中々のモノに見えるが……。多分負けることはないだろう。断言はできんが」
「あらあら、多分とか、断言できないとか、最強剣士リオン様ともあろう方が随分と弱気ですのね。でも、負けそうになっても大丈夫ですわ。その時こそわたくしの補助魔術天空の加護が火を吹きますので」
「だから、補助魔術は爆発したり火を吹いたりはしないぞ……」
わたくしとリオン様がそんな会話を交わしていると、『碧眼の狼』の隊長さん達が馬車に乗り込んできました。
隊長さんは、わたくしをジロジロ見ながら対面の席にお座りになります。
隊長さんの不躾な視線を受けて、わたくしは気取ったふうに取り澄まします。
そう、知らんぷりしているのです。
彼が何を言おうと、素知らぬフリで切り抜けてみせますわ。




