第四十一話 乱射王女
一つ目の洞窟をわたくし達は、奥へ進んでいきます。
奥は光が入ってこないため、かなり暗いです。
シン先輩が魔術で明かりを灯してくれなければ、歩くことすらできなかったはずですわ。
わたくし達は慎重に進んでいき、やがて洞窟の最深部にたどり着きました。
洞窟の最深部は開けていて、結構な広さがあります。
「ふむ、この洞窟内には『幻想孔雀』はいないようだな」
リオン様がおっしゃいました。
確かに、洞窟に住み着くというB級の魔物『幻想孔雀』はいないようですので、じっくりと探しものができそうですわ。
「では、わたくし達の目的である『鉛の心臓』の原石を探しましょう」
わたくし達はシン先輩の明かりを頼りに、地面や壁、天井を探していきます。
ですが、それらしいものは見つけることができません。
一つ目の洞窟はハズレでしょうか……?
いえ、もしかすると目的の原石は、この奥の部屋ではなくて通路にあったりするかもしれませんわ。
わたくしはそんな風に考えて、通路の方へと向かいます。
するとそこには、腰の高さくらいの巨大な毛玉が道を塞いでいました。
「あら、なんでしょう? この巨大な毛玉は? ここに来たときはこんなものはなかったはずですが」
わたくしが毛玉を調べようと手を伸ばすと――
「離れなさい! サツキ! それが『幻想孔雀』だ!」
リオン様がお叫びになりました。
「え? これが孔雀ですか? ただの丸い毛玉にしか見えませんが……」
わたくしが戸惑って毛玉を見ていると、それが震えだし、突然大きな羽がバサリと広げられました。
羽の中心には、獰猛そうな目が二つ輝き、わたくしを睨んでいます。
そして鋭いくちばしを大きく開き、ケーッと甲高い鳴き声をあげました。
「キャア!? 『幻想孔雀』ですわ!」
毛玉が孔雀に変身したことに驚いていると、マーチお姉さまの声が聞こえます。
「サツキ、伏せなさい!」
それを聞いて反射的に伏せるわたくし。
マーチお姉様は腰のホルスターから魔導銃を素早く取り出し、引き金をお引きになりました。
魔導銃はマーチお姉様の魔力を吸い取り、魔力弾を発射します。
魔力弾が直撃し、『幻想孔雀』は一瞬怯んで後ずさりますが、大したダメージはなかったようです。
『幻想孔雀』は怒りの鳴き声を上げ、マーチお姉様に突進していきます。
「やっぱりこれくらいじゃダメね……。だけど、これならどう!?」
マーチお姉様は魔導銃をホルスターにしまい、今度は服の中から魔導自動銃を取り出しました!
彼女は魔導自動銃を構えると、『幻想孔雀』に狙いを定めました。
そして、引き金を引くと――
ダダダッ、という音とともに無数の魔力弾が飛び出していきます!
大量の魔力弾を受けて吹き飛ばされ、『幻想孔雀』は洞窟の壁に叩きつけられました!
マーチお姉様は容赦なく追撃します。
彼女は、服の中からもう一つ魔導自動銃を取り出し、二つの銃で『幻想孔雀』を撃ち続けます。
その攻撃のあまりの苛烈さに、『幻想孔雀』は壁から身動きが取れません。
マーチお姉様の攻撃によって、たくさんのダメージを受けた『幻想孔雀』は消え去りました。
マーチお姉様は、魔導自動銃を服の中にしまい、息を吐きました。
「ふう、こんなものかしら」
「凄いですわ! マーチお姉様がこれほどお強いとは思っていませんでした!」
わたくしがマーチお姉様のそばに駆け寄り、彼女の勝利に興奮していると、
「せっかくここまで来たんだし、私もいいところを見せないとね」
と、マーチお姉様はにっこり笑っておっしゃいました。
***
さて、最初に入った洞窟では『鉛の心臓』の原石を見つけることができませんでした。
ですので、わたくし達は別の洞窟を順に探索していったのですが、ときおり『幻想孔雀』に遭遇するだけで、目的の原石を見つけることができません。
ちなみに、遭遇した『幻想孔雀』は御三方によって倒されましたわ。
リオン様が剣を振ったり、シン先輩が聖属性魔術の女神の聖域を放ったり、マーチお姉様が魔導自動銃を乱射したりして。
なかなか目的の原石を見つけることができないので、探索に疲れたわたくし達は小休止をしていました。
すると、遠くの洞窟から青い上着を着た方が出て来るのが見えました。
「あれはどなたでしょう? 『碧眼の狼』の方でしょうか?」
わたくしが尋ねると、マーチお姉様がおっしゃいます。
「そうね、あの青い服。間違いないわ。傭兵団『碧眼の狼』の団員よ。アイツらの人数や戦力が知りたいわ。見つからないように後をつけましょう」
わたくし達は、コソコソと尾行をはじめました。
団員さんの後をつけてしばらく歩くと、開けた場所で別の団員さんが座っているのが見えます。
歩いていた団員Aさんが、座っている団員Bさんに手をあげました。
わたくし達は彼らに見つからないように岩陰に隠れて様子をうかがいます。
団員さんたちは会話を始めました。
「戻ってきたぜ。こっちはハズレだった。そっちはどうだった?」
「こっちもハズレだ。しかも隊長が別行動中だ。『幻想孔雀』の親玉を見つけて戦闘中だ。『俺の獲物だから手を出すな』だとよ」
「はあ、相変わらずの戦闘狂だよな。団長とか隊長達は全員気が狂ってるとしか思えんぜ」
「まあな。で、お前の方は変わったことはなかったのか?」
「それなんだがな……。いくつかの洞窟で人が住んでいたような形跡があった」
「あん? 冗談だろ? こんな山に人が住んでるわけないだろ」
「だが、焚き火をしたような跡があったぜ? まだ日が経っていないみたいだったから、この山にいるかもしれん」
「マジかよ……」
あら、彼らがお話になっているのはシン先輩のことではないでしょうか?
わたくしが振り向くと、シン先輩は
「俺のことだな。あの者が出てきた洞窟は、俺が寝床にしていた場所だ」
と、ボソリとおっしゃいました。
団員Bさんが口を開きます。
「こんな瘴気の濃いところに住んでいたら、俺なら三日で気が狂う自信があるね。大体、ここには食いもんもないし、何を食べて暮らしているんだ?」
「さあ、泥水とか?」
「バカ言え。そんなわけないだろ」
いえ、団員Aさん、大当たりですわ。
ですがより正確にいうなら『涅槃水』ですが。
泥水だなんて言うとシン先輩がお怒りになってしまいます。
わたくしがシン先輩をチラリと見ると、意外なことに彼はお怒りになっていませんでした。
ですが彼はお怒りになる代わりに、
「『涅槃水』を持ち帰るために水筒を持ってこればよかったな」
と、不穏なことをブツブツ呟いていらっしゃいました。
団員Aさんはおどけた様子で、
「とにかくこんな山に住んでいるような奴だ。遭遇するかどうかは分からんが注意しておいたほうがいい。すでに気が狂っていて、出会った瞬間に襲い掛かってくるかもしれん」
と、おっしゃいました。
「ハン、笑えねーな。そんな狂人の相手はご勘弁願いたいぜ」
『碧眼の狼』の方々はシン先輩のことを好き勝手言ってらっしゃいます。
そのシン先輩は、
「俺は狂人ではない。自分でも理性的な人物だと思っているし、周りからの人物評もおおむねそんな感じだ」
と、おっしゃいますが、彼がお召しになっている服はボロボロで、マントもズタズタです。
ぱっと見た感じではアブナイ人にしか見えませんわ。
もし夜道でシン先輩に出会ったら、大抵の方は驚いて逃げ出すことでしょう。
わたくしがそんな風に考えていると、さらに三人目の団員Cさんが現れました。
彼は奥の洞窟から出てきて、
「おい! あったぞ! 依頼されていた魔石の原石を見つけた!」
と、お叫びになりました。
「ホントか!? 見せてみろよ!」
団員Aさんが立ち上がってそう言うと、団員Cさんは首を横に振ります。
「まだ見つけただけだ。あの洞窟のかなり奥にあるんだが、『幻想孔雀』が大量にいやがった。ありゃあ隊長も含めて全員でかからんと無理だぜ」
すると、腕を組んで考えていた団員Bさんが口を開きました。
「よし、隊長への報告ついでに『幻想孔雀』の親玉を倒すのを手伝いに行ってくる」
「おい、いいのかよ? 『俺の獲物だから手を出すな』って言われたんだろ?」
「いいんだよ! 俺はさっさと依頼をこなしてこの山を降りたいんだ!」
「まあ、こんなところからは早くおさらばしたいが……」
「だろ? ならお前らも『幻想孔雀』の親玉を倒すのを手伝いやがれ!」
『碧眼の狼』の皆さんは、隊長さんがいると思われる洞窟へ入っていってしまいました。
これは、彼らを出し抜いて『鉛の心臓』の原石を手に入れるチャンスではないでしょうか?
わたくしがそう考えていると、リオン様も同じように考えていたようで、こうおっしゃいます。
「奴らがいない今のうちに『鉛の心臓』の原石を頂いてしまおう。『碧眼の狼』の隊長格も来ているようだし、奴らと戦闘になったら面倒だ」
というわけで、わたくし達は団員Cさんが出てきた洞窟へと向かいます。
ホホホ、団員Cさんが『鉛の心臓』の原石を見つけてくださったおかげで、楽に手に入れことができそうです!
団員Cさんに感謝ですわ!




