第二十八話 第10000王女の帰還
さて、天の宮から会場に戻ってきたわたくし。
女神様が行った『時間停止』の効果がまだ続いているので、会場で動いている人はわたくしだけです。
皆さん、わたくしに向かって何か叫んでいるところで固まっています。
早くわたくしの無事なところを見ていただいて安心していただきたいですわ。
魔術死合のコート上で、下卑た笑顔で固まっていらっしゃるリリアンヌお姉様を見て、わたくしは考えます。
一体どのようにして懲らしめてあげましょうか?
リリアンヌお姉様は、わたくしだけではなく、わたくしの家族まで卑劣な罠にかけたのです。
他のこれまでのお姉様方よりも、かなりキツめのお仕置きにいたしませんと。
とりあえず、この危険な『再生の杖』は没収しておきましょう。
リリアンヌお姉様のご家族は、彼女に一体どのような教育をなさっているのかしら?
今時『上級貴族至上主義』を主張なさるような方に、こんな危険なものを持たせてはいけませんわ!
固まっているリリアンヌお姉様に近づいて『再生の杖』を取り上げた時です。
わたくしは、彼女の指に光り輝く指輪を見つけてしまいました!
この指輪は魔術具『アンリミテッド・マジカルリング』です!
これは、身につけた者の魔力を倍増させるという、凄い指輪ですわ!
確か、お値段の方も凄かったはず……。
普通に買えば、500000000ゴールドは下らない代物です。
こんなものまでお使いになっていたなんて、リリアンヌお姉様はわたくしのことを、完全に亡き者にしようとお考えだったのですね。
当然、こちらの指輪も没収ですわ。
わたくしはリリアンヌお姉様のお体をくまなくまさぐり、他に怪しいものを持っていないか調べました。
すると、出るわ出るわ、彼女のお体からは数十個の魔術具を取り出すことができましたわ。
もちろんすべて没収しておきます。
魔術具を全て取り上げた後、彼女へのお仕置きの内容を考えていると、一瞬空が光りました。
女神様からお聞きした、時間が動き出す予兆です!
わたくしはリリアンヌお姉様の背後に立って、時間が動き出すのを待ちます。
***
そして、世界は目覚めます。
その瞬間、会場中からわたくしを心配してくださる声と、悲鳴が響き渡ります。
リリアンヌお姉様はそれをバックに、お笑いになっていますわ。
リリアンヌお姉様が放った『再生の炎』が消え去り、そこにはチリひとつ残っていません。
「アハハハッ! やったわ! 骨も残さないほど燃やし尽くしてやったわ!」
リリアンヌお姉様が笑い、観客の皆さんがお叫びになります。
「サツキーッ!」
「なんてヒドイことを……!」
「許さんぞ! リリアンヌ!」
リリアンヌお姉様は気持ちよさそうに、観客の皆さんの罵倒を聞いています。
「あははははっ、私に逆らうからこうなるのよ! あなた達もサツキのようになりたくなければ、上級貴族には逆らわないことね!」
わたくしは背後からリリアンヌお姉様にささやきます。
「では逆らったほうが良い結果になりそうですわ」
「ヒッ!? 誰よ!」
リリアンヌお姉様がわたくしへと振り向きます。
そして、わたくしが無事だったことに驚いた彼女は、尻餅をつきそのまま後ずさりました。
「なっ、なっなんで生きているのよ! サツキ!」
「ホホホ、再生の炎が空振りに終わって残念でしたわね」
「この! 運のいいヤツめ! もう一度喰らいなさい! 再生の炎!」
リリアンヌお姉様は起き上がり、手を振って詠唱なさいます!
わたくしが無事だったことに安堵していた観客の皆さんが、それを見て、また悲鳴をお上げになります。
ですが――当然、何も起こりませんわ。
シーンと静まり返る試合会場。
リリアンヌお姉様はお焦りになり、腕を振りながら何度も詠唱なさいます。
「再生の炎! 再生の炎! 再生の炎! 再生の炎! なんで!? なんで魔術が発動しないの!?」
「オホホホホ! リリアンヌお姉様ったら面白いことをなさるのね! コメディアンの才能がお有りだわ! お姉様、お手元をご確認なさい!」
それを聞いたリリアンヌお姉様がご自分の手を確認して、
「無い! 無いわ! 私の『再生の杖』が! どこにいったの!?」
「あらあら、お姉様ったらコメディアンだけではなくて、奇術師の才能もお有りのようですね! お姉様がおっしゃっている『再生の杖』とは、この杖のことかしら?」
わたくしがリリアンヌお姉様から没収した『再生の杖』をお見せすると、彼女はつり上がった目を限界までお開きになります。
「それは私の『再生の杖』じゃない! いつの間に盗んだの!? 返しなさい! こんなの不正よ!」
そしてリリアンヌお姉様は、コートの外にいた審判さんに振り向いて合図します。
すると、審判さんは「杖を返しなさい! そうしないと失格だぞ!」とおっしゃるのですわ。
わたくし、思わず笑ってしまいましたわ。
「ホホホ! 不正ですって? これはルール無用の魔術死合ですのよ? 相手の魔術具を盗んだところで何の問題もありません。リリアンヌお姉様と共謀して、わたくしに不利な判定をなさろうとする審判さんは、引っ込んでいてくださいませ!」
わたくしが審判さんを睨んで叫ぶと、彼は驚いた表情で固まっています。
まさか審判さんは、リリアンヌお姉様とグルだったことを気づかれてないとでも思っていたのでしょうか?
あんな不自然に交代なさったのですから、この審判さんがリリアンヌお姉様の仲間であることは誰に目にも明白です。もちろん会場の皆さんにも。
わたくしはリリアンヌお姉様に向き直って言いました。
「さあ、リリアンヌお姉様、魔術死合を再開いたしましょう。わたくし、死合開始の時とは違って、今はやる気に満ち溢れているのですわ。早くリリアンヌお姉様をボコボコにしたくてウズウズしておりますの」
「このっ、私を舐めるな! 天の怒り!」
リリアンヌお姉様は天の怒りを詠唱なさいます。
が、彼女の魔術は発動しませんでした。
リリアンヌお姉様の叫びだけが会場に虚しく響き渡りました。
「なっ、なんで魔術が使えなくなっているの!? サツキ! またあなたが、何か姑息な不正をしたの!?」
「先程言ったように、ルール無用の魔術死合に不正は存在しませんわ。それに、どちらかと言えば、リリアンヌお姉様の方が不正をなさっていたではないですか……。この『アンリミテッド・マジカルリング』をつけて、わたくしとの魔術死合に望んだのですから」
リリアンヌお姉様から没収した『アンリミテッド・マジカルリング』をお見せすると、彼女はまたもや目を見開きます。
「それは、私の『アンリミテッド・マジカルリング』!」
「今はわたくしのものです。リリアンヌお姉様のものではありませんわ」
「一体どうやって私から盗んだの!」
「ほほほ、企業秘密ですわ。そんなことより、お姉様。『アンリミテッド・マジカルリング』をお外しになったら、C級魔術すら撃てなくなったのですね? エリートの集まりである『魔術クラブ』の部長が、C級魔術を撃てないというのはどういう事なのでしょう?」
「そ、それはっ!」
リリアンヌお姉様はそう言ったきり、言葉を紡ぐことができなくなってしまいました。
お姉様は、普段からこの指輪に頼っていたのではないでしょうか?
だからわたくしの指輪を魔術具だと見抜くことができ、『アンリミテッド・マジカルリング』のような魔力を倍増させる物と勘違いなさったのでしょう。
「リリアンヌお姉様の本当の実力は、C級魔術師以下なのでしょうね。それをこの指輪でごまかして、魔術の実力者であるようにお振る舞いになっていたのではないのですか? 先程お試しになった天の怒りの魔術陣が全く反応しないことを考えると、D級魔術を撃てるかどうかも怪しいものですわ」
わたくしがリリアンヌお姉様の実力を推察して言うと、観客席からざわめきが起こります。
死合をご覧になっていた『魔術クラブ』の皆さんも口々におっしゃいます。
「何だって! リリアンヌ様は魔術のエリートではなかったのか!?」
「言われてみればリリアンヌ様は、いつもあの指輪をつけていらっしゃったわ……」
「私達を騙していたのねっ!」
観客からも、選手からも非難轟々のリリアンヌお姉様。
うつむいてそれを聞いていた彼女でしたが、突然、狂ったように笑い出すのです!
「アハハハハッ! バレてしまっては仕方がないわね! こうなったら、全員に死んでもらうしか無いわ! 私が魔術を使えないことを知ってしまった全員にね! 私の財力を舐めないで! その『再生の杖』や『アンリミテッド・マジカルリング』などは、私の魔術具コレクションのごく一部にしか過ぎないのよ! 私が身につけている他の魔術具があれば、このコロシアムを消滅させることだって可能なの! 私の秘密を暴いたサツキ! そして運悪く私の秘密を知ってしまった皆さん! さようなら! 死んでしまいなさい!」
彼女はそう叫ぶと、ポケットに手を突っ込み、素早く引き出しました。
そして、わたくしに手を向けて、
「輝け『太陽のかけら』! 早天払暁!」
と詠唱なさいます。
もちろん彼女の手には魔術具なんてありませんので、早天払暁は不発ですわ。
「ホホホ、『太陽のかけら』とは、これのことですか? それともこれのことかしら? たくさんあって分からないわ」
わたくしはリリアンヌお姉様に、没収した魔術具コレクションを見せていきます。
リリアンヌお姉様は他のポケットにも手を突っ込んで、魔術具を確認していきます。
そして魔術具が一つも残っていないことを知って取り乱しました。
「どうやって盗んだの!? しかも他の魔術具まで……! サツキ! ずるいわ! 盗むなんてずるいわ!」
「ずるいですって? 魔術死合は相手の魔術具を奪ったり破壊したりしても、誰からも、なんのお咎めもないのですよ? お姉様は、魔術死合をお舐めになっているのかしら?」
「そうだ! その覚悟もないヤツは魔術死合をするべきじゃなかったんだ!」
「軽い気持ちで魔術死合をしようとするから大切な魔術具を奪われるのよ! 自業自得だわ!」
観客席からもヤジが飛びました。
皆さんもリリアンヌお姉様にお怒りです。
わたくしは『再生の杖』を見せつけるように振りながら、リリアンヌお姉様へ近づいていきます。
「さて、リリアンヌお姉様から手に入れた魔術具の破壊力、リリアンヌお姉様のお体で試してみましょうか? それとも降参なさいます? ヤマト先輩を『魔術クラブ』へと戻し、リリアンヌお姉様が『魔術クラブ』を去るというのなら、許さないでもありませんけど?」
「そんなこと私のプライドが許さないわ! いいこと? サツキ。まだ私の恐ろしさを分かっていないみたいだから教えてあげるわ! あなたがこの魔術死合に勝てたとしても! 私は必ず復活する! そしてあなたとあなたの大切な人達を、必ず地獄に突き落としてやる! そう、あなたのご両親のようにね!」
リリアンヌお姉様のおっしゃることに、わたくしは呆れてしまいました。
わたくしはため息を吐き、かぶりを振って言います。
「まだ、そんなことを言ってらっしゃるの? いいでしょう。リリアンヌお姉様にはお見せしたい物もございますし、場所を変えてお話しましょうか……空間転移!」




