第二十九話 お仕置き完了! ですわ!
空間転移を行い、わたくしとリリアンヌお姉様は、とある場所にやってまいりました。
目の前の風景が突然変わったので、リリアンヌお姉様は左右をキョロキョロと見ながら驚いていらっしゃいます。
「一体ここはどこなの! サツキ! 私に何をしたの!?」
「わたくしが何をしたのか説明する気はございませんけど、場所については教えて差し上げます。ここは試合会場ではありません。街の北にある火山ですわ」
「火山ですって!?」
わたくし達の足元には、ゴツゴツした岩肌が広がっています。
周囲にはモヤがかかっていて視界が悪く、遠くまで見渡すことができません。
ここは蒸し暑く、じっとしていても汗が吹き出します。
そして時折、ゴゴゴという音とともに地響きがして、わたくしとリリアンヌお姉様の体を揺らすのですわ。
「わっ、私をこんなところに連れてきてどうするつもりなの!?」
「ここでは何もする気はございません。リリアンヌお姉様、後ろをご覧になってくださいな」
リリアンヌお姉様は後ろへ振り向きますが、モヤがかかっていて何も見えません。
彼女はまたこちらに向き直って、お叫びになります。
「何よ! 何も見えないじゃない! こんなところには居たくないわ! 早く私を試合会場へ戻しなさい!」
「リリアンヌお姉様はせっかちですね。慌てると損をしますよ? あ、ほら。話しているうちに風が吹いてきました。モヤが晴れそうですわ。もう一度後ろをご覧になってください」
リリアンヌお姉様は渋々、といった様子で後ろをご覧になります。
今度はソレが見えたのでしょう。リリアンヌお姉様はソレを見て後ずさり、尻もちをおつきになりました。
何故ならそこには――
巨大な紅い竜が地面に這い、その恐ろしいお顔をリリアンヌお姉様に向けていたのです。
「ヒッ! 竜! 竜よ! 殺される!」
「リリアンヌお姉様、それはただの竜ではありませんよ? 翼をよくご覧になってください。炎が燃えるような紅い翼ではありませんか? この翼の特徴は、五十年前の王国での目撃証言と一致します。その竜は『紅き翼』なのですよ」
「う、嘘! 『紅き翼』ですって!? それはあなたのご両親を――!」
「ええ、リリアンヌお姉様はわたくしの両親を罠にはめ、『紅き翼』のいるこの死地へ送り込んだのでしたわね。ですが、わたくしの両親は無事ですわ。彼らは『紅き翼』を討伐したのです。その竜はお亡くなりになっているのでリリアンヌお姉様を襲うようなことはございません。ご安心ください」
「嘘よっ! 『紅き翼』をたった二人で討伐できるものですか! 過去にはA級魔術師五人のチームが『紅き翼』によって惨殺されたのよ!」
リリアンヌお姉様がそのようにおっしゃるので、わたくしは『紅き翼』に近づいてそのお顔をバシバシと叩きました。
彼女はそれをビクビクしながらご覧になります。
竜が起きてしまうと考えたのでしょうね。
ですが、『紅き翼』はお亡くなりになっているのでピクリとも動きませんわ。
「ほら、お亡くなりになっていますわ。今まで誰も討伐できなかった『紅き翼』をわたくしの両親は討伐してしまったのです。これは『黒薔薇勲章』……いえ、『王国勲章』級の偉業ですわ」
「そんな! じゃあ私がやったことって……!」
「ええ、リリアンヌお姉様がお嫌いな『目障りな貧乏貴族の魔術師』の株を上げただけでしたわ。ホホホ、この件についてだけは、わたくし、お姉様に感謝してもよくってよ?」
リリアンヌお姉様は悔しそうにわたくしを睨み、プルプルとお震えになっておっしゃいます。
「……これくらいのことでいい気にならないで。必ず、必ずあなたとあなたの大切な人達を地獄につきをとしてやるから……!」
「まだそのようなことをおっしゃるのですか……。仕方ありませんね。では、お仕置きを始めましょうか……『空間転移』!」
***
二度目の空間転移によって、わたくし達は無人の荒野へと場所を移します。
空間転移は、無制限にどこへでも移動できるわけではありません。
行ったことのある場所や、よく知る場所にしか移動できないと、女神様よりアドバイスをいただきました。
わたくしは、リリアンヌお姉様をお仕置きするために、いくつかの場所を移動したいと考えていました。
ですので『赤き翼』のいた火山や、この荒野などの位置情報を、あらかじめ女神様に教えていただいたのでした。
「ここなら他人に迷惑をかけることなく魔術を撃てますわ」
「こんな所で、私に何をするつもりなのよ!?」
「『魔術クラブ』入部試験の続きですわ。わたくし、リリアンヌお姉様の合否判定には納得しておりませんの」
「今更あなたが何をしようとも、入部は認めないわ!」
「いえ、認めてもらいますわ。まずは天空の加護から見ていただきましょう」
わたくしは素早くリリアンヌお姉様のお体に魔術陣を描き、詠唱いたします。
「天空の加護!」
わたくしが詠唱した瞬間、爆発が起こり、リリアンヌお姉様は悲鳴を上げながら遠くへお吹き飛びになられました!
彼女はフラフラと起き上がり、こちらに向かってお叫びになりました。
「サツキ! 何するのよ!」
「今のが『天空の加護』ですわ!」
「爆発したじゃない! 補助魔術は爆発しないのよ!? こんなの『天空の加護』じゃないわ! ただの『核撃爆破』よ!」
「ホホホ! お姉様は常識にとらわれすぎですわ! 爆発する補助魔術も存在いたします!」
「あなたが非常識なだけよ! そんな補助魔術は存在しないわよ!」
「では、わたくしの天空の加護がちゃんと機能していることを、お姉様の身でもって体験なさってくださいな!」
わたくしはそう言って、核撃爆破の魔術陣を描きます。
「え! ちょっと待って――」
「待ちません! 核撃爆破!」
わたくしが詠唱した瞬間、先程よりも数倍大きな爆発が起こります!
それはリリアンヌお姉様を更に遠くへ吹き飛ばしました。
豆粒に見えるほど遠くへ行ってしまわれたリリアンヌお姉様に、わたくしは大声でお聞きいたします。
「ホホホ! どうですか! 直撃したのにダメージは無いでしょう!? 天空の加護がしっかり機能している証拠ですわ!」
「このっ! 私は絶対に認めないから!」
「納得していただけないのですか!? そうですか! ところでお姉様! わたくし、肺活量には自信がありますの!」
「なんの話よ!」
「すぐにお分かりになりますわ! 覚悟なさってくださいね!」
そして、わたくしは胸いっぱいに息を吸い込み――
「核撃爆破! 核撃爆破! 核撃爆破! 核撃爆破! 核撃爆破! 核撃爆破! 核撃爆破! 核撃爆破! 核撃爆破! 核撃爆破! 核撃爆破! 核撃爆破――」
わたくしの核撃爆破によって空中に吹き飛ばされ、次の核撃爆破によって落下してくるリリアンヌお姉様。
彼女が地面に激突する前に、また核撃爆破が炸裂し、彼女のお体は再び空高く舞い上がります。
そして上空でまた次の核撃爆破が炸裂し――
「ひっ! ちょっと! 止めて! 止めてよ! 怖いっ、怖いってば!」
リリアンヌお姉様は地面と空中を行ったり来たりですわ!
ホホホ! 楽しそうなお声が聞こえます!
「核撃爆破! えっ!? 核撃爆破! 何ですか!? 核撃爆破! 楽しいですか! 核撃爆破! それは良かったです! 核撃――」
「イヤッ! もうイヤ!」
「――爆破! イヤよイヤよも! 核撃爆破! 好きのうち! 核撃爆破! ですわ! 核撃爆破!」
リリアンヌお姉様は空に舞い上がるたびに楽しそうなお声をあげ、落下するたびにスリルを全身で感じながらお叫びになられるのです。
やがてわたくしは、肺の中の酸素がつき、詠唱を続けられなくなります。
リリアンヌお姉様は落下し、ズボリと地面へお突き刺さりになりました。
地面から首だけ生えているリリアンヌお姉様に、わたくしは息を切らして言います。
「ハアハアハア、流石に天空の加護は頑丈ですね……!」
「サツキ! 動けないじゃないの! 私を助けなさい!」
わたくしは、埋まっているリリアンヌお姉様を無視して叫びます。
「ではC級魔術ならどうかしら!」
「待ってってば! ちょっ――」
「流星の接吻!」
「た、助け――」
リリアンヌお姉様の生首が生えている上空に、巨大な流星が現れました!
それは物凄いスピードで落下、リリアンヌお姉様のお顔に直撃して爆発を引き起こしました!
遠く遠く離れたわたくしのところまで、爆風がやってきます。
それはわたくしの服や髪の毛をバタバタはためかせます。
わたくしは腕で顔をかばい、爆風が収まるのを待ちました。
やがてそれが収まって、わたくしは隕石によってできたクレーターへと歩いていきました。
クレーターをのぞきこむと、その中心でリリアンヌお姉様が起き上がろうとなさっているのが見えます。
「あらあら、これでもリリアンヌお姉様はご無事なのね。天空の加護は丈夫ですね。では次ですわ」
「わ、私が悪かったわ! 謝るから、もうやめて! さっきの流星の接吻、ちょっと痛かったの! 天空の加護の効果が切れかっているのだと思うの! きっとそうだわ!」
「ホホホ、多分大丈夫ですわ! 遠慮などなさらずに、もっともっとわたくしのC級魔術を味わってくださいな!」
「遠慮なんてしてないわ! そ、そうだわ! あ、あなたの魔術の腕は本物よ! 『魔術クラブ』への入部も認めます! 『第二魔術クラブ』の人たちも入部していいし、私は『魔術クラブ』を去るわ! だから、もう――」
「本当ですか!? ありがとうございます! 『第二魔術クラブ』の皆さんもお喜びになりますわ!」
「本当よ! だから、もう――」
「ではお礼に、わたくしの魔術を心ゆくまで味わってくださいませ!」
わたくしはクレーターから離れ、魔術陣を大量に描いていきます。
するとその間にリリアンヌお姉様がクレーターから這い上がってきて、わたくしの魔術から逃げようとなさいます!
「オホホホホ! どこに行こうというのです!? リリアンヌお姉様! お喰らいなさい! 流星の接吻! 流星の接吻! 流星の接吻! 流星の接吻! 流星の接吻! 流星の接吻! 流星の接吻――」
流星群が、輝く尾を引きながら現れました!
この時期に、これほどのたくさんの流れ星が見れるなんてステキだわ!
美しい流星群は、正確にリリアンヌお姉様めがけて落ちていき、彼女に直撃するたびに爆発を引き起こします!
その爆発は大量の土を舞い上げます。
この不毛の大地は耕され、広大な畑のようになりました。
爆発で吹き飛ばされたリリアンヌお姉様は、最終的にわたくしの足元へ落ちてきます。
彼女には傷一つありませんわ。
「フー、これでも天空の加護を突き破ることはできませんでしたか。では次はB級魔術で……あら?」
あらあら、これからが本番だと言うのに、リリアンヌお姉様は白目をむいて失神なさっていますわ。
***
さて、お仕置きの仕上げとして、わたくしはリリアンヌお姉様とともに最後の場所へと空間転移しました。
「ティレニア姐さん、お勤めご苦労様です。お元気そうで何よりですわ」
わたくしは、その場所にいた元ブラック商会若頭のティレニア姐さんにご挨拶します。
そう、ここはティレニア姐さんが収監されている監獄の中なのですわ。
「サツキ!? いつの間に! どうやってここに入ったのさ!?」
ティレニア姐さんは、独房の中に現れたわたくし達に驚いていらっしゃいます。
「ホホホ、細かいことはいいではないですか。今日はティレニア姐さんが寂しい思いをされているのではないかと思い、お友達を連れてきたのですわ」
わたくしはそう言いながら、気絶しているリリアンヌお姉様をティレニア姐さんのベッドへと寝かしつけました。
「とっ、友達ぃ?」
「ええ、彼女は第8080王女のリリアンヌお姉様です。お友達ができて嬉しいでしょう?」
「嬉しいわけ無いだろう! アタイにコイツをどうしろっていうのさ!?」
「ホホホホホ! 仲良くなさるとよろしいわ! さようなら!」
「待ちな! サツキィ――」
わたくしは詰めかかろうとするティレニア姐さんにご挨拶し、『第二魔術クラブ』の皆さんがお待ちになっているはずの試合会場へと空間転移するのでした。




