第二十三話 「毎度ありがとうございまーす。配達率100%、安心と信頼の『飛竜便』でーす」
「禁忌・魔力遊戯!」
私が叫ぶと、キーンという高周波とチリチリという異音がして、魔術陣が強く光ります!
更に魔力を込めると、パキンと魔術陣が割れるような音がして――
閃光とともに爆発が起こり、コート内にとてつもない魔力の奔流が嵐のように吹き荒れます!
魔術を使ったわたくしもろとも、ポームお姉様、そして黒服の方々はバラバラの方向に吹き飛ばされました!
天空の加護のおかげで、吹き飛ばされたわたくしにはケガはありません。
ですが禁忌・魔力遊戯をお喰らいになったポームお姉様と黒服の方々は、ボロ雑巾のようにおなりです。
おしおきは、完了ですわ。
わたくしは起き上がって、深く息を吐きます。
魔術試合を冒涜なさったポームお姉様への怒りは、スッキリ消えましたわ。
全ての怒りを込めて、禁忌・魔力遊戯を放ったおかげです。
観客席からはわたくしへの大きな拍手と、ポームお姉様をヤジる声がいたします。
「魔術試合をバカにするからバチが当たったんだ!」
「よくやった! サツキ!」
「禁忌・魔力遊戯は自爆魔術……だが自爆した本人が無事だぞ?」
わたくしが発動させた『禁忌・魔力遊戯』は無属性のC級魔術。
これは、隣接する二つの魔術陣の反発現象を利用した自爆技です。
やり方は簡単。
魔術陣の上に同じ魔術陣を重ねて描きます。
そこへ、一気に魔力を込めます。
すると魔術陣同士の反発力が加速度的に増し、魔術陣が破断、そこにムリヤリ込められていた魔力が暴走するのです。
良い子はマネをしてはいけませんよ?
誰にでもできるが故に、おバカな若者たちがスリルを求めてこの魔術で遊ぶことが流行っておりました。
そして、大ケガをしたり周囲の人や建物を巻き込んだりする事件が多発し、社会問題となったのが数年前。
事態を重く見た『魔術省』は、この魔術を『禁忌』としたのです。
ですので、絶対にマネをしないでくださいね?
服についたホコリを払っているわたくしの側に、リオン様がやってきます。
「派手にやったな」
彼は呆れながらおっしゃいました。
リオン様のお説教が始まるのではないかと思っていたので、わたくし、拍子抜けいたしましたわ。
「禁忌・魔力遊戯を使ったことをお叱りにならないのですか?」
わたくしが恐る恐る聞くと、リオン様は神妙なお顔で
「キミの暴走を止めるのは、もう諦めた。キミが魔術のことに関して暴走するのは、普通のことだと思うことにしたんだ」
とおっしゃるのですわ。
「幸い、あれだけの爆発を起こしたのに死人は出ていないようだし、いいんじゃないか?」
リオン様は、あたりに転がっているポームお姉様と黒服の方々を指差しておっしゃいました。
みなさんご無事で良かったですが、試合会場に転がっていられると邪魔ですわね。
あら?
転がっていて邪魔と言えば……
「リオン様、わたくしの家を襲った黒服の方々はどうしてあるのですか?」
「ん? 普通に道の端に転がしてあるが」
「まあ! ダメよ、通行の邪魔になりますわ!」
「だが、他にやりようがないだろう?」
「いえ、わたくしに妙案がございますわ」
わたくしはポームお姉様に近づいて、彼女が持っていた携帯型の魔術通信具をお借りします。
そして前回お世話になった『飛竜便』をお呼びしました。
すると、数分のうちに飛竜に乗った配達員さんが会場にやってきて、わたくしの目の前に降り立ちます。
「どうもー。前回に引き続きご利用いただきやしてありがとうございまーす。今日は何をお運びいたしやしょーか?」
帽子を取って挨拶なさる配達員さんに、わたくしも会釈をし、宅配のお願いをいたします。
「前回と同じように、わたくしの家の周りに転がっているナマモノを、ボーム様のお宅へ運んでください。数量は200ほどですわ。もちろん着払いでお願いいたします」
「わかりやしたー。200個となると、数が多くて往復しなきゃーですね。ですが往復料金はサービスさせていただきまーす。往復料金の1000ゴールドをオマケして20000000ゴールドですね」
サービスですって! 素晴らしいわ!
「まあっ、1000ゴールドもオマケしていただきありがとうございます! 駄菓子が100個も買えますわ! ボームお兄様もお喜びになります!」
「喜んでいただけそうで良かったっす。ところで〜、こちらに転がっている方々もお荷物っすか?」
ポームお姉様を指差しておっしゃる配達員さん。
なんて気が利く方なの!
わたくし、ポームお姉様の存在を完全に忘れておりましたわ!
「あっ、そうです! こちらの方々も同じお宅に運んでいただけますか?」
「分かりやした! こちらのお荷物もサービスでお運びさせていただきまっす」
試合会場に転がっておられる黒服の方々は10名ほどもいるのです!
ポームお姉様を含めれば11名ですわ!
確か『ナマモノ』の配達料金は、1個あたり1000000ゴールド。
11個なら11000000ゴールドです。
それを、無料にしてくださるなんて!
「あの? よろしいのですか?」
至れり尽くせりで、なんだか申し訳なくなったわたくしは配達員さんにお尋ねしました。
ですが、配達員さんは営業スマイルなどではない、本当の笑顔で言ってくださるのです。
「はい、お得意様なので、これくらいのサービスは当然っす。今後ともご贔屓にお願いいたしやす」
素晴らしいサービスですわ!
大手の『ガーゴイル便』や『ベルゼブブ便』がシェアの九割以上を占めるなか、『飛竜便』が事業を拡大なさってきたのは、そのサービス精神に要因がありそうです!
もし、わたくしが『フリー魔術エージェント』として起業した際には是非参考にしたいですね。
「またのご利用お待ちしておりまーっす!」
配達員さんが言って、飛竜達は飛び立ちました。
ポームお姉様が飛竜のお口に咥えられて運ばれていきます。
もちろん、夕日をバックに……。
それを拍手で送り出す観客の皆さん。
皆さん、『飛竜便』さんの素晴らしいサービスに感動なさっているのでしょう。
会場にお呼びしたことで『飛竜便』さんの宣伝になったかしら?
これで少しでも恩返しができていればいいのですが。
***
邪魔な障害物も片付いたところで、魔術試合団体トーナメントが再開されます!
ついに決勝戦です!
チーム『ヤマト』VS『魔術クラブ一軍チーム』ですわ!
「『ヤマト』! 『ヤマト』! 『ヤマト』!」
会場では『ヤマト』コールが起こっております。
これまでの十一試合は、全てチーム『ヤマト』が戦い、勝ち進んでいます。
一番下から勝ち上がってきたわたくし達を、皆さん応援してくださっているのです。
それに部長のヤマト先輩は、王族貴族平民関係なく女生徒に人気があります。
ヤマト先輩非公式ファンクラブの女生徒達が、『ヤマトLOVE』と大きく書かれた旗を持って応援しているのが見えますわ。
極めつけは第9000王女のポームお姉様を撃退したのが、わたくし達の人気を高めたようです。
ポームお姉様は、国技である魔術試合をおぶち壊しにしようとしたのです。
それを打ち倒したわたくしのチームの人気が高まるもの当然のこと。
リリアンヌお姉様に目を付けられることを恐れて、『第二魔術クラブ』に入れなかった方はたくさんいますが、応援するだけなら恐れることはありませんわ。
ホホホ、皆さんもっと盛大に応援してくださってよろしいのよ!
ボコボコにされてしまった審判さんに代わって、新しい審判さんがコートへやってきます。
決勝戦の一番手は誰が行くのかと思い、メンバーの皆さんの方へ振り向きます。
すると、ウヅキお姉様に成り代わっていた、魔導人形のミナヅキがわたくしの袖を引きました。
「サツキお姉様、数分後に私のアップデートが始まります。再起動するまで一時間ほどかかりそうです」
ミナヅキが言いました。
あら、タイミングが悪いわね。
アップデート中はミナヅキは動けませんが、仕方がありませんわ。
わたくしはウヅキお姉様が動けない言い訳を考えて、他のメンバーの方々に言いました。
「皆さん、ウヅキお姉様はオネムのようですわ。彼女は一生懸命頑張って、魔術をたくさん撃ったのでお疲れです。ウヅキお姉様はお子様なので仕方がありませんよね?」
すると皆さんは、
「そうか、一人抜けるのは痛いが、子供だから仕方がないな」
「もともとウヅキには期待してなかったんだ、別にいいぜ。こいつが活躍したお陰で私も楽ができた。魔力も十分残ってるし、『魔術クラブ一軍チーム』も楽勝だろ」
「くっ、戦力が減ってもやってやるわ!」
ということで、決勝戦には四人で挑むことになりました。
***
「じゃあ、私から行くぜ」
ヤヨイお姉様が腕を回しながらコートへ向かいます。
相手チームの先鋒は、火属性魔術がお得意なフレア先輩です。
フレア先輩は腕を組み、仁王立ちで、ヤヨイお姉様を待ち構えていらっしゃいます。
「ヤヨイ! アンタ、学園一の火属性魔術師を名乗っているそうね!」
フレア先輩はヤヨイお姉様に言いました。
「名乗った覚えはねーが、私が一番上手く火属性魔術を扱えるのは確かだな」
「フン! その自信をへし折ってやるから! 学園一の火属性魔術師は私よ! アンタには負けない!」
「へっ、テメーがどれほどやるのか見せてもらおうか!」
お二人はコート内に魔術陣を描きます。
お二人とも火属性の魔術陣に見えますが……?
新しくやってきた審判さんが、二人の準備を確認して旗を振り上げました。
「マジカールマジカルーッ! レディー……ファイト!」
審判さんが『ファイト!』と叫び、旗を振り下ろしたのとほぼ同時、いえ、少しフライング気味にフレア先輩が詠唱なさいます!
「地獄の流れ星!」
フレア先輩が放った魔術に会場はどよめきます!
フレア先輩が放ったのは、合成魔術!
合成魔術とは、二つ以上の魔術を掛け合わせることで威力を数倍に高めたものです。
地獄の流れ星は、流星の接吻と 地獄の業火を掛け合わせた魔術です。
C級魔術同士の掛け合わせなので、B級魔術にも匹敵する威力があります。
試合会場の上空に黒い炎をまとった巨大な隕石が出現し、ヤヨイお姉様の魔術陣へ落ちていきます!
ヤヨイお姉様はその隕石を見て、口の端を釣り上げました。
そして――
「早天払暁!」
ヤヨイお姉様が詠唱すると、まばゆい光が会場を照らしました!
あまりにも強いその光に、わたくし達はコートを直視できません!
客席からは悲鳴のような歓声が起こります。
「B級魔術だわ!」
そう、ヤヨイお姉様の早天払暁はB級魔術!
彼女は火属性魔術に関して、一流の魔術師と変わらない腕をお持ちなのです!
わたくしは結果を見ようと、目を細めながらコート上を観察します。
黒い炎をまとった隕石は、光り輝くコート上に侵入し――
早天払暁は、その落ちてくる隕石を蒸発させました!
その後、光はすぐに収まります。
コート上はヤヨイお姉様の魔術陣以外、全て真っ黒に焦げていました。
フレア先輩の魔術陣がどこにあったのか分からないほどに。
「勝者! ヤヨイ!」
審判さんは旗を振り、お叫びになりました。
フレア先輩はその結果に拳を握りしめ、目に涙をためて言いました。
「B級魔術……! アンタ、強いわね。悔しいけど……私の負けよ」
「フン、そーだな。だが、テメーも中々やるじゃねーか」
フレア先輩とヤヨイお姉様は、お互いの健闘を称え合っています。
「学園トーナメントでB級魔術が出たわ!」
「合成C級魔術とB級魔術の戦いなんて、プロトーナメントでしか見たことないよ!」
「二人ともスゴイぞ!」
客席からは惜しみない拍手が両選手に送られました。
試合前は火花を散らしていたお二人ですが、終わってみれば、決勝戦の最初の試合にふさわしい気持ちのよい戦いでしたわ!
さて、チーム『ヤマト』が最初の試合を制しました。
優勝まで、あと二勝!




