第二十四話 師弟対決(雷)
一流の魔術師が使うようなB級魔術を放ち、見事な勝利を収めたヤヨイお姉様は、わたくし達のところに戻ってきます。
「B級魔術だなんて凄いですわ!」
「ああ、素晴らしい魔術だった」
「ヤヨイ、あなたが学園一の火属性魔術の使い手よ!」
わたくし達がヤヨイお姉様を褒めると、彼女はニッと笑っておっしゃいます。
「これで私の役目は終わりだ。あとはのんびり観戦させてもらうぜ。テメーらが優勝できるかどうかは分かんねーが、まあ、せいぜい頑張ってくれや」
ヤヨイお姉様はヤマト先輩の背中をバシリと叩きました。彼女なりの激励なのでしょう。
彼女はミナヅキが眠っているベンチにドカリと座り込みました。
***
「次は誰が出る?」
ヤマト先輩が聞くと、クコロお姉様が手をあげました。
「私に行かせてください! お願いします! この決勝戦が甘くないことは分かっています。ですが、私の魔術が『魔術クラブ一軍チーム』にどこまで通用するのか知りたいんです!」
クコロお姉様は燃えるような瞳で、ヤマト先輩とわたくしを見つめます。
ヤマト先輩は強く頷いて言いました。
「分かった。勝敗は気にしないで、のびのびと戦ってくるといい」
「頑張ってください! クコロお姉様!」
わたくし達はクコロお姉様を、快くコートへ送り出します。
「ありがとうございます! ヤマト先輩! 行ってくるわ! サツキ!」
クコロお姉様は肩で風を切り、凛とした表情でコートへと踏み込みました。
相手側のコートには『魔術クラブ一軍チーム』の二番手、ライデン先輩がいらっしゃいます。
彼はやってきたクコロお姉様にこう言いました。
「クコロ、お前は『魔術クラブ』に入ることを諦めてしまったのか……? 『魔術クラブ』に入るためにあんなに努力していたのに」
「ライデン先輩……。先輩には入部試験を見ていただいたり、個人的にも雷属性の魔術を教えていただいたりして、感謝しています」
なんと、お二人は師弟関係だったようです。
頭を下げたヤヨイお姉様を見て、ライデン先輩は腕を組み、おっしゃいます。
「だが、ここ最近はお前を見かけなかったな。お前が姿を見せないので俺は心配していたんだぞ? 『魔術クラブ』を諦めて『第二魔術クラブ』に入ったのは何故だ?」
ライデン先輩がそう言うと、クコロお姉様は黙ってしまいました。
ライデン先輩の目は、厳しくも優しいものでした。
彼の人柄がよく分かるような……。
その様子からは、クコロお姉様を本当に心配していらしたのがよく分かります。
会場中の皆さんが見守る中、クコロお姉様は口を開きます。
「……私、本当は『魔術クラブ』に入りたかったわけではないんです。ライデン先輩が魔術のレッスンをしてくださるのが嬉しくて『魔術クラブ』に通っていたのです。ですが、ライデン先輩の優しさを利用するようなことをいつまでも続けていてはいけないと思い、『魔術クラブ』に通うのを止めたのです」
それを聞いたライデン先輩は目を見開いて、お呟きになられました。
「『魔術クラブ』に入りたかったわけではないのか……? いや、今は、それはいい。お前に魔術を教えていたのは、俺が好きでやっていたことだ。お前が気にする必要はないのだぞ」
「ライデン先輩がよくても、私のプライドが許さないのです! 先輩に会わなかった間も、私は様々な経験を――大爆発に巻き込まれたり、感電したり――して、大きくレベルアップしました! もう以前の私とは違うのです! 今の私を見てください!」
腕を振りお叫びになるヤヨイお姉様。
そんな彼女を見て、ライデン先輩は組んでいた腕を解き、彼女に応えます。
「雛が一人立ちしたということか……。いいだろう。お前の今の力、俺に見せてみろ!」
二人はお互いに背を向けて、自陣へと向かいました。
そして、また向き直り、コートに魔術陣を描きました。
お二人とも、雷属性魔術を選択されたようです。
ライデン先輩の得意な魔術は雷属性の魔術。
それを知らないはずがないクコロお姉様も同じ属性を選択したのは、彼女の強い決意を感じます。
観客の皆さんは固唾を呑んで、お二人の様子を見守っています。
静まり返った会場に審判さんの声が響き渡ります!
「マジカルゥマジカルゥッ! レディ…………ファイト!」
二人は詠唱します!
「天の怒り!」
「雷獣招来!」
クコロお姉様の天の怒りはC級魔術ですわ!
天の怒りによって、カミナリが空から地面に走り、ライデン先輩の魔術陣に直撃しました!
ドオンと音がして巻き上がる土煙。
クコロお姉様は拳を握りしめて、
「やった、成功したわ!」
と叫びます。
「以前はD級魔術を撃つことすらままならなかったお前が、C級魔術を撃てるようになるとはな……。見事だ」
ライデン先輩は過去を懐かしむような目で、クコロお姉様を見つめておっしゃいました。
万感の思いが込められたその言葉は、聞く者の心を彼に同調させます。
過去のクコロお姉様を知らないハズのわたくし達まで、クコロお姉様の成長を見守ってきたかのような気持ちになるのですわ。
「ライデン先輩! 今の私の力を見ていただけましたか!? 私はライデン先輩に勝てるほど強くなったのです!」
興奮しておっしゃるクコロお姉様に、ライデン先輩は苦笑いします。
「お前が成長したのはよく分かったが、その早とちりする癖は治っていないようだな。まだお前が勝ったわけではないぞ」
そうおっしゃった瞬間、ライデン先輩が描いた魔術陣に、雷で象られた十数匹のオオカミ達がバチバチと放電しながら現れました!
天の怒りが直撃したはずの彼の魔術陣は無傷です!
なぜC級魔術を受けて魔術陣にダメージがないのでしょう!?
「雷獣招来は、相手の魔術を吸収して動作する特殊な魔術だ。相手が撃った魔術の属性によっては破壊されることもあるがな。この魔術は雷属性の攻撃を受けた時に、最高のパフォーマンスを発揮する」
「そ、そんな!」
「見ろ。これほどたくさんのオオカミ達を生み出せることは滅多にない。お前の魔術が強力だった証拠だな。そして……行けっ! オオカミ達!」
ライデン先輩が命令すると、雷の速さでオオカミ達が飛び出しました!
それは刹那のうちにクコロお姉様の魔術陣に到達し――
凄まじい放電で、彼女の魔術陣を破壊してしまいました!
「勝者! ライデン!」
審判さんが叫び、ワアッという歓声が客席から沸き起こりました。
C級魔術を放ったクコロお姉様。そして彼女の魔術をあえて受け、逆転勝ちをしたライデン先輩に拍手が送られます。
クコロお姉様は負けてしまいましたが、この試合も決勝戦にふさわしい汗握る攻防でしたわ!
「やっぱりライデン先輩には敵いませんでした。でも、私の成長を認めてくださいますよね?」
クコロお姉様はライデン先輩に言いました。
彼女の口調からは必死さが読み取れますわ。
きっと憧れの先輩に褒めてもらいたくて、天の怒りを練習したのではないのでしょうか。
クコロお姉様にライデン先輩は言います。
「ああ、お前の上達ぶりには驚いている。だが、まだまだ未熟だな。雷属性の魔術は奥が深いのだ。また、俺のところへレッスンを受けに来るといい」
「また、レッスンをしてくださるのですか? 私は『第二魔術クラブ』に入ってしまったのに……」
「個人的なレッスンなら何も問題ないだろう? いつでも俺を訪ねてこい」
背中を向けてコートを去るライデン先輩。
そんな彼に、クコロお姉様は涙を拭いながら頭を下げるのでした。
「ありがとうございます……。ライデン先輩」
ライデン先輩とクコロお姉様との間に、再び美しい師弟の絆が生まれたのでした!
***
「ごめんなさい、やはり力及ばず負けてしまいました」
戻ってきたクコロお姉様がわたくし達に言いました。
「いや、ライデンはリリアンヌ様に次ぐ実力の持ち主なんだ。彼相手によく戦った。いい勝負だったと思う」
「そうですわ! クコロお姉様は頑張りましたわ。あとはわたくし達に任せてください!」
わたくし達が慰めると彼女は、
「ありがとう。二人とも……後は任せたわ」
と言って、ベンチに座りました。
これで一勝一敗。
これまでチーム『ヤマト』と『魔術クラブ一軍チーム』は素晴らしい勝負で観客を沸かせています。
私が知る限りでも、学園が主催する魔術試合団体戦トーナメントでは、過去に類を見ないほどレベルの高い戦いです。
そして、笑いあり、涙ありのドラマ。
今年のトーナメントは、学園で語り継がれていくことでしょう!
「次は僕が行くぞ」
ヤマト先輩が『絶対に負けられない』と呟いて、コートに向かわれました。
ウヅキお姉様が戦えないことを考えると、実質は二敗しているのと変わらないのです。
優勝するためには、もう負けられません!
コートにはすでに次の相手が待っていました。
彼は腰まで伸びた髪に、ボロボロの服、汚れたマントを羽織っていらっしゃいます。
どう控え目に見てもホームレスさんにしか見えない格好なのですが、『魔術クラブ』にいらっしゃるからには上級貴族の方なのでしょう。
実際、ボロをまとう彼からは、高貴なオーラが見え隠れしています。
高貴と野生を混ぜ合せたかような気高いオーラを放ちながら、彼はおっしゃいました。
「ヤマト、久しぶりだな」




