第二十二話 復讐王女
「火球弾!」
「勝者! ヤヨイ!」
「破氷弾丸」
「勝者! ウヅキ!」
「核撃爆破!」
「勝者! サツキ!」
「チーム『ヤマト』の勝利!」
次の試合も、そしてその次の試合も、わたくし達は危なげなく勝ち進みました。
もちろんヤマト先輩や、クコロお姉様も活躍なさいます。
「断罪の雷光!」
「勝者! クコロ!」
「黒の聖典!」
「勝者! ヤマト!」
クコロお姉様は、以前のように自滅なさることもなく断罪の雷光を自在に操っております。
そして、ヤマト先輩は魔術の天才と呼ばれるだけあって、使い手の少ない幻属性魔術をマスターしていらっしゃるのです。
他のチームの皆さんは、トーナメントに参加するだけあって中々の腕前ですが、初戦で戦った『魔術クラブ二軍チーム』とお比べすると手応えがありません。
ここまで、チーム『ヤマト』はすべてストレート勝ちです。
『ヤマト』の快進撃に、会場は大盛り上がり!
わたくし達は、破竹の勢いでトーナメントを駆け上がります。
***
そして、いよいよ準決勝までやってまいりました。
わたくし達の準決勝の相手はチーム『リベンジ・オブ・ザ・プリンセス』。
プリンセスと名のつくチームですので、メンバーに王女がいらっしゃるのでしょう。
対戦相手が入場してくる出入り口を見ていると、そこから出てきたのはやはり王女。
彼女は第9000王女のポームお姉様です。
ポームお姉様はまっすぐにコートへ歩いていきます。
そしてその中に入ると、わたくしに指を突きつけておっしゃいました。
「サツキ! あなたを対戦相手に指名するわ!」
まあっ、わたくしをご指名ですの?
それほどの熱意を持って、わたくしとの魔術試合をご所望なさるなんて光栄だわ!
「先鋒はわたくしがいただきます」
わたくしはチームメイトに断りを入れてコートへ向かいました。
ポームお姉様はわたくしをジッと睨んでいらっしゃいましたが、わたくしがコートに入ったのを確認して、後ろを振り向きました。
「リリアンヌお姉様! 大勢の観客の前でサツキを倒す機会を頂き、感謝しています! ここで必ずサツキへの復讐を果たしますわ!」
ポームお姉様は、選手出入り口でこちらを見ていたリリアンヌお姉様に向かって言いました。
「存分におやりなさい!」
と言って、リリアンヌお姉様は、ポームお姉様に微笑みます。
「復讐? どういうことですか? 全く身に覚えがございませんが」
わたくしは背中を向けているポームお姉様に尋ねます。
彼女は体ごと向き直り、
「トボケないで! 私の双子の弟ボームを酷い目に遭わせたでしょう!」
とおっしゃいました。
「ボームお兄様? はて、どなたでしょう?」
わたくしは可能な限り、お兄様お姉様のお名前とお顔を覚える努力をしております。
ですが、兄弟姉妹合わせて20016名もいらっしゃるのですから、中にはモブキャラもいらっしゃいます。
こればかりは仕方がありませんわ。
ポームお姉様は腕を組み、靴をコツコツ鳴らしながらおっしゃいます。
「あくまでもトボケるつもりね。それでも構わないわ。私はあなたに復讐さえできれば満足だもの」
そして、彼女は意地の悪そうな笑みを浮かべてお続けになります。
「よく聞きなさい。今頃あなたの家は大変なことになっているわ。私の手下達があなたの家を襲っているのよ」
「なんですって! わたくしの家を!?」
「ホホホ! わたくしの200人の部下にかかれば、ゾウがアリを踏み潰すより容易く、あなたの家を破壊できるわ! もし家を破壊されたくないと言うのなら、おとなしくわたくしに負けなさい!」
自慢げに彼女が叫んだ瞬間、
「サツキ、家は無事だ。怪しい黒服共が家の周りをうろついていたので、全員倒しておいたぞ」
突然コートの側に現れたリオン様がおっしゃいました。
「あら、リオン様? 仕事が早いですね」
「ああ、それの報告がてらキミの様子を見にきた。どうせキミの兄か姉の仕業だろうと思ったからな。どうやら当たりだったようだ」
リオン様がポームお姉様を指しておっしゃいました。
そのポームお姉様は、
「全員倒したですって!? 嘘おっしゃい!」
「と言われても本当の事だしな……嘘だと思うのなら黒服に連絡してみたらどうだ?」
ポームお姉様は慌てて携帯型の魔術通信具を取り出し、操作を始めました。
わたくしはそれを見ながら、リオン様にお聞きします。
「ミナヅキやエミリーさんは無事なのですか?」
「エミリーは無事だ。だがミナヅキは――」
「ミナヅキに何かあったのですか!?」
「いや、と言うか、キミのチームにいるのがミナヅキだろう? 何故か侍女服ではなくて学園の制服を着ているが。ほら、頭に目印の髪飾りを付けているじゃないか」
リオン様はそう言って、ウヅキお姉様(ミナヅキ?)を指差します。
確かにあの髪飾りはミナヅキに買ってあげた物、ということは……。
ウヅキお姉様だと思っていた方は、ミナヅキだったのです。
魔導人形であるミナヅキならば、魔術を自在に操れるのも当然のこと。
試合開始前にウヅキお姉様がおっしゃっていた『奥の手』とは、替え玉作戦だったのですわ。
確かに二人はそっくりですので、入れ替わったところで誰もお気づきにはならないでしょう。
ただ、『替え玉をしてはいけない』とはルールブックには記されていませんが、褒められた行為ではありません。
ですので……黙っておきましょう。
「なんてことなの。誰からも返信がないわ……」
ポームお姉様は携帯型の魔術通信具を見つめておっしゃいました。
「まあ、全員気絶させたからな」
リオン様は腰の刀をポンポン叩きながらおっしゃいます。
きっとリオン様は、彼らを気絶させた後『安心しろ、みね打ちだ』とおっしゃったのでしょうね。
呆然と魔術通信具を見つめるお姉様。
200人もの方をわたくしの家に差し向けるなんて、そこまでする理由は何なのでしょう?
「どうしてポームお姉様は、わたくしをお憎みになるのですか?」
わたくしが尋ねると、
「さっきも言ったでしょうが! 私の双子の弟ボームを傷つけたでしょう!」
「ですから、それはどなたのことですか?」
「キィー! この! とぼけるな! この出来損ない!」
リオン様がわたくしに耳打ちします。
「キミの兄でボームとかいうのがいたじゃないか。ほら、『飛竜便』で運んだアイツだ」
「え? ああ! 思い出しましたわ! リオン様がお片付けになった、あの『無能』……ではなくて『あまり有能ではない』お兄様ね! あの時は『飛竜便』さんにはお世話になりましたね」
わたくしが手のひらをポンと叩いて言うと、ポームお姉様はわたくしに詰め寄っておっしゃいます。
「私はそのことにも怒っているのよ! 私の弟を荷物扱いして『飛竜便』で運ぶなんて、どういう神経をしているのよ!?」
「え? だって、いつまでも庭先に転がしておくわけにはいかないでしょう? ボームお兄様をお家へお届けする手配をしたのですから、感謝の一言ぐらいはあってもいいのではないですか?」
「手配しただけじゃないの! 料金が着払いってどういうことよ!」
「申し訳ありませんわ。わたくしのお家は貧乏なので……。ボームお兄様やポームお姉様のお家は、お金持ちなのですから問題なかったでしょう?」
「大アリよ! 『飛竜便』の配達人には『ナマモノ101人分なので、101000000ゴールドいただきやーす』とか言われて、法外な料金を取られたのよ!」
「まあ、お高いわ。大変でしたねぇ」
「なんで他人事なのよ! あなたが送りつけたんでしょうが! 払うのを拒否しようとしたら、飛竜五十匹を屋敷内に入れられて『払ってもらわないと困るっす。飛竜達のご飯が買えなくなっちゃうのでー。飛竜達はお腹を減らしたら暴れだすんで、このお屋敷が潰れるかもしれないっすよ?』とか言って脅すのよ! あれじゃ強盗じゃない!」
「料金を踏み倒そうとするからではありませんか。ダメですよ、ポームお姉様。きちんと社会のルールを守らなければ」
「もとはと言えばあなたのせいじゃない!」
「いえ、もとはと言えばボームお兄様がわたくしの家に乗り込んできたせいですわ」
「ああ言えばこう言う! 私の堪忍袋はパーンパンよ! もう魔術試合なんてどうでもいいわ! おいでになって! ワタクシを守る最強の護衛たち!」
ポームお姉様が手を掲げると、試合会場の出入り口から黒い服の集団がゾロゾロとやってきました。
魔術試合のコートに入ろうとする彼らを、審判さんは止めようとなさいます。
ですが、数の暴力に勝つことはできず、審判さんはボコボコにされてしまいました!
なんていうことでしょう!
ポームお姉様と黒服の方々は、神聖な魔術試合を侮辱なさるのね!
「引っ込め! ポーム!」
「魔術試合をバカにするな!」
「か・え・れ! か・え・れ!」
ポームお姉様や黒服の方々の暴挙に、観客席からはブーイングが起こっています!
ですがポームお姉様はそれを鼻で笑い飛ばし、黒服の方々に命令をなさいました!
「ワタクシの護衛達! あのクソ生意気な妹をやっておしまい!」
彼女の冒涜行為に、わたくしは怒りに燃えます!
「ポームお姉様、オイタが過ぎたようですわね……! わたくし、魔術試合を侮辱する方は許せませんの!」
「ホホホ! 魔術試合など、私の知ったことではないわ! あなたがボコボコになるところを見れるのならば、他のことはどうだって構わないわ!」
黒服の方々がジワリジワリとわたくしに近寄って来ました。
「サツキ、下がりなさい。ここは私に任せておくんだ」
リオン様はわたくしの前に出ておっしゃいました。
ですが頭に血が上っているわたくしは、彼をコートの外へ押していきます。
「嫌ですわ。リオン様こそお下がりください。わたくしの魔術に巻き込まれても責任は持てませんよ」
わたくしだって、ポームお姉様をおしおきするくらいはできますわ。
リオン様のレッスンのおかげでC級以上の魔術を発動出来るようになったのですから。
ただC級以上の魔術は制御が不安定で、副作用として爆発が起きるかもしれませんが。
わたくしは自分の体に魔術陣を描き、深呼吸をします。
そして爆発する覚悟を決めて詠唱をいたしました。
「天空の加護!」
詠唱した瞬間、予想通り爆発が起こり、わたくしは黒服の方々の足元に吹き飛ばされました。
黒服の方々は、突然足元へ飛んできたわたくしを見て戸惑ってらっしゃいます。
「ホホホホホ! 魔術を失敗したのね! わたくしの護衛達、遠慮はいりません! やっておしまい!」
ポームお姉様の命令で、黒服の方々はわたくしに向かって武器を振り下ろします!
ですが、武器がわたくしの体に到達する前に、女神の加護が攻撃を弾き返します。
カンカンカン! と音を立てて攻撃を弾き返したわたくしの体に、黒服の方々は驚いていらっしゃいますわ。
「無駄ですわ!」
わたくしはムクリと起き上がって叫びました。
「武器を弾くですって!? ならば、これならどう!? 豪火球!」
ポームお姉様の手のひらから、人の背よりも大きな火の玉がわたくしに向かって放たれました!
豪火球が直撃し、わたくしは炎に包まれました。
ですが、わたくしが腕を一振りすると、その炎はかき消えます。
わたくしは驚いているポームお姉様に叫びます。
「それも無駄です! 天空の加護はC級までの魔術を完全に防ぎます! そして……それは自爆魔術にも適応されるのですわ!」
わたくしは片膝をつき、地面に魔術陣を描きます。
そして一気に魔力を込めると、魔術陣が真っ赤に光り輝きます。
それを見たリオン様が
「ムッ、イカン!」
と、お叫びになり、お倒れになっていた審判さんを掴んでコートの外に飛び出しました。
わたくしは叫びます!
「禁忌・魔力遊戯!」




