第二十一話 悪の手先『魔術クラブ二軍チーム』との戦い
コロシアムは、魔術試合団体戦トーナメントを見るために集まった方々で溢れかえっています。
このコロシアムは安全面にも最大限配慮されております。
観客に被害が出ないように、A級魔術師による透明な結界が、コートの周りに張られています。
さらに試合会場と客席の間にも結界が張られており、二重の安全対策となっているのですわ。
***
さて、今のうちに団体戦のルールを確認しておきましょう。
わたくしは魔術試合公式ハンドブックの『団体戦』のページを開きました。
そこには『各チームのメンバー五名が、順に魔術試合を行い、先に三回勝ったほうが勝ち』と書かれています。
とにかく三回勝てばよいのですから、分かりやすいルールですわ!
ハンドブックをしまい顔を上げると、人で埋め尽くされた客席が見えます。
観客の皆さんの前で試合をするのだと考えると、段々ワクワクしてまいりました。
これほどの大舞台で魔術試合ができるなんて夢のよう!
わたくしが興奮に身を震わせていると、旗を持った審判さんが魔術試合のコートに入っていきました。
そのあとすぐに『魔術クラブ二軍チーム』の『部員A』さんがコートに入ります。
もうすぐ試合開始ですわ。
こちらも最初のメンバーを決めなければいけません。
なのですが……。
「ん? ウヅキはどこにいる?」
ヤマト先輩がそう言ってメンバーを見回しました。
「あら? いらっしゃいませんね。お手洗いかしら?」
わたくしもキョロキョロと周りを見ます。
もうすぐ試合が始まるというのに、ウヅキお姉様はどこに行かれたのかしら?
「ウヅキには最初っから期待してねえ、ほっとけよ。それより一番手は私が貰うぜ」
ヤヨイお姉様がそう言ってコートへ向かおうとします。
ですがヤマト先輩がそれをお止めになりました。
「待て。相手の先鋒は水属性魔術が得意だ。火属性魔術しか使えないキミとは相性が悪い」
「フン、知ったことかよ。いいから黙って見てやがれ!」
ヤヨイお姉様はヤマト先輩を押しのけてコートへと向かいました。
お二人のやり取りを見ていた『魔術クラブ』の部員Aさんが、ヤヨイお姉様をあざ笑います。
「あなたバカなの? 火属性魔術しか使えないのに、水属性魔術が得意な私と戦うなんて。せっかくヤマト先輩が忠告してくださったのに」
「ふん、問題ねーよ。テメーは自分の心配をしてやがれ。なんせテメーの得意な水属性魔術が、私の火属性魔術に負けるんだからな。今から負けたときの言い訳を用意しておけよ」
「はあ? 負けるわけないでしょう。やっぱりバカなのね」
コートの中ではすでに舌戦が繰り広げられています。
そんな彼女たちを審判さんが抑え、マジカルファイトの準備をさせました。
二人はお互いを睨みながら、コートに魔術陣を描きます。
そして審判さんが旗を振り上げて、試合開始をお告げになります。
「マジカルマジカル! レディ……ファイト!!」
試合開始の掛け声とともに、コート中のお二人は同時に詠唱を行いました!
「大海嘯!」
「地獄の業火!」
ヤヨイお姉様が放った地獄の業火は、なんとC級魔術です!
しかもC級魔術の中でもトップクラスの威力があります。
ですが部員Aさんが放った大海嘯も同じC級魔術です。
二軍チームとはいえ、流石にメンバーのレベルが高いですわ。
大海嘯はコート上を大量のお水で満たし、ヤヨイお姉様の地獄の業火をあっという間に飲み込んでしまいました!
「あはははっ、残念だったわね! あなたが地獄の業火を使えたのは予想外だったけれど、私の大海嘯の前では、その地獄の業火も全くの無意味!」
勝利を確信した部員Aさんはそう言ってお笑いになりましたが、ヤヨイお姉様は悔しがることもなくおっしゃいました。
「ハン、安心するのが早すぎんぜ。コート上をよく見てみな!」
ヤヨイお姉様が指差したコート上を見ると、大海嘯によって現れたお水がボコボコと煮え立っています!
これは一体!?
コートをよく見れば、水に押し流されたかに思えたヤヨイお姉様の魔術陣は健在です!
彼女の魔術陣は地獄の業火の黒い炎によって守られていました!
そしてその炎により、凄まじい勢いでコート上の水が気化していきます!
「なっ! 私の大海嘯でも消えない炎ですって!?」
「業を燃やす炎は水じゃ消えねー。これを消したきゃ女神様でも連れてきやがれってんだ」
やがて、水はすべて気化し、コート上から消え去りました。
そしてコートにはヤヨイお姉様の魔術陣が残されています。
部員Aさんの魔術陣は地獄の業火によって焼き尽くされておりました。
「勝者! ヤヨイ!」と審判さんが叫びます。
「な、なんてことなの……」
「フン、やっぱりテメーの負けだ」
予想外の結果に観客は大いに沸き上がります。
「すげえ! 属性の不利を覆しやがった!」
「まさか魔術クラブのメンバーが負けるなんて!」
「こりゃ面白いわい! いきなりレベルの高い魔術の応酬じゃ!」
***
「流石ですわ! ヤヨイお姉様!」
「水属性魔術に火属性魔術で勝ってしまうとは思っていなかった。僕はキミの実力を見くびっていたようだ」
戻ってきたヤヨイお姉様に、わたくしとヤマト先輩が言いました。
するとヤヨイお姉様はニヤリと笑っておっしゃいます。
「フン、まだまだ本気じゃないぜ。さあ、次は誰がやるんだ」
すかさずわたくしが手を挙げます。
「次はわたくしが行きましょう!」
あのような大魔術を見せられて、燃えないわけがありませんわ!
わたくしはコートへと踏み出しました。
「サツキー、がんばれー」「負けんなよ! サツキ!」
大歓声に混ざって、そんな声援が聞こえてまいります。
あの声は、ヨイチお兄様とトウカお兄様ですわ!
わたくしの活躍を、しっかりと彼らの目に焼き付けてもらいましょう!
コートには体の大きな『部員B』さんがいらっしゃいます。
彼は腕を組んでわたくしをお睨みになりました。
「オレの相手はサツキか。お前、入部試験で不正して落とされたんだってな。そんなやつにオレが負けるわけがない」
「不正なんてしておりませんわ。リリアンヌお姉様がわたくしの魔力量に嫉妬したために、試験を落とされたのです」
「リリアンヌ様の魔力量は魔術クラブのメンバーで一番なんだぞ。落ちこぼれのお前の魔力量に嫉妬するわけ無いだろうが」
「では、試合の結果を見て判断してくださいませ」
わたくし達は審判さんに促され、魔術陣の準備を完了させました。
わたくしはいつも通りの無属性魔術、核撃爆破です。
魔術陣から推察するに、部員Bさんも無属性魔術を選択されたようです。
わたくし達の準備が終わったのを見て、審判さんが開始の合図をなさいます。
「マジカルマジカルッ、レディ……ファイッ!」
開始とほぼ同時に部員Bさんが詠唱をなさいます!
「流星の接吻!」
コートの上空に巨大な隕石が現れました!
それはわたくしの魔術陣めがけて急降下してまいります!
部員Bさんが放った流星の接吻はC級魔術!
しかも、C級魔術の中でも地獄の業火に次ぐ破壊力があります!
彼もかなりの腕をお持ちだわ!
そして、その隕石がわたくしの核撃爆破の間合いに入り――
今だわ!
「核撃爆破!」
わたくしが詠唱した瞬間、コート内がカッと輝きます。
結界が張られたコートの中で、隕石が爆散し、爆風によって巻きあげられました!
わたくしの核撃爆破が見事、隕石に炸裂したのですわ!
以前のように、あちこちで無差別爆発が起こるようなことはありません。
しっかりと相手の魔術陣と隕石だけを狙って爆撃いたしましたわ。
ですので、部員Bさんの魔術陣は爆撃によって消え去っています。
隕石も粉々に砕かれ、コート上にパラパラと舞い落ちております。
わたくしの魔術陣は全くの無傷。
「なんだと……」
「ホホホ、いかがですか?」
「勝者! サツキ!」
「バカな! オレの流星の接吻が、D級魔術の中でも最低レベルの核撃爆破に負けるだと……!」
部員Bさんは膝をつき、呆然とコートを見ています。
急造チームの二連勝に、またもや会場は沸き立ちます。
「またチーム『ヤマト』の勝ちよ! 今度はただのD級魔術でC級魔術を破ったわ!」
「この威力はどうなってんだ!? あり得ない!」
「これが核撃爆破? 俺は夢でも見ているのか……?」
「もう『魔術クラブ二軍チーム』は後がないぞ! もしかして、このまま『ヤマト』が勝っちまうんじゃないか!?」
ホホホ、観客のみなさんも驚いてくださっているようですわ。
***
「やるじゃねーか! この威力ならブラック商会を潰したのも納得ってもんだぜ」
「ああ、よくやってくれた!」
「ううっ! この爆発は……トラウマを呼び起こすわ……あば」
チームの所へ戻ると、三者三様の反応でわたくしを迎えてくれました。
「これで二勝ですわ。次はどなたが向かわれますか?」
「次は私の番ね」
試合開始と同時に姿を消していたウヅキお姉様がやってきて言いました。
「テメー今までどこに行ってやがった? トイレか?」
「どこだっていいでしょう。さあ、見てなさい、私の勝利を」
ウヅキお姉様は颯爽と現れ、颯爽とコートへ向かわれました。
なんだかウヅキお姉様の様子が変ですわ。
彼女がこんなに冷静だなんて……。
それに、なんだか普段より賢く見えますわね。
「おバカなウヅキさんまでメンバーだなんて、第二魔術クラブはよっぽど人数に困っていたのね。あなた、ちゃんと攻撃魔術を撃てるの?」
コートで待ち構えていた部員Cさんが、ウヅキお姉様におっしゃいました。
「あなたこそ知っているの? 私に勝てる魔術を撃つ方法を?」
「当然よ! おバカに負けるわけ無いでしょう!」
言い合いながら、コートに魔術陣を描くお二人。
二人の準備完了を確認した審判さんが合図をなさいます。
「マジカルマジカルゥゥ! レディィィ……ファイトォ!」
「破氷弾丸!」
「破氷弾丸」
奇しくもお二人とも同じ魔術です!
これは実力差がハッキリしてしまう試合になりそうです!
部員Cさんの魔術陣からは、数十個の氷弾が生み出されました!
これほどたくさんの氷弾を生み出せるとは、やはり部員Cさんもレベルの高い魔術師のようです。
対して、ウヅキお姉様の魔術陣からは――
とても氷弾とは言えないような、巨大な氷の塊が現れました!
部員Cさんの氷弾が次々に発射されますが、巨大な氷の塊に阻まれてしまい、ウヅキお姉様の魔術陣へは届きませんでした。
そして今度は、その氷の塊が部員Cさんの魔術陣に飛ばされます。
迫りくるソレに為す術もなく、部員Cさんの魔術陣は破壊されてしまいました。
「勝者! ウヅキ!」審判さんが叫びます。
「な……んなのよ、それは……」
部員Cさんは、破壊された魔術陣に乗っかっている巨大な氷を見て立ちすくんでいます。
「おバカは、あなたの方だったようね」
ウヅキお姉様は部員Cさんにそう言って、わたくし達のもとへお戻りになります。
「今度は同じ魔術で競り勝ったぞ!」
「破氷弾丸ってあんな魔術だっけ……?」
「チーム『ヤマト』が勝った!」
「しかも三連勝よ! いきなりの大番狂わせだわ!」
会場がどよめきと歓声で埋め尽くされる中、審判さんはわたくし達に旗を向けて宣言なさいました。
「チーム『ヤマト』の勝利!」
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「ハハッ、なんだよ三連勝じゃねーか! ウヅキもやるじゃん! それに比べて『魔術クラブ』は大した事ねーな!」
ヤヨイお姉様がお笑いになります。
それにつられて『ヤマト』の面々も笑顔になるのでした。
何と言っても三連勝ですからね!
二軍チームとはいえ、あの『魔術クラブ』にストレート勝ち!
これは幸先がよろしいわ!
試合会場の入り口から試合をご覧になっていたリリアンヌお姉様は、ものすごい形相でわたくし達をお睨みになっていました。
ホホホ! 御覧ください!
あの悔しそうなお顔!




