第二十話 マジカルファイト団体戦トーナメント開始!
わたくしとヤマト先輩、ヤヨイお姉様は上級貴族が住む通りを歩いています。
静かで美しい通りに、大きいながらも上品なデザインのお屋敷が立ち並んでいます。
ヤヨイお姉様がおっしゃいます。
「こんな所にメンバー候補がいるのかよ?」
「ええ、一人はすでに了承を得ています。ウヅキお姉様ですわ」
わたくしが言うとヤヨイお姉様は、
「何だ、あのバカか。魔術の腕は期待できねーから、完全に頭数合わせだな。もう一人は誰なんだよ?」
「コチラのお屋敷にいらっしゃると思うのですが……」
わたくしがそのお屋敷の前で立ち止まり、手で指し示すとヤヨイお姉様が眉をひそめました。
「あん? ココは第9567王女クコロの屋敷じゃねーか。仲がいいのか?」
「ええ、クコロお姉様とは魔術試合をした仲です。きっと協力してくださるはずですわ」
するとヤマト先輩がおっしゃいます。
「彼女もキミと同じで『魔術クラブ』の入部試験を何度も受けていたな。落ちるたびに悔しそうな顔だったのが印象的だった」
なるほど、クコロをお姉様も『魔術クラブ』に入りたかったのですね。
そんな彼女に『第二魔術クラブ』はピッタリですわ。
クコロお姉様の屋敷のドアをノックすると、侍女さんが出てきました。
わたくしがクコロお姉様に会いたいという旨を告げると「クコロお嬢様はお休み中です。よほどのことがない限り誰にもお会いになりません」とおっしゃいました。
「クコロお姉様にとってはよほどのことだと思いますわ。『ヤマトが魔術クラブの勧誘に来た』とお伝え願えますか?」
わたくしがそう言うと、侍女さんは戸惑いながらも「承りました」と言って屋敷の中に戻りました。
「さあ、ヤマト先輩の出番ですよ。クコロお姉様が出てきたら、上手く勧誘してください」
「ああ、任せてくれ」
「わたくしとヤヨイお姉様を見たら、クコロお姉様は驚いてしまわれると思います。この場はヤマト先輩に任せて、私たちは少し離れた場所へ隠れましょう」
わたくし達が隠れてしばらくすると、屋敷の中からバタバタと慌ただしい足音が聞こえ、扉が開き、クコロお姉様が現れました。
彼女は屋敷から出てくるなりヤマト先輩に詰め寄っておっしゃいました。
「ヤマト先輩! 私を『魔術クラブ』に誘っていただけると言うのは本当ですか!?」
「ああ、本当だ。正確には『第二魔術クラブ』にだけどな」
「え、『第二魔術クラブ』ですか?」
「ああ、僕が新しく立ち上げるクラブなんだ。今のところ人数は少ないが、粒ぞろいのメンバーが揃っているんだよ。そのメンバーに、是非キミも加わって欲しい」
「魔術の天才、ヤマト先輩が立ち上げるクラブに私を!? 光栄です! 『第二魔術クラブ』に入ります!」
「そうか、ありがとう! では、この入部届に名前を書いてくれ」
ヤマト先輩が差し出した紙に名前を書いたクコロお姉様。
彼女は興奮した様子でヤマト先輩としばらくお話をして、屋敷の中に戻っていきました。
ヤマト先輩は嬉しそうに入部届を見ながら、わたくし達のところへやってきます。
クコロお姉様を一瞬で攻略してしまうなんて、さすがヤマト先輩ですわ。
これでクラブメンバーが五名揃ったので、新規クラブとして学園に申請ができますわ。
***
その日のうちにクラブの申請も終えることができ、『第二魔術クラブ』は無事発足いたしました。
魔術試合団体戦トーナメント参加の受付も済ませてあります。
ただ、次の日にクラブメンバーの初顔合わせをした時、ひと悶着ありました。
クコロお姉様がわたくしを見て『第二魔術クラブ』を辞めると言い出したのですわ。
メンバー全員でクコロお姉様をお引き止めし、幸いにもクラブ解散には至りませんでした。
どうやら、クコロお姉様はわたくしに協力することを嫌がっているようなのです。
「サツキに協力しているなんてことをサラサお姉様に知られたら、私はどのような罰を受けるか分からないわ!」
頭を抱えながら悩んでいらっしゃるクコロお姉様に、わたくしは慰めの言葉をおかけします。
「きっと大丈夫ですわ」
「何が大丈夫なのよ! あなたはサラサお姉様の恐ろしさを知らないから、そんなに楽天的でいられるのよ! サラサお姉様は自分の不利益になりそうな人間を、積極的に潰していかれる方なの。これまでにも何十人もの王女たちが、あの方の犠牲になったのよ。その犠牲の中にはあの方の実妹も含まれているの……」
「まあ! サラサお姉様は血も涙もない方なのですね!」
「そうなの! あの方は身内に対しても容赦しないのよ! くっ、サツキと同じクラブに在籍してしまった私は、もう終わりかもしれない。だけど、最後まで諦めないわ! サラサお姉様の権力には屈したりしない!」
いつの間にかご自分で結論を出しているクコロお姉様。
彼女はなんだかんだ言いながらも、わたくし達に力を貸してくださるようです。
***
そして、ついに魔術試合団体戦トーナメント当日です!
今年は十三チームがトーナメントに参加するようです。
リリアンヌお姉様が所属する『魔術クラブ一軍チーム』は第一シードですわ。
彼女のチームは一回勝てば優勝。
まあこれは、去年の優勝チームなので仕方ないかもしれません。
ですがわたくし達のチーム『ヤマト』は十二回勝ち進まなければ優勝できません。
つまり、このトーナメントでは、わたくし達のチームは全てのチームと戦うことになっております。
この偏った組み合わせには理不尽を感じるとともに、誰かの思惑が見え隠れしておりますが、嘆いていても始まりませんわ。
魔術試合の経験をたくさん積めると考えて、前向きにいきましょう!
さて、わたくし達が初戦で当たるチームは『魔術クラブ二軍チーム』です。
二軍チームといえども決して油断はできません。
毎年必ず『魔術クラブ一軍チーム』が優勝し、『魔術クラブ二軍チーム』が準優勝します。
トーナメントが始まって以来この図式は崩れておりません。
ですが今年はわたくし達のチーム『ヤマト』がそれを崩してみせますわ!
学園は普段よりも賑わっています。
魔術試合団体戦トーナメントは、ちょっとしたお祭りなのです。
生徒の皆さんは楽しそうなお顔で、学園の中心にある円形闘技場へと向かいます。
わたくしも皆さんに混ざって歩いてゆきました。
円形闘技場の最上段通路には屋台が立ち並び、そこから美味しそうな匂いが漂ってきました。
その匂いの誘惑に負けたわたくしは、屋台を回りながら、焼き鳥やリンゴ飴等を買っていきます。
わたくしがリンゴ飴を舐めながら、次に何を買おうかと迷っていると、そこにチーム『ヤマト』の面々がやってきます。
『魔術クラブ』元副部長のヤマト先輩、第9567王女クコロお姉様、第9998王女ヤヨイお姉様、第9999王女ウヅキお姉様。
こうして見ると、ヤマト先輩以外は王族という、なかなか面白いチームですわね。
ウヅキお姉様はわたくしを見て、
「試合前にどれだけ食べるつもりなのよ」
と呆れながらおっしゃいました。
「ホホホ、わたくしの家庭教師の教えですわ。『腹が減っては戦はできぬ』です」
「どんな教えよ……普通は緊張で食べ物が喉を通らないはずだけど」
そう言うウヅキお姉様ですが、彼女も緊張しているようには見えません。
他のメンバーも緊張していたり、入れ込みすぎということもなく普段通りのご様子です。
精神面のコンディションは悪くないようです。
メンバー全員で選手控室への階段を降りていくと、『魔術クラブ』の部長で第8080王女のリリアンヌお姉様が待ち構えていました。
リリアンヌお姉様はヤマト先輩に向かっておっしゃいます。
「私はあなたに言ったはずよね。平民が魔術を勉強しても無駄だって。それなのに『第二魔術クラブ』なんてくだらないものを作って……。見苦しい悪あがきをしないでちょうだい」
それから彼女は第二魔術クラブのメンバーを見て、鼻でお笑いになります。
「フン、火属性しか扱えない欠陥魔術師ヤヨイ。『魔術クラブ』に入れなかった落ちこぼれクコロに、おバカなウヅキまでいるじゃない! それからこの五人をまとめる、爆弾魔サツキ!」
悪口を言われて、リリアンヌお姉様を睨む第二魔術クラブの面々。
ですがリリアンヌお姉様はそんな視線を受けてもどこ吹く風です。
「一つ忠告しておいてあげるわ。平民がつくった『第二魔術クラブ』に所属することは私を敵に回すということよ。そして、私を敵に回すということは第72王女のサラサお姉様を敵に回すということ。それが嫌ならば、このトーナメントへの出場を辞退しなさい」
リリアンヌお姉様が圧力をかけてきますが、それに応じるメンバーはおりませんでした。
「そう、それがあなた達の答えね。生意気なあなた達は私の手で潰してやりたいけれど、それは叶わないわね。なぜならあなた達の最初の相手は魔術クラブの二軍チーム。二軍とは言え、あなた達を叩き潰すには十分すぎるわ! あなた達が地面に這いつくばるところを見物させてもらうわ!」
彼女はそう言い捨てて、お立ち去りになりました。
残された『第二魔術クラブ』のメンバー達は口々にお喚きになられます。
「みんな! 優勝目指して頑張ろう!」
「火属性魔術しか使えない欠陥魔術師だと? 私に向かっていい度胸だ。あいつら全員灰にしてやんよ!」
「つ、ついにリリアンヌお姉様にけんかを売ってしまったわ! しかも彼女のバックにはサラサお姉様がいる! くっ、でも私は負けない!」
「私がおバカなわけ無いでしょ! こうなったら奥の手を使ってやる!」
皆さんチームとしては全くまとまりがありませんが、『魔術クラブ』に対する対抗心だけは一致しているようです。
メンバーがメラメラとやる気になっているところで、場内アナウンスが流れます。
「これより一回戦第一試合を開催します! チーム『ヤマト』と『魔術クラブ二軍チーム』の方々は試合会場へ集まってください!」
魔術試合団体戦トーナメントがついに始まるのです!
わたくし達は控室から試合会場へと向かいます。
暗く長い通路を抜けて試合会場へと出ると、強い日差しとともに、大歓声がわたくし達を迎えてくれました。




