第十九話 火葬王女
さて、本日は『第二魔術クラブ』のメンバー集めをいたします。
クラブを立ち上げるには、最低でも五名が集まらないと申請が通りません。
今のところクラブメンバーは、わたくしとヤマト先輩の二名。
ですので、あと三名をメンバーにしなければいけないのですわ。
魔術試合団体戦トーナメントまで一週間を切っていることを考えれば、本日中に五名集めて、部の申請を終わらせてしまいたいところです。
そして残りの日数でメンバーの結束を強め、強力なチームにしていきたいですね。
わたくしは講義の合間に『第二魔術クラブ』への勧誘を始めました。
ターゲットは、現在部活に在籍していないクラスメイトの方々ですわ。
ですが皆さん、わたくしの勧誘をやんわりとお断りになられます。
どうやら家の都合で部活動ができない方ばかりのようです。
……どなたも、なんとなくわたくしのことをお避けになっているような感じでしたが、気にしないことにいたします。
気を取り直してまいりましょう。
クラスメイトの皆さんには断られてしまいましたが、ここからが本番ですわ。
***
放課後になってすぐ、わたくしはヤマト先輩とともに棟の外に出ます。
そして学園の出入り口で待機することにしました。
「サツキ、これからどうするんだ?」
ヤマト先輩は少し心配そうにおっしゃいました。
クラブメンバーが集まっていないことに、彼もようやく危機感を感じ始めたようです。
「当然、帰宅部の皆さんを『第二魔術クラブ』へ勧誘するのですわ。ヤマト先輩は女生徒に人気がお有りですので、女生徒の方々を勧誘してください。わたくしは殿方をハンティングしていきますので」
わたくしがヤマト先輩に作戦を伝えた時、帰宅部第一号さんが現れました。
ちょっと気の弱そうな殿方です。
勧誘の肩慣らしとして最初に声をかける相手としては、理想的なお方ですわ。
「ちょっとよろしいですか?」
「はい、何でしょ――うわっ! サツキ、さん!?」
「ええ、第10000王女のサツキでございます。少しわたくしのお話を聞いていただきたいのですが――」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「なぜお謝りになるのですか? あっ、ちょっと待って下さいな!」
わたくしが声をおかけした方は頭をペコペコ下げながら、学園の外へと逃げ出しました。
わたくしは遠ざかっていく彼の背中を呆然と見送って呟きました。
「どうしてお逃げになるのでしょうね……」
彼の態度を不思議に思いましたが、第二、第三のターゲットを発見したわたくしは勧誘を再開いたしました。
ですがその後も……
「僕たちこれから急ぎの用事があるんです! 失礼します!」
と素早く逃げ出す方々。
「俺、今日は小銭しか持ってないっす! スイマセン!」
とサイフを差し出して頭を下げる方。
「爆発は止めてください! どうか、爆発だけは!」
と本気で泣き出す方。
「うおっ!? 俺はアンタのシマは荒らしてねえ! 勘弁してくれ! この通りだ!」
と土下座なさる方までいらっしゃいます。
わたくしが声をかけると、上級生下級生関係なく怯えられて、すぐに逃げられてしまうのです。
こんなに怯えられると、流石のわたくしも悲しくなってしまいます。
「もしかして、わたくしの顔が恐ろしいのでしょうか?」
「いや、そういう訳ではないハズだが、何か様子がおかしいな?」
わたくしは、同じく成果ゼロのヤマト先輩と一緒に首を傾げるのでした。
***
もうほとんどの帰宅部の方々がお帰りになってしまわれました。
勧誘は完全に失敗です。
これ以上ここにいても意味が無いかもしれません。
これからどうしようかと考えていると、そこに荒々しい声でわたくしの名を叫ぶ方が現れました。
「サツキ! テメー、この落とし前どう付けてくれるんだ!?」
わたくしが声のする方に振り向くと、そこにいらっしゃったのは学園の制服をだらしなく着崩した、黄金の縦ロールの方。
この立派な縦ロールをお持ちの方は、第9998王女のヤヨイお姉様。
彼女の悪いうわさは学園中に広まっています。
彼女は札付きのワル、不良、チンピラなのですわ。
「あら、お久しぶりでございます、ヤヨイお姉様。学園に来られるのも久しぶりではないですか? あまりおサボりになると退学させられてしまいますわよ?」
わたくしがご挨拶とともに、ご忠告差し上げると、彼女はギロリとガンをお飛ばしになります。
「うるせー、こちとら退学上等だ! だが今はそんなことどうでもいいんだよ! サツキ、テメーがブラック商会を潰しやがったのか!」
「ええ、わたくしがお潰しいたしましたわ。ですがどうしてそれをご存知なのですか?」
わたくしがお尋ねすると、
「この新聞を見やがれ!」
ヤヨイお姉様は新聞をお突き出しになられます。
『悪名高きブラック商会を爆破した、謎の学園生徒現る!』
見出しにはそのように、デカデカと印刷されておりました。
そして、その見出しの下には魔導投射機で撮られた写真がのっております。
そこには高笑いしながら核撃爆破を放っているわたくしが写っていたのです。
一体いつ撮られたのでしょう?
この写真に写っているわたくしは、まるで魔王のような悪い笑顔。
記事中には『彼女はブラック商会を上回る悪魔か、それともブラック商会から街を守った天使か!?』などと書かれていますが、この写真を見てわたくしを天使だと思う方は目が病気ですわ。
わたくし、昔から写真写りが悪いのですが、これほどまでに恐ろしく見える笑顔を激写されたのは初めてです。
もう少しおしとやかな写りの写真もあったはずなのに、わざわざこの写真をお選びになった編集者の方からは悪意を感じますわ。
ヤマト先輩は新聞を見て眉をおひそめになりました。
「あのブラック商会を潰したのはキミだったのか……。生徒たちがキミのことを恐れていたのは、この新聞が原因だろうな」
「そんな……。わたくし、この新聞社に抗議してまいります!」
そう言って新聞社に向かおうとしたわたくしは、ヤヨイお姉様によって止められてしまいました。
「待ちやがれ、サツキ。テメーのせいで私の就職先が潰れちまったじゃねーかよ。せっかくブラック商会の幹部候補として採ってもらえそうだったのに、どうしてくれんだ? ああ?」
「そのようなことを言われましても困ります。それにヤヨイお姉様、あの悪徳商会に就職だなんて正気の沙汰ではありませんわ」
わたくしが呆れながら言うとヤヨイお姉様は、
「うるせえ! すべての沙汰はカネ次第なんだよ! ブラック商会からどんだけの好条件を提示されていたのか教えてやろうか!?」
と、まくし立てるのですわ。
……困りましたわね。
ヤヨイお姉様はわたくしのことをおボコりになりそうな勢いですわ。
喧嘩に発展してしまったらどうしましょう?
彼女は札付きのワルだけあって、腕っ節もそのあたりのチンピラよりお強いのです。
単純な殴り合いでもお強いのですが、彼女の真価は魔術にあります。
火属性魔術を自在に操るヤヨイお姉様。
そんな彼女の異名は『火葬王女』です。
火属性魔術は、他属性の魔術より威力が高くなる傾向があります。
ヤヨイお姉様は、その火属性魔術だけを鍛えに鍛えました。
そして火属性魔術ならば、エリート魔術師にも負けないほどの使い手となったのです。
そのようなヤヨイお姉様に絡まれるとは、わたくしもツイておりませんわ。
……あら?
火属性魔術の使い手?
ヤヨイお姉様がこのタイミングでいらっしゃったのは、不運などではなくて幸運だったのではないのでしょうか?
わたくしは素早く頭を回転させ、この後の彼女との会話をシミュレートいたします。
そして、少しドキドキしている心臓を落ち着かせて、口を開きました。
「ヤヨイお姉様は火属性魔術がお得意でしたよね?」
「ああん!? それがどーしたよ!?」
「ヤヨイお姉様、是非とも『第二魔術クラブ』に入ってくださいませ。そうすれば就職先には困らないはずですわ」
「『第二魔術クラブ』だと? どういうことだよ。まったく話が見えねー」
わたくしをお睨みになりながらも、『就職先』と聞いて興味が出たのでしょう、ヤヨイお姉様の荒々しい口調が少し和らぎました。
彼女はわたくしの話を聞いてくださりそうです。
「こちらのヤマト先輩のことはご存知ですよね? あの『魔術クラブ』の副部長をなさっている天才です」
「知ってんよ。けど、この天才と私の就職先にどう関係があるんだよ?」
ヤヨイお姉様はそう尋ねながらヤマト先輩を指差します。
「実はサラサお姉様の気まぐれによって、ヤマト先輩は部を追い出されてしまったのです」
「ハン、あのクソババアがやりそうなこった。で?」
「それでヤマト先輩は新たな魔術クラブをつくり、そのメンバーで魔術試合団体戦トーナメントに出て優勝するおつもりなのです」
「ふーん? それで私にメンバーに入ってほしいって訳か。テメーらの事情は分かった。だけど私のメリットはなんだ? テメーらに協力して何のメリットがある?」
「魔術試合団体戦トーナメントは、魔術関係のお仕事に従事されている大勢の大物がご覧になります。トーナメントで活躍すれば、彼らの目に止まってスカウトしていただけると思いますわ。過去にもスカウトされた方はたくさんおりますもの」
「あん!? そんなのテメーらとチームを組まなくても、私が自分でチームを作れば済むことだろーがよ!」
「何をおっしゃいますのやら。お友達がいないヤヨイお姉様には無理ですわ。お姉様はワルなので皆さんに恐れられていますし、誘ってくださる方もわたくし達以外にはいないでしょう」
「オイオイ! 好き勝手言ってくれんじゃねーか」
「事実でしょう? まあ、お姉様に自信がないのなら、無理にとは言いません。大舞台での勝負が怖ければ、客席で指をくわえて、わたくし達の活躍をご覧になっているのがよろしいわ」
「何だとテメー!」
わたくしが挑発すると、ヤヨイお姉様は縦ロールをボヨンボヨンと跳ねさせながらお叫びになりました。
わたくしは更に挑発します。
「ホホホ、ご安心ください。今のはただの提案ですから。ヤヨイお姉様がこの提案を断るような腑抜けだったとしても、ちゃんと就職先の紹介くらいはいたしますわ」
「このっ……」
ヤヨイお姉様はこめかみをピクピクさせ、黙り込んでしまいます。
彼女はしばらくわたくしを睨んでいらっしゃいましたが、やがて舌打ちをして、
「ちっ、煽りやがって。いいぜ、その泥舟みてーな提案に乗ってやんよ!」
やりましたわ!
ヤヨイお姉様を焚き付けることができました!
「ありがとうございます! さすが、学園一の火属性魔術の使い手ですわ」
わたくしがお礼を言うと、彼女は苦い顔をなさいます。
「いまさらおべっかを使うんじゃねーよ……。まあ、チームメイトの実力に文句はねーしな。魔術の天才様に、ブラック商会を爆破した魔術師がいるんだ。で、他のメンバーは誰なんだよ?」
ヤヨイお姉様がお尋ねになると、ヤマト先輩が、
「いやそれはこれから探すのだが……」
「あーん? なんだそりゃ? そんなので間に合うのかよ?」
呆れるヤヨイお姉様に、うなだれるヤマト先輩。
ですが、実は残りのメンバーに目星が付いております。
ヤヨイお姉様がメンバーになってくださるのならもう大丈夫ですわ。
わたくしは二人に言いました。
「ホホホ、お二人ともご安心を。実は残りのメンバーにあてがありますのよ。これから迎えに行きましょう」




