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冒険を楽しむのための異世界攻略論  作者: 数独好き
第一章 村での冒険
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第9話 魔法への道と、足りないお金ーレオン視点ー



 魔法も使える前衛職。


 幼馴染のミレアに自分の目標を話してから、僕はそのことについて考える時間が増えていた。


 剣を振るい、敵の攻撃を受け止め、必要なら魔法で牽制する近距離と遠距離の両方に対応できれば、戦える相手の幅は広がるはずだ。


 もちろん、剣と魔法を同時に極めるのは簡単ではない。限られた時間で何を身につけるのか、優先順位を決める必要がある。だがそれでも俺は魔法が使ってみたかった。

 なにせ魔法だ。前世の自分も魔法については知らなかったみたいだし、使ってみたいと思うのは当然だった。


 そのためにも、まず確認しなければならないことがあった。


 魔法を使える職業に就くには、何が必要なのか。


 レベル十五になれば教会で転職できるが、どんな職業でも自由に選べるわけではない。教会で転職先だと掲示された職業のみが転職可能となる。その条件が何かは分からないが、おそらくは条件を満たした職業だけが、転職時の選択先に並ぶのだと考えている。


 だから俺が望む魔法を使える前衛職になるためには、魔法を習得しておく必要があるのではないか。そんな懸念が頭を離れないのだ。


 少なくとも、準備をしておいて損はない。


 この世界では、スキルスクロールを使うことでスキルを習得できる。俺が以前、剣技・斬撃を覚えたのも同じ方法だった。


 ならば、魔法のスキルスクロールもどこかで手に入るはずだ。


 問題は、どこで、いくらで売られているかだった。


 幸い、村には時々行商人が訪れる。冒険者向けの道具や魔物の素材を扱う露店が出ている日なら、魔法のスクロールを見つけられるかもしれない。


 そう考えた僕は、次に村へ行商人が来たとき、露店を一つずつ確認することにした。


     *


「魔法のスクロールを探しているのかい?」


 露店の店主は、僕の質問に少し意外そうな顔をした。


「はい。火や水を扱うような、基本的な攻撃魔法のスキルがあればと思って」


「なるほどな。冒険者志望なら、興味を持つのも分かる。だが、うちにあるのはこれくらいだ」


 店主が取り出したのは、小さな筒に収められたスクロールだった。


 説明によれば、攻撃用の魔法スキルらしい。威力はそれほど高くないが、覚えれば遠距離から魔物を攻撃できる。


 まさに、今の俺が欲しいものだった。


「おいくらですか?」


「銀貨八枚だ」


「……銀貨八枚」


 思わず聞き返してしまった。


 高い。


 魔法のスキルスクロールが貴重なのは知っていた。以前、魔物からドロップした生活スキル・火起こしのスクロールも珍しい品だったが、基本的な生活スキルだったため、売値は銅貨が少し増える程度だった。


 それに対して、こちらは攻撃用の魔法スキルだ。


 値段が違うのも当然なのだろう。


「魔法のスクロールは、いつでも仕入れられるわけじゃないからな。欲しがる人間も多い。安く売る理由もないんだ」


「そうですよね……」


 俺は苦笑してうなずいた。


 値切ってどうにかなるような差ではなさそうだ。


 銀貨八枚。


 村で普通に暮らしている人間にとって、簡単に出せる金額ではない。まして、僕たちはまだダンジョンで稼ぎ始めたばかりだ。


 毎日の食料や消耗品も必要になる。怪我をすれば薬や包帯がいるし、装備が壊れれば修理や買い替えにもお金がかかる。


 稼いだお金をすべて貯めたとしても、いつ買えるか分からない。


 少しだけ、気持ちが沈んだ。


 魔法を使える前衛職を目指す。そのために魔法スキルを習得する。


 考え方は悪くないと思う。けれど、目標を立てることと、実際に達成できることは別だ。


 必要なものが高すぎれば、計画そのものを見直さなければならない。


「ちなみに、もっと安い魔法のスクロールはありませんか?」


「今はないな。運がよければ別の品が入ることもあるが、いつになるかは分からん」


「分かりました。ありがとうございます」


 礼を言って露店を離れた。


 すぐに諦めるつもりはない。けれど、今すぐ買うのは無理だ。


 なら、次に考えるべきなのは――。



 銀貨八枚。


 村の広場を歩きながらも、その数字が頭の中を回っていた。


 ダンジョンで稼いだお金は、少しずつ増えている。灰牙ネズミを倒せば銅貨や素材が手に入り、素材を鑑定して売却すれば追加の収入になる。


 けれど、一度の探索で手に入る金額は決して多くない。


 狩りに出れば、必ず魔物に遭遇できるとは限らない。狩場に着いても魔物がいなければ探し回ることになるし、逆に何匹も集まっていれば短時間で複数を倒せることもある。


 ドロップするお金も素材も、毎回同じではない。


 つまり、一日の収入にはかなりのばらつきがある。


 都合のいい日ばかりを想定するわけにはいかなかった。


 平均して一日にどれくらい稼げるのか。そこから食料や包帯などの消耗品を差し引くと、いくら残るのか。


 さらに、装備の修理費や、怪我に備える予備費も必要になる。


 そう考えると、銀貨八枚という目標は思っていた以上に遠く感じられた。


 ただし、忘れてはいけないこともある。


 僕たちはまだ、ダンジョンの入り口付近で狩りをしている段階なのだ。


 今の狩場を見つけるまでは、魔物を探す時間も長かった。狩場を決めてからは、比較的効率よく戦えるようになっている。


 戦闘に慣れれば、無駄な怪我も減るだろう。魔物の動きを覚えれば、一度の戦闘にかかる時間も短くできる。


 もっと奥へ進めば、今より価値の高い素材を落とす魔物に出会える可能性もある。


 もちろん、強い魔物が相手なら危険も増す。稼ぎが増えるからといって、無理に奥へ進むのは本末転倒だ。


 死んでしまえば、お金もスキルも使い道がなくなる。


 それだけは避けなければならない。


 ……いや、待て。


 僕はそこで、考え方を切り替えた。


 魔法のスクロールを買うことだけを目標にすると、銀貨八枚という金額ばかりが気になってしまう。


 でも、僕が本当に欲しいのはスクロールそのものではない。


 魔法を使える前衛職に就き、剣と魔法の両方を扱えるようになることだ。


 そのために魔法スキルが必要だと考えているから、スクロールを探している。


 ならば、店で買うことだけが方法とは限らない。


 魔物がスクロールを落とすことは、すでに自分たちで確かめている。欲しい種類が手に入る保証はないし、確率も低い。


 それでも、普段の狩りを続けながら、魔法のスクロールが手に入れば大きな節約になる。


 行商人が来るたびに品揃えを確認するのも悪くない。今ある品より安いものが入荷するかもしれないし、村の外へ出れば別の店で見つかる可能性もある。


 ひとつの手段にこだわる必要はない。


 まずは今の狩場で安定して稼げるようになること。そこから少しずつ探索範囲を広げ、収入を増やしていく。


 その一方で、魔法のスクロールが手に入る機会を探す。


 そうすれば、無理に危険を冒さずに目標へ近づけるはずだ。


「よし……」


 小さくつぶやき、顔を上げた。


 銀貨八枚は確かに高い。今の僕には、簡単に手が届く金額ではない。


 でも、手が届かないと決まったわけでもない。


 ゲームでも、序盤はお金が足りないことが多かった。装備を買うか、回復アイテムを買うか、それとも先のために貯めるか。限られた資金をどう使うか考えるのも、攻略の一部だった。


 この世界では、失敗すれば本当に命を失う。


 だからこそ、計画は慎重に立てる必要がある。


 ただ、慎重であることと、諦めることは違う。


 魔法も使える前衛になる。


 その目標は、まだ変わらない。


     *


「どうだった?」


 村の広場で待っていたミレアが、僕の顔をのぞき込んできた。


「魔法のスクロールはあったよ。ただ、かなり高かった」


「そんなに?」


「銀貨八枚」


「うわっ。それは高いね……」


 ミレアは目を丸くした。


「すぐには買えそうにないけど、方法は考えてみるつもり。まずは今の狩場で稼ぎを安定させるのが先かな」


「そっか。じゃあ、明日もいつもの場所で狩りだね!」


「うん。まずは堅実にね」


「分かった! 私ももっと強くなって、たくさん魔物を倒せるようになるから!」


 ミレアは拳を握り、やる気いっぱいの笑顔を見せた。


 その姿を見ていると、さっきまで感じていた落胆も少し薄れていく。


 僕たちには、まだ時間がある。


 レベル十五に到達するまでに、戦い方を覚え、装備を整え、お金を貯める。そして、転職のときに望む職業を選べるよう準備する。


 道のりは長い。


 けれど、長いからこそ、途中の一歩一歩に意味がある。


「明日は、少しだけ狩る範囲を広げてみようか」


「大丈夫なの?」


「無理はしないよ。今の場所より効率がよさそうなら試すだけ。危険だと判断したら、すぐに戻る」


「それなら賛成。魔法のスクロールを買うためにも、少しずつ稼がないとね」


 ミレアは力強くうなずいた。


 明日の探索では、どれくらい稼げるだろうか。


 新しい魔物に出会うことはあるだろうか。


 もしかしたら、魔法のスクロールがまたドロップするかもしれない。


 そんなことを考えていると、自然と口元が緩んだ。


 焦らず、無理せず、できることから少しずつ。


 魔法への道は遠い。


 それでも、ミレアと一緒なら、きっと一歩ずつ近づいていけるはずだ。

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