第10話 次の狩場へ、装備の新調ーレオン視点ー
魔法のスクロールを探し始めてから、何日かが過ぎた。
灰牙ネズミを倒し、素材を集め、村で換金する。そんな日々を繰り返していたが、スクロールがドロップすることはなかった。
魔物からスクロールが落ちること自体が珍しいのだ。欲しいものが都合よく手に入るはずもない。気長に探すしかないだろう。
そう考えていた矢先、別の問題が浮上した。
「……そろそろ限界かな」
狩りを終え、村へ戻る道の途中。僕は腰の剣を抜き、刃を眺めた。
刃先には細かな欠けがあり、切れ味も落ちている。毎日使い続けてきたのだから、当然の消耗だった。
「どうしたの?」
隣を歩くミレアが、僕の手元を覗き込む。
「剣が傷んできたんだ。刃こぼれも増えてるし、切れ味も落ちてる」
「本当だ。私の剣も、最近ちょっと振りにくいんだよね」
ミレアも腰の剣を抜いて確かめた。
武器を使い続ければ、耐久値が減り、いずれ買い替えが必要になる。魔法のスクロールのために貯めていたお金を使うのは痛いが、傷んだ武器を使い続けるわけにもいかない。
攻撃が通りにくくなれば戦闘が長引き、反撃を受ける危険も増す。刃が折れてしまえば、命に関わる。
「村に戻ったら、武器屋に寄ろう。修理するより、買い替えた方がよさそうだ」
「うん。私も新しい剣を見てみる!」
ミレアは古い剣を鞘に戻した。
*
村に戻ると、僕たちは武器屋へ向かった。
店主に剣を見せると、刃や柄を確かめたあと、首を横に振った。
「まだ使えなくはないが、修理してもすぐに傷むだろう。そろそろ買い替えどきだな」
「やっぱりそうですか」
「今の狩場で使うなら、この辺りで十分だろう」
店主が勧めてきたのは、以前の剣より少し頑丈な片手剣だった。
手に取ると、重さは増しているものの、無理なく振れる。柄も握りやすく、刃の厚みも十分だ。
威力だけを求めて重い剣を選んでも、扱えなければ意味がない。今の俺が無理なく使え、多少強い魔物と戦ってもすぐに買い替えずに済みそうなものを選ぶべきだ。
僕は剣に意識を集中させた。
【鉄製の片手剣】
補正値:STR+18 AGI‐3
耐久値:100/100
特殊効果:なし
以前の剣より攻撃力が高く、耐久値にも余裕がある。重量も、今の僕なら問題なく扱える範囲だ。
「これにします」
店主がうなずく。
「そっちのお嬢ちゃんは?」
「私も剣がいいです。今のより丈夫で、しっかり振れるものを!」
ミレアは何本かの剣を握り比べた。
俺は彼女が手に取った剣へ視線を向ける。
【鉄製の軽量片手剣】
補正値:STR+16 AGI-2
耐久値:95/95
特殊効果:なし
僕の剣より攻撃力は低いが、重量が軽い。ミレアの素早い動きには、こちらのほうが合っているだろう。
「これにします!」
ミレアが剣を振ると、店主も満足そうにうなずいた。
「嬢ちゃんには、そのくらいの重さがちょうどいいだろう。無理に重い剣を使うより、扱いやすい武器のほうが実戦では役に立つ」
代金を支払うと、財布の中身が目に見えて軽くなった。
魔法のスクロールのために貯めていたお金が減ったのは痛い。それでも、これは必要な出費だ。武器が壊れてからでは遅い。
俺は新しい剣を鞘に収め、もう一度ステータスを確認した。
【レオン】
種族:ヒューマン
性別:男性
職業:村人
レベル:10
HP:32/40
MP:26/26
STR:23(41)
DEF:21(33)
AGI:20(15)
INT:15
MND:14
DEX:23
装備:鉄製の片手剣 革鎧
STR:+18
DEF:12
AGI:-5
レベルアップによって、初期値の十から各能力が伸びている。職業による大きな補正はないが、村人としての成長も無駄ではなかった。
続いて、ミレアも自分のステータスを確認する。
【ミレア】
種族:ヒューマン
性別:女性
職業:村人
レベル:10
HP:30/38
MP:20/20
STR:21(37)
DEF:20(31)
AGI:21(18)
INT:14
MND:13
DEX:22
装備:鉄製の軽量片手剣、革鎧
ATK:16
DEF:11
AGO:-3
ミレアは男女による性差から肉体系のステータスが僅かに低いが。敏捷だけは俺より早い。素早く動き、攻撃をかわす彼女の戦い方に合った成長だ。
「私の剣、攻撃力はレオンのより低いんだね」
「でも、重量が軽いし、敏捷を活かして何度も攻撃できる。数字だけで判断しなくていいと思う」
「なるほど。じゃあ、使いやすさ重視ってことだね」
「うん。武器は攻撃力だけじゃなく、耐久値や重量も大事だから」
ミレアは新しい剣を握り直した。
「早く試してみたいな」
「明日、狩場で使ってみよう」
*
翌日、僕たちは新しい剣を携えて、いつもの狩場へ向かった。
見通しがよく、逃げ道も確保しやすい空間。ここを見つけてから、魔物を探して歩き回る時間が減り、戦闘経験も効率よく積めるようになった。
しかし最近は、狩場に着いても魔物が一匹しかいなかったり、しばらく待っても現れなかったりすることが増えている。
俺たちの戦闘が早くなったぶん、魔物を待つ時間が目立つようになったのだ。
今の狩場は、少し効率が悪くなってきている。
「今日は、あんまり魔物がいないね」
ミレアが新しい剣を手に、周囲を見回した。
「うん。そろそろ別の場所を探した方がよさそうだ」
「もう少し奥に行ってみる?」
「そうしよう。新しい武器にも慣れたいしね」
武器の耐久値は、戦闘を重ねたりすると少しずつ減るし、日々のメンテナンスを怠ったりすると、減少速度は増えてしまう。冒険者にとって戦闘後に武器の状態を確認する習慣も必要だろう。
今の狩場を見つけたときも、周囲を探索して、魔物の数や地形を確かめた。今回も同じように、安全に戻れる範囲で先へ進めばいい。
ただし、新しい魔物と遭遇する可能性は高い。知らない相手には慎重に対応し、危険を感じたらすぐに引き返す。
新しい武器を手に入れたからといって、急に強くなったわけではない。
俺たちの目標は、ただ魔物を倒して稼ぐことではない。レベル十五に到達して望む職業へ転職し、村を出て本格的な冒険者になることだ。
そのためには、戦闘能力を高め、装備を整え、資金を確保しなければならない。魔法のスクロールを手に入れるという目標も、まだ諦めていなかった。
「よし。それじゃあ、行こうか」
「うん!」
俺は新しい剣の柄に手を添え、通路の先へ目を向けた。
使い慣れた狩場を離れるのは少し不安だ。けれど、この先には新しい魔物や素材、もっと効率よく稼げる場所が待っているかもしれない。
いつまでも同じ場所に留まっているわけにはいかない。
武器を新調し、ステータスを確認し、次の狩場を探す。
それが、俺たちの次の一歩だった。




